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白銀の翼  作者: 烏丸
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第5話 魔導教典と豪魔邪霊衆

日が昇り 森の中は木々の隙間から陽射しが射し込み 幻想的な光景が広がっていた。

しかし 神秘の森の動物や植物達は怯える様にざわついていた。



「ロイ君!起きなさい。」



うっすらと瞼を開けると 体を揺さぶってくるカイラスが目に入る。

その表情には焦りの様なものが見えていた。



「なんかあったのか!?」



カイラスの表情に異変を感じ ロイは飛び起きる。



「ワシの張っていた結界が 邪悪な魔力に破られた!かなり強大な魔力じゃ…

恐らく上位ランクの魔物…」



「上位ランク!?」



上位レベルの魔人であるガルハイトとは遭遇したことはあるが 今まで上位ランクの魔物とは遭遇したことがなかった為 驚きを隠せない。

未知なる物への不安と 強敵と戦闘が行える喜びが入り交じっていた。


ロイは大剣を手に取り 部屋を見回す。

銀狼の姿が見えない。



「シュバルツは?」



「ワシより先に魔物の気配を感じ取り 飛び出して行きよったわ。」



カイラスはそう告げながら窓の外を眺め 心配そうな表情になる。



「…この魔物 真っ直ぐ ここへ向かっている様じゃな。」



急にカイラスの表情が険しくなる。



「どういうことだ?狙いは爺さんなのか!?」



「いや…恐らくコレじゃろう。」



カイラスはそう答えながら1冊の黒い分厚い本を取り出した。



「それは?」



「魔導教典…

コレには様々な強力な魔術が書かれている。魔道具の一つじゃ。」



魔道具とは簡単に言うと この世界に存在する強力な力を秘めたレアアイテムのことだ。



「この魔導教典を狙う魔人の一団が存在するんじゃ。」



「魔人…」



ロイの脳裏にガルハイトの姿が過る。



「その一団の名は豪魔邪霊衆ごうまじゃれいしゅう

恐らくは其奴等にこの場所を悟られ 使い魔を送り込まれたんじゃろう…」



ズシン!!!!



その時…

大きな地響きが起こり 銀狼の咆哮が近くで聴こえてくる。



「どうやら ここまでたどり着いてしまったようじゃの。

ロイ君!手を貸してくれるか?」



「おぅ!!」



二人は外へ飛び出し 銀狼の咆哮が聞こえる方へ急いだ。




―☆―

「ナントイウ大キサダ…」



シュバルツの眼前には四足の巨体 暗い紫色の肌に 頭にはゴツい角が二本生えた 超大型の魔物。

悪魔の野獣ベヒーモスが牙を剥き出しながら睨みつけていた。


シュバルツの美しい白銀の毛並は出血によって いたるところが紅く染められている。



「シュバルツ!無事か!?」



後方から走って来たロイは剣を構え シュバルツの前に身を乗り出す。

それから遅れてカイラスが 息を切らしながら現れる。



「ベヒーモスか…骨が折れるのぉ…」



2人と1匹は 直ぐ様 戦闘態勢へと入った。



「なんだぁ?ガキと老いぼれと犬っころかよ…

随分つまんねぇ仕事だなぁ。」



ロイ達は急な上からの声に視線を上げる。

すると ベヒーモスの頭の上に人影が現れた。



「誰だお前!?」



「豪魔邪霊衆が1人 ジダンだ。大人しく魔導教典を渡せ。」



ベヒーモスの頭の上に立つ魔人が 面倒臭そうに答える。

逆立った金髪に 赤い刺々しい鎧を身に着けている。



「貴様らは魔導教典を殺戮兵器として使うつもりじゃろ!断じて渡さん!!」



カイラスの目には怒りの炎が灯っていた。



「おいおい そんなこと言ってると俺様の可愛いペットの餌にしちまうぞ?」



ジダンはニヤつきながら ベヒーモスの頭を撫でる。



「渡さねぇっつってんだよ!クソ魔人!!」



ロイは大剣の先をジダンに向け 力強く叫んだ。

それを見たジダンの顔つきが変わり 頭をかきむしり苛立ちを見せる。



「やれ!ベヒーモス。」



大地を震わす様な 咆哮をあげながらベヒーモスが動く。

振り上げた足の目標はロイとシュバルツ。

風を裂きながら 凄まじい音をたて ベヒーモスのストンピングが迫る。

ロイとシュバルツは同時に横へ飛び退き それをかわすと ロイは頭上の魔人目掛け シュバルツは踏み下ろされた足へと突撃する。更にその後ろではカイラスが魔導教典を開き 魔法を放つ為 魔力を溜め始めていた。



