第15話 戦死
レオ ゼクス カイラス 3人の前にヨハンが立ちはだかる。
レオとカイラスは警戒して魔力を溜めるが ゼクスはまだソウルイーターの魂喰いによって立ち上がることが出来ないでいた。
「フフフ…
ワシの世界に御招待しよう。」
ヨハンがゆっくりと両腕を広げる。
すると 彼の背後の空間に闇が広がっていく。
「気をつけて下さい!何が来るかわかりませんよ!
カイラス殿はゼクスをお願いします!」
レオが両手をヨハンに向けながら叫ぶ。
指示を受け カイラスはゼクスの前に移動し 魔法障壁を展開させた。
「無駄じゃよ。」
不気味な笑みを浮かべながらヨハンは背後の闇へと吸い込まれる様に姿を消していく。
そして その闇が急速に縮まり跡形もなく消え去った。
「消えた!?」
レオは突如姿を消したヨハンを探し 辺りを見回すが何処にも姿が見当たらない。
そんな中ミカエルは動く気配を見せず 楽しげにニヤついている。
「レオ!!」
ゼクスが叫び レオが気配を察知して顔を横に向けると そこには先程と同じ闇が広がっていた。
その闇から伸びる一本の腕。
レオに掴みかかろうとするが 間一髪 後方に跳んでそれを避ける。
「ほぅ…素早いな。
じゃが次はそうはいかんぞ。」
闇の中からはヨハンが顔を覗かせていた。
しかし闇の中に引っ込むと 闇ごと再び消え去る。
「おそらく異空間に姿を消して そこから此方に攻撃をする能力の様ですね。
二人共!警戒してください!」
相手の攻撃手段が大体理解できたレオは辺りを警戒し始める。
「ぐわっ!!」
突如背後から聞こえた苦痛の呻きにレオは振り返った。
最悪の展開。
カイラスの背後に広がる闇から伸びる腕が カイラスの背中から胸を貫き 彼の持つ魔導教典を握っている。
じわじわと広がっていく血のシミ。
カイラスはビクビクと体を痙攣させている。
傷の位置。大量の出血から心臓を貫いているのがわかる。
唯一治癒魔法が使えたカイラスがやられてしまったのだ。
こうなってしまえばカイラスを救う術は皆無である。
「カイラス殿ぉぉ!!!」
喉が張り裂けんばかりに叫ぶレオ。
しかし助け出そうにもヨハンはカイラスの背後にいる為に迂闊に手を出すことが出来ない。
そのすぐ隣では未だ自由に体を動かすことが出来ないゼクスが悔しそうに歯を噛み締めている。
その口元からは かなり強く噛み締めた為であろうか…血が滴り落ちていた。
「フフフ…
ワシ等の目的は魔導教典。こやつを狙うのは当たり前じゃろうて。」
ヨハンはそう言い放ちながら 手荒く腕を引き抜く。
夥しい鮮血が吹き出し カイラスは力無くその場に倒れ伏せた。
既に息は無く ピクリとも動くことは無かった。
即死の一撃である。
ヨハンは闇の中から出て 手にした魔導教典をチラつかせた。
『ライトニング・スター』
レオが怒りの魔法を放つ。
しかし 星形の雷撃はヨハンに辿り着く前に打ち砕かれた。
「おっと♪君の相手は僕だよ♪」
雷撃を打ち砕いたのはミカエルだ。
普段の冷静沈着なレオならミカエルの接近に気付いた筈だが 怒りで我を忘れてしまっている為に気付くことが出来なかったのだ。
「どいてください…
貴方の相手なんか後回しですよ。」
膨大な魔力を溜めながら 凄まじい形相でミカエルを睨み付ける。
「……なにそれ?
僕を舐めてるのかな?
………殺すよ?」
更に凄まじい形相でミカエルが睨み返す。
「そこまでだ!この野郎!!」
背後からの怒声にミカエルが振り返ると そこには銃を構えたゼクスが立っていた。
しかし まだ立つのがやっとの状態だ。
「なに?完全に魂を喰われたいの?」
ミカエルは余裕の笑みを浮かべながらソウルイーターをチラつかせる。
「ヨハン爺!手は出さないでね。こいつらは僕の獲物だよ。」
動き出そうとしたヨハンをミカエルが制止する。
「ミカエルよ。ワシ等の目的は魔導教典じゃろう?
