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白銀の翼  作者: 烏丸
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第4話 種の者

森の中は 葉の多い高い木々が並んでいるため太陽の光が入りずらく 薄暗い視界が続いていた。



「クソ…さっきから景色が全然変わんねぇ…ちゃんと進んでんのか?」



神秘の森に足を踏み入れてから およそ5時間。

ひたすら歩き続けるロイに疲労の色が見え始めていた。



「カイラスって人はどこにいんだ?魔力の気配を辿れば大丈夫と思ったんだけどな…そこら辺から魔力の気配がして どれかわかんねぇよ。どうなってんだここは…」



神秘の森は自然の魔力が集まる聖地とされている。木々や花にも微量ながら魔力が宿っているのだ。故に魔力探知能力が高いレオにならカイラスという人物を特定することも可能だったかもしれないが 魔力探知能力があまり高くないロイにとっては かなり難しい。



「!!?」



突然感じた邪悪な魔力にロイの足が止まる。

こちらに敵意を感じる気配が4つ。

ロイは背中の大剣を引き抜き 前方に構えた。


草むらから1つ目 1本足の魔物が4匹飛び出して ロイを取り囲む。

この魔物は下級ランクのリッキー。俊敏な動きが特徴の魔物だ。



「魔物までいんのかよ!? 」



ロイは大剣を下段に構え 正面のリッキーに向かって疾走する。



「うらぁっ!!あぁ!?」



振り上げた大剣は空しく空を斬る。



「キキキキキッ!」



攻撃をかわしたリッキーがロイを嘲笑うかのように その場でピョンピョン飛び跳ねていた。



「…この野郎。」



ロイの眉がピクリと動き 苛立ちを見せる。

歩き続けた疲労のせいかロイの動きが若干鈍いようだ。



「キィッ!」



背後にいたリッキーがロイの背中に向け蹴りを放つが それをヒラリと体を捻り かわす。

と同時に疾風の如き 斜め斬りでリッキーの体を一刀両断にする。



「1匹目。」



間髪入れずに再び正面のリッキーへ向かって疾走した。

素早く飛び上がり 大剣をかわそうとしたリッキーだが 更に速い剣撃の前に無惨にも鮮血を撒き散らしながら真っ二つとなる。



「2匹目。」



そのまま左方向に横っ飛びし リッキーの眼球目掛けて鋭い突きを繰り出す。

リッキーは呆気なく眼球ごと体を貫かれ絶命した。



「3匹目。」



残されたリッキーがロイ目掛けて飛び掛かる。



「ラストォ!!」



真上に跳躍し 旋回しながらの踵落としでリッキーを地に打ち付けて そのままの勢いでリッキーごと大地に剣を突き刺した。



「ふぃ~~!一丁上がり!」



電光石火の早業で4匹のリッキーをあっという間に倒したロイは 手を叩きながら余裕の表情を浮かべる。

しかし 疲労していた体で戦闘を行った為 ロイの体力は限界に近づいていた。



「…この辺でちょっと休むか…」



疲れきったロイはその場で腰を下ろす。

この行動が後に後悔することになるとは知らずに。


時刻は夕刻の刻。辺りは夕日によって紅く染められている。

ロイはいつの間にか 眠ってしまっていた。

今日の疲労だけでなく ガルハイトとの戦闘の疲労とダメージも残っていたのだから当然の結果と言えよう。


その時 突如ロイが横になっている地面が爆発を起こす。



「がぁっ!」



寝起きにいきなり爆風に飛ばされたロイは受け身も取れずに地面に激しく叩きつけられる。



「な なんだ!?」



爆発の起こった場所に目を移す。

すると爆煙の向こう側から棘付きの棍棒を持った緑色の肌の 小鬼の様な魔物がぞろぞろ現れる。

更にその背後から茶色のローブに身を包み 杖を持った緑の小鬼が現れた。


ゴブリンの大群とゴブリン・シャーマンだ。


ゴブリンの大群は優に20匹を超える多さだ。

先程の爆発はゴブリン・シャーマンの魔術であろう。



「次から次へと…なんて数だよ…」



ロイはよろめきながら立ち上がり 大剣を抜こうと背中に手を回す。



「…!?」


