第18話 激突
飛燕山 修行2日目
「よぉし!昨日の調子なら今日にでも柔の剣を扱える様になるだろ!始めるぞ!」
シバが意気揚々と話す中 ロイは何故かニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「どうした?頭でも打ったか?」
「打ってねぇよ!
へへ…昨日の夜はずっとイメージトレーニングしてたから 自信あんだよ。」
ロイは嬉しそうにニヤついている。
「そうか。
じゃあ その成果を見せてみな!」
勢いよく飛び出したシバは 昨日と同じ様に ロイの真正面から木刀を振り下ろした。
その刹那 ドッという乾いた音が辺りに響き渡る。
「ありゃ?」
そこには 地面に大の字で倒れ 目を丸くしながら天を眺めるシバの姿があった。
ロイが一瞬の早業で柔の剣による捌きを行なったのだ。
最早 柔の剣を扱える様になったというレベルではなく たったの1日で完全に自分の物にしてしまったのである。
いくら馬鹿正直な真正面からの攻撃であったにしても ここまでの早業をこなせる剣士は早々いない。
「やったぜ!!どうだよ師匠!?
なかなか綺麗に決まっただろ!?」
「………お前 今まで誰かに剣を教わったことは?」
「は?ないけど?」
「成る程。
自己流であのレベルまで到達していたのか…
なら 成長の早さも納得だ。
君 剣の才能あるよ。」
シバは笑みを浮かべながら頭を掻きむしる。
その言葉を聞いて ロイはかなり嬉しそうな表情をしていた。
「さてと…
一応剛の剣もやっときますか。」
シバはゆっくりと立ち上がりながら 服に着いた砂埃を取り払う。
「なんでだ?俺は元々剛の剣の使い手なんだろ?」
「まぁ形は出来てるんだけど 君は剣を腕だけで振りすぎなんだよね。
ただの腕力だよりの剣撃だと宝の持ち腐れさ。
剣を振る時に重要なのは腰と足の踏み込みだ。」
困惑するロイに優しく語りかける。
確かにシバの言っている事は正しいが ロイは腕力任せの剣でも かなりの威力を誇っている。
これがシバの言う正しい剣の振り方を習得すれば その威力は倍以上にハネ上がることだろう。
「よし 先ずは手本からだ。」
シバが木刀を振り上げる。
ただ振り上げただけだが その動きにはどこか優雅さが漂っていた。
これが剣を極めた男 剣聖シバである。
「剣を振る時は腰を落として重心を下げるんだ。
これで体重の乗った重い一撃が放てる。
そして踏み込み。剣を振り下ろす瞬間に力強く地面を蹴る感じだ。」
シバは説明を交えながら 木刀を振って見せる。
その太刀筋は木刀ながら迫力のあるもので 空気を切り裂き 凄まじい風切り音が響き渡る。
「どうだい?君なら これはすぐに出来るんじゃないか?」
「重心を低く…
重心を低く…」
既にロイは凄まじい集中力を発揮し 今の動きを自分のものにしようとしていた。
「……よし!
いけそうだ!打ち込んでもいいか?」
「あぁ。いつでもどうぞ。」
ロイとシバが木刀を同時に構える。
暫しの静寂。
二人の集中力が研ぎ澄まされていく。
深く息を吸い込むロイ。
「フッ!!」
息を吐くと同時にロイは力強く地面を蹴りだした。
一瞬でシバの懐に飛び込むと 重心を低く構え 木刀を高く振り上げた。
(こいつはまずい…!!!)
シバはその一瞬でロイの繰り出す剣撃の凄まじさを悟った。
木刀を振り下ろすと同時に足を踏み込み 全体重を剣撃に乗せる。
パカァーン!!
