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鋼の刃

転生から六ヶ月。

無力な赤ん坊としての生活は、観察と分析の連続だった。

だが、父・ジャレッドが振るう剣の一撃が、エドゥアルドの常識を打ち砕く。

物理法則を超えた速度、そして衝撃。

この世界には、知られざる「変数」が存在する。

第5話、開戦。

六ヶ月。

この世界が私に「やり直し」を強いてから、半年が経過した。

意味不明な雑音と異質な感覚に翻弄されていた最初の日々とは違う。今は……状況が変わった。

もはや、虚無な音を聞いているわけではない。

理解できる。

完全ではないが、十分だ。

断片的な単語。単純なフレーズ。そして、意図。

生き残るために必要な情報は、掴み始めている。

母の名は、エララ・レスパ。

父の名は、ジャレッド・ヴァンクロフト。

そして、私は……。

アリス。

「ヴァンクロフト」という姓は、聞き流せるようなものではなかった。彼らがその名を口にする時の響き、漂わせる自負……。それは、ただの民草のものではない。重みがある。歴史がある。

だが、その詳細は現在の環境とは合致しなかった。

あまりにも、孤立している。

あまりにも、簡素すぎる。

まるでこの場所だけが……メインの盤上から外された「駒」であるかのように。

もっとも、それを深掘りする時間はまだ与えられていない。

なぜなら今日……。

日常を切り裂く「音」が響いたからだ。

――。

音が先に届いた。

空気を切り裂く、鋭い音。

乾いた。

規則的な。

即座に目を開ける。

家の自然な生活音ではない。

風でもない。

木材の軋みでも、布の擦れる音でもない。

それは……金属音だ。

この身体が許す限りの角度で、わずかに首を巡らせる。

母がそこにいた。

「あら、起きたの?」

彼女が優しく言った。

もちろん、返事はしない。

だが、私が何らかの反応を示したのだろう。彼女は微笑み、私を腕の中に抱き上げた。

「おいで、アリス……外へ行きましょう」

外。

その単語はすでに知っていた。

そしてそこには……新しい何かが待っている可能性が含まれている。

――。

変化は劇的だった。

空気が違う。より冷たく、より清冽だ。

光に目を細めるが、視界が順応すると同時に……理解した。

完全な、孤立。

点在する家々。

広大な平原。

複雑な建造物も、都市化の兆しも一切ない。

ここは村ですらない。

地図から消されたような、隔絶された地点だ。

だが、それ以上分析する余裕はなかった。

あの音が再び響いたからだ。

今度はより鮮明に。

より近く。

視線を向ける。

そこに、彼がいた。

ジャレッド・ヴァンクロフト。

私の父だ。

その手には、剣があった。

構えているだけではない。

娯楽のために振り回しているわけでもない。

彼は「執行」していた。

すべての動きが、洗練されていた。直接的で、無駄がない。

刃は外科手術のような精密さで空気を断ち切り、一切の誤差を許さない軌道を描き出している。

短い歩法。

低い重心。

制御された呼吸。

既視感がある。

あまりにも、見覚えのある動きだ。

内側で何かが反応するのを感じた。

本能。

記憶。

(この男……「分かって」やがる)

母は立ち止まり、彼を凝視していた。

彼女の表情の変化に、私は気づく。

それは単なる感嘆ではない。

誇りだ。

「見えるかしら、アリス?」

彼女は囁き、私を少しだけ前へと差し出した。

私は視線を逸らさなかった。

逸らすことなど、できなかった。

観察すればするほど……。

確信が深まっていくからだ。

あれは、基礎訓練ではない。

習い事のレベルでもない。

実戦を潜り抜けてきた者の動きだ。

そして、目の前で繰り広げられているのは……。

見せるための演武ではない。

「殺す」ために設計された、合理的ロジカルな殺戮の所作。

――。

刃の下で、再び空気が鳴いた。

その瞬間、私の脳裏に一つの思考が鮮明に形を成した。

(この世界には銃器がないのかもしれない……)

(だが、それゆえに……この世界はより危険だ)

――。

私の瞳は、あらゆる動きを追跡した。

分析。

計測。

習得。

もし、彼のような男がこの世界の「基準」なのだとしたら。

この世界が提示する可能性は、私の想像を遥かに超えている。

そして、今の私は……。

そこに到達するには、あまりにも遠すぎる。

――。

だが、それも長くは続かない。

裏庭は単なる空き地ではなかった。本質的には「訓練場キリング・グラウンド」だ。

地面には繰り返された足跡が刻まれ、絶え間ない使用に屈した芝生が剥げ落ちている。衝撃で磨り減った木の柱が数本立ち、武器――少なくとも、この世界で武器と見なされるもの――が立てかけられたラックがあった。

