第23話 駆け巡る闘争本能
ロイは魔剣レムナントを正眼に構え ゲオルグの出方を窺っている。
対するゲオルグは魔導教典に膨大な魔力を注ぎ込み 攻撃開始の最終段階に入ろうとしていたのだった。
「………
すげぇ魔力量だな。
おい!アレをなんとか出来んのかよ?」
額に汗を垂らしながらロイはレムナントに視線を送る。
『愚問だな。我に不可能は無い!
貴様の魔力を我によこすんだ。
その魔力を攻撃エネルギーに変換して我の体に蓄積させる。
後は貴様がそれを放てば 貴様の魔力+我の力が合わさった強力な技になる。』
「それを魔導教典の魔法にぶつけて相殺させるってのか?
成功するんだろうな?」
『愚問だと言った筈だ。戯けが!
四の五の言わず魔力をよこせ!』
偉そうに命令するレムナントにロイはしかめっ面をしながらも 魔力を大量に注ぎ込んでいく。
現時点で魔導教典に対抗する手段は皆無。
となれば 自ずとレムナントに頼らざるを得ないというわけだ。
『ククク…その調子だ小僧。
力がみなぎってくるわ。』
ロイの魔力を大量に取り込んだレムナントの刀身は 漆黒の鋭いオーラを放っている。
種の者が放つ 禍々しく揺れ動く黒いオーラとは違って 鋭く研ぎ澄まされた様な黒いオーラだ。
「貴様も奥の手という訳か。
面白い!力比べといこうじゃねぇか。」
膨大な魔力を蓄積させていくレムナントを見つめながら ゲオルグは笑みを浮かべた。
「はっ!いいね。
後で吠え面かくなよ。」
ゲオルグの言葉に応えるロイ。
両者はそれぞれの武器に魔力を溜め続ける。
その2つの魔力に辺りの空気が押し潰され 静寂が包み込んでいく。
正に嵐の前の静けさだ。
『メテオ・キャノン』
先に動いたのはゲオルグ。
魔導教典から発動させた魔法は上空から巨大な隕石を呼び寄せた。
もし地面に衝突すれば辺り一帯は衝撃で消し飛ばされるだろう。
それに備えてか ゲオルグは自信の周りに魔法障壁を展開させている。
「で でけぇ…」
『小僧!!
ボケっとするな!あれに このエネルギーをぶつけろ!』
呆気に取られていたロイをレムナントが一喝する。
我に返ったロイは直ぐ様態勢を整え 巨大隕石に向かってレムナントを振り抜いた。
刀身から放たれる 鋭い漆黒のオーラ。
その凄まじい威力はロイの体をも蝕む。
レムナントを握った手は気を抜けば両腕共 弾き飛ばされそうな程の衝撃。
尚且つ 足もかなり力を込めて踏ん張っていないと 後方へ吹き飛ばされるであろう。
更には全身の皮膚を削り取られそうな程の反動。
内蔵を揺るがす衝撃。
この技は正に諸刃の刃である。
刀身から放たれた漆黒の斬撃は凄まじいスピードで巨大隕石へと向かっていく。
「いけぇぇぇぇ!!!」
漆黒の斬撃と巨大隕石が激しく衝突する。
辺りに凄まじい轟音が響き 衝撃波が一帯を吹き飛ばす。
斬撃の衝撃に耐えるのが精一杯だったロイは衝突の衝撃波によって枯葉の様に吹き飛ばされていく。
一方のゲオルグも魔法障壁は展開させているものの圧倒的な衝撃波に歯を食い縛りながら踏み止まっていた。
一瞬の静寂。
ロイとゲオルグは共に上空に視線を移した。
「!!!!!」
空は何事も無かったかの様に広がっている。
漆黒の斬撃も巨大隕石も その姿は跡形も無かった。
「…やったのか?」
ロイは呆然と立ち尽くしている。
『フハハハ!だから言ったであろう。我に不可能は無いとな!』
得意気に高笑いをするレムナント。
状況を理解したロイは安堵の表情を浮かべたのだった。
「馬鹿な…
俺があれ程苦労して習得した魔法を こうもあっさり相殺させただと…」
信じ難い出来事にゲオルグの表情は曇っていた。
しかし その表情からはすぐに戦意が溢れ出す。
「なるほど。
ガルハイトが興味を持つのも少しは理解出来た。
なんとも未知数の力だ。」
そう言いながらゲオルグは魔導教典のページをめくる。
『メテオ・レイン』
次に発動させた魔法は 無数の小隕石を呼び寄せた。
それらの小隕石は雨の如く上空からロイ目掛けて降り注ぐ。
「おい!レムナント!