乾いた鈍い音が飛燕山に響き渡り 木霊する。
ロイの木刀とシバの木刀がぶつかった瞬間 両方の木刀が木っ端微塵に弾け飛んだのだ。
「おっとっと…」
剣圧に圧されたシバはヨロヨロと後退る。
「おぉ…ビックリした…」
ロイは手で握っていた部分以外 木っ端微塵に弾け飛んだ木刀を眺めて驚きの表情を浮かべていた。
「いや~まさかここまで凄いとは。
ただ 今までのは全て真正面からの馬鹿正直な攻撃だったからね。
実戦ではこう上手くいかないから油断しちゃ駄目だよ。
後は実戦で腕を磨くことだ。」
「あぁ わかった!」
「それじゃあ今までの応用編をお浚いするか!
ロイ!どこからでも掛かって来い!」」
その後シバとの実戦練習をみっちりと続け 修行2日目が終了した。
―☆―
豪魔邪霊衆 根城
元々廃墟と化した街だったが まるで核爆発が起こったかの様な惨状が広がっていた。
散乱する瓦礫。
跡形も無く吹き飛んだ建物。
立ち上る硝煙。
そんな中に一人の魔人が堂々と立っている。
辺りは惨劇が広がっているが その魔人の立つ場所だけが地面の原型を留めていた。
「ククク…
遂にやったぞ。凄まじい力だ。」
その魔人は豪魔邪霊衆の首領ゲオルグであった。
その片手には邪悪な光を放つ魔導教典が握られている。
「ほぅ…少しは魔導教典を使いこなせる様になった様だな。」
「誰だっ!?」
部下の物とは異なる 只ならぬ魔力にゲオルグが身構える。
その眼前に姿を現したのは黒ずくめの服に黒いマントを身に付けた黒髪長髪の魔人。
かつてロイと一戦交えた強力な魔人ガルハイトであった。
「貴様…
一体なんの用だ?」
ゲオルグは好戦的な眼で睨み付け 敵意を剥き出しにしている。
しかし 一方のガルハイトは不敵な笑みを浮かべ 余裕の表情をしていた。
「白銀の翼と抗争しているそうだな。」
「貴様が何故 下等な人間のギルドを知っている!?」
ガルハイトの口から放たれた言葉にゲオルグは驚愕の表情を浮かべる。
ガルハイトは魔人界でも名の知れた最強の魔人であった。
そんなガルハイトがいちいち人間のギルドの存在を覚えていることが理解出来なかったのだ。
「…そのギルドには我が目を付けた小僧がいてな。
種の者の剣士なのだが知っているか?」
「種の者の剣士?
…あぁ ジダンを倒したとかいう小僧か。
フッ!あれは駄目だ。内の三下と好戦しているようでは 他かが知れている。」
ゲオルグはガルハイトを馬鹿にする様に鼻で笑うが それにガルハイトは笑みで返す。
「クク…
あの小僧の真の力を見抜けていないとは 貴様も三下ではないのか?」
「…なんだと?俺に喧嘩を売っているのか?