もう子守りは飽きた。ワシは先に帰っとるぞ。」
そう言い残し ヨハンは闇の中へと姿を消していった。
「待て!!!!」
ヨハンを追おうとしたレオの前にソウルイーターが向けられる。
「だからぁ…
君の相手は僕だって言ってるだろ!!」
再び開始されるミカエルの怒涛の連撃。
レオは細かく避けるのは辞めて 後方に大きく飛び退いた。
「逃がさないよっ!!」
しかしミカエルは素早く追撃に移行する。
ドゥンッ!!
響き渡る銃声。
ミカエルは追撃を中断して背後を振り返り ゼクスに片手を向けた。
『ダーク・ボム』
回避行動の取れないゼクスに爆撃が直撃する。
枯葉の様に吹き飛ばされたゼクスはそのまま地面へと落ちていった。
「ゼクス!
貴様ぁっ!!」
更に怒りのボルテージが上がっていくレオ。
『サンダー・ボルト』
冷静さを欠いたレオは手当たり次第に魔法を放っていく。
しかし そんな攻撃がミカエルに通用する筈はなく 放たれた魔法は瓦礫を砕き地面を抉り 虚しく消滅していく。
「がっかりだなぁ…
もう少し楽しめると思ったのに…
もういいや。死んじゃえ♪」
高速で移動したミカエルはレオに向かいソウルイーターを振り上げる。
しかし振り下ろす直前 黒き炎がミカエルとレオの間に割って入る様に広がった。
黒い炎の魔力に驚異を覚えたミカエルは即座に後方へ跳び 態勢を整える。
「この炎は…」
見覚えのある黒い炎にレオは我に返り 後ろを振り返った。
そこには黒いローブに身を包み 漆黒の大剣を手にした男。
白銀の翼最強の戦士ジャガンが立っていた。
先程の黒い炎は彼の持つ魔剣ダークエンペラーの炎だったのだ。
「ジャガンさん…
すみません。カイラス殿が殺され 魔導教典も奪われました…」
レオは悔しそうに現在の状況を報告する。
「そうか…
だが まだお前等が無事でよかった。
お前はゼクスの元へ移動して守れ。
こいつは俺が始末する。」
ジャガンはそう告げながらダークエンペラーをミカエルへと構えた。
突然の乱入者に困惑したミカエルだったがジャガンの出で立ちを見て表情を変えていく。
「……あっ!!
もしかして黒い魔剣士だね!?会いたかったよ♪」
ミカエルは瞳を輝かせながら 嬉しそうにソウルイーターを掲げた。
「ジャガンさん!気をつけてください!
奴は子供の様な姿ですけど豪魔邪霊衆の幹部の一人です!
それに奴の持つ鎌は魂を喰らう魔道具です!かすり傷でも致命的になりますよ!」
レオの忠告にジャガンは無言で頷いて応えると ゆっくりミカエルとの距離を縮めていく。
対するミカエルもジャガンのダークエンペラーを警戒して迂闊に飛び込みはせず ゆっくりと距離を縮める。
一歩 また一歩とじわじわ縮まっていく距離。
しかしここで痺れを切らしたミカエルが跳び 一瞬でジャガンをソウルイーターの射程内に捉えた。
高く上げたソウルイーターがジャガンの首元へ振り下ろされる。
「受けろ!ダークエンペラー!!」
漆黒の刀身から放たれた黒き炎がソウルイーターの刃を受け止める。
ミカエルは驚き ジャガンから距離を取ろうとするが それよりも速く間合いを詰めたジャガンがダークエンペラーを振り抜く。
飛び散る黒い鮮血。
間一髪直撃を避けたミカエルだったが 腹を大きく斬り裂かれていた。
「くっ…!