しかしロイの大剣はゴブリンの大群のど真ん中に落ちていたのだ。



「まずいな…」



ゴブリンとゴブリン・シャーマンは下級ランクの魔物だが いくら下級ランクとは言え あの数と疲労した体に武器なしでは 相当な驚異となる。



「まずは剣だな!」



残る力を振り絞り 黒い閃光となってゴブリンの大群へと突撃する。

しかし大群の元へ到着するより早くゴブリン・シャーマンの魔法 ファイアーボールによって弾き飛ばされた。



「うわぁっ!」



元の位置まで弾き飛ばされたロイは地面で1回転し 態勢を整える。



「くそ!軌道は見えてたのに足の踏ん張りがきかなかった!」


自分の体が思う様に動かせない悔しさから 歯をくいしばる。

その間にもゴブリン・シャーマンは再びファイアーボールを放つ。

それをなんとか右に跳躍し かわした。



「ゲギャギャ!」



ロイの着地した瞬間を狙い3匹のゴブリンが棍棒を振り上げ 向かって来る。

そのゴブリン達の攻撃を右へ左へかわすロイだが 徐々に棍棒の棘によって 体を斬り刻まれる。

体調万全のロイなら これだけの数でも無傷で切り抜けることは可能だろうが この状況ではそれだけ疲労しているということがわかる。



「クソったれがぁ!」



たまらずロイは正面にいたゴブリンを蹴り飛ばし 後方へ飛び退く。



その時…



「アォォォォォン!!」



後方から狼の遠吠えが聞こえてくる。

と同時に白い閃光がジグザグにゴブリンの大群へと突撃し ゴブリン達は呆気なく鮮血を撒き散らしながらバラバラになって地面に転がった。



「白い狼……?」



ロイの視線の先には 綺麗な白銀の毛並と黄金色に輝く瞳を持つ巨駆の狼が ゴブリンの大群の中心に堂々と立っていた。

その姿には神々しい雰囲気と邪悪さが入り交じる不思議な気配が漂っている。


その姿に見入っていたロイだったが ふと銀狼の視線がロイに向けられる。



「命ガ惜シクバ立チ去レ人間…ゴブリン程度ニ苦戦シテイルヨウデハ コノ森デハ通用シナイゾ。」



銀狼の口から発せられる言葉にロイは目を丸くする。



「喋った…?」



人間とは異なる声帯の為 所々聞き取り辛くはあるが たしかにこの銀狼は人語を話したのだ。



「聞コエタダロ?去レ!」



呆然と立ち尽くすロイに向かい銀狼が口を開く。

その言葉で我に返ったロイはニヤリと口元を緩めた。



「ご忠告有り難いが俺にはまだやるべきことがあるんだ。帰る訳にゃいかねぇよ。お前 人の言葉がわかるんだろ?すまねぇけど その足元の剣を拾ってくれないか?」



銀狼の足元に転がる大剣を指差しながらロイが答える。

銀狼は足元に視線を移すと 大剣を口にくわえ ロイ目掛けて放り投げた。



「好キニシロ…」



「助かる!」



ロイは大剣を掴むと同時に標的を変え ゴブリン・シャーマンへと疾走する。



「多少休ませてもらったから さっきよりは体が動くぜ!」



そのまま黒い閃光となり 銀狼の前を通過し ゴブリン・シャーマンの懐へと飛び込んだ。

そのタダ者とは思えない驚愕のスピードに今度は銀狼が目を丸くする。

その刹那 杖で大剣を防ごうとしたゴブリン・シャーマンの杖ごと体を一刀両断に斬り伏せる。



「スマヌ…前言撤回ダ。貴様ハ コノ森デモ通用スル強者ノヨウダナ。」



銀狼は口の端を吊り上げる。笑ったのだろうか?器用な狼である。



「シカシ カナリ疲労シテイルヨウダナ。休ンデイロ。」



そう告げると銀狼は宙に高く跳躍し そのまま横に旋回すると 白い旋風となって次々に残りのゴブリンを蹴散らしていった。



「すげぇ…」



銀狼はあれだけの数がいたゴブリンを 瞬き一つの間に全滅させたのだ。

ロイは情けなく口をあんぐり開いてその光景を眺めていた。



「貴様 何ノ為ニココヘ来タノダ?」



銀狼はゆっくりとロイのほうへ振り返る。



「カイラスって魔術師を探してるんだ。」



ロイは大剣を背中に納めながら答える。



「……………」



急に無言になった銀狼にロイは不思議そうな表情を浮かべる。

一方の銀狼は無言のままロイの姿を観察するように眺めていた。



しばしの沈黙の後 最初に銀狼が口を開く。