「うおぉぉぉぉ!!!」



ロイは雄叫びをあげながら剣を振りかぶる。

しかし ジダンへ届く前に ベヒーモスが頭を縦に振り ロイへとぶつけた。



「ぐっ…!!!」



大剣を横に構え ガードはとったものの ベヒーモスの重い一撃を耐えきれる筈はなく そのまま急降下していく。


その間にシュバルツはベヒーモスの足へと食らい付くが 硬い表皮によって 牙はいとも簡単に弾かれた。



「二人共 下がれ!!」



カイラスの言葉に ロイとシュバルツは着地と同時に後方へ飛び退く。



『ジオ・スタンプ』



魔導教典から眩いひかりが放たれ ベヒーモスを取り囲む様に円上に 重力のプレスが炸裂する。



ズンッ!!!!



凄まじい轟音と共に 重力の重みがベヒーモスを押し潰そうとする。



「ゴァァァ…」



ベヒーモスはなんとか踏み留まり 態勢を保っていた。

その頭上でジダンが苦悶の表情を浮かべている。



「やってくれる…」



重みに耐えながら ジダンは口の端を吊り上げた。

好戦的性格のジダンはこの状況を楽しんでいるようだ。



「グォォォォォ!!!!」



ベヒーモスが凄まじい咆哮をあげながら 膨大な魔力を解き放つ。

森の木々が咆哮によってザワザワと揺れている。


森の中に静寂が戻った。魔力の放出でカイラスの魔法を掻き消したのだ。



「なに!?」



カイラスはその光景に眉を寄せる。



「よくやった。今度はこっちの番だな。」



そう言いながら ジダンは手を高く掲げた。

すると ジダンの回りに赤い大きな針のような物が多数現れる。



『レッド・ニードル』



掲げた手をロイ達の方へ振り下ろすと 回りに浮かんでいた赤い針が一斉にロイ達に降り注ぐ。


上空から降り注ぐ無数の赤い針をロイとシュバルツは華麗に避ける。

カイラスは周りに魔法障壁を張り これを防いでいた。



「小僧!トニカク アノデカイノヲ倒サント 埒ガアカン!行クゾ!!」



「おう!!」



攻撃を避けながらシュバルツはロイに声をかけ 同時にベヒーモスへと疾走し その巨大な腕を器用に駆け上がった。

体の上を移動されている為 ベヒーモスには体を震わせ 振り落とそうとすることしか出来ない。


そのままシュバルツはベヒーモスの頭部まで駆け上がると その瞼に噛みついた。



「ギャオォォォ!!」



ベヒーモスが苦痛の叫びをあげる。



「馬鹿野郎!前だ!!」



ジダンが叫ぶ。

ベヒーモスの眼前には ロイが大剣を構えながら 宙を舞っていた。

シュバルツが瞼に食らいついて視界を狭め その死角からロイが跳躍し 接近したのだ。



「離れろ シュバルツ!」



シュバルツが飛び退くと同時に ロイの体から黒いオーラが吹き出し そのまま大剣をベヒーモスの額目掛けて 振り下ろす。


ベヒーモスの額がパックリ裂かれ 中から赤黒い血が大量に噴き出した。



「グォォォォ…」



呻き声をあげながら ベヒーモスは大地を揺らして 崩れ落ちた。



「テメェ…種の者かよ…

おもしれぇじゃねぇか。」



ジダンが笑みを溢しながら ゆっくりとベヒーモスの頭から降りる。



「気をつけるんじゃ!ロイ君!」



カイラスはジダンを警戒し 構える。


ロイの体からは禍々しい黒いオーラが放たれ続けていた。

黒きオーラのマイナス面 体力の大幅な浪費がロイの体を蝕む。



「…こりゃあ一気にケリつけないと ヤバいな…」



大剣を前方に構え 臨戦態勢をとる。

ジダンはそのままゆっくりと歩み ロイとの距離を縮めていた。



「踊れ…」



ジダンは先程と同じ様に手を高く掲げた。

すると 先程よりも圧倒的な数の赤い針が上空に浮かび上がる。



「イカン!!」



シュバルツが援護の為 飛び出すが 一歩遅かった。



『レッド・ニードル』



再び放たれた赤い針は 視界を覆いつくす程の数だ。

それが全てロイに向かって飛ぶ。



「くそっ!!」



黒いオーラの戦闘能力向上を利用して剣で弾いたり 避け続けるが あまりにも数が多い。徐々に体のあちこちに傷が増えてゆく。


そして遂に ロイの左肩 左脇腹 右ももを赤い針が貫いた。



「ぐわぁっ…!!」



赤い鮮血を撒き散らしながら 苦痛の悲鳴をあげる。そのまま地面に倒れ伏すロイに容赦なく赤い針が迫る。


大量の赤い針がロイに突き刺さる寸前で 白い閃光がロイの体を拾い上げる。

間一髪 シュバルツがロイの救出に成功したのだ。

しかし 銀狼のその巨躯には2本の赤い針が突き刺さっていた。



「逃がすかよ!」



ジダンが2人を追撃する。



『ガイア・ウォール』



カイラスが唱えた魔法は ジダンの前方の地面から巨大な岩の盾を出現させ 追撃を阻止する。

魔導教典は閉じられていることから見て これはカイラス自身の魔法であろう。



「助カル…カイラス殿。」



シュバルツは口にくわえていたロイをゆっくり地面に下ろした。

ロイとシュバルツの体からは赤い針が消えていた。あれはジダンの魔力により形成された物の為 効力が終わり 姿を消したのだ。

しかし 生々しい傷からはおびただしい量の血が溢れ出していた。



「とりあえず止血じゃ。治癒魔法は得意ではないが多少は扱える。止血ぐらいなら可能な筈じゃ。」



カイラスはそう告げると 両手から眩い光が放たれ ロイとシュバルツの出血を止めた。



「くそ…体が動かねぇ…」



ロイの体からは黒いオーラが消えていた。大量の出血により著しく体力を消耗した為だろう。



ドゴンッ!!



