第25話 国王
豪魔邪霊衆との闘いを終えて数ヶ月。
傭兵ギルド 白銀の翼は 名声が上がったことにより 依頼数が大幅に増加していた。
「ふぃー。やっと終わったぜ。」
「ただいま戻りました。」
任務に出ていたゼクスとレオが窶れた表情で戻ってくる。
白銀の翼は所属メンバーが少ない為に 依頼をこなすペースが 戻っては出撃 戻っては出撃のかなりハードなローテーションで回していたのだ。
当然 依頼から戻って来た者は今の二人の様な窶れた表情で戻ってくることになる。
ただ一人だけは例外であった。
「おかえり!よーし!次は俺の番だな!!」
その一人とは言うまでもなくロイであった。
そんなロイをゼクスとレオの二人は呆れた表情で見つめていた。
「ん?なんだよ?
二人して変な顔で見て。」
それに気付いたロイは 不思議そうに二人に尋ねたのだった。
「ロイは元気でいいですね。」
「いや レオ。コイツはただのアホなんだよ。」
ゼクスの聞き捨てならない言葉に ロイはいち早く反応を示す。
「誰がアホだ!?
なんだよ?二人はもうへばったのか?
だらしねぇな。」
ロイは得意気な顔をしながら胸を張って話すが 一方の二人は呆れ顔のままであった。
この二人が正常であり ロイが異常なのである。
「おぉー!騒がしいと思ったら もう戻ってたのか!」
その時 マスタールームの扉が開かれ バルボアが中から姿を現した。
最近は稼ぎもいい為に 常に上機嫌である。
「はい。今戻りました。」
「ご苦労だったな。」
「オッサン!俺の仕事は!?」
バルボアとレオの会話に割って入るロイ。
その表情は早く外で遊びたくてウズウズしている子供と一緒のそれであった。
「あぁ それを言うつもりだったんだ。
ロイ お前宛に帝都から依頼が届いている。」
「帝都!?俺宛に!?」
ロイは意外な所からの依頼に驚きを隠せないでいた。
「そうだ。しかも国王直々の依頼の様だな。
おそらく レオナルド殿がお前の話を国王に話して 気に入られたんだろうな。」
「国王!?すげぇ!
じゃあ王宮に入れるんだな!」
ロイのその言葉に一同の顔色が変わる。
確かに国王直々の依頼ならば王宮に招かれ 国王に謁見することになるだろう。
しかし そこが問題なのだ。
この単細胞で世間知らずのロイに王宮での作法 礼儀が分かる筈がない。
一人で行かせれば間違いなく失礼極まりない行動を起こすであろう。
「俺も一緒に行くべきか…」
「でも依頼はロイ宛ですよね?
場所が場所だけに他の者が勝手に同行するのは まずいんじゃないですか?」
バルボアとレオはロイに聞こえない様に小声で相談し始める。
そんなことなど露知らず ロイはワクワクした様子で 既にヤル気満々になっていた。
「仕方ないですね。
あの状態になったロイは何を言っても聞きませんよ。」
「あぁ。重々承知だ。仕方ないか。」
ロイの説得を諦めた二人は渋々見送る形となったのだった。
-☆-
帝都 広場
帝都に到着したロイは前回の帝都での任務の時に集合した中央広場へと辿り着いていた。
相変わらず街の中は高級そうな衣服に身を包んだ人々が行き交っている。
「久しぶりだなぁ。」
ロイが辺りをキョロキョロと見回していると 一人の若い騎士が近づいてきた。
「白銀の翼のロイ・ストライド様ですか?」
その騎士はまだあどけない顔立ちで オドオドした様子で話し掛けてくる。
おそらく入団間もない若い新兵であろう。
「あぁ。お前は?」
「あ!失礼しました!
僕は《旋風騎士団》所属のトーマです。
ロイ様の案内役を任されましたので お迎えにあがりました。」
ロイに尋ねられ更にオドオドして答える若き騎士トーマ。
流石のロイも 少しやりにくそうに頭をかきむしっていた。
「まぁ いいや。
とりあえず王宮に案内してくれるか?」
「分かりました。こちらです。」
ロイはトーマに続いて王宮へと足を進める。
綺麗な街並みを横目に黙々と歩くロイとトーマ。
すると 暫くして二人は巨大な鉄製の門の前へと辿り着いた。
「ここが城門です。
もう入城なされますか?」
「あぁ 頼む。」
トーマはロイの返事を聞くと 門の前まで歩き出した。
「旋風騎士団所属のトーマです!