「ソノ髪色…コノ魔力…貴様 種ノ者カ?」



その言葉にロイの目の色が変わる。



「お前 種の者が何なのか知ってるのか!!?」



いきなりのロイの変化に銀狼は一瞬驚きを見せる。



「貴様 知ラヌノカ?……ナルホド…ソレデ カイラス殿ヲ探シテイルワケカ。」



銀狼は一人納得した表情を浮かべ うんうんと頷いていた。

しかし なかなか答えを聞き出せないロイは更に声を荒げる。



「知ってるなら答えてくれ!!種の者ってなんなんだ!!?この髪色とどう関係しているんだよっ!!!?」



興奮状態のロイに銀狼は落ち着けと促すが ロイは既に頭に血が昇って かなりヒートアップしていた。

幼少の頃から 他の人とは違う不気味な髪色のせいで酷いいじめや差別を受けていたロイにとっては仕方がないことなのかもしれない。

白銀の翼という唯一 心安らげる場所を見つけても 長年 孤独に悲惨な人生を歩んで深い傷を負った彼にとっては 簡単に埋められる物ではないのだ。



「我ノ知識モ全テハ カイラス殿カラ得タ物。話ヲ聞キタクバ 直接カイラス殿ニ聞クノダ。貴様ハ ソノ為ニ ココへ来タノダロウ?連イテ来イ。案内シヨウ。」



銀狼は振り返ると森の中へと足を進めた。

ロイも銀狼の言葉で少し落ち着いたのか 深い深呼吸をしてから後を追って行く。



―☆―

数分 森の中を沈黙のまま歩き続けていたが 銀狼はロイが落ち着いたのを横目で確認した後 口を開いた。



「我ノ名ハ シュバルツ。貴様ノ名ハ?」



シュバルツと名乗った銀狼は足を止めることなく 首だけを少しロイの方へ向ける。



「俺はロイだ。さっきはすまなかった…宜しく頼む。」



ロイは少し恥ずかしそうに頭を掻きながら答えた。

それを見てシュバルツはフッと笑みを溢す。



「貴様 白銀ノ翼ノ者ダロウ?ジャガンハ元気ニシテイルカ?」



シュバルツの口から知った名前が出てきた事に驚いてロイは足を止めた。



「ジャガンさんを知ってんのか!?」



「古キ友ダ…イヤ…親ト言ッタホウガ正シイカ。」



シュバルツも足を止め どこか思い出に浸るような表情をしている。



「親ぁ~!!?」



「奴ノ生マレハ知ラヌガ 奴ハコノ森デ育ッタ。育テタノハ我ダ。」



シュバルツは再び足を進めながら答える。

ロイも慌ててシュバルツの後を追った。


「ジャガンさん…狼少年だったのか…イカすなぁ…」



目を輝かせながら訳の分からない事を言うロイをシュバルツは遠い目で眺めていた。

ロイにとってジャガンは知らぬ間に憧れの対象となっていたようだ。

これにはある理由があるのだが それは後に分かる事である。



シュバルツと共に歩き続けること数時間…

森の中にヒッソリ佇む 木造の小さな小屋へと到着していた。

道中 様々な魔物の襲撃にもあったが頼もしい銀狼が共にいたこともあり 苦も無く退けていた。



「カイラス殿!客人ヲ連レテ来タゾ!」



シュバルツが小屋に向け そう叫ぶと 扉がギィッと年期の入った鈍い音を奏でながら開かれ 中から黒いローブに身を包んだ一人の優しそうな白髪の老人が姿を現した。



「客人とは珍しい。ワシに何か用かな?若いの。」



カイラスは笑顔でロイを迎える。



「俺はロイ・ストライド。バルボアに教えられてアンタを探してたんだ。聞きたいことがあるんだが いいか?」



ロイは軽く会釈してから 早速本題へと入った。



「バルボアか…懐かしいなぁ。まぁ立ち話もなんじゃし 疲れておるじゃろ?中に入りなさい。」



カイラスはそう言いながら小屋の中へと入っていく。

そしてロイとシュバルツも その後に続く。


小屋の中は中央に机と椅子が並び 後は大量の本に埋め尽くされた本棚がズラリと並んでいた。



「どうぞ。座りなされ。」



カイラスはゆっくり椅子に腰掛けながら 向かい側の椅子を指差す。



「お邪魔します。」



ロイは辺りを見回しながら カイラスが指差した向かい側の席へと腰を下ろした。

シュバルツは机の横の床へ腰を下ろす。



「それで聞きたいこととは なんだね?」



「この俺の髪色と種の者について教えてほしい。」



