第14話 強さを求めて
傭兵ギルド白銀の翼のアジトに二人の男がバタバタと慌ただしく駆け込む。
「マスター!聖水を手に入れて来ました!」
レオは息を切らしながら聖水の入った小瓶を掲げる。
その後ろではゼクスが同じ様に息を切らしていた。
「よし!ヒューイ!これでなんとか出来るか!?」
バルボアは小瓶を受け取り ヒューイへと渡す。
聖水の入った小瓶を受け取ったヒューイはニッコリ微笑んだ。
「えぇ。これでロイ君は大丈夫ですよ。
すぐに処置します。」
そう言うとヒューイはロイの体の至る所に聖水を数滴垂らし 最後に残った聖水をロイの口へと運んだ。
すると ロイの体から眩い幻想的な光が放たれる。
それと同時にヒューイは再び治癒魔法を発動させた。
苦悶の表情を浮かべていたロイの顔はみるみる内に穏やかな表情へと変わっていく。
―☆―
「…………ん?ここは?」
意識の戻ったロイが瞼を開け ゆっくりと辺りを見回す。
「……俺の部屋か…
あれ?あのジダンって奴を倒して…
…その後どうなったんだ?」
ロイが豪魔邪霊衆との戦闘を思い出そうとした時 部屋の扉が開かれる。
「ロイ!!目が覚めたか!!!」
一際馬鹿デカい声が部屋中に響き渡る。
声の主はもちろんバルボアだ。
寝起きにいきなりの大声を聞かされ ロイは顔をしかめている。
「おっさん…
俺はあの後どうなったんだ?」
「倒れたんだよ。まぁあれだけの傷を負って 力も多用したんだから無理もないがな。」
バルボアの言葉を聞いてロイは顔を俯かせた。
ナイトメアとの一戦でもそうだがロイは強敵との戦闘で未だ綺麗な勝ち方をしていない。
それがロイにとっては悔しかったのだ。
黒いオーラに頼らないと勝利出来ないということ。力を使って勝利しても必ず疲労で倒れてしまう自分が情けなかった。
「…何浮かない顔してんだ。似合わねぇぞ。」
そんなロイの表情をバルボアは見逃さなかった。
声をかけながらゆっくりとベッドに腰掛ける。
「……俺は自分の力で強い奴に勝ったことがない。力を使わないとマトモにやり合う事も出来ないんだ。」
ロイは深刻な表情で口を開いた。
「…けっ!
らしくねぇな ロイ!
方法はどうであれ勝ちは勝ちだ!真剣勝負に綺麗も汚いもないんだよ!
実際お前は勝ってんだろ!?種の者だかなんだか知らねぇが その力も含めてお前だろうが!それは紛れもねぇ お前の勝利だよ!!」
バルボアはロイの悩みを吹き飛ばすかの如く力いっぱいロイの背中をバンバン叩きながら話しを続けた。
しかしそれでもロイの表情が変わることはなかった。
「……強くなりてぇのか?」
バルボアのその言葉に反応して ロイは俯かせていた顔を勢いよく上げた。
「強くなりたいっ!」
力強く言い放つロイの瞳には決意の炎がメラメラと燃え上がっていた。
その眼差しを見てバルボアはフッと笑った後 ゆっくりと立ち上がり 口を開いた。
「ここから遥か北の方に飛燕山という山がある。
そこには剣聖と呼ばれるシバって男がいるはずだ。
とりあえずその男に会ってみろ!その後話しを聞くなり 勝負を挑むなり 弟子になるなりはお前の自由だ。」
バルボアはそう言い残し部屋を去っていく。
「剣聖シバ…」
ここにロイの新たなる試練が始まろうとしている。
―☆―
純粋な強さを手にする為 ロイは剣聖シバがいるという飛燕山へ向かうことを決意した。
飛燕山は白銀の翼のアジトから遥か北方に位置する為に長旅が予想される。
ロイは水と食料等 必要な物の準備を済ませアジトの扉を開ける。
「小僧。飛燕山ヘ向カウノダロウ。」
扉を開け 外へ出た所に巨駆の銀狼が腰を下ろしていた。
神秘の森の主 魔食者の銀狼シュバルツだ。
シュバルツは豪魔邪霊衆の襲撃以来 単独で神秘の森へ戻るのは危険だと判断され バルボアの計らいで白銀の翼のアジトで生活していたのだ。
「先程バルボア殿ト話シテイルノガ聞コエテナ。
我モ剣聖シバトイウ男ニ興味ガアル。
ソレニ飛燕山ノ場所ハ把握シテイル。案内デキルハズダ。
我モ同行サセテクレ。」
シュバルツは立派な長い尾を振りながら瞳を輝かせている。
「お前も来てくれるのか?そりゃ心強ぇ。
道案内お願いするよ。」
ロイはシュバルツの同行を快く承諾した。
「お前シバって奴のこと知ってんのか?」
ロイの言葉にシュバルツは目を丸くする。
「ムシロ小僧ハ知ラヌノカ!?