白銀の翼のロイ様をお連れしました!開門お願いします!!」
トーマが門に向かって叫ぶと 頑丈そうな鉄製の門がゴゴゴと音を立て ゆっくりと開いていく。
「なんじゃこりゃ!?」
驚愕の声をあげるロイの瞳には凄まじい光景が広がっていた。
一つの街かと思われる程の広大な中庭が眼前に広がり その遥か彼方に巨大な城がそびえ立っていた。
「あのぉ…
そろそろ参りましょうか?」
呆然と立ち尽くしていたロイに トーマが申し訳なさそうに声を掛ける。
「あぁ…すまねぇ。頼む。」
我に返ったロイはキョロキョロしながらトーマの後を追って行く。
歩き続けて数十分。
ようやく城の前へと辿り着いた。
目の前にすると圧倒される程の巨大さ。
丁寧に作り込まれた岩造りで その頑丈さを想像出来る。
「それでは中へご案内します。」
トーマが大きな扉を開けると そこには開けた空間が広がっていた。
高い天井には巨大なシャンデリア。
壁には高級絵画や豪華な装飾。
床には高級そうな赤い絨毯。
正面には二階へと続く階段が左 中央 右と3つに分かれている。
城の中は想像通りの豪華な光景が広がっていた。
「中央の階段を上がって正面の大きな扉が玉座の間となっております。
それでは参りましょう。」
ロイとトーマの二人は玉座の間へと向かって行く。
扉を開けると 奥行きのある大きな部屋が広がっていた。
床には先程見た絨毯よりも更に高級そうな絨毯が敷き詰められている。
装飾品も更に豪華な物が取り付けられていた。
その部屋の一番奥に堂々と置かれた立派な玉座に毛皮のコートに身を包み 王冠を被った威厳のある老人が腰掛けていた。
彼がこのガレン公国の王 エドワルド3世である。
玉座のすぐ隣には黒いスーツを着こなしたオールバックの堅物そうな男がロイに睨みをきかせていた。
その玉座を挟み込む様に 銀色の鎧を身に付けた騎士が二人立っている。
向かって左側の騎士は金髪のロングを後ろで縛っている顔立ち整った青年騎士。
背中にはガレン公国の紋章の入った盾を背負い 腰には剣を下げている。
向かって右側の騎士は黒髪短髪で背が高く ガタイのいい細目で寡黙そうな壮年騎士。
こちらは背中に装飾の施された両刃の大斧を背負っている。
どちらとも ただ者ならぬオーラを放っていた。
「陛下。白銀の翼のロイ様をお連れしました。」
トーマはエドワルド3世の前まで移動すると 方膝を着き 報告を済ませた。
「うむ。ご苦労であった。
ロイ君だったな。遠い所 遙々ご苦労であった。」
エドワルド3世は優しい微笑みでロイを歓迎する。
彼は威厳もあるが 暖かい優しさも持ち合わせていた。良き王であることは間違いない。
「白銀の翼のロイ・ストライドです!
陛下からのご依頼を光栄に感じております!」
ロイは右手で拳を作り それを左胸に押しあてながら口を開いた。
この動作は この国での敬礼に当たる動作なのである。
出発前にバルボアに みっちり仕込まれた事は言うまでもない。
しかしエドワルド3世は何故か目を見開き 驚いた表情をしていた。
そしてすぐに優しい笑顔に戻る。
「ホホッ!ロイ君 無理をしなくてもよいぞ。
レオナルドから君の話しは聞いておる。どうか楽にしておくれ。」
どうやらエドワルド3世にはお見通しだったようである。
ロイは暫く悩んだ後に口を開いた。
「サンキューっす!王様。」
許しが出たとは言え 国王に対して この軽いノリはロイならではである。
「貴様っ!!!無礼であるぞ!!!!」
これに対して エドワルド3世の隣に立つ 黒スーツの男が激怒する。
額に血管を浮き上がらせ ロイを睨みつける。
「スタール!私は別に気にしておらん。
よいではないか。」
「しかし!国王陛下に対して あのような無礼な態度…」
納得のいかないスタールと呼ばれた男の目を エドワルド3世は威厳ある瞳で真っ直ぐに見つめた。
「……わかりました。」
スタールは小さく頭を下げ 渋々承諾したのであった。
「すまないね ロイ君。
彼は私の側近でスタールという者だ。
少々堅物でな。君は気にしなくてもよいぞ。」
スタールは無言でロイを睨み続けていた。
その態度に苛立ちを覚えたロイだったが 流石にこの場で喧嘩を仕掛ける程バカではなかった。
「そして この両サイドにいるのが私の護衛騎士達だ。
君から見て左の金髪がスタンス。右の大男がフォーリーだ。
二人は相当腕が立つ騎士でな。私の自慢の護衛騎士だよ。」
ニコニコと笑顔を振り撒きながら話を続けるエドワルド3世。
しかしロイは 依頼内容が気になって辛抱ならず口を開く。
「あの…それで依頼って?」
「おぉ そうであった。
実はな 私の娘達…つまり二人の姫がいるんだが その二人に海を渡って隣の国の王に挨拶に行かせるんだが その護衛を頼みたいんだよ。」
てっきりまた討伐任務だと予想していたロイは唖然とする。
ロイにとって護衛任務はこれが初めてだったのだ。
「護衛って ここには騎士団がたくさんあるんじゃなかったっけ?」
ロイの言葉にエドワルド3世は苦笑いを浮かべる。
「それはそうなのだが大勢ぞろぞろ引き連れて行くのは相手に失礼だろう?
