第16話 剣聖シバ
飛燕山頂上付近
霧がかった視界の中 ロイとシュバルツは頂上を目指して歩いていた。
シュバルツの案内の元 飛燕山にたどり着いたのはいいが 剣聖シバが飛燕山のどこにいるかは分からず ロイの提案でとりあえず頂上を目指すことになったのだ。
その理由は「男なら高い所が好きだろ」というしょうもない理由であった。
「おっし!やっと頂上が見えてきたぞシュバルツ!」
ロイは意気揚々とシュバルツに語りかけた。
「小僧…
頂上マデ歩カセテ モシ誰モイナケレバ ドウスルツモリダ?」
疲労の見えるシュバルツはロイを冷たい目で睨み付けている。
流石のロイも それに気付き 目が泳ぎだす。
「だ 大丈夫だ。
男なら絶対頂上だって!」
「ダカラソレハ ドウイウ理屈ナノダ!」
そんな口論を続けながら歩き 気付けば頂上へと到達していた。
道中木々や草が颯爽と生い茂っていたが この場所はパラパラと生えているだけで明らかに人為的によるものだった。
目を凝らして奥の方を見つめると そこには小さな木造の小屋が建っているのがわかる。
「ほら見ろ!絶対あそこに住んでるよ!」
ロイはそう叫ぶと一目散に小屋へと駆け出した。
小屋に近づくにつれ 扉の前に人影があることにロイは気付く。
「お~い!アンタがシバか?」
人影はロイに気がつくと ゆっくり振り返った。
「……んぁ?
俺がシバだけど?お前さん達は誰だ?」
黒髪のボサボサした みすぼらしい出で立ち。
口には煙草をくわえている。
どう見ても英雄王や剣聖という名は相応しくない男であった。
「……おい シュバルツ!
本当にコイツが剣聖シバかな?」
「イヤ…
我モ姿ヲ見タコトハナイ。ナントモ言エンナ…
ダガ オーラハマルデ0ダ。」
ロイとシュバルツは剣聖シバを名乗る男を尻目に 小声で相談を始める。
「…本当の本当にアンタが剣聖シバなんだな?」
「だから そうだって言ってるでしょうが。
なんなんだお前等は?」
シバは疑いの眼差しで見つめるロイに苛立ち 頭を掻きむしる。
「よぉし!じゃあ俺と勝負だ!」
ロイは大剣を引き抜き 戦闘態勢に入る。
「おいおい。ガキがそんな危ない物振り回すんじゃないよ。
これでいいだろ?これで?」
シバは足元に落ちていた木の棒を拾い上げ 目の前でチラつかせた。
それに腹を立てたのはロイだ。
「この野郎…
舐めやがって!本物の剣聖シバなら俺の剣を止めてみやがれ!」
怒りに震えながらロイは叫んだ。
「待テ小僧!
コ奴 オーラハ0ダガ 剰リニ無サスギル。
目ノ前ニイルノニ気配ヲ感ジ取リ難イ感覚ダ。
ドンナヒ弱ナ人間デモ多少ハオーラガアルハズダガ…
コノ男…タダ者デハナイゾ。」
シュバルツが警戒するが ロイは既に戦闘態勢万全であった。
「関係ねぇ!ブッタ斬る!!」
黒い閃光となって疾走するロイ。
だがしかし シバは動揺することなく立ったままの状態だ。
一瞬でシバの眼前まで迫ったロイは大剣を振り上げ 渾身の一撃を振り下ろす。
「…なんて雑な剣だ。」
そう呟きながら シバは必要最低限の少しの動きだけで大剣を避け 手にした棒をロイの大剣にあてがった。
「おわっっ!!?」
シバが剣にあてた棒をぐるりと回すと そのまま同時にロイの体も宙に舞ったのだ。
地面に強く背中を打ち付けたロイは 何が起こったのか理解出来ず キョトンとした表情を浮かべていた。
「今のはマグレだろ!もういっちょ!!」
その後 ロイは何度も何度も挑み続けたが 結果は全て先程と同じ様に地面に転がされ続けたのだった。
「ハァハァ…
アンタ…やっぱ本物のシバなんだな。」
「だから最初から そうだと言ったでしょうが!