これはどうすりゃいい!?」
『…………
知らん!避けろ!!』
「なにっ!?」
この無数の小隕石の対処法が浮かばなかったロイはレムナントに助けを求めたが レムナントも対処法が浮かばなかった様だ。
その間にも迫り来る小隕石。
ロイは気持ちを切り替え 回避行動に移る。
右へ左へ華麗に隕石をかわしていくロイ。
落ちた隕石は地面を抉り めり込んでいく。
小隕石とは言え その威力は1つ1つが凄まじい物を持っていた。
当たれば致命傷は確実だ。
それが こうも無数にあると かなり厄介である。
「くっ…!
流石に全部はかわし切れねぇぞ!なんとかならねぇのか レムナント!?」
隕石の雨を避けながらレムナントに叫ぶ。
しかしレムナントは沈黙していた。
「おい!聞いてんのか!?」
『……決めた!
さっきの技名は黒燕斬と名付けよう!』
「…………
……………
………なんの話しだ!バカ野郎!!」
レムナントが ようやく口を開いたかと思えば 全く脱線した話しであった。
『ぬっ…!
馬鹿とはなんだ!?我を愚弄するか!』
「いいから なんとかなんねぇのか!?もうヤベェぞ!」
ロイは小隕石を避け続けてはいるが 剰りに数が多い。
徐々に小隕石に体をかすめられていたのだった。
ロイの体をかすめた小隕石はロイの肉を削ぎ 赤い鮮血を撒き散らす。
『フン!この程度で弱音を吐くとは 情けない男だ。
いいだろう。もう一度魔力を込めろ。
今度はエネルギーを拡散させてやる。
黒燕斬・乱だ!!』
「技名はどうでもいいっつーのっ!」
レムナントは未だに技名に妙なこだわりを持っていたのだった。
「いくぞ!レムナント!」
『分かっておる!
黒燕斬・乱!!』
ロイは魔力を溜めたレムナントを力いっぱい振り抜いた。
すると刀身から無数の小型黒燕斬が放たれる。
小型の拡散タイプの為 黒燕斬程の威力はないが その数は圧倒的。
無数の黒燕斬・乱は小隕石を次々に斬り刻み 破壊していく。
「ハハハハッ!!
これも防ぐか!楽しませてくれるなぁっ!!」
メテオ・レインを防がれたゲオルグは魔導教典を閉じ 凄まじい勢いでロイへ疾走する。
「レムナント!
ちょっとここで待ってろ!!」
ロイはレムナントを地面に突き刺し 百鬼爪刃を構えて ゲオルグに真っ向から向かっていった。
『おい!小僧!
我を荷物の様に扱うでない!!』
レムナントが叫ぶが ロイは既に遥か彼方へ疾走していた。
両者は間合いに入ると ロイは振り下ろしの一撃。ゲオルグは振り上げの一撃を各々繰り出す。
ガキィーーン!!!!
激しい鋼鉄の衝突音。
その凄まじい一撃同士は両者の腕をビリビリと振動させる。
「死ねぃっ!!」
ゲオルグは百鬼爪刃を弾き上げると 体を素早く回転させて横薙ぎの一閃を繰り出した。
しかしロイはその軌道を見極め 間一髪 上体を反らして剣をかわす。
ゲオルグの剣の切っ先はロイの鼻先をかすめていく。
「うぉらぁぁぁ!!!」
ロイは弾き上げられた百鬼爪刃をそのままの勢いで振り上げ 一気にゲオルグ目掛けて叩き付ける。
ゲオルグの頭部に百鬼爪刃が当たるかと思われた瞬間 見えない衝撃波が百鬼爪刃を再び弾き上げた。
ゲオルグの特殊能力だ。
「しまった!」
「馬鹿がっ!!」
隙だらけのロイに 今度は逆回転の横薙ぎの一閃を繰り出す ゲオルグ。
「なにっ!?」
驚愕の声をあげたのはゲオルグだ。
なんとロイは百鬼爪刃を弾き上げられた反動を利用して その場で後方宙返りをして 攻撃をかわしたのだ。
そして着地すると同時に力強く地面を蹴って ゲオルグから距離を取る。
「ふぅ~ 危ねぇ危ねぇ。
流石に一筋縄じゃいかねぇか。」
ロイは深く深呼吸をしながら剣を構え直す。
『小僧!何故我を使わない?』
「だって お前使ったら2対1みたいで卑怯じゃん。」
ロイはレムナントの声に振り返らず 視線をゲオルグに合わせたまま答えた。
『何を甘っちょろいことを ぬかしておる!生死を掛けた戦闘に綺麗も汚いもあるものか!』
レムナントの罵倒にロイはニヤリと笑みを浮かべる。
「それに お前うるせぇし!」
『ぬっ!!!』
ロイは力強く地を蹴り 再びゲオルグに向かう。
懐に入り込むまで0コンマのスピード。
黒いオーラの身体能力強化を駆使した早業である。
「はぁっ!!」
懐に入り込んだそのままのスピードで百鬼爪刃を振り抜くが それは空しく空を斬る。
凄まじいスピードの攻撃であったが ゲオルグはそれさえも見切り 百鬼爪刃を避けたのだ。
「いいスピードだ。
だが もっと速くなければ俺は斬れんぞ!」
ゲオルグはロイに向かって拳を打ち付けた。
なんとか その一撃を百鬼爪刃を持つ方とは逆の左腕でガードしたロイだったが 剰りの威力に左腕が痺れを起こす。
「イッテ…!
