第26話 新たな出会い
帝都 ガレン王城
広大な城の通路を不機嫌そうに歩く男が一人。
「くそ!なんなんだ あの姫さんは!」
不機嫌そうに歩く男 ロイ・ストライドは先程のリーシャ姫の態度に腹を立てていた。
ロイとリーシャの口論が始まり それを見兼ねた王の側近スタールがロイに任務開始まで退室を命じたのだ。
そして暇をもて余したロイは王城内をフラフラとさ迷っているという訳だ。
『まさか あんなじゃじゃ馬娘の護衛任務とは。
災難だな ロイ。』
一連の流れを覗き見ていたレムナントがロイの脳内に語りかける。
「全くだ。任務じゃなかったら誰があんな奴護衛するか!」
ロイの機嫌は一向に直る気配がなかった。
しかしそれでも仕事を放棄するつもりはなく 最低限のプロ意識は持ち合わせているようだ。
「ロイ様ーーー!!」
その時 背後からロイを呼ぶ聞き覚えのある声が聞こえてくる。
ロイが振り返ると そこにはこちらに駆け寄ってくるトーマの姿があった。
「こちらにおられましたか。
リーシャ様はああいうお方なんですよ。お気になさらないでください。」
トーマは申し訳なさそうに口を開いた。
そんなトーマの姿を見て ロイの心が穏やかになる。
「なんだ?わざわざそんなこと言いに追い掛けて来たのか?」
「あ…はい。」
トーマの純粋さがロイの怒りを完全に停止させた。
「変な奴だな。ありがとよ。
そういや お前旋風騎士団所属って言ってたな。お前のとこからも何人か護衛に参加するんだろ?」
「はい!僕も同行させていただきます。」
「……は?」
耳を疑う言葉にロイが唖然とする。
たしか国王は旋風騎士団と鉄鍵騎士団の精鋭数名と言っていた筈だ。
それが真実ならば この幼さの残る少年騎士が精鋭の一人ということになる。
「お前新兵じゃなかったのか!?」
「いえ。まだ新兵ですよ。
でも成績はいいほうなんです。それで今回の任務に選抜して頂くことになりました。」
それは真実だったようだ。
雰囲気からは感じ取れないが この少年騎士の実力は侮れない。
帝都程になると騎士団の力は相当なものになる。
人数合わせやそういったもので精鋭に選抜されること等ない筈なのだ。
つまりはトーマの実力は本物ということになる。
「…やっぱ ここは面白ぇな。」
「はい?」
帝都の未知数の強さにロイの心が高揚する。
ロイの師匠にあたる剣聖シバも帝都の騎士団出身。
帝都の強さは計り知れないものがあるのだ。
「シバのおっさんの育った街か…」
「シバ様をご存知なんですか!?」
ロイの呟きにトーマは素早く反応を示した。
「ん?あぁ。
おっさんは俺の師匠だ。」
「シバ様の弟子!?
まさか…シバ様は弟子をとらなかった筈…
本当なんですか!?」
トーマは興奮した様子でロイに詰め寄った。
今までのオドオドした態度が嘘のように鼻息を荒げ 目を輝かせている。
「な なんだ?師匠はそんなに有名人なのか?」
「有名人なんてものじゃないです!英雄王 剣聖シバ!彼の名前を知らない人間なんてこの国にはいない筈です!伝説の騎士ですよ!!
僕もシバ様に憧れて騎士になったんですから!!!
