第30話 ハロウィン
護衛部隊と暗殺ギルド クリムゾンの戦いはどんどん激しさを増していた。
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船のデッキ
ロイ&ヒスカとララァ&ルールゥのタッグ戦が繰り広げられていた。
ロイはララァとルールゥの姉妹に 正面からじりじりと詰め寄る。
それをサポートするようにマストの上からヒスカが弓を引き絞っていた。
姉妹はロイとヒスカ 両方を警戒して キョロキョロしながら身構えている。
「ハッ!」
そんな中 動き出したのは ロイだ。
自慢の音速の速さで姉妹の眼前にまで迫った。
意表を突かれた姉妹は揃って目を見開いた。
先程まで完全に舐めてかかっていた相手の捉えきれない動き。
姉妹は流石にロイが 実力者だという事を認識する。
ルールゥは自分の周囲に鋼糸を張り巡らせ 防御の姿勢を。
ララァは素早い動きで後方へと飛び退いた。
「ヒスカ!!」
「…らじゃー。」
ロイは視線はそのままに ヒスカに呼び掛ける。
そのロイの意図を理解出来たのか ヒスカは回避するララァに矢の先を向けた。
そして 当のロイはララァには目もくれず 防御を固めるルールゥに対してレムナントを振り上げた。
「そんなもんで俺の剣が防げるのか?」
ニヒルな笑みを浮かべるロイ。
その瞬間 ルールゥの背筋に悪寒が走る。
「ヤバッ!」
焦るルールゥが防御から回避に移行しようとしたが 時既に遅し。
ロイの振り下ろした レムナントが鋼糸ごとルールゥを真っ二つに切り伏せた。
女が相手でも命を懸けた真剣勝負では 全く手加減しない男である。
「ルールゥ!!!!」
目の前で鮮血を撒き散らしながら真っ二つに崩れ落ちる妹の姿を見たララァは 怒りと悲しみが入り交じった物凄い形相で叫ぶ。
そして 彼女が妹の姿に気を取られている隙にヒスカの矢が強襲する。
なんとかギリギリの所で矢の接近に気付いたララァは矢と顔の間に右腕を出し 自らの腕で致命傷を防いだのだった。
放たれた矢はララァの右腕に突き刺さり その動きを止める。
その勢いで腕からの出血がララァの美しい顔に飛び散った。
「くっ…!」
苦痛に顔を歪めながらも妹の命を奪った憎き相手 ロイを睨み付ける。
「ちっ!犬死にはゴメンだよ。
今回は退かせてもらう!アンタの顔は覚えたからね!アンタだけは必ず私の手で殺してあげる!」
そう言ってララァは後方へ大きく跳躍し 船の柵を飛び越えて 海へ飛び込んだ。
またも暗殺者を一人取り逃がす形となったが ロイ達の役目は姫の護衛。
深追いは回避したのだった。
「ヒスカ!姫さん達の所へ急ぐぞ!」
「らじゃー。」
ロイとヒスカが移動を始めようとした その時のことだった。
「傭兵!ヒスカ!無事だったか。」
姫達の部屋に繋がる通路の扉から 姫達を連れたハインリッヒと鉄鍵騎士団の騎士が現れたのだ。
「おっさん!?なんでこんなとこにいんだよ!?」
突然の出来事に目を丸くするロイ。
現れたこともそうだが ハインリッヒの両腕がブラリと垂れ下がり 骨折している事に驚く。
「姫様達の部屋に襲撃があった。
相手は相当な力の持ち主でな。それでこの様だ。
エンリケが敵を足止めしてくれている間に俺達は姫様達を連れ出したんだ。」
「じゃあ今はアイツ一人で戦ってるのか?」
「そうだ。お前達は敵は倒したのか?」
ハインリッヒの問いにロイはルールゥの亡骸を指差しながら答える。
「あぁ。一人は倒した。
けどもう一人は逃がしちまったよ。」
ロイはララァが逃げ出した方を悔しそうに見つめていた。
「いや 十分だ。よくやった。