カイラスはロイの髪を見つめ フムと一息つく。



魔食者ましょくしゃというのは ご存知かな?」



「ましょくしゃ??」



聞き慣れない言葉に疑問符を浮かべる。



「君の様な髪色の者は大きく分けて 魔食者と種の者の二つに分類される。

前者の魔食者というのは魔物の血肉を口にし 魔物の力を得た者のことを言う。

後者の種の者というのは人間の女が魔物に種を植え付けられ 身籠って産まれた子供のことを言うのじゃ。」



カイラスの言葉にロイは生唾を飲み込む。



「…つまり 魔物と人間の子供?」



カイラスはロイを見つめ しばらく黙り込んだ後 話しを続けた。



「……そういうことじゃ。お前さんはどうやら後者のようじゃの…

魔食者と種の者の共通の特徴として髪色が色素の抜けた銀髪となるのじゃ。」



「……………」



カイラスから告げられる驚愕の事実にロイは言葉を失ってしまっていた。

その光景を見て シュバルツが口を開く。



「シッカリシロ!貴様ハ話ヲ聞キニ来タノダロウ!?最後マデ聞キ遂ゲロ!!」



ロイは銀狼のほうに視線を移してから 力強く頷き 視線を戻してカイラスの目を真っ直ぐに見つめた。



「うむ!話しを続けよう。魔食者と種の者は同じように関わりを持った魔物によって大きく差が出る。魔食者ならば捕食した魔物の強さに 種の者ならば種を植え付けた魔物の強さによって能力に違いが出る。より高ランクの魔物と関わればそれだけ強さも上がるということじゃ。」



「種の者が魔物を食ったらどうなるんだ?」



「いい質問じゃ。本来 普通の人間が魔物の力を得ることは不可能なんじゃ。魔物の邪悪な魔力には精神を汚染し 命を蝕む力がある。常人なら魔物を捕食したり 種を植え付けられた時点で死に至る。

強靭な精神力の持ち主か特殊な力を持つ者にしか 力を得ることはできない。かと言って必要以上の捕食は それだけ体に負担がかかり 死ぬ可能性が大幅に上昇することになる。

種の者に至っては 元々体が最大限に魔に近づいている状態なのじゃ。つまり捕食は危険な選択となるということじゃな。」



「なるほど。必要以上に力を欲すれば 死の制裁が待っているということだな。」



「そういうことじゃ。例としては そこのシュバルツじゃ。」



カイラスはシュバルツを指差しながら そう告げる。

ロイは銀狼へと視線を移す。



「彼は元々この森の主。侵入した魔物を撃退しては捕食を続けていた。それによって大きな力を得る事はできたが 体はもうギリギリの状態じゃ。ワシが知識を与え なんとか止めることはできたが…

もうかなり寿命は縮んでしまったことじゃろうて。

まぁ彼の場合 力を求めた訳ではなく 生きる為の選択じゃがな。」



「どうりで強いし デカイし 真っ白な訳だ。なんか変な感じしてたんだよなぁ…」



ロイは銀狼をまじまじと見つめながら そう呟いた。



「それと最後に重大なことを一つ。種の者には覚醒というものが存在する。」



「覚醒…??」



「左様。覚醒とは魔物の姿へと体が変化し 格段に戦闘能力が上昇することを言う。狼男等 ライカンスロープ(獣人)の様なものを想像すればいい。

覚醒は感情の激しい変化や 死の危険が迫ると発動することがある。必ずしもという訳ではないのじゃがな。」



「…それって元に戻ることはできるのか?」



ロイの目に不安の色が見える。



「それは覚醒した者による。強い精神力の持ち主なら覚醒しても自我を保ち 自力で戻ることが可能じゃ。中には暴走し 戻ることが出来ずに そのまま魔物となる者もおるがな。極力覚醒は避けたほうがよいじゃろう。」



「そうか…ありがとう。驚いたけど なんかスッキリしたよ。」



ロイはカイラスに深く頭を下げる。

カイラスはそれを見て優しく微笑んだ。



「それはよかった。これから先 様々な苦難があると思うが頑張るんじゃぞ。

今日はもう遅いし 泊まっていくといい。」



外はもう日が落ち 暗い視界が広がっている。

カイラスの言った様に この先 ロイには数々の苦難が待ち構えているのだった。

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