第11話 種の者VS種の者
ロイとレイド。
同じ種の者同士が対峙する。
「お前なんで魔人なんかと手を組んでんだよ!?」
ロイの問いかけにレイドは首を傾げ 不思議そうな表情を浮かべる。
「俺にはお前のほうが理解できないがな。俺達 種の者には魔人の血が流れているんだぞ?それでも自分は真っ当な人間だと言い張るつもりか?」
レイドの返答に ロイは言葉を詰まらせてしまった。
たしかに黒いオーラや異常な治癒能力。真っ当な人間と言うには程遠い能力を備えている。
「…だけど俺達には人間の血だって流れてるだろ!だったら真っ当な魔人とも言えねぇじゃねぇか!」
必死に力強く意見するロイを見て レイドは呆れた様な笑顔を見せる。
「確かに真っ当な魔人とも言えない。だが魔人の血は黒。
黒色は全てを呑み込み 全ての色を黒へと変える。人間の赤い血液等 魔人の黒い血液の前では 余りに無力。
つまり俺達 魔人の血が流れる種の者は 人間というより魔人に近い存在ということだ。」
淡々と話すレイド。
ロイの表情はみるみる内に曇っていく。
「そんなの…そんな訳あるかよ!」
「認めたくないなら それでも構わん。お前の自由だ。
だが事実は事実。覚醒というのを知っているか?
俺達 種の者は感情の高ぶりや 致命傷によって 覚醒という現象が起こる。
覚醒とは体が魔人化したり 化物へと変貌することを言う。
これが何よりの証拠だろ?俺達は化物なんだよ。」
迷うロイに向け レイドは確信をついてくる。
動きの止まったロイを見て レオに不安が過る。
「そんなの………
そんなもん関係あるか!俺は人間だ!要は気持ちの持ち用だろ。人間として生きたら人間なんだよ!テメェはただ人間を捨てただけだ!魔の力を恐れて人間であることを諦めただけだ!俺は人間として生きる!!」
ロイの迷いが吹っ切れる。
不安にその光景を眺めていたレオも安堵し 笑顔を見せた。
「つくづく救えぬ男だな…」
レイドは瞳に怒りの炎を灯し 剣を構えた。
それに答える様にロイも大剣を構える。
「レオ!こいつは俺がやる!手を出さないでくれ!」
「……わかりました。」
レオはロイの要求に答え 後ろへ下がる。
それが合図だったかの様にロイとレイドは同時に疾走する。
鼓膜が破れそうになる程の 激しい金属の衝突音。
ロイの大剣とレイドの剣がぶつかる。
「お前は…自分が魔人に近い存在だと思ってるから魔人に味方すんのか?」
全力で大剣を押しながら ロイが呟く。
「……人間は この髪色を見て 不気味だとか 悪魔の子だとか 差別を繰り返す ゲス野郎だ。
だが魔人達は俺を快く受け入れてくれた。
お前だってそうじゃないのか?今まで人間に差別を受けてきたんだろ?」
「……………」
ロイは言葉を失う。
ロイとレイドの境遇は全く一緒だった。
ひどい差別を受け 居場所を失ってしまった時に今の仲間達に助けられた。
だが違うのは ロイは白銀の翼の心優しき人間達によって 汚い心の人間ばかりではないという事を教えられた。
対して レイドは冷徹な豪魔邪霊衆の魔人達に拾われ 人間を恨んだまま敵対する形になってしまったのだ。
出会い方さえ違えば この二人は固い友情で結ばれていたのかもしれない。
「人間は酷い奴ばかりじゃない。お前は酷い人間しか知らないだけだ。」
「ふん…人間なんてもんはどいつも一緒なんだよ!!」
レイドが両腕に力を込めると 大剣ごとロイを吹っ飛ばした。
飛ばされたロイは足に力を入れて地面に踏み留まり なんとか転倒を避ける。
しかしレイドは甘くはない。
ロイが完全に体勢を整える前に 追い討ちをかける。
一気に間合いを詰めたレイドは渾身の力で 斜めに斬り下ろす。
これをなんとか大剣で防いだロイだが 体勢が悪かった為に 不十分なガードとなる。
剣の先端の方が ロイの左腕に食い込んでいた。
じわじわと赤い血が溢れだしながら ロイは苦悶の表情を見せる。
「どうした?そんなものか?」
レイドは剣を押す力を更に強めながら 口の端を吊り上げる。
どんどん肉に食い込んでくる刃。
流石に これ以上の傷は致命傷となる。
