第2話 幻のギルド
幻のギルドと呼ばれる傭兵ギルド【白銀の翼】の本部は人里離れた海沿いに建てられている。
外観は小さな小屋のようで真っ白な建物だ。ちょうどその中心辺りに白銀の翼のエンブレムである 大きな翼のモニュメントが貼り付けられている。
白銀の翼は所属メンバーが僅か4名で 依頼成功率100%を誇る 驚異の少数精鋭の傭兵ギルドだ。
しかし白銀の翼に所属する銀髪の青年 ロイ・ストライドは その4名の中にはカウントされない。
なぜなら彼は最近このギルドに加入したばかりのルーキーだからだ。
「ただいま。」
トト村の依頼から帰ったロイは ギルド本部の扉を開けて挨拶する。
「おかえり。早かったですね。簡単でしたか?」
眼鏡をかけた男が椅子に座りながらロイに優しく微笑む。彼はこのギルドのメンバーの一人 レオ・アルベルト。
綺麗な金髪に整った顔立ち。町を歩けば女性が振り返る程の容姿をしている。
彼は魔導師の名門一族 アルベルト家の長男で ずば抜けた魔力を誇る魔導師だ。
「楽勝だよ♪それよりなんか食い物ない?さっきから何も食ってなくて腹減ってんだよ。」
「相変わらずだなロイ。」
「ゼクス。いたのか?」
腕を組みながら壁にもたれ掛かる男がいた。
彼もまた白銀の翼のメンバーの一人 ゼクス・ラインハルト。
黒の短髪に白いバンダナを頭に巻いている。そして腰には二丁の拳銃を所持していた。ゼクスは元バウンティーハンター(賞金稼ぎ)で凄腕のガンマンである。
「先にマスターに依頼完了の報告に行ってこいよ。」
「それは私も賛成です。先にマスターに報告するのが決まりですからね。」
ゼクスが親指でマスターの部屋の扉を指差すと レオも同じように指を差し 微笑む。
「ん~ わかったよ。おっさんに報告してくる。」
ロイは困った顔をしながら答える。ロイはマスターが苦手なのだ。
重い足取りで頭をかきむしりながらマスターの部屋の扉を開けた。
「おっさん~ 依頼完了したぜ~。」
「おぅ!ロイ!帰ってきたか!!早かったな!!」
部屋が揺れる程のバカデカい声で この白銀の翼のギルドマスター バルボア・ヤンクマンはロイを迎える。
2メートルはありそうな巨体にスキンヘッド 左目には眼帯を着けている。どう見ても盗賊にしか見えない。
ちなみにメンバー全員 服装はロイと一緒の背中に翼の刺繍が入った 黒のレザーの上下を着ている。これは白銀の翼のユニホームのようなものだ。
「ヘルハウンド3匹…楽勝だったよ。」
「がっはっはっ!楽勝とは生意気な!まぁ飯でも食って体を休めとけ!」
「あぁ そうするよ。腹ペコなんだ。」
『声デカすぎるだろ…このオッサンと話す度に耳が痛くなる。』
そんな文句を心の中で呟きながらロイはマスターの部屋を退室する。
―☆―
食事を済ませ 自分の部屋のベッドに寝転がり体を休ませるロイ。
その時 部屋の扉を数回ノックする音が響く。
「誰だ?」
ロイは上半身だけ身を起こし 扉に向かい 声をかける。
「私です。入ってもいいですか?」
扉の向こうからレオの優しい声で返事が返ってきた。
「レオか。入ってもいいぜ。」
「じゃあ入りますね。」
扉を開けてレオは部屋へと入る。
「ここ 座ってもいいですか?」
「いいよ。」
レオはロイの寝転がるベッドの隣に置いてある椅子を指差しながらロイに確認をとると ゆっくり椅子に腰をかけた。
そして眼鏡を人差し指で上げて 微笑みながらロイに顔を向ける。
「もうロイがここに来てから1年程になりますね。ここは馴れましたか?」
「あぁ 居心地はいいし 依頼も結構楽しいのが多いし みんなも好きだから かなり馴れたよ…あっ!オッサンの声のデカさには全然馴れねぇけど。」
「それはずっとここにいる私も馴れてません。」
二人は同時に笑い出す。