岩を砕く音が響き 3人は視線を移す。



「うっとうしい野郎だな。」



そこにはガラガラと音をたて 崩れ落ちる岩の壁の向こうに苛立ちを見せるジダンの姿があった。



「もう面倒臭ぇ。さっさと死にやがれ。」



そう呟きながら掲げる手の先には 先程と同じぐらい大量の赤い針が浮かんでいた。

全員に緊張が走る。


その時…


人影がジダンの後方から 真っ黒な大剣を振り下ろした。間一髪それをかわしたジダンの顔に更に苛立ちが見える。



「誰だテメェ!?」



その人影にロイ達は見覚えがあった。


漆黒の魔剣士 ジャガンだ。


「ジャガンさん!!」



「苦戦している様だな ロイ…

手を貸そう…」



ジャガンは大剣を上段に構え ジダンを睨みつける。



「誰だって聞いてんだろうがっ!!!」



怒りの叫び声をあげながらジャガンへと突撃し 素早い上段蹴りを放つ。

ジャガンはそれを上体だけでかわすと 直ぐ様 横薙ぎの一撃を繰り出した。

しゃがみこみ 間一髪その一撃をかわすジダン。

しかし 大剣の勢いがピタリと途中で止まり 軌道を変えて再びジダンを襲う。



「くそったれ!!」



今度は上に飛び上がり 大剣をかわす。



「ほぅ…思ったより やるようだな…」



大剣をクルクル回してから肩に担ぎ ジャガンは呟いた。

着地したジダンは悔しそうにジャガンを睨みつける。



「ジャガンさん!後ろ!!」



ロイが叫ぶ。


ジャガンの後ろで 先程まで倒れていたベヒーモスがのっそり起き上がったのだ。



「ハハハハハ!これで終わったな。」



ジダンは勝利を確信し 大声で笑い出す。


すると ジャガンは後ろを振り向きもしないで 剣を持つ手とは逆の手を 後方のベヒーモスに向ける。



「グルァァァァ!!!」



ベヒーモスは雄叫びをあげながらジャガンに襲いかかる。



『ヘル・フレイム』



地獄の業火がベヒーモスを焼き放つ。

圧倒的な火力により 森の中は明るく照らされた。

しばらくの間 燃え続けたベヒーモスは断末魔の叫びをあげ 黒焦げになって大地へと転がった。



「バカな…」



驚きを隠せないのはジダンだ。その身を怒りに震わせる。



「ちくしょうがぁぁ!!!」



両手を掲げ 上空を埋め尽くす程の赤い針を形成する。



『レッドクリフ』



赤い針が膨大な量から 最早壁となって ジャガンに襲いかかる。

しかし ジャガンは動揺することなく 大剣を上空に掲げた。


「唸れ…魔剣 ダークエンペラー!」



漆黒の刀身から黒い炎が溢れ出す。

そのまま力いっぱい振り下ろすと 黒炎が横に広がり無数の赤い針を一瞬で焼き払った。



「俺様の技を こうも簡単に…」



ジダンは呆然と立ち尽くす。



「終わりにしよう…」



ジャガンは大剣の先をジダンへと向ける。



「ジャガンとか言ったな。テメェの顔は覚えたぞ!いずれケリはつけさせてもらう!」



そう告げると ガルハイトの時と同じ様に 前方に黒いゲートの様な空間が現れ そこに姿を消していった。



「……………」



ジャガンは剣をしまい ロイ達の方へ歩み寄る。



「久シイナ ジャガン。」