剣聖シバ。元ハ帝都ノ最上級騎士団 天王騎士団ニ所属シテイタ男ダ。
ソノ圧倒的ナ剣ノ才カラ剣聖ト呼バレ慕ワレテイタ。
アル時 帝都ニ上位ランクノ魔物100体ガ攻メ込ンデ来ル事件が起コッタンダガ ソノ時ニ半数以上ノ魔物ヲ一人デ撃退シテ活躍シタノガ ソノ男ダ。
ソレ以来 英雄王トモ呼バレテイル。
今ハ現役ヲ引退シテ 飛燕山デ暮ラシテイルガ 実力ハマダマダ衰エテイナイダロウ。」
このシュバルツが語る話しは世界的に有名なものだが ニュースや新聞を全く見ないロイにとっては初耳であった。
「英雄王 剣聖シバか…
すげぇ…その人からなら何か強くなる為のヒントが得られそうだ!早速向かおうぜ!シュバルツ!!」
シュバルツの話しで俄然やる気が沸いたロイはシュバルツを連れて颯爽と飛燕山へ向かったのだった。
―☆―
ロイ達が飛燕山へ向かって2日後…
傭兵ギルド 白銀の翼に緊急の依頼が舞い込んだ。
「みんな!集まってくれ!!」
バルボアの呼びかけで広間にメンバー全員が集まってくる。
「何事ですか?」
バルボアのただ事為らぬ雰囲気を感じ取り レオが口を開いた。
「昨日から神秘の森周辺の幾つかの町村が魔人の襲撃を受けているそうだ!
既に2つの町と1つの村が壊滅。次に狙われるのは一番近いリントの町と推測出来る。
お前達は早急にリントの町へ向かって欲しい!!」
神秘の森と魔人というキーワードで全員の顔色が変わる。
「豪魔邪霊衆…ですか?」
「……おそらくそうだ。」
「敵さんの数は?1日で3つの町村を壊滅させたぐらいだから軍勢か?」
ゼクスが妥当な予想をたてるが バルボアは首をゆっくり横に振った。
「…2人だ。」
その言葉に全員が息を飲み 驚愕の表情を浮かべる。
「2人!?そんなバカな!
あのジダンって野郎の戦闘力でも それほどの事は不可能だぞ!?
あいつの比じゃない強さの魔人が2人もいるってことか!?」
ゼクスは剰りの信じられない現実に声を荒げた。
「とにかく今は急いでリントの町へ向かいましょう!一刻の猶予もありませんよ!」
皆の迷いを断ち切る様に叫ぶレオ。
しかし現在 白銀の翼はロイとジャガンが不在。
前回の様にマスターであるバルボアがそう易々と出撃する訳にもいかないので 実質レオとゼクスとカイラスの3名しかいないのだ。
圧倒的な力を秘めていると予想される魔人2人に挑むには危険な人数である。
更には敵が豪魔邪霊衆ならば 魔導教典を持つカイラスは自由に動く事は出来ないであろう。
しかし白銀の翼は傭兵ギルドである。
助けを求める人達を救うのが彼等の仕事なのだ。
3人は決意を固め リントの町へと向かう。
命を懸けて町を 人々を守る為に…
―☆―
一方のロイとシュバルツは飛燕山へと歩き続け 人気のない荒れた道に差し掛かっていた。
辺りは日が沈み 薄暗い光景が広がっている。
「シュバルツ。もう暗くなってきたし 少し歩いたら休憩すっか。」
「ウム。長旅ニナルダロウカラ早メノ休息ヲトロウ。」
飛燕山へ移動を始めてから既に7時間程経過していた。
これだけ歩き続けて この程度の疲労なのはロイとシュバルツならではであろう。
「おぅい 待ちな兄ちゃん。」
突然ロイ達の前に柄の悪い男が現れる。
それに続いて2人の男がその男の後ろから現れた。男達は全員 不恰好な剣を手にしている。
「……なんか用か?」
ロイは特に気にする様子もなく 男達に尋ねた。
「見りゃわかんだろ?盗賊だよ。金目の物置いて とっとと失せな!」
最初に現れたリーダー格と思われる男がニヤつきながら答える。
「やっぱ そうか。」
「気付イテハイタガ 剰リニ弱イ気ダッタカラ言ワナカッタガ…
言ッタ方ガ良カッタカ?」
盗賊達は狼から発せられた声に目を丸くしている。
「いや 別にいいよ。
お前等 狙う相手が悪かったなぁ?」
ロイは不敵に笑いながら盗賊達を睨み付ける。
その瞬間 ロイの威圧感と闘気に触れ 盗賊達はその場で腰を抜かした。
「…な な なんだ!?