ギルドメンバー全員にこんなことを思われているバルボアだが その実力 人望は皆が認めている。ロイを含め 皆から絶大な信頼を得ているのは確かだ。
「なぁ レオ…」
「なんです?」
どこか思い詰めたような表情のロイにレオは不思議そうな顔で尋ねる。
「俺…本当に感謝してるんだ。どこに行っても この髪の色のせいで不気味がられて居場所のなかった俺を レオが見つけて ここに連れて来てくれて…そして マスターや皆が笑顔で迎えてくれて…本当にありがとう。」
ロイはレオに深く頭を下げた。そんなロイを見て レオは一瞬驚いた表情をして すぐに笑顔でロイの頭をポンと優しく叩いたのだった。
「ロイ どうです?明日は久しぶりに私と依頼を受けませんか?」
「マジで!?やるやる!レオに俺がどれだけ強くなったか見せたかったんだ!」
レオの突然の嬉しい申し出にロイは頭をガバっと上げ 子供のような無邪気な笑顔になる。
「決まりですね。じゃあ明日。今日はゆっくり休んでください。おやすみなさい。」
「おぅ!おやすみ!」
レオが部屋を出て 扉を閉める音が鳴るのと同時にロイは大きくガッツポーズをした。
「うわぁ~ ワクワクして全然眠れねぇよ!」
と言いながら その1分後ぐらいに 大きなイビキをかいて 眠るロイであった。
―☆―
翌朝…
「よし それじゃあ出発しましょうか。」
「おし!行こうぜ!」
ロイとレオは意気揚々と出発する。
「そういや今回の依頼は どんな魔物だ?」
「今回は魔物じゃないですよ。ビルドの町で好き放題 暴れまわる悪者達の退治です。」
「へぇ~ 今回は人間が相手か…」
「不満ですか?」
レオはやれやれという感じでロイを見つめる。
「まぁ魔物のほうがやりがいあったけど 戦えりゃあ それでいいや。」
道中そんな話しをしながらビルドの町へと向かうロイ一行。
ビルドの町はここからターミナルに向かい バスに乗り 30分ぐらいで到着する位置にある。酒場が多く 無法者が数多く徘徊する治安の悪い町だ。
―☆―
バスに揺られること30分。ロイ達はビルドの町に到着した。
「ターゲットは何人いるんだ?」
「バンカーギャングというチームで 人数は10数人ということらしいです。えっと…さざ波亭という酒場に毎日集まっているようですね。」
レオは眼鏡を上げながら 依頼状に目を通す。
「じゃあ早速行こうぜ。」
「そうですね。こっちです。」
二人は足早にさざ波亭へと足を進めた。
「ここのようです。」
「よし!入ろう。おじゃましま~す!」
さざ波亭の中へ入ると 柄の悪い連中が一斉に二人の方に目を向ける。
奥にカウンターの席 そして手前に多くの机と椅子が並べられている。
レオはそんな中 気にもしないでカウンターの席へと腰をかけた。
「マスター ミルクを2杯お願いします。」
レオが注文すると 店のマスターは柄の悪い連中の視線が集まった二人に戸惑った表情を見せながらミルクを差し出した。
「おい!なんでミルク頼んでんだよ?仕事は?」
ロイが不思議そうに尋ねるとレオは視線を合わせぬまま眼鏡をゆっくり上げる。
「ここで戦うと店に迷惑がかかります。今は待ちましょう。」
「おあずけかよ…」
ロイは不満そうな態度を見せ 店にいる連中を一睨みする。
その時…
「おい!テメェ!何こっち見てやがる!?」
ロイの目の前の席に座っていた 大柄の男が荒々しく立ち上がり ロイに近づく。
「俺達に喧嘩売ってんのかテメェ?それにこの店は俺達専用だ!よそ者が勝手に入って来んじゃねぇよ!」
「あ~~ そうなの?まぁここじゃなんだし 外で話さない?」
「上等だ!テメェ等 表に出やがれ!!」
ロイはレオに向かってニッコリ笑ってピースサインをして見せる。
それを見て またも やれやれという表情をするレオであった。