ブレード

母は適切な距離を保って立ち止まり、腕の中の私を抱き直した。最初は何も言わず、ただ見守っていた。

私も同じだ。

ジャレッド・ヴァンクロフトは「練習」などしていなかった。

それが最初に理解したことだ。

一つひとつの動きに「意図」がある。一歩ごとに計算がなされている。エネルギーの浪費も、不要な仕草も一切ない。呼吸は一定で、制御下にある。その視線は特定の標的を捉えてはいないが、決して虚ろでもなかった。

それは、かつて「そこ」にいたことのある者の眼差しだ。

戦場という場所に。

剣の刃が乾いた風切り音とともに空を割る。

一、二、三。鋭い刺突。

そこから、旋回。

流麗。自然。そして、精密。

私の眉――あるいは、今の身体でその機能を果たしている部分――が、反射的にぴくりと動いた。

(素人ではないな……)

分析を修正する。

(ただの兵士ですら、ない)

かつて、これほどまでの身体の「経済性」を目にしたことがある。もちろん形式は違うが、本質は同じだ。私のいた世界では、これほどの練度に達するのは、シミュレーションではない本物の経験を積んだ「工作員オペレーター」だけだった。

人を殺め。

そして生き残り、その技術を研ぎ澄ませてきた者たち。

「いつもこの時間に鍛錬しているのよ……」

母が独り言のように呟いた。私にも聞き取れる、明瞭な声で。

その声に不安の色はない。

あるのは、誇りだ。

それはもう一つのデータを与えてくれた。

最近始めた習慣ではない。それが彼の「在り方」なのだ。

ジャレッドが一瞬動きを止め、剣を数センチだけ下げた。呼吸は依然として安定している。疲労の色すら見えない。

そして直後、彼は私の初期の仮説を根底から覆す行動に出た。

「消えた」のだ。

物理的な意味ではない。だが、私の目――それなりの動体視力を持っている自負はあるが――をしても、彼の身体が異常な速度で側方へと移動したように見えた。瞬きする間に、数メートルを「跳んだ」かのように。

音が、後から届いた。

木の柱を叩く、鈍い衝撃音。

構造物が激しく振動し……打撃の跡に沿って深い亀裂が走った。

私の思考が一瞬、静止した。

(……あり得ない。これは「普通」じゃない)

十分な助走も。

目に見える予備動作も、一切なかったというのに。

あの移動を説明できる明確な物理的論理ロジックなど存在しない。

にもかかわらず、それは現実に起きた。

私の父――もはや、この言葉を避けることはできなかった――は、何事もなかったかのように元の位置へと戻った。

「腕は、まだ鈍っていないようね……」

母が小さな微笑みを浮かべて付け加えた。

私は答えない。

だが内面では、私の全戦術スキームが再構築されていた。

ここは遅れた世界などではない。

ここは……「異なる」世界だ。

決定的に。

もし、剣一本で男がこれほどまでに動けるのなら、銃器の欠如は技術的な弱点などではない。

それは、一つのシグナルだ。

(ここには、別の「何か」がある)

前世には存在しなかったもの。

私が知る「軍事力」を代替し、あるいは凌駕する何か。

赤ん坊の気まぐれな仕草を装い、わずかに視線を落とす。だが実際には、優先順位を再編成していた。

当初の計画は……もはや旧式オブソリートとなった。

知識を持ち込むだけでは足りない。

火薬や近代戦術を再現するだけでは不十分だ。

ここで生き残るつもりなら……。

まずは、この世界のルールを理解しなければならない。

そして、その後に――。

それを、破壊する。

ジャレッドがわずかにこちらへ顔を向けた瞬間、私は再び顔を上げた。

一瞬、視線が交差する。

長くはない。

深くもない。

だが、それで十分だった。

ある種の……違和感を覚えた。

ほんの一瞬、彼が「赤ん坊」を見ていないかのような。

何かに気づいたかのような。

母は気づいていないようだった。彼女はただ、注意を引くように優しく手を挙げただけだ。

「アリスがあなたに会いに来たのよ」

彼女が自然な口調で言った。

ジャレッドが構えを解いた。

不可視の鎧を脱ぎ捨てたかのように、瞬時に身体から緊張が消える。彼は力強い足取りで――より人間らしく、親しみやすい足取りで――こちらへ歩いてきた。

私の前で、彼は足を止めた。

そして何も言わず、私の頭に手を置いた。

重く。

温かく。

確かな、手。

今度は、ぎこちない仕草ではなかった。

それは……意図的なものだ。

「……強く育つだろう」

ようやく、彼が言った。

願いなどではない。

確信として。

なぜかは分からないが……。

その言葉は、父が息子に語りかけるような響きではなかった。

それは一人の戦士が……。

別の戦士を認めた時の、あの響きだった。

そして、この世界で目覚めてから初めて……。

私は、自分は完全な孤独ではないのかもしれない、と感じた。

その後、場の空気は緩んだ。

母がジャレッドと二、三の言葉を交わす。食事のこと、時間のこと……ありふれた日常。その間も、私の思考はフル回転していた。

異常な速度。

質量を超えた衝撃。

完璧な呼吸制御。

(間違いなく……単なる肉体訓練じゃない)