お前達は引き続き エンリケのサポートに向かってくれ。」
「了解だ。」
ロイとヒスカは急ぎ エンリケの元へと向かったのだった。
ー☆ー
姫達の部屋前
激しく睨み合うエンリケと二号と呼ばれた大男。
それを楽しげな表情で白衣の男が眺めていた。
「ライカンスロープとは面白い。
いい研究材料になりそうだな。」
白衣の男は気色の悪い視線をエンリケに向ける。
エンリケは その視線を感じ 背筋がゾッとする様な感覚に陥り 白衣の男を睨み付けた。
「ジロジロ見てんじゃねぇぞ。変態野郎!」
「失礼な奴だ!私は天才科学者ロジュー様だぞ!」
エンリケの言葉に反応して クリムゾンのマッド・サイエンティスト ロジューが声を荒げる。
それを見たエンリケは鼻で笑ってから口を開いた。
「変態科学者の間違いだろ?」
「もういい!貴様なんぞバラバラに切り刻んでやる!やれぇ!二号!!」
怒りで顔を真っ赤にさせたロジューが叫ぶ。
それに呼応するかの様に二号が大剣を振り上げ 高く跳躍する。
エンリケは即座に反応し 軽やかな身のこなしでサイドステップを見せる。
振り下ろされた大剣は空を斬り 床を抉った。
二号が追撃に移ろうとエンリケの方向に顔を向けた時 既に眼前にエンリケの姿があった。
「トロいんだよっ!」
鈍い音を奏で エンリケの拳が二号の顔面に打ち付けられる。
その勢いで二号は吹っ飛ばされ 再び壁に激突させられた。
獣化したエンリケの戦闘能力は二号を遥かに凌駕しているようだ。
「何をしているんだ!?解体されたいのか!二号?」
ロジューが唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。
目は血走り 尋常ではない異常さを醸し出していた。
それに応える様に二号は瓦礫を押し退け ゆっくり立ち上がる。
ロジューは満足したのかニヤリと笑みを浮かべたのだった。
「おい お前!あんな気色の悪いおっさんの操り人形で満足なのか?」
「フシューフシュー…」
エンリケが二号に語りかけるが反応がない。
「そうか…もう完全に壊れちまってるのか。」
エンリケは語りかけるのを諦め 鋭い眼差しで構えた。
その時…
「なんだこりゃ!?あっちこっちボロボロじゃねぇか!」
「リンレイ先輩!それより どっちが敵ですか?」
リンレイとトーマが到着したのだった。
しかし エンリケがライカンスロープだと知らない二人は狼男とミイラ男が対峙しているのを見て 目を丸くさせていた。
確かに端から見ればどちらとも魔物と認識出来る姿をしている。
リンレイは冷静に両者の姿を確認する。
「敵はミイラ男だ。
メインエンジンの傷と奴の持つ大剣の形状が一致する。
そして あの狼男はエンリケの装備を身に付けている。彼はどうやらライカンスロープだった様だな。」
リンレイの冷静な分析力の高さには脱帽する。
この短時間でそこまでの答えを導き出すとは大したものだ。
「ライカンスロープ…初めて見ました。」
敵を認識したリンレイとトーマは武器を取り出し 構えた。
そして その状況に顔を歪めたのはロジューだ。
「新手か…」
ロジューが二人に向き合おうとした その時…
「うぉ!どっちが敵だよ!?」
「…ハロウィン?」
戦闘を終えたロイとヒスカが合流して 狼男とミイラ男の姿に戸惑っていたのだった。
ますます顔を歪めるロジュー。
「くぅっ…あの姉妹はやられたのか!
使えぬ奴ばかりだ!」
怒るロジューは徐に白衣の前をバッと開ける。
開かれた白衣の裏地には 奇妙な様々な色をした液体の入った注射器や試験管がビッシリとセットされていた。
「ロイっち!その狼男はエンリケだよ!