男達はロイとレオを引き連れ 裏路地へと入っていく。
この場にいるバンカーギャングの人数は14人。
「おい お前らのメンバーはこれで全員か?」
「そうだ。そして俺が頭のザイモンだ。テメェ等もしかして傭兵ギルドの者か?」
ロイの質問に先程の大男が答える。
「そうだ。俺達は白銀の翼だ。」
「白銀の翼?………ガッハッハッハッ!!!」
堂々と答えたロイに対して男達は一斉に笑いだした。
当のロイはなぜ笑われたのか訳もわからないまま ただなんとなく不機嫌そうな顔をしていた。
「なにが可笑しいんだよ!?」
「テメェ等のギルドがなんで幻のギルドなんて呼ばれてるか知ってるか?メンバーがたったの4人で依頼成功率100%!?んなもん有り得る訳ねぇだろ!皆がバカにして幻のギルドなんて呼んでんだよ。中には信じてる奴もいるみたいだが そんなもん真実な訳ねぇだろ。ハッタリかましてるか よっぽど簡単な依頼ばかりしてるかだろ。ガッハッハッ!!」
「なっ!?」
怒りに身を任せて飛び掛かろうとしたロイの肩をレオが押さえる。
「我々と構えるのが恐いんですか?」
レオはザイモンに向かって挑発の笑顔を飛ばす。
「んな訳ねぇだろ!!!」
「だったら御託並べてないで さっさと掛かってきたらどうです?」
レオの表情が笑顔から冷たい殺気の籠った表情へと一気に変わる。
それを見た男達は恐怖に体が動かなくなってしまう。
しかしザイモンはバンカーギャングの頭である意地からか 恐怖で顔を引きつらせながらも雄叫びをあげてレオへと飛び掛かる。
その刹那 全員の視界からレオの姿が消えた。
「ど、どこ行った!?」
ザイモンが言葉を発したと同時に 後ろの2人の男が倒れる。
その更に後ろにはレオが立っていた。一瞬で移動し 手刀を放ったのだ。
あまりの早業に男達はどよめき 後退る。
「ロイ!熱くならないで。終わらせましょう。」
レオはいつもの笑顔でロイに呼びかける。
呆気に取られていたロイも我に返り ニッと笑顔を見せた。
「行くぜ。」
ロイはぐっと足に力を入れる。
次の瞬間 凄まじいスピードで男達に向かっていく。上下黒い服装ということもあり まるで黒い閃光のように男達との距離を縮める。
そのスピードのままパンチを繰り出し 次々と男達を吹き飛ばしていく。
そしてレオの隣まで来て足を止めた。
残る人数は7人。一気に半数になってしまったバンカーギャング。
「うぬぅ…バカな!?」
ザイモンは唸り 驚きを隠せない。
「あれぇ?さっき幻のギルドがなんだって?」
ロイは意地悪く笑って見せる。
「うるせぇ!!おい!あれ出せ!」
ザイモンがそう言うと残りの男の1人がどこからか大きな両刃の斧を取り出し ザイモンに渡した。その斧を高々と構えると 手下の男達はロイとレオを囲むように広がる。
ロイも背中の大剣を抜き 前に構えた。
「やれぇい!!」
ザイモンの号令と共に男達は一斉に飛び掛かる。
2人はそれをヒラリとかわす。
そのままロイはザイモンの懐に飛び込む。
ザイモンは焦りを見せ 抱え上げた斧をロイ目掛けて力いっぱい振り下ろした。
しかし 冷静にそれを右にかわされ 斧は轟音と共に地面にぶつかる。
その瞬間ロイは跳躍し 斧の柄の部分に足を乗せ 更に高く飛び上がる。
「おらぁぁぁ!!」
大剣を地面と水平に向きを変え 刃の腹の部分でザイモンの頭を打ち付ける。鈍い音を奏で ザイモンは白目を向いて地面に倒れた。
残るは手下6人。ロイが振り返ると そこには残りの敵を全員倒し 壁にもたれ掛かり一休みするレオがいた。
「お疲れ様。」
「あぁ!全員倒しちまってる!俺のいいとこ見せれなかったじゃねぇか!」
「あ…すいません。つい…」
駄々をこねだすロイに向かい 手を合わせ謝るレオだった。
―☆―
「さて 悪者達を保安官に引き渡したことですし 任務完了ですね。帰りましょうか。」