そして、その時――。

「ミャーォ」

その声が、ラジオのスイッチを切ったかのように、私の分析を強制終了させた。

首の動く範囲で目を向けると、そこに奴がいた。

猫。

黒く、優雅に。

中庭の低い梁の上に陣取っている。まるでずっとこの光景を観察していたかのように……あるいは、値踏みしていたかのように。

(また貴様か……)

いつからだろうか、こいつが鼻につき始めたのは。

絶妙なタイミングで現れる、その出没の仕方のせいか。

あるいは、あの忌々しい眼差しか。

普通の動物の目ではない。

それは……意思がある。

あまりにも、明確な。

猫は不遜なほどしなやかに地面へと飛び降り、ここが自分の領土であるかのように、計算された足取りで近づいてきた。

父は一瞥しただけで、母は微笑んでいる。

一方、私は「イエローアラート」を起動した。

(気に入らんな……)

猫が近づいてくる。

さらに。

さらに。

私の目の前、数センチの位置まで。

奴は座り。

首を持ち上げた。

視線が、交差する。

静寂。

一秒。

二秒。

三秒。

「ミャーォ」

(……何が望みだ?)

私は、わずかに目を細めた。

奴も、同じように目を細めた。

……ほぼ、確信した。

(いや、待て)

違う。

違う。

違う。

(まさか、この忌々しい猫が私を……「挑発」していると言うのか)

小さな手を、奴の方へ動かす。戦略というよりは、本能的な仕草だ。

失策エラー

重大な失策だ。

猫の反応は、数ミリ秒。

退かない。

怯えない。

進み出た。

そして、洗練された――あまりにも洗練された――動きで、私の手が触れる前に、自分の肉球をそこに添えた。

私を、拘束した。

完全に。

脳がそれを処理するのに、コンマ五秒を要した。

(……私は今、猫を相手に……不覚を取ったのか?)

指を動かそうと試みる。

無駄だ。

正確な圧力。爪はない。攻撃性もない。

ただ……制御コントロール

猫が、わずかに首を傾けた。

誓う。

誓ってやる。

それは、明らかな「見下し」だった。

奥から、柔らかな笑い声が聞こえた。

「あら、アリスのことが気に入ったみたいね」

母が、明らかに面白がっている口調で言った。

(気に入った?)

(私を、完全に「支配」しているんだぞ!)

威厳を取り戻そうと試みる。

失敗だ。

猫は自ら私の手を解放した。まるで、自分の目的は果たしたとでも言うように。

きびすを返し、数歩歩き……。

去り際に、肩越しに振り返った。

まっすぐに、私を。

その金色の瞳が、夕暮れの光を一瞬だけ反射した。

そして――。

奴は去った。

急ぐ風もなく。

音もなく。

何事もなかったかのように。

私は静止した。

処理中。

再評価中。

すべての変数を、完全に再計算中。

(……最優先事項の、変更)

いいだろう。

新しい目標を、追加。

優先度:高。

(あの忌々しい猫の正体を、突き止める)

もし、この世界において動物ですらこれほどのことができるのなら……。

間違いなく……。

私は、とんでもないトラブルの真っ只中にいる。

母は私を腕の中に抱き直した。今起きた静かな戦争など、微塵も気づいていない様子で。

父は訓練へと戻った。

風は吹き続け。

すべては……「日常」のように見えた。

だが、私はもはや、この場所を単なる孤立した家とは見ていなかった。

ここは、別の場所だ。

未知の変数に満ち溢れた、環境。

人間の。

あるいは……そうでない、何かの。

ゆっくりと目を閉じる。この身体が持つ抗いがたい疲労に、身を任せる。

だが、眠りが私を捉えるその瞬間ですら……。

一つの思考が、脳裏を横切った。

(第一。この世界を、理解すること)

ポーズ。

(第二。より強く、なること)

もう一つ、ポーズ。

そして、最後の一つ。より個人的な。

(第三。二度と、猫に敗北しないこと)

第5話をお読みいただき、ありがとうございます!

元精鋭工作員のエドゥアルド(アリス)が、まさか猫に完敗するとは……。

ジャレッドの異常な強さと、謎めいた黒猫の正体。

この平穏な家には、まだまだ秘密が隠されていそうです。

アリスの「打倒・猫」への道を応援してくださる方は、

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次回、アリスがこの世界の「ルール」に一歩踏み込みます。お楽しみに!

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