この魔導教典があれば貴様を葬ることも出来るのだぞ?」
その言葉にガルハイトの顔色が変わる。
爆発的に放たれる魔力。
その凄まじさは ただ魔力を放出しているだけにも関わらず 周囲の空間が歪み 瓦礫が木っ端微塵に吹き飛ばされていく程の物だ。
「何か言ったか…?」
そう呟くガルハイトの瞳から放たれる視線は強大な殺意そのもの。
流石のゲオルグも その凄まじい殺意に言葉を失い 息を飲んだ。
「…まぁいい。
精々不様に負けない様にするんだな。」
そう言い残し ガルハイトは立ち去ろうと背中を向ける。
「いいのか?その お気に入りの小僧を俺が殺してしまっても。」
その言葉を聞いたガルハイトは足を止めて振り返る。
その顔には不敵な笑みを浮かべていた。
「それはそれで その程度の小僧だったということだ。
好きにするがいい。」
ガルハイトは闇の中に消えていく。
残されたゲオルグの表情には怒りの色が見える。
「……舐めやがって。
ヨハン!いるか!?」
ゲオルグが叫ぶと闇の空間が広がり 老魔人ヨハンが姿を現した。
「ここに。」
「すぐに出撃の準備をしろ!明朝に再び神秘の森周辺の町村を襲撃して 奴等を誘き出す!」
ゲオルグの命令に 待ってましたと言わんばかりにヨハンはニヤリと笑みを浮かべた。
「御意に。」
明朝 白銀の翼と豪魔邪霊衆の激突が開始されようとしていた。
―☆―
翌日 正午。
白銀の翼 アジト。
いつ訪れるか分からない襲撃に備えて 白銀の翼のメンバーは広間に集結していた。
そんな広間に慌ただしくバルボアが駆け込む。
「来たぞ!!」
その一言で広間に集結していたジャガン レオ ゼクスの3名が鋭い目付きになり立ち上がる。
「数は どのくらいです?」
レオの質問にバルボアは顔を俯かせた。
そして 静かに口を開く。
「およそ500の魔物と魔人の軍勢だ。」
「500ですか…
それは骨が折れますね。」
遂に豪魔邪霊衆が軍を率いて仕掛けて来たのだった。
現在 白銀の翼は総勢4名。
対する豪魔邪霊衆は500の軍勢を率いている。
誰の目から見ても無謀と思われる戦闘。
自ら命を捨てに行く様なものだが 白銀の翼の面々は誰一人として臆していない。
むしろ この無謀な戦いに勝利することを全員が考えていたのだ。
その時…
扉を叩く音が室内に響き渡る。
その音の出所に目を向けると それは白銀の翼アジトの玄関口の扉であった。
「誰だ?こんなときに?」
バルボアが渋々と扉を開ける。
「あっ!アンタは!?」
扉の向こうの見知った顔にゼクスは声を出した。
「久しぶりだな。」
鎧に身を包み 背中には大きな盾と剣を背負った壮年の騎士。
かつて帝都付近の洞窟で魔物討伐任務を共に行動した帝都親衛騎士団 団長のレオナルドであった。
「なんでアンタがここに?」
「君達が豪魔邪霊衆の一団と一戦交えるという情報を耳にしてな。
討伐任務の時には世話になったから 微力ながら助太刀に参上した次第だ。」
そう言ってレオナルドは後方を指差した。
遥か後方にズラリと整列した騎士達が見える。
その数はおよそ200名以上はいるだろう。
「…ハハッ。
アンタ結構律義なんだな。
助かるぜ。」
ゼクスは呆然と騎士団の姿を見つめた後 レオナルドに感謝の言葉を告げた。
「帝都の騎士団の方ですかい。
ご助力は心から感謝するが 相手は500の軍勢。
かなりの被害が出ると思われるが 宜しいんで?」
バルボアは申し訳なさそうに口を開く。
しかしレオナルドの表情が変化することはなかった。
「事前に入った情報で相手が500の軍勢だということは分かっている。
ここに集まったのは覚悟ある物達です。
その心配は必要ない。」
その決意に満ちた瞳で バルボアはレオナルドの気持ちを理解する。
帝都親衛騎士団の援軍を有り難く承諾し レオナルドと堅い握手を交わしたのだった。
その後 豪魔邪霊衆の襲撃する街に出発。
数時間後 到着した一行は目の前に広がる光景に息を飲んだ。