やっぱ強いんだ。ワクワクしてきたよ♪」
一瞬顔を歪めたミカエルだったが すぐに笑顔になり戦闘態勢に戻る。
「完全に捕らえたと思ったが…
流石に一筋縄ではいかない様だな。」
ミカエルを圧倒したかに見えたが ジャガンはミカエルがまだ本気を出していないことに気付いていた。
「凄く楽しいよ♪
君も楽しいだろ?」
闘いの興奮からか 笑顔ではあるがミカエルの表情からは狂気が滲み出ていた。
力の無い者なら この表情を見ただけで失神していたことだろう。
今のミカエルはそれだけ殺意を放っているのだ。
「…狂っているな。
魔人とはお前の様な奴ばかりか?」
ジャガンは強い眼差しでミカエルを睨み付けながらダークエンペラーを構えた。
「…逆に人間はそんなつまんない奴ばかりなのっ!?」
再び一瞬で間合いを詰めたミカエルがソウルイーターを豪快に振り回す。
一見闇雲に振り回している様に見えるがその動作に無駄は無く 的確にジャガンの急所を狙っていた。
しかし一方のジャガンも無駄の無い動きで全ての攻撃をかわし 剣で防いでいる。
激しい攻防。
両者一歩も譲らぬ闘いが続いていたが ここでミカエルがソウルイーターをダークエンペラーに強く叩きつけ その反動で後ろに後退した。
「こんなのはどうかな!?」
『アシッド・レイン』
ミカエルが詠唱すると 上空から赤紫色の雨が降りだす。
赤紫の雨が落ちた箇所がシュワーと白い煙りを出しながら溶けだしていく。
「ちっ!酸の雨か…」
退避しようとしたジャガンだったが赤紫の雨の範囲はかなり広く容易に逃れることが出来ない。
「ハハッ♪逃げるのは無理だよ!
溶けて無くなっちゃえ♪」
ミカエルはそんなジャガンの様子を傍観しながら無邪気に笑っている。
ここでジャガンはアシッド・レインを避けるのを諦め その場に立ち止まった。
「諦めるの?潔く死ぬんだね♪」
ジャガンに焦った様子は見えないが 次第に身につけているローブが溶けていく。
このままじっとしていれば体が溶けるのも時間の問題だろう。
暫く立ち止まっていたジャガンだったが ここでダークエンペラーを天に掲げた。
すると刀身から放たれていた黒き炎が一気に燃え上がる。
上空から降っていた赤紫の雨はジャガンに触れることなく全て蒸発していく。
黒き炎の熱気によるものだ。
「すごい♪すごいや♪♪
君は最高だよ!!」
技を防がれたにも関わらずミカエルは満面の笑みを浮かべながら喜んでいた。
興奮するミカエルの背後に突如黒い闇が広がる。
「やはりまだ遊んでおったか…」
その闇の中から老人魔人ヨハンが現れた。
「ジャガンさん!奴も幹部です!
くそっ!戻ってきたのか!!」
ゼクスの元まで駆けつけていたレオが叫ぶ。
流石のジャガンといえど幹部二人を相手にするのは危険である。
「あれ?ヨハン爺 なんで戻って来たの?」
突然のヨハンの登場にミカエルは呆気に取られた表情をしていた。
「閣下に連れ戻す様に言われたのじゃ。
帰るぞ。長居は無用じゃ。」
「え~!今から楽しくなるとこだったのにぃ!」
ヨハンは駄々をこねるミカエルの腕を取り自身の闇へと引きずり込んだ。
「そうそう。白銀の翼の諸君。
我が主が魔導教典のテスト使用に君達を選んだ。
首を洗って待っておれ。」
そう言い残しヨハンとミカエルは闇と共に姿を消していった。
ジャガンは深追いはせずにダークエンペラーを背中に納めた。
今の状況を考えればジャガン一人で幹部二人を相手にするより 後日万全の態勢で迎え撃ったほうが賢明だ。
冷静で的確な判断である。
この日白銀の翼の一員カイラスが戦死。
魔導教典も奪われる結果となった。
後日カイラスの葬儀が行われ 白銀の翼の面々は悲しみにくれたのだった。
―☆―
豪魔邪霊衆が再び襲撃に現れるということでバルボアは暫く他の依頼を受けずに態勢を整えることを決定した。
ロイがいつ戻るかは分からない。
そのロイの穴を埋める為 ジャガンが参戦することも決まった。
白銀の翼と豪魔邪霊衆の闘いはクライマックスを迎えようとしている。




