第28話 神聖魔法
暗殺ギルド クリムゾンの襲撃による 護衛部隊の被害。
死者1名
重傷者1名
クリムゾンの幹部クラス ヒドラによって旋風騎士団の新兵 トーマの右腕が斬り落とされた。
見事に切断された傷口からは大量の血が吹き出している。
トーマは苦痛に顔を歪め 大量の脂汗をかいている。
顔色もかなり悪くなってきていた。
血の流し過ぎである。
「トーマ!しっかりしろ!
誰か治癒魔法は使えねぇのかよ!?」
ロイはトーマの傷口を押さえながら 慌ただしく叫んだ。
しかし 護衛部隊の中には誰一人 治癒魔法を扱える人物はいなかったのだ。
全員の表情が雲っていく。
「ロイ!その方をこちらへ!」
そんな中 サラが車から慌てて飛び出してくる。
「サラ!?もしかして治癒魔法が使えんのか?」
「治癒魔法ではありませんが 似たような魔法は使えます!
斬られた腕と一緒にこちらへ運んでください!」
治癒魔法ではないという所が引っ掛かったが 今頼れるものはサラの魔法しかない。
ロイは言われるがままに トーマを抱えあげ 腕を拾ってサラの元へ駆け出した。
「その切断された腕を 斬られた腕に当てていてください。」
サラは斬られた腕をくっ付けるとでも言うのか 謎の指示を出してきた。
治癒魔法とは外傷を治したり 体力を回復させるもの。
切断された体の一部をくっ付ける魔法等 聞いたこともなかった。
しかし ロイはとりあえず言われた通りに腕を切断面へと当てた。
「いきますよ。」
サラは傷口に両手を添え 目を閉じる。
次の瞬間 サラの両手から神々しい光が放たれた。
「マジかよ…!?」
ロイは驚嘆の声をあげる。
光が傷口を包み トーマの切断された腕がみるみる内に くっ付き始めていたのだ。
その光景は正に奇跡。
「…暖かい。姫様 申し訳ありません。」
トーマの朦朧としていた意識がハッキリと戻ってくる。
顔色も次第に良くなってきていた。
「よいのですよ。よくぞ守ってくれました。
感謝いたします。」
サラはニッコリと微笑む。
その心優しき姿は まるで女神のようであった。
「姫様 ここに止まるのは危険です。
先を急ぎましょう。」
「そうですね。治療は済みました。
急ぎ ローベリック港へと向かいましょう。」
サラはハインリッヒの提案を承諾し 力強く頷いた。
そして 一行は再びローベリック港を目指し 移動を再開させたのだった。
ー☆ー
「まさか こんな序盤で精鋭の護衛部隊の一人が死ぬとはな…
この任務 相当厄介だぞ。」
移動中の車内 ハンドルを握るリンレイが口を開いた。
撃退したとはいえ 少数部隊にとっての一名損失は大きな痛手となる。
更には暗殺ギルド クリムゾンの人数 及びこれから先の襲撃回数。それらを把握出来ていない現状では圧倒的に不利である。
「気を引き締めて かからねぇとな。
ヒスカ!トーマの様子はどうだ?」
助手席に座るロイが 後部座席でトーマの世話をしているヒスカに問い掛ける。
「大丈夫。
今…寝てるけど…顔に生気…戻った。」
「そっか。もう大丈夫そうだな。
しかし サラのあの魔法は一体なんなんだ?」
ヒスカの言葉を聞いて安心したロイは腕を組み 座席にもたれかかった。
「サラ姫の魔法かい?
あれは神聖魔法っつうんだよ。神々が扱うとされる魔法らしい。
傷を再生させたり 強大な結界や呪いを解くことが出来るんだ。
条件が揃えば蘇生も出来るって話しだ。
神聖魔法を使えるのは世界に彼女一人なんだぜ。」
リンレイが運転しながらロイの疑問に答える。
国王が言っていた姫の特殊な能力とはこのことだったのだ。
「サラ一人?
あのじゃじゃ馬娘も特殊な能力持ってんだろ?」
「あぁ…リーシャ姫か。
彼女のはまた特別なんだよ。まぁいずれ拝めると思うぜ。」
リーシャの持つ力は サラとはまた別な能力。
帝都に来てからというもの謎が増える一方のロイであった。
「おっ!見えてきた!