………あ すみません…」
更にヒートアップしていたトーマは我に返り 恥ずかしそうに俯く。
「へぇ…やっぱすげぇ人だったんだな…」
「今の話は真言か?」
突如 背後から低い男の声が響いた。
余りの異常なオーラにロイは素早く振り返り 身構える。
「今の話は真言かと聞いておるのだ。小僧。」
「イルザーク様!?」
声の主は黄金に輝く鎧を身に纏い 朱色のマントを着けた金色の長髪の男だった。
端正な顔つきのポーカーフェイスで異様な雰囲気を醸し出している。
「ロイ様。この方は最上位の騎士団 天王騎士団の所属で かつてシバ様と共に闘い シバ様の跡を継いで副団長になられたお方ですよ。」
「へぇ…どうりでヤバそうな雰囲気をプンプン匂わせてる訳だ。」
ロイはイルザークのオーラに圧倒されて額に汗を滲ませていた。
圧倒的な戦闘力。刃を交えずとも それなりの実力がある者ならばそれを読み取ることが出来た。
「さっきの話は本当だ。
俺はシバのおっさんに剣を教わった。」
「そうか…
抜け 小僧。確かめてやる。」
イルザークは腰に下げた剣の柄に手を伸ばし 噴き出す様に殺気を放出させた。
「くっ…!!」
ロイの手が無意識に百鬼爪刃へと伸びる。
脳が命の危険を察知し 体を動かせたのだ。
常人ならば この殺気だけで命を落とす可能性がある程の凄まじい殺気。
辺りの空気がピリピリと反応している。
「イルザーク様!騎士団では私闘は禁じられている筈です!」
「…これは私闘ではない。只の手合わせだ。」
トーマが殺気に耐えながら叫ぶが イルザークは聞く耳持たずといった感じで動きを止めない。
困ったトーマは今度はロイに視線を送る。
「そういうことだ。」
しかしロイはニヤリと笑みを浮かべ 既に臨戦態勢をとっていた。
この二人は最早誰にも止められない。
「いくぞっ!!」
先に動いたのはロイ。
地を蹴り 一瞬でイルザークの懐に入り込んだ。
否 イルザークの姿がない。
「あ!??」
何が起こったのか理解できないロイは その場で動きを止めてしまう。
戦闘において未知数の相手に対して動きを止めてしまうことは大変危険な行為である。
ロイの背筋に凄まじい悪寒が走った。
慌てて百鬼爪刃を構えて振り返ると そこには冷たい表情で剣を振るイルザークの姿があった。
それを間一髪 防いだロイだったがバランスを崩してしまう。
「くっ…!!」
ロイはあえて踏みとどまらずに 地面を転がってイルザークから距離を取る。
相変わらずのポーカーフェイスでイルザークはゆっくりとロイに近づいていく。
立ち上がったロイは今度は自分から攻めずにイルザークの出方を伺っていた。
そしてロイを間合いに捕らえたイルザークは躊躇なく剣を振り下ろす。
「はぁっ!」
その一撃を百鬼爪刃で受け流し そのまま体をイルザークにぶつける。
目には目を歯には歯を。イルザークの態勢を崩す目的の体当たりだった。
しかしイルザークの体は微動だにしない。
ロイはまるで岩石に体当たりしたかのような錯覚に陥った。
「嘘だろ…?」
余りの圧倒的な力を前にロイの脳裏に絶望が過る。
しかしイルザークは呆然とするロイを前に剣を納めたのだった。
「ふふ…なるほど。
その太刀筋 剣捌き 体捌きに至るまでシバのものに似ている。
どうやら本当に奴の弟子のようだな。
まさか あいつが弟子を取るとはな…」
懐かしむ様に微笑むイルザーク。
急に変化した様子にロイは唖然としていた。
「試す様な真似をしてすまなかった。
私は天王騎士団 副団長のイルザークだ。」
イルザークは右手を差し出した。
こうは言っているが あの凄まじい殺気は紛れもなく本物であった。
得体の知れない男である。
「白銀の翼のロイ・ストライドだ。」
ロイは警戒しながらも差し出された右手を握った。
「覚えておくぞ。
シバの認めた男 ロイ・ストライド。」
イルザークは意味深な言葉を残し 通路の奥へと去って行く。
ロイはその背中をじっと見つめていたのだった。
「まだまだ強くならねぇと駄目だな。」
ボソッと呟くロイ。
その瞳には熱い闘志がみなぎっていた。
「ロイ様!一体何を考えているんですか!?
一歩間違えれば命の危険だってあったんですよ!」
トーマは青ざめた顔でロイに詰め寄る。
しかし当のロイに反省の色は皆無であった。
「お前 天王騎士団について何か知ってんのか?」
「そりゃ一応 僕も帝都の騎士団なので知っていますよ。
天王騎士団は帝都の誇る最強戦力。
所属人数が7名の超精鋭部隊です。」
それを聞いたロイの表情がみるみる輝いていく。
「あんな強ぇ奴が後6人もいるのかよ?