だから少数精鋭で向かわせたいのだが 上位の天王騎士団と王宮近衛騎士団は 長旅で帝都から離すのは得策ではない。
よって 機動力のある旋風騎士団。防衛能力に長ける鉄鍵騎士団の精鋭数名。
そしてロイ君を雇った訳だ。頼めるか?」
「了解です。
ところで 姫さん達は誰かに命を狙われてたりとかは?」
その言葉にエドワルド3世は反応する。
「クリムゾン…」
「クリムゾン?それは?」
一瞬にして その場の空気が変わる。
「有名な暗殺ギルド クリムゾンだよ。
奴等が姫達を狙って不穏な動きをしているという情報が入った。」
「暗殺ギルドがなんでまた?」
「実は姫達は特殊な能力を持っていてな…
おそらくは その特殊な能力に脅威を感じておる何者かの依頼だろう。」
エドワルド3世は歯を噛み締めながら怒りを露にしていた。
これは国王としてではなく一人の父親としての感情であろう。
「…まぁ大体は分かりました。
俺に任せて下さい。必ず姫さん達を守りますよ。」
ロイの強い眼差し。
不思議とエドワルド3世は ロイに任せれば大丈夫だと感じたのだった。
「期待しておるぞ。
サラ!入って来なさい。」
エドワルド3世がそう呼び掛けると 玉座の後方にある扉から一人の美しい少女が現れる。
女神を思わせる美しい顔立ちに 眩しい程の白い肌。
サラサラの水色のロングヘアーが輝く。
更には透き通った様な白いドレスを見事に着こなしている。
「サラ・エドワルドです。
よろしくお願いいたします。」
その美しい唇から耳に心地よく響く 美声が流れる。
そういった事には無頓着なロイでさえ魅了され 呆然としていた。
「あ!よろしく!俺はロイだ。」
我に返ったロイは慌てて返事を返す。
見とれてしまっていたことを隠すのに必死であった。
「貴様!姫様に対してまで その態度か!?」
ロイに対して再びスタールが激怒する。
「構いませんよ。スタールさん。」
しかし それをサラは優しく制す。
温厚な性格は父親譲りのものであった。
そして透き通った青い瞳でロイを見つめる。
「あなたからは何か不思議な力を感じますね。」
一つ一つの動作に気品漂うサラの神聖な雰囲気に ロイは全てを見透かされたかの様な感覚に陥る。
そしてロイの体がざわめきだす。
ロイの中に流れる 種の者の邪悪な血が サラの神聖なオーラに反応しているのだ。
「アンタは一体…
……おぐぅっっっ!!!!」
突如ロイの下腹部に衝撃が走る。
奇妙な呻きを漏らし うずくまるロイ。
「ちょっとアンタ!サラにちょっかい出してんじゃないよ!」
ロイが振り返ると そこにはサラそっくりな顔をした水色のショートカットの美少女が腰に手を当てながらロイを睨みつけていた。
おそらく彼女がもう一人の姫であろう。
顔はサラそっくりだが 性格は真逆。
初対面の男の下腹部に蹴りを放つなど かなりのおてんば娘である。
しかし大人しくしていれば 優雅な黄色いドレスを着こなす美しい女性なのだが…
「ほら!なんとか言いなさいよ!バカ男!」
どうやらそれは無理な話のようである。
「コラ!リーシャ!
なんてことするの!彼は私達の護衛をしてくださる方よ。ちょっかいなんて出されてません!」
「え!?そうなの!?ヤバ…」
「妹が その…すみません!」
二人の姫は年齢的にはロイと同年代ぐらいのようだが 雰囲気から見ると 落ち着いたサラは年上に。
活発すぎるリーシャは年下に見える。
「ロイ君 すまないね。
リーシャは昔からおてんば娘でね。
謝りなさい。リーシャ。」
「えっと…ごめん!
なんか変人ぽかったから。」
驚く程 感情のこもっていない謝罪の言葉である。
「テメェ!謝る気ねぇだろ!?」
「はぁ!?謝ったでしょ!
変人っぽい奴に変人って言って何が悪いのよ!」
「なんだと コノヤロー!」
先が思いやられる護衛任務となりそうである。