あれがローベリック港だ。」
リンレイが指差す先には 美しい風景の港町が広がっていた。
レンガ造りの建物が並び 青く澄んだ海には大型の船舶が何隻も浮かんでいる。
港町 ローベリック。
ガレン公国からフィンデル王国に向かうには 必ずこの港を経由する必要がある重要な町である。
車で港の前まで着けた一行は 船に乗る為 次々と降車していく。
「護衛部隊!海の上という逃げ場のない場所では襲撃される可能性が極めて高い。
気を引き締めて掛かれ!」
護衛部隊 部隊長のハインリッヒが全員を集め 渇を入れる。
確かに彼の言う通り海の上ならば絶好の襲撃チャンスとなり得る。
十中八九 二度目の襲撃が行われるであろう。
「我々 鉄鍵騎士団は姫様の部屋の前に待機して守備を固める。
機動力のある旋風騎士団と傭兵は船を巡回して警備にあたってくれ。」
「了解!」
ハインリッヒの指示を皆が承諾する。
この面子だとそれが最善の策となるだろう。
配置の確認を行うと 一行は乗り込む船を目指した。
「おいおい これかよ…」
リンレイが驚愕の声を漏らす。
目の前にあるのは巨大な豪華客船。
しかも今回は暗殺者の侵入を阻止する為 一般の客は入れず 一行の貸し切りという形になる。
「待てよ!こんなデカくなくていいだろ!
このデカさは俺達四人だけで巡回するには無茶がある。 かえって危険だ。
小さい船はないのかよ!?」
ロイは最もな意見を口にした。
しかし ハインリッヒは呆れ顔を見せる。
「馬鹿か貴様は?
一国の姫様達に平凡な船に乗れと言うのか?」
「そういう問題じゃねぇだろ!?」
ハインリッヒの言葉を遮り ロイが叫ぶ。
そんな中 サラが護衛部隊の元へ歩み寄る。
「先程の襲撃で狙われていることは確定しました。
ロイの意見は正しいと思います。私は構いませんよ?」
「私は嫌よ!狭い船なんて御免だわ!」
物分かりのいいサラの背後から わがままなリーシャが顔を覗かせた。
改めて姉妹とは思えない全くの正反対な性格である。
「わがままもいい加減にしろ!
お前等の命がかかってんだぞ!!」
「なによ!偉そうに!」
「なんだと!?」
またもや始まる二人の喧嘩。
予想は出来ていたことだが。
「やめんか!馬鹿者!!」
そして先程と同じ様にハインリッヒに押さえつけられるロイであった。
懲りない男である。
「申し訳ありません。姫様。
船の変更はございません。姫様を御守りするのが我々の任務であります。」
「わかってればいいのよ。」
リーシャはロイに対して イーっと歯を見せて船へと向かっていく。
それを慌てて二人の従者が追っていった。
一方のロイは拳を握り締め 苛立ちを見せていた。
この場合ロイの言っている言葉が正しいが 相手が一国の姫では仕方がない。
そんなロイを見て リンレイがのし掛かる様に肩を回してきた。
「まぁまぁ。仕方ないよ ロイっち。
俺達は仕事をこなそうぜ?」
リンレイはロイを宥める様に口を開く。
納得のいかないロイであったが仕方なく この場は引き下がることにしたのだった。
その様子を見ていたサラが申し訳なさそうにペコリと頭を下げて船へ向かって行く。
「ようこそ 姫様方。
私がこの船の船長を勤めます マウロです。」
一行が船へ向かっていると 船の乗船場所から一人の小太りの男が現れた。
「すぐに出発したい。宜しく頼む。」
「わかりました。
それでは乗船なさってください。」
一行を乗せた船が出港する。
激闘が待つ 船旅へと…
ー☆ー
出港二時間後 船内
当初の予定通り 姫達の休む部屋の前を鉄鍵騎士団の三名が厳重に守り固めている。
旋風騎士団とロイは バラバラに別れて決められたコースを巡回して回っていた。
『ロイよ。肩の傷の具合はどうだ?』
レムナントがロイの脳内に語りかける。
「ん?あぁ…
さっき 黒いオーラの力で粗方塞いだから問題ねぇ。」
ロイはヒドラの蛇攻剣によってつけられた傷口があった部分を擦りながら答えた。
傷口は塞がり 薄皮一枚はっている状態まで回復していた。
もう少し力を使えば完治させることも可能であったが 治癒能力向上の力は魔力消費が極めて激しい。
ロイはあえて完治させずに 次の戦闘の為に魔力を温存させていたのだ。
「そんなことより この船デカすぎだろ!