敵はミイラ男とそのチビのオッサンだ!」
ロジューの異様な行動に警戒したリンレイはロイ達に向かい叫んだ。
それを嘲笑うかの様にロジューは笑みを浮かべながら一本の試験管を取り出した。
「後は任せたぞ二号!」
そう言ってロジューは試験管の蓋を開け 中身を一気に飲み干した。
するとロジューの体がみるみる内に透き通っていく。
「ごきげんよう。」
「待て!!」
エンリケの叫びも空しくロジューの姿は完全に消え去ってしまった。
どうやら彼が口にしたものは透明化する薬だったようだ。
「フシューフシュー!」
五対一という状況になったにも関わらず二号は大剣を構え 臨戦態勢を取る。
この男には恐怖や迷い そういった感情が全くないようだ。
全員が武器を構え 攻撃に移ろうとするが それをエンリケが手で制した。
「コイツの始末は俺がつける。」
エンリケは両手を広げ 二号を迎え撃つ。
二号は他の敵には目もくれず 目の前のエンリケに突撃していく。
豪快な突きの一撃。
二号の大剣は空を裂き 真っ直ぐにエンリケに向かう。
直撃ギリギリの所でエンリケは見事な動きで突きを捌き 二号の下顎をカウンターの一撃で打ち抜いた。
ヨロヨロと後退し 二号は膝を地面に付く。
いくら感情や痛覚が無いにしろ 脳へのダメージは嘘をつかない。
それでも意識を失っていないのは脅威だが。
「無理矢理そんな体にされたのか テメェから進んでなったのかは知らねぇが お前には同情する。
せめてもの情けだ。すぐに楽にしてやるよ。」
エンリケは爪を突き立て 二号の心臓を一気に貫いた。
夥しい出血と共にピクリとも動かなくなる二号。
エンリケは二号の死亡を確認すると ゆっくり心臓を
貫いた腕を引き抜いた。
「お前…その姿は…」
ロイが少し警戒しながらエンリケに近づく。
エンリケはロイの方へ振り返ると 微笑んで見せた。
「警戒しなくていい。
俺はライカンスロープだ。意識はハッキリしている。」
「ライカンスロープ…
聞いたことはあったが 目にするのは初めてだな。
お前に違和感を感じたのは こういうことだったのか。」
ロイの感じた邪悪な魔力の正体はエンリケの中に流れる魔獣の血によるものであった。
暗殺者を退けた一行は姫達の安否を確認する為 彼女達の元へ向かうこととなった。
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船のデッキ
一行が外へ出ると ハインリッヒの折れた両腕をサラが治療している所であった。
「オッサン 腕の調子はどうだ?」
ロイの言葉にハインリッヒは不機嫌そうな表情で振り返った。
「隊長と呼べ。
サラ姫のおかげで折れた骨は繋がった。だが まともに動かせるようになるには少し時間が掛かるだろう。
暗殺者は倒したのか?」
「それは俺から報告しよう。」
エンリケが前へと出る。
既に姿は人間の姿へと戻っていた。
「新手の男には逃げられたが あの大男は始末した。」
「何!?新手がいたのか?それはご苦労であった。
激しい襲撃だったが諸君等の活躍で被害を最小限に抑えることが出来た。
よくやったぞ。」
護衛部隊は不利な状況だったにも関わらず 二度目の襲撃も見事に阻止してみせた。
即席の部隊ながらも息の合った連携。
個々の実力の高さ故の為せる技である。
「部隊長さんよ 船は大丈夫なのかい?
メインエンジンがあの有り様じゃあ…」
リンレイが脳裏に過った疑問を口にする。
確かに主動力であるメインエンジンが破損 炎上している状態では航行は無謀な行いだ。
しかし ハインリッヒは何故か小さく微笑みを見せた。
「問題ない。
この船の乗組員は全員 ガレン公国が誇るエキスパート揃いだ。
既にメインエンジンはなんとか動かせるまでに修理完了。
後は予備動力で航行は可能らしい。」
「そいつはたまげたな!」
リンレイは乗組員達の技術の高さに感服するしかなかった。
普通ならば メインエンジンがあの状態になれば航行は絶望的となる筈なのである。
それがまさかの航行可能な状態にまで持っていくとは並大抵の技術ではない。
とにかく優秀な技術班の力で船は再びフィンデル王国へと向けて進んでいくのであった。