ハハッ!楽しい所だな。」
先程見事に打ち負かされたロイだったが 懲りずにこの現状を楽しんでいた。
そんなロイを呆れた表情で見つめるトーマ。
「もう変なことは考えないでくださいよ。」
まだ出合って間もないがロイの単純な性格を理解するのに そう時間はかからなかった様だ。
ー☆ー
姫達の出立1時間前
騎士団詰所
使用人から出立の時刻を聞かされたロイとトーマは騎士団詰所で控えていた。
既に同行する他の護衛騎士達も全員が騎士団詰所へと集まっている。
人数はトーマ含め旋風騎士団が3名。
鉄鍵騎士団が4名。
そしてロイの合計8人編成となる。
旋風騎士団の装備は必要最低限の防具を身に着けた軽装備。
一方の鉄鍵騎士団は頑強な鎧に身を固めた重装備。
機動力の旋風騎士団。防護力の鉄鍵騎士団。対照的な装備の違いであった。
「おぅい トーマ。
そちらの兄さんが噂の白銀の翼のロイさんかい?」
ロイとトーマが椅子に腰掛け ノンビリしていると 一人の旋風騎士団の軽そうな男が二人に近づいてくる。
パーマをかけた茶髪のロングで 両手には軽装備に不釣り合いなゴツめの手甲を着けていた。
見たところ何故か剣や槍といった武器は所持していない。
おそらくは拳闘士の類いであろう。
「あっ!リンレイ先輩。
そうです。この方がロイ様ですよ。
ロイ様。此方は同じ旋風騎士団のリンレイ先輩です。」
「リンレイだ。よろしく~。」
トーマからの紹介を受けるとリンレイはヘラヘラしながら右手を掲げた。
「ロイだ。よろしく。」
ロイは こういったタイプの人間は苦手なのか ぶっきらぼうに返事を返す。
するとリンレイの背後から一人の褐色の肌の女が近づいてきた。
「リンレイ。彼…困ってる。
リンレイ…ウザい。」
綺麗な黒いポニーテールの美しい容姿をした彼女だが かなりの口下手で毒舌だった。
スラリとした見事なスタイルで 背中には弓と矢を背負っている。
「相変わらずヒデェな。ヒスカちゃんよ~。」
「ロイ様。彼女も同じ旋風騎士団のヒスカ先輩です。」
トーマが紹介し終えると ヒスカはロイの顔を覗き込んだ。
「わっ!なんだよ!?」
突然の接近に驚いたロイは椅子ごと後退る。
するとヒスカはニッコリと微笑んで口を開いた。
「よろしく…白髪のお兄さん。」
「なっ?白髪…」
珍しく自分のペースを崩されたロイは呆然とするしかなかった。
二人共 独特な空気を持った人物だが雰囲気からそれなりの手練れであることが読み取れる。
「おい!旋風騎士団ってのは こんな変な奴等ばっかりなのか?」
ロイが小声でトーマに投げ掛けると トーマは苦笑いを浮かべた。
「いいえ。この人達は特別ですよ。」
トーマも小声で返事を返す。
ロイは流石帝都!変な奴が多い!と思ったのだった。
「おい!さっきから五月蝿いぞ 旋風の!
ピクニックに行く訳ではないのだぞ!」
ロイ達が騒いでいると向かいの席で腰掛けていた4人の鉄鍵騎士団の内の スキンヘッドの堅物そうなゴツい男が怒鳴った。
「これはすいませんねぇ~。部隊長殿~。」
リンレイが軽ーい謝罪をするが 謝罪には見えない。
すると スキンヘッドの男は顔を赤くして荒々しく立ち上がった。
「リンレイ!貴様という奴は!
その軟派な態度は止めろ!!私はこの即席の部隊の部隊長を任されたのだ!いわば私がリーダーなのだからもう少し敬意を払え!」
「はぁい。以後気をつけるっス。」
尚も変わらないリンレイの軽いノリ。
これを直せというのは無理な話である。
スキンヘッドの男は更に顔を赤くして血管を浮き上がらせていたのだった。
これを見ていたロイは楽しげに笑っていた。
「ロイ様。彼はこの護衛部隊の部隊長を任された人です。鉄鍵騎士団のハインリッヒ様です。」
トーマがロイの耳元で囁く。
その間にもハインリッヒは爆発寸前の火山の様になっていた。
「貴様ー!いい加減に…」
「はい!そこまで!
出立前に仲間同士でいざこざを起こすのはどうかと思いますよ?部隊長。」
「ぬっ…エンリケ。」
ハインリッヒの怒りを遮る様に エンリケと呼ばれた男が割って入る。
逆立った赤い短髪の強気そうな青年騎士だ。
腰には2本の小型の斧を下げている。
ここでロイはある違和感に気付いた。
他の3人の鉄鍵騎士団のメンバーは防御に向いたゴツい体つきをしているが このエンリケという男は筋肉質な体つきは変わらないが 防御というよりは攻撃に特化した感じの筋肉のつき方だったのだ。
「トーマ。あのエンリケって奴は何者なんだ?」
「エンリケさんですか?
僕もよくは知りませんが防衛能力に長ける鉄鍵騎士団で唯一攻撃的な人物らしいですよ。
なんでかは分かりませんが自ら鉄鍵騎士団に志願したそうです。」
「…へぇー。」
ロイはそれとは別にもう1つ 不思議な違和感を感じていた。
それは自分と同じ邪悪な力。
しかしエンリケの髪色は種の者や魔食者の様に銀髪ではない。
種の者や魔食者の髪色は染めてもすぐに銀髪に戻ってしまうものなのだ。
つまり彼はその類いではないということ。
これが一体何を意味するものなのかロイには理解することが出来なかった。
その時 騎士団詰所の扉が開かれる。
「姫様達が出立なされる。
護衛部隊は直ちに護衛車に乗り込め。」
謎を残したまま 護衛任務が開始されようとしていた。