四人じゃ十分に見回れねぇよ!あのバカ姫!!」
ロイはかなりのご機嫌斜め状態であった。
『ところで そのナントカという国まではどのくらい掛かるのだ?』
「フィンデル王国だよ。
たしか 丸一日くらいだったかな?」
『なぬっ!?そんなにも遠いのか!?』
レムナントが驚愕する。
このガレン大陸は他の国から遠く離れた孤島である為 外国に行くとなると それ相応の時間が掛かるのだ。
ちなみにフィンデル王国は その中でも割と近めの国である。
「丸一日も巡回し続けるなんて気が遠くなるぜ…」
ロイは項垂れて 船の手すりに凭れかかった。
…とその時 ロイは船のデッキに人影があることに気付く。
早速の襲撃の可能性。
ロイは緊張を走らせながらデッキへと向かった。
近づくにつれ 人影の姿がハッキリと見えてくる。
逆立った短髪の赤髪で 騎士の様な風貌…
どこかで見たことがある。
「お前は たしか…エンリケ!?」
その人影の正体は鉄鍵騎士団のエンリケだった。
「どうしたんだ?そんなに慌てて…
あ!悪ぃ 暗殺者と勘違いさせちまったか?」
「んなことより なんでこんなとこにいんだよ!?
姫さんの護衛は!?」
「あぁ 流石に丸一日ずっと突っ立ってる訳にはいかねぇだろ。
一人ずつ交代で休憩を取ることになった。
んで 今は俺の番だから一服ついてたって訳だよ。」
エンリケは右手に持っていた煙草をチラつかせた。
「お前ぇら 巡回組も一人交代で休憩を取れって 部隊長殿からの御命令だ。」
「了解だ…」
ロイは突然何かを考え込む様に 押し黙る。
そんな様子に気付いたエンリケは ロイの顔を覗き込んだ。
「どうしたよ?銀髪。」
「…一つ聞いてもいいか?」
ロイは何かを決心した様な強い眼差しで口を開く。
「くだらねぇ質問じゃなけりゃな。」
エンリケは面倒臭そうに煙草の煙を吐き出しながら答えた。
「単刀直入に聞くが お前何者だ?
お前からは何か邪悪な魔力の様な物を感じる。」
エンリケはその言葉を聞いて ピタリと動きを止める。
そして ロイの目を真っ直ぐに見つめた後 笑みを浮かべた。
「質問に質問で返して悪ぃが テメェこそ何者だ?
邪悪な魔力なら テメェのほうが強く感じるぜ?」
エンリケはロイの力を見破っていた。
ロイの中に流れる魔族の血の力を。
「…俺は 種の者だ。」
「種の者?なんだそりゃ?」
種の者や魔食者の知識は 今の時点ではまだ多くに知られてはいない。
ロイはエンリケに 自分が知る限りの種の者や魔食者についての知識を説明したのだった。
ー☆ー
説明を受けたエンリケは目を丸くしていた。
「魔人と人間の間に産まれた子供?
そんな奴等がいたのかよ…」
「さぁ!俺は話したんだ!
今度はお前の番だぞ。」
ロイは再びエンリケに強い眼差しを向ける。
「あぁ わかってるよ。俺は…」
ドゴォォォォォォォォン!!!!!
エンリケが口を開こうとした瞬間 凄まじい爆音と振動が船を襲った。
「まずい!敵襲か!?」
ロイとエンリケに一気に緊張が走る。
ウーーー!!ウーーー!!
【メインエンジン破損!メインエンジン破損!整備班は至急 エンジンルームへ急げ!繰り返す…】
続いて鳴り響く警報と船内アナウンス。
「すまねぇな 銀髪!
話しはまた今度だ!俺は持ち場に戻る!」
エンリケは煙草を投げ捨て 姫達の部屋へと走り去っていく。
残されたロイは百鬼爪刃に手を伸ばし 周囲を警戒し始める。
すると 先程までは感じなかった殺気が周囲にいくつか感じ取ることが出来た。
「くそっ!殺気を消して接近して来やがったのか!?」
ロイは敵の接近に気付くことが出来なかった己の不甲斐なさに責任を感じていた。
【ピピッ!ザーー…
ロイっち!聞こえるか?今どこだ!?】
その時 ロイの上着の内ポケットに入っていた無線が鳴り響く。
相手はリンレイだ。
あらゆる状況に即座に対応出来る様 出発前にハインリッヒに無線を渡されていたのだった。
「あぁ!聞こえてる!
今はデッキにいる!」
【よし!俺とトーマはエンジンルームに向かう。
ヒスカをそっちに向かわせるから ロイっちはヒスカと合流次第 敵の討伐に向かってくれ!】
「了解だ!」
ロイは無線を切り 勢いよく百鬼爪刃を抜き放った。
何故ならロイは既に敵の気配を捕らえていたのだった。
前方 船の外に二つの気配。
魔力の質からして 相当な手練れの様だ。
「なんだ!?」
突如 周囲に濁った紫色の霧が広がっていく。
視界が悪くなり ヒスカの合流もまだの状態で ロイは二人の暗殺者を相手にしなければならない。
激闘の第二戦の幕が切って落とされる。