「シュバルツ…大丈夫か?」



「問題ナイ。少シ休メバ 治ル。」



シュバルツの言葉に ジャガンの口元が緩んだ。

そして カイラスに視線を移す。



「カイラス殿ですね?先程の魔人は一体何の目的で襲ってきたのか わかりますか?」



カイラスは魔導教典を前に掲げる。



「これじゃよ。」



「それは…?」



「魔導教典…これには世界を火の海に出来る程の魔法が書かれている。

更には これを持つことで 所持者の魔力を底上げし 魔法の威力を上げることが出来る魔道具じゃ。」



「奴はそれを狙っていると?」



「奴は 魔人の一団 豪魔邪霊衆の一員。コイツを欲しがっているのは そこの首領じゃろう。」



ジャガンは腕を組み 何かを考え込む。



「…………つまり また奴らに狙われることになると…」



「だったら俺達のギルドに来なよ 爺さん。」



体を動かせないロイは寝転びながら カイラスに声をかける。



「しかし…」



カイラスの表情は曇っていた。

だが ロイにとってはそんなことお構い無しだった。



「俺達なら大丈夫さ。それにバルボアのおっさんも同じ事言うと思うぜ?爺さんを一人 ここに置いてはいけねぇよ。」



ロイの提案にジャガンは静かに微笑む。



「俺も賛成だ…」



ジャガンとロイの真っ直ぐな視線がカイラスへと向けられる。



「…そうかい ありがとう。それじゃあ 御世話にならせてもらうよ。」



ロイの優しさに触れ カイラスの表情から曇りが晴れる。



「シュバルツ!お前も一緒に来いよ。」



ロイの言葉に銀狼は驚きの表情を浮かべた。



「我モ 誘ッテクレルノカ…

フッ…アリガトウヨ 小僧。シカシ 我ハ生マレ育ッタ コノ森ヲ出ルツモリハナイ。」



長年この森で暮らし 森の主となって生きてきたシュバルツにとって この森は我が家であり 森の動物や植物は 家族であるのだ。それを捨てて 他で生きていく事など この誇り高き銀狼には出来るはずがないのである。



「…そっか わかった。元気でやれよ?」



「皆モナ…小僧 感謝スルゾ。我ノ力ガ必要ナ時ハ イツデモ呼ベ。スグニ駆ケツケル。」



そう告げると 銀狼は森の奥へと 颯爽と姿を消して行った。



「あいつ…怪我大丈夫かな?」



「シュバルツは元々 生命力が高い…そして魔食者だ…

あのぐらいの傷なら数日休めばすぐに回復するだろう…」



ロイの心配をジャガンがすぐに打ち消す。

そして ロイはあることに気付いた。



「よかった…

……あれ!?ジャガンさん魔食者のこと知ってんですか!?」



「知らぬとは一言も言ってないが?」



ジャガンは意地の悪い笑みを浮かべる。

それを見たロイは すねた子供の様に顔を歪めたのだった。


ジャガンはフッと軽く鼻で笑うと 倒れていたロイを軽々と担ぎ上げた。



「帰るぞ…俺達のギルドへ…」



「ぉ おぅ!!」



3人は 幻想的な朝日が射し込む 神秘の森を歩き 我が家である白銀の翼へと戻って行くのであった。

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