なんつぅパンチだよ。」
ロイは左手をパタパタと振りながら楽しげに笑みを浮かべていた。
「クク…
どこまでも面白い小僧だ。
だが あの五月蝿い魔剣を手放したのは失敗だったな。」
ゲオルグは邪悪な瞳を輝かせ 再び魔導教典を開けた。
『ジオ・スタンプ』
魔導教典から黒い光が放たれ 魔法が発動する。
「ぐぅっ…!!」
ロイの体は重力によって押し潰されようとしていた。
なんとか踏ん張って耐えているロイだが ゲオルグの強大な魔力が込められた魔法は そう長く耐えられるものではなかった。
膝が崩れ落ち 四つん這いの状態で必死に抗う。
ミシミシと音を立てながら軋む骨。
早急に脱出しなければ完全に押し潰されるのは時間の問題だ。
「ハハハハ!!
まだまだ青いなぁ小僧!
早くなんとかしねぇと潰れちまうぞ!」
ゲオルグは邪悪な笑みを浮かべて 楽しげに笑っている。
『ちぃっ!
世話の掛かる小僧だ!』
魔剣レムナントの鍔元にある水晶が光り輝く。
すると レムナントの刀身から黒い光の斬撃が放たれた。
それは黒燕斬と全く同種のものであった。
その瞬間 辺りが静寂に包まれる。
「……あれ?」
ロイは急に身が軽くなったことに気付く。
レムナントから放たれた黒燕斬がジオ・スタンプの魔法を斬り裂いたのだ。
「な なんなんだ!?
あの薄気味悪い剣は?」
ゲオルグは歯をギシギシと鳴らしながら魔剣レムナントに視線を移した。
『フン!我が名は魔剣レムナント!
我に斬れぬ物等 存在せぬわ!』
レムナントが得意気に叫ぶ。
「お前 俺が振らなくても斬撃が飛ばせたのか!?」
『その程度造作もないわ。念のため貴様の溜めた魔力を少し残しておったからな。
だが 我が単独で黒燕斬を放つのは威力も劣るし正確性にも欠ける。実戦には不向きだ。
今のは奴も油断していたし 静止している魔法を斬っただけだから容易だったがな。』
魔剣レムナントは意思を持つ魔剣。
ロイは只の武器ではなく 心強い相棒を手に入れていたのだ。
『さぁ早く我を手に取れ。
次に我を使わず くだらんことで窮地に陥っても手は貸さんぞ!』
「了解!」
ロイは百鬼爪刃を背中に納めながら素早く後方へ跳び 魔剣レムナントを拾い上げた。
「ぐ…ぬぅぅ…
このゴミめがぁ!!」
怒り狂ったゲオルグは魔導教典を豪快に破り捨ててしまう。
その表情は正に鬼の形相であった。
「なんの役にも立たんではないか!なにが魔導教典だ!」
「おいおい 物に当たんなよ。
結局は お前じゃあ魔導教典は使いこなせなかったってだけだろ?」
ロイはゲオルグを挑発する。
だがロイの言ったことは当たっていた。
ゲオルグは大量の魔力を持っている魔人ではあるが 魔導師ではない。
魔導教典の力を存分に発揮するには到っていなかったのだ。
「舐めた口を聞くな小僧…
八つ裂きにされたいか?」
ゲオルグの殺気が極限まで膨れ上がる。
それによって辺りの視界はグニャリと歪んだ様に見えていた。
「やってみろよ?クソ魔人。」
しかし ロイには一寸の動揺もなかった。
あるのはゲオルグを倒すという闘争本能のみ。
「殺してやる!!!」
殺気と魔力を同時に放出するゲオルグ。
その姿は修羅その物。
魔導教典の脅威が無くなったとはいえ それがロイにとって有利な状況とは言えない。
むしろ より過酷な闘いになることだろう。
何故なら 修羅となったゲオルグを相手にするよりも 中途半端な魔導教典の力を扱っていたゲオルグを相手にするほうが断然優位に進められたからだ。
この闘いの結末は未だに見えないでいた。