その時 ロイはレイドの不意をつく行動を取った。
剣を押し返すのではなく 剣の軌道と同じ方向に転がり それをかわしたのだ。
「ちっ!!」
ロイの行動にレイドは舌打ちをしながら 後方に跳び 追撃に備える。
しかしロイは腕の痛みで 体勢を整えることが精一杯であった。
そんなロイを見て レイドは不満そうな表情を浮かべる。
「…期待外れだな。
もう少しやると思ったが…
もう遊びは終わりだ。」
レイドの体から黒いオーラが放たれる。
「黒いオーラ…!?」
ロイは驚嘆の声をあげる。
同じ種の者だから使うことが出来るのは当たり前のことだが 実際に自分以外の人間が黒いオーラを放つ姿は驚かざるを得なかった。
「お前も発動させないと 一瞬で死ぬことになるぞ?」
レイドがジリジリとロイに詰め寄る。
「俺は使わねぇ!」
ロイが叫びながらレイドへ疾走する。
しかし レイドの姿がロイの視界から消えた。
その瞬間 ロイの背中に衝撃が走る。
レイドの高速移動からの蹴りだ。
「それは なんの意地だ?早く発動させないと 次は斬るぞ?」
レイドは冷静な表情で言い放つ。
ロイは蹴り飛ばされながらも地面に手を着き 体を回転させて 体勢を整える。
「やってみろよ!」
ロイが叫んだ瞬間 再びレイドが視界から消える。
ガキィン!!
鉄の衝撃音が辺りに響き渡る。
「なんだと!?」
ロイが背後からのレイドの剣を防いだのだ。
その動きには一切の無駄がなかった。
つまり ただ闇雲に防いだ訳ではなく レイドの動き 剣の軌道を見極め それを防いだことになる。
レイドが驚く理由はそこにある。
「まぐれは続かないぞ!」
再び姿を消すレイド。
ロイは落ち着いた様子で 辺りを窺っている。
ガキィン!!
更に再び鳴り響く 鉄の衝撃音。
ロイは右側からの 剣の一撃を防いで見せた。
「…これで まぐれじゃないってわかったか?」
ロイはニヤリと笑みを浮かべながら呟いた。
一方のレイドは その事実を信じられないのだろう。怪訝な表情を浮かべている。
「なぜだ!?なぜ今の動きが見える!?」
「見えねぇよ?」
ロイは あっけらかんと答えた。
その言葉にレイドは呆然としている。
「…なんて言ったらいいのかな?俺の魔力がお前の魔力を感じ取ってる感覚?」
「!!?
……なるほど。種の者同士特有の共鳴というやつか…」
「共鳴??」
聞き慣れない言葉に ロイは疑問符を浮かべる。
「種の者や魔食者の魔力の質は極めて異質だ。
それによって種の者同士や魔食者の魔力は互いに共鳴し合って 相手の動きや状態を感じ取り易くなるらしい。
つまり お前が俺の動きを読んだのは確かにまぐれではないが そういったタネがあったわけだ。」
「なるほど。そんなことが出来たのか。」
不敵に笑みを浮かべるレイドを他所に ロイは呑気に納得していた。
「理由が分かれば 対応の仕様はいくらでもある。次は同じ様にはいかないぞ。」
そう言い放つと レイドは剣を構えた。
ロイも魔力を感じ取りながら 迎撃体勢を取る。
突如 レイドの黒いオーラが爆発的に吹き上がった。
その衝撃にロイは体勢を崩す。
「体勢を崩し 真正面から突っ込む!これなら魔力を読もうが無意味!!」
よろけるロイに向かって 正面からレイドが凄まじいスピードで迫る。
「ぐぅっ…!!」
飛び散る鮮血。
ロイの右脇腹が深く斬り裂かれた。
夥しい出血。
これは完全に致命傷となった。
「まだ終わってないぞ!」
レイドは叫びながら ロイの体を蹴り飛ばす。
そして そのままロイが飛ぶ速度に合わせて追撃する。
「死ね!!」
鋭い突きが ロイの心臓目掛けて放たれる。
剣が刺さる寸前 ロイはレイドの体を激しく蹴り上げた。
「ぐっ…クソッ!」
レイドは即座に体勢を整える。
しかし その隙にロイも体勢を整え 追撃を阻止した。
「悪あがきを…
素直に死んでいればいいんだよ。」
「俺は…諦めが…悪くてな…」
ロイはニヒルな笑みを浮かべるが 大量の出血によって 既に顔面蒼白となっていた。
意識は朦朧としている。
「ロイ!黒いオーラを発動させてください!