かつて街であったはずのその場所は一面に広がる火の海と化していた。
そして その火の向こう側には不気味に蠢く魔物達の姿が見える。
「バルボア殿。どうする?」
沈黙をレオナルドが破った。
「豪魔邪霊衆には恐ろしく強力な幹部がいる。
おそらくは軍勢の後方に待機しているだろう。
その幹部共は俺達が相手をする。
だから帝都親衛騎士団には極力俺達の疲労が少ない状態で幹部の所まで到達出来る様にサポートしてもらいたい。」
「分かった。
雑魚共は我等が蹴散らそう。」
作戦を練っていた その時…
1体の魔物 ヘルハウンドがこちらに気付いた。
「アオォォォォォン!!」
高らかな遠吠えが開戦の合図となる。
その鳴き声に気付いた魔物の集団が一斉に白銀の翼と帝都親衛騎士団に突撃を開始する。
「陣形を組め!」
レオナルドの号令で帝都親衛騎士団は素早く白銀の翼のメンバーの前方に集結する。
見事なまでに統率された騎士達。
レオナルドの号令一つで一瞬にして統率された動きを見せ 強固な陣形を組み立てた。
日頃の努力により為せる技であろう。
帝都親衛騎士団と豪魔邪霊衆の第一陣が激しく激突する。
響き渡る金属音。
飛び交う喚声。
舞い散る赤と黒の血飛沫。
「怯むなぁ!押せー!!」
レオナルドの号令と共に帝都親衛騎士団の前線が押し上がる。
ファーストコンタクトは帝都親衛騎士団が優勢。
騎士達の圧力にに怯み 魔物達はどんどん圧され始める。
「レオ!仕上げにかかれ!」
「了解!!」
バルボアの指示でレオは魔法の詠唱を始める。
『ライトニング・ボルト』
放たれるレオの魔法。
激しい雷鳴が轟き 後退する魔物の軍勢を一掃した。
「ふぅ…
今ので何体くらいでしょうね?」
「そうだな…
およそ100体ぐらいだろ。全体の2割はいったはずだ。
だが本陣に進むにつれ 魔物共の強さも上がってくるだろ。
気を引き締めて行くぞ。」
白銀の翼と帝都親衛騎士団の連合軍は進軍を開始する。
バルボアの言う様に敵の強さは段々と上がっていくことが予想されるが 連合軍の損害は微量な物であり 上々の滑り出しと言えよう。
「前方に魔物の軍勢を発見!
数は先程の3倍はいるようです!!」
数メートル移動した時 前方の騎士が叫んだ。
そこには下級から上級ランクの魔物の姿がウヨウヨ見える。
「中盤を固めてきたか…
弓隊!構えろ!!」
レオナルドの号令で騎士団の弓隊が一斉に弓を構える。
魔物の軍勢は勢いよく押し寄せて来ていた。
その足踏みで大地が震える程の勢いだ。
「まだだ!まだ引き付けろ!」
発射の合図はまだ出さない。
「奴等は中盤で戦力と体力を奪ってから 主力で一網打尽にするつもりだな。」
ジャガンは冷静に戦況の分析を始めていた。
この豪魔邪霊衆の戦術は正攻法と言える。
絶大な効果を発揮するだろう。
その間にも魔物の軍勢は連合軍の眼前にまで迫っていた。
「放てぇぇぇ!!!」
凄まじい風切り音と共に一斉に放たれる矢。
そのまま弧を描いて魔物共を次々に貫いていく。
「今だ!臆するな!
突撃ー!!!!」
雄叫びと共に突撃する騎士達。
相手は3倍の数を要するが動揺することなく 斬り込んでいく。
「マスター。
流石にここは我々も斬り込むべきだろう。
敵の思う壷だが 助太刀に来てくれた騎士団を犠牲にする訳にもいくまい。」
「…そうだな。
全員気合いを入れろ!!!」
ジャガンの提案を承諾したバルボアは渇を入れる。
「突撃ー!!!!」
白銀の翼の面々も帝都親衛騎士団に加わり参戦する。
4人だけとは言え圧倒的な戦力を誇る白銀の翼の加入によって敵の数は徐々にではあるが減ってきていた。
しかし数では圧倒されているのと 上級の魔物の存在もあり 騎士達は次から次へと命を奪われていった。
この中盤での戦闘は時間にして 2時間にも及んだ。
辛くも勝利した連合軍だったが帝都親衛騎士団の被害は甚大な物だった。
連合軍VS豪魔邪霊衆
残り兵力
連合軍 およそ40
豪魔邪霊衆 およそ130
圧倒的 不利に変わりはなかった。