失礼な奴だな!」
息を切らしながら ようやく疑いを止めたロイにシバは機嫌を悪くする。
「俺の剣は…どうだった?」
シバに恐る恐る問いかけるロイ。
「……剛の剣と柔の剣は知ってるだろ?
剛の剣は力任せに豪快に全てを叩き斬る剣。
一方の柔の剣は攻撃を捌き 受け流し 相手のペースを乱す剣だ。
俺が使ったのは柔の剣。
そしてお前は明らかな剛の剣だ。
剛の剣と柔の剣…どちらを扱う剣士が最高の剣士と言えると思う?」
質問に質問で返すシバ。
ロイは暫く考え込む。
「………そりゃ剛の剣だと思うけど…
アンタの剣に負けたから柔の剣だろ?」
「ブブー!答えは両方使いこなせる剣士だよ。」
シバの言い方にロイは明らかな苛立ちを見せている。
「柔の剣で捌き 隙を作り…
剛の剣で全てをブッタ斬る!
これこそが最高の剣士像でしょ。」
苛立つロイを他所にシバはしれっと話を続けた。
一見ふざけてる様な物言いだが話している内容は正論であった。
「で?そんなことより 君達は誰よ?」
「俺は傭兵ギルド 白銀の翼のロイ・ストライド。
こっちは友達の銀狼シュバルツだ。」
出会ってから かなりの時間が経過して ようやく名乗るロイ。
端から見ればかなり無礼な話である。
「俺になんか用?」
「…アンタに剣を教わりたい。」
「それは弟子にしてくれってことかい?」
「……!!
で 弟子とかそんなんになるつもりはない!
ただ剣を教わりたいだけだ。」
「……世間じゃ それを師弟関係って言うんだと思うけど?」
ロイはシバの剣の腕は認めているが 内心「こんなふざけた奴の弟子にはなりたくない」という思いがあって ぎこちないやり取りが続いていた。
「それはそうと…
なんで君達の髪は白いんだい?」
シバはロイとシュバルツに交互に視線を送り 小さな疑問を口にした。
「…それは俺が種の者だからだ。ちなみにこっちのシュバルツは魔食者の狼だ。
種の者と魔食者は色素の抜けた髪色になるんだよ。」
ロイの言葉に終始無表情だったシバが驚きの表情を見せる。
「種の者と魔食者…
話しには聞いたことがあったが まさかこんなとこで同時に拝めるとはな…」
「……で!?
俺に剣は教えてくれるのか!?」
苛立ちを見せるロイにシバは無言になった。
「……ん~~~
…まぁ いいよ。
そのかわり俺のことは師匠と呼べ。」
「だから弟子とかそんなんじゃねぇって!」
頑固者のロイは未だ弟子になるということを認めない。
「じゃあ教えないけど?」
あっけらかんと答えるシバにロイは顔を歪めた。
「…わかったよ!
師匠って呼んだらいいんだろ!?」
やっと折れたロイだったが 明らかに人に教わる態度ではない。
しかしシバにそれを気にする素振りは見られなかった。
「お前 種の者なら戦闘能力向上の技が使えんだろ?
それ使って もう一回かかって来な。」
シバは驚くべき提案を出してきた。
彼の言う戦闘能力向上の技とはおそらく黒いオーラのことであろう。
「バカ言うな!