「へぇ~い。」
ロイは今だスネていた。
「まだ機嫌直らないんですか?じゃあ食事でもご馳走…!!!!」
突然レオは険しい表情になり 振り返る。
「どうしたんだ!?」
普段は冷静沈着なレオの反応にロイに緊張が走る。
レオはしばらく黙ったまま辺りをぐるっと見回し 口を開く。
「魔物の魔力を感じます。それも中級ランクが3体。後1つ不気味な魔力を感じますね。」
中級ランクの魔物は二人にとっては さほど恐れる存在ではないが それが3体もいるとなると少々厄介である。それ以上にレオは不気味な魔力のほうを恐れていた。
ちなみにロイが倒したヘルハウンドは下級ランクの中でも下の下というところだ。
「へへっ!ちょうどいい。まだ暴れ足りないところだったんだ。行くんだろ?」
「そうですね。このまま見過ごすという訳にもいきませんし。」
「だったら早速行こう。モタモタしてたら町に攻めてくるかもしれないぜ?」
「えぇ 行きましょう。」
二人は足早に魔力の感じるほうへ足を運んだ。
魔力の気配がする方へ近づくにつれ 大きな3体の魔物の姿がハッキリ見えてくる。
3メートルぐらいの大きさで 毛深い大男の様な体にバッファローに似た二本角の牛の頭。手には巨大な斧を持っている。
「ミノタウロスが3体…おかしいですね。不気味な魔力の気配が消えています。」
レオは辺りを注意深く見渡しながら呟く。
ロイは既に大剣を構え 戦闘態勢に入っていた。
「ロイは左の奴をお願いします。後は任せてください。」
レオは魔法を放つため 掌に魔力を集中させながらロイに指示を出す。
「了解!!」
ロイは再び黒い閃光となってミノタウロスの懐へと飛び込んだ。
ガキィーーーン!!!
金属同士が激しくぶつかる高らかな音を放ち ロイの大剣とミノタウロスの斧が衝突する。
「…さすが中級。一筋縄じゃいかねぇか…」
すぐさま後方に跳び ミノタウロスとの距離を取る。
『サンダーボルト!!』
その間 レオは2体のミノタウロスに対して魔法を放つ。
数本の雷が天から降り注ぎ ミノタウロスの体へとぶつかる。
「ブォォォォォ!!」
ミノタウロス2体は断末魔の叫びをあげ 黒焦げになって地に伏せる。
その光景を見たロイは若干の焦りを見せていた。自分は1体を1撃で倒すのに失敗したが レオは2体をいとも簡単に1撃で倒して退けたからだ。
しかし その焦りは一瞬のもの。ロイは即座に気持ちを切り替え ミノタウロスへと剣を向ける。
ロイは白銀の翼では新人扱いではあるが 他のギルドの傭兵達と比べれば戦闘能力は格段に上位クラスだ。そんな戦闘のプロとも言えるロイが このような焦りから取り乱すことなど皆無と言えよう。
「フッ!!」
ロイは大きく息を吸い込んでから一気に吐き出し ミノタウロスへと向かう。先程の直線的な特攻ではなく ジグザグに華麗なステップを踏み 相手を翻弄する。
ミノタウロスはキョロキョロとロイの動きを目で追いながら斧を大きく振りかぶりロイ目掛けて振り下ろす。
しかし ロイの閃光のようなスピードとミノタウロスの鈍足な動きでは雲泥の差。斧は空しく空を斬り 地面へとぶつかった。
その好機をロイが見逃すはずはない。素早くミノタウロスの背の高さまで跳躍すると 横薙ぎの一撃を繰り出した。
呆気なくミノタウロスの首が宙を舞い 首を失った体は地面へと倒れ込んだのだった。
「よし!やったぜ!」
ロイは小さくガッツポーズをして見せた。
その時…
突如 レオが先程感じた不気味な魔力が辺り一帯から漂い始める。
「なんだこれ!?すげぇ嫌な感じがする!」
「ロイ!気をつけて下さい!何か近くにとんでもない者がいるはずです!」
一瞬にしてロイとレオに緊張が走る。二人は背中を合わせるようにして 辺りを警戒し 身構えたのだった。