こいつらは!!?」
盗賊達は完全に脅えきっていた。
その横を通り過ぎながらロイが口を開く。
「なにもしねぇよ。
これに懲りたら盗賊から足を洗うんだな。」
盗賊達は通り過ぎていくロイとシュバルツの後ろ姿をただ眺めることしか出来なかった。
―☆―
リントの町へ到着した白銀の翼一行は目の前に広がる光景に歯を噛み締めていた。
「遅かったか…」
辺り一面に広がる火の海。倒壊した建物が瓦礫となって 其処ら中に散らばり 死体があちこちに転がっている。
リントの町は既に町の原型を留めていなかったのだ。
「クソッ!好き勝手暴れやがって…」
「あれぇ~?見て見て♪ヨハン爺。
アレって白銀の翼の奴等じゃない?」
意気消沈する白銀の翼の面々の前に二人の魔人が現れる。
「テメェ等かぁっ!?」
ゼクスは怒りながら銃口を魔人へと向ける。
「ハハッ♪怖いなぁ♪
僕は豪魔邪霊衆の一人 死神ミカエルだよ。」
「同じく豪魔邪霊衆が一人 次元のヨハンじゃ。」
二人は銃口を向けられながらも動揺することなく 余裕の表情で自己紹介は始めた。
「…やはり豪魔邪霊衆ですか。
死神ミカエルと次元のヨハン?貴方達は全員そのような二つ名が付いているんですか?」
レオが冷静に切り返す。
「違うよ♪死神や次元みたいな二つ名は幹部だけが与えられるのさ。」
「幹部!!?
…ちなみにあのジダンという魔人も幹部ですか?」
そのレオの言葉にミカエルは笑みを浮かべる。
「ジダン?あれは幹部のなりそこないだよ。つまり下っ派♪」
全員に緊張が走る。
あれだけの力を持っていたジダンが下っ派扱いならば 幹部というこの二人の実力は規格外ということになるからだ。
なぜかミカエルが辺りをキョロキョロと見回し始める。
「…ちぇっ!黒い魔剣士はいないのか…
まぁいいや。それじゃ早速始めようか…
殺し合いをねっ♪♪」
ミカエルが疾走する。
狙いは銃口を向けるゼクスだ。
手に持つ大鎌を縦横無尽に振り回す。
ゼクスは素早いフットワークで全て紙一重でかわしている。
「へぇ~♪お兄さん結構早いんだね。
じゃあスピードア~ップ♪」
ミカエルの鎌を振るスピードが格段に早くなった。
凄まじい風切り音が辺りに響き渡る。
流石のゼクスも この速度の猛攻をかわしきることは不可能。
左頬を鎌が僅かにかすめた。
「ちぃっ!……あ!?」
驚くゼクスの瞳に写った物は攻撃の手を止めるミカエルだった。
「なんだ?この程度の傷で満足なのか?
……うっ!!」
突然ゼクスが崩れ落ちる。
傷は左頬のかすり傷だけだが 何故か苦悶の表情を浮かべていた。
「ゼクス!どうしました!?」
「な なんだこれは…
体から急に力が抜けた様な感じだ…」
その様子を見てミカエルは楽しげな笑みを浮かべている。
「驚いた?この鎌は魔道具の一つなんだ。
魔鎌ソウルイーターって言うんだよ。
斬ると同時に魂を喰らうのさ。大食いだから気をつけてね♪」
ミカエルは得意気にソウルイーターを回している。
「かすっただけで このダメージかよ…」
ゼクスの言うように かすっただけでも相当な魂を喰われている。
つまり この魔鎌ソウルイーターが直撃すれば魂を全て喰らわれ 絶命するということだ。
正に驚異の一撃必殺なのだ。
『サンダー・スピア』
『ロック・ショット』
レオとカイラスの魔法が同時に炸裂する。
「わぁっ!!」
油断していたミカエルは慌てながらも全ての魔法をかわした。
「ふぅ~。そっか 魔導師が二人いるんだったね。
遠距離戦は苦手なんだよなぁ~。」
ミカエルは面倒臭そうに頭を掻きむしった。
すると傍観していたヨハンが前へと出てくる。
「ミカエルよ。ワシが手を貸そう。」
圧倒的な魔力を放出させながら得体の知れない老人魔人ヨハンが参戦するのだった。