あれは相当危険なんだぞ!?手合わせで使う様なもんじゃねぇんだ!」
ロイはシバの無謀と思える提案に呆れ返る。
後ろでシュバルツも同意見なのか 頷いていた。
「大丈夫大丈夫。
次はこれ使うし。」
そう言ってシバは小屋の前のボックスから一本の大剣を取り出した。
ロイの持つ両刃の大剣とは違い 日本刀の様な形状をしているが極端に刃の部分が巨大な大剣。
どちらかと言えばバルボアの持つ巨大な肉切り包丁に近い。
「妖刀カ…」
異様な気を放つ その大剣を見てシュバルツが呟く。
「ご名答。
これは妖刀 百鬼爪刃。(ひゃっきそうじん)
その昔 百体のオーガを斬り伏せ その魂をこの刀に封じ込めたと言われる呪われた一品さ。」
「妖刀…
初めて見たけど すげぇ威圧感だな…」
ロイは百鬼爪刃を眺めながら生唾を飲み込んだ。
「そりゃ百体のオーガが封じ込められてるからな。」
シバは軽く答えているが本来 妖刀は持ち主の命を喰らい精神を喰らい その力を発揮する剣とされている。
こうしている間にもシバの身体を蝕んでいるはずだが この男には一切の変化が見られない。
尋常ではない精神力の高さが伺える。
「ほれ。力を使え。」
シバはストレッチをしながら余裕の表情でロイを誘う。
単純 単細胞のロイがこの挑発に乗らない筈がない。
「どうなっても知らねぇぞ!!」
激しく放出される黒いオーラ。
その禍々しさはシバの余裕の表情を変えていく。
(ほぅ…こいつはたまげた。手を抜くと死ぬな。
しかし この違和感は…)
「いくぜっ!」
漆黒の閃光となって間合いを一気に詰める。
剰りのスピードにシバは一瞬ギョッとなったがロイの一撃を 体を捻って紙一重で避けると 突きの態勢をとった。
「葬龍葬破剣一式!
牙突!!(がとつ)」
シバの繰り出した突きは普通の突きではない。
只でさえ凄まじいスピード 威力の突きだが それに加え剣に回転が加わっていたのだ。
それによって威力は桁違いに跳ね上がっている。
「ぐっ……!!」
間一髪 大剣で防いだロイだったが 激しい衝撃音と共に苦痛の表情と呻きを漏らす。
黒いオーラの強化能力を持ってしても このシバの技を防ぎきることが出来ない。
呆気なく後方に吹き飛ばされたロイは激しく地面に転がった。
「う~ん…
力 スピードはかなりのものだけど技術がないね。
けど逆に言えば技術を身につければ君は化けるよ。」
既に長距離の移動 激しい戦闘で疲労しきって黒いオーラが消えているロイに向かって言葉を投げ掛ける。
「ところで その黒いオーラはバトルオーラに近い感じだね。
禍々しさと能力は比べものにならないけど。」
「バトルオーラ?」
聞き慣れない言葉にロイは首を傾げた。
「バトルオーラってのは近接戦を得意とする魔導師が身体能力を上げる為に使う魔法のことさ。
オーラの色は使用者の適性属性によって変わる。
炎なら赤 水なら青 雷なら黄という様にね。
君の黒いオーラは属性闇ってところかな。」
シバの言葉にロイは目の色を変える。
「てことは この力を自由自在に扱う方法はあるのか!?」
「バトルオーラは俺の専門じゃないからな…
ギルドのメンバーに魔導師ぐらいいるでしょ?その仲間に聞いたほうがいいよ。
それと君…魔力を抑えてるのはわざとかい?」
「…えっ!?」
ロイ自信は全力で魔力を放出させ すぐに魔力切れを起こすと思っていた訳だから全く意味が分からない言葉だった。
「…その様子を見ると知らず知らずの内か。
さっき違和感を感じてね。君の中には膨大な魔力を感じるけど 何かストッパーの様な物が掛かって 全部が出し切れてないよ。」
シバの口から聞かされる衝撃の事実。
これが真実ならロイの力は圧倒的に跳ね上がることは間違いないのである。