じゃないと今は命が危険です!致し方ありません!」
見かねたレオがロイに叫ぶ。
ロイはコクリと頷くと 魔力を集中し始めた。
そして 一気に解放し 黒いオーラを発動させる。
「使わないんじゃなかったのか?」
レイドは挑発的に笑みを浮かべていた。
「悪いがそうも言ってられなくてな。」
ロイは挑発に乗ることなく 笑みで答える。
黒いオーラの力を治癒能力向上に回し ロイの傷はみるみる内に塞がり始めた。
既に出血は止まっている。
「傷が治りきるのを待つと思うか?」
レイドは激しく黒いオーラを放出し ロイへと疾走する。
黒いオーラの力を治癒能力に回すロイとは逆に レイドは全てを攻撃へと回していた。
ロイは瞬時に回復を中断し 力を防御に回して レイドの剣を大剣で受け止める。
激しい衝撃に 治りかけていたロイの傷口が開き 再び出血する。
「ぐぅ…!」
激痛に顔を歪ませながら耐えるロイ。
しかし レイドは攻撃の手を休める事なく 凄まじい連撃を繰り出す。
なんとか全ての攻撃を防いではいるが ロイの体は既に限界を超えていた。
「終わりだ!!」
黒いオーラを纏わせた 剣の一撃は ロイの左肩から鎖骨を越えた辺りまで深く食い込んだ。
「うわぁぁぁぁ!!!」
苦痛の叫びと共に 激しい鮮血が地面を真っ赤に染める。
ロイは力無く その場にガクリと両膝を着いた。
「なにっ!!?」
驚愕の声をあげたのは レイドだった。
なぜなら ロイの体から 尋常ではない程 大量の黒いオーラが吹き出し 体にある全ての傷が一瞬で塞がったのだ。
そのままロイは ゆっくりと顔を上げて レイドを睨み付ける。
その睨み付ける瞳は 黄金色に輝いていた。
「半覚醒か!!?」
レイドは そう叫ぶと身の危険を感じ 後方に飛び退く。
半覚醒…
簡単に述べると 覚醒の一歩手前の状態の事を言う。
レイドを睨み付けたまま ゆっくりと立ち上がるロイ。
その顔 体中には無数の血管が浮かび上がっている。
「……自我が無くなりそうだ…
一気に決着を着けさせてもらう…」
そう呟くと ロイの姿が一瞬で消える…
…と同時に レイドの背中がザックリと斬り裂かれ 衝撃でレイドは前方へ転がった。
背後には ロイが立っている。
剰りに一瞬の光速移動。
最早 目で追ったり 魔力を感じ取るレベルの話しではない。
「クソがぁっ!!」
レイドは叫び 転がりながら無理矢理に体勢を整える。
そして 黒いオーラを限界まで大量に放出させた。
「…無駄だ。」
レイドの目に写ったのは 先程まで距離が離れていたはずのロイの姿が目の前にあることと 自分の心臓に深々と突き刺さる大剣だった。
「ゴフッ…!」
激しく吐血し レイドはそのまま息絶えた。
ロイは突き刺さった大剣を ゆっくりと抜き 悲しい表情でレイドを見つめている。
既に瞳の色は元に戻り 半覚醒は解けていた。
「……お前とは もっと別の形で会いたかった…
せめて安らかに眠ってくれ…」
そう呟きながら ロイは意識を失い 豪快に その場に倒れ込んだ。
ロイの体は当に限界を超えて かなりボロボロの状態となっていた。
「ロイ!!」
即座にレオが駆けつけ ロイの体の状態を調べ始める。
脈はあり 呼吸もしているが 弱々しいものであった。
直ぐに治癒魔法で体力を回復させないと危険な状態である。
しかし そんな二人の前に 豪魔邪霊衆 ジダンが立ち塞がったのだった。




