ここはどこだ?
視点は宇宙の深淵から、新たな世界の片隅へと移ります。
エドゥアルドが目にした「光」と「闇」の正体とは……。
第1話、お楽しみください。
あの無限の深淵、その薄暗がりに身を置いた時、私が最初にしたことは「観察」だった。
そこには、何もなかった。
だが、不思議と恐怖は感じなかった。
痛みもない。
私の胸を打ち砕いたはずの傷跡も、跡形もなくなっていた。
タクティカルギアの重みも、血の鉄の味もしない。
すべてが……静寂に包まれていた。
まるで宇宙全体が、私と共に息を潜めているかのように。
一歩、踏み出す。
足元には存在しないはずの、見えないが確かな感触があった。深く考えずに歩を進める。その時の私の精神は、反応することよりも理解することに集中していた。
そして、それを見た。
光だ。
絶対的な虚無の中にぽつんと浮かぶ、かすかな小さな点。
私は近づいた。
歩みを進めるごとに、その火花は大きくなっていく。それは眩しくもなく、攻撃的でもなかった。温かく……どこか懐かしい。周囲を照らすのではなく、私を直接呼び寄せているかのような明澄さ。
その時、静寂が変化した。
虚空の中に、囁きが形を成し始める。
かすかで、絶え間ない。
遠くの森を抜ける風のような……あるいは、隠された川の流れのような音。
もう一歩、踏み出す。
そして、私は立ち止まった。
自分の意志ではない。
身体が、単純に反応を拒んだのだ。
周囲の空間が強張った。まるで現実が突如として凝固し、虚無のど真ん中に私を閉じ込めたかのように。
目の前で、光が動き始めた。
それは通常の移動ではなかった。
躍動している。
生きているかのように、不自然な俊敏さでうごめいていた。
そして……。
さらに現れた。
最初は数個。
次に数十。
そして数百。
数秒のうちに、深淵は光で埋め尽くされた。
数千、数百万。
星空を眺めているようだった……だが、上下が逆だ。
光は上にあったのではない。
あらゆる場所に、存在していた。
パターンを分析するよう訓練された私の脳が、本能的に動き出す。
それらは均一ではなかった。
そこには「階級」があった。
最初の光――最も巨大なものが、空間を支配していた。
「原初の光」。
その周囲では、数百万の小さな光が巨大なネットワークを形成している。
だが、その法則を乱すものがいた。
「異常」。
もう一つの光があったのだ。
最初の光を除けば、他のどれよりも巨大な光が。
私は、それと同じようなものを探した。
だが、他にはなかった。
それは唯一無二の存在だった。
その光に対して、奇妙な繋がりを感じた。
本能か、あるいはそれ以上の何かか。
しかし、その感覚は一瞬にして消え去った。
光が……変貌を始めたのだ。
その内側から、何かが現れた。
それは光ではなかった。
「闇」だ。
だが、単なる光の不在ではない。
すべてを飲み込む「虚無」そのものだった。
変貌は速かった。暴力的で、そして静かだった。
特異な光は悶え苦しみ……そして、もはや光ではなくなった。
今は別の「何か」だ。
一つの意志を持った存在。
命を宿した闇。
そして、それは動いた。
速く。
正確に。
捕食者のように。
それは他の光たちへと躍りかかった。
私はそれをはっきりと目撃した。
接触するたびに、それは「感染」していった。
光たちの内側で闇が生まれ、核から彼らを食い尽くしていく。
数秒のうちに、均衡は崩壊した。
深淵の三分の一が奪われた。
そして、戦争が始まった。
音はなかった。
叫び声もなかった。
だが、私は感じ取った。
これは、紛れもない「戦闘」だ。
純粋な光たちは再集結し、組織化しようと試みていた。
だが、闇は違った。
混沌としていた。
予測不能で、執拗だった。
初めて、私は理解した。
私は単なる傍観者ではない。
その渦中にいるのだと。
もし、あの「モノ」に追いつかれたら……。
帰還する術はない。
大尉としての本能が、選択肢を探り始める。
遮蔽物。
脱出口。
いかなる戦術的優位性でもいい。
だが、何もなかった。
目の前で宇宙が壊れていくのを、ただ見守ることしかできなかった。
次々と、光たちが墜ちていく。
闇は拡大を続けていた。
抗う術もなく。
だが、何かが変わった。
一つの光。
小さく。
ほとんど無価値に等しいほど微かな光。
しかし、それは燃え始めた。
その輝きが変貌する。
白から……青へ。
強烈な、蒼。
暴力的で。
鮮烈な、蒼。
それは闇へと躍りかかった。
理屈では説明がつかない。
それはあまりにも弱すぎたはずだ。
だが、退かなかった。
耐え抜いたのだ。
そして……。
押し返した。
エネルギーの爆発と共に、それは影の侵攻を食い止め、深淵の端へと追いやり、強制的に撤退させた。
「境界」が生まれた。
目には見えない。
だが、確かな真実として。
そして、それと共に……。
均衡は永遠に姿を変えた。
境界は維持された。
一瞬の間……すべてが調和の中に留まった。
光たちは、以前のようには動かなくなった。もはや秩序のない混沌とした集団ではない。その本質において、何かが決定的に変わったのだ。
私は即座に気づいた。
もはや「大きさ」だけの違いではない。
今や……より深い、根本的な違いが生じていた。
「色彩」。
いくつかの光が変貌し始めた。
あるものは、測り知れない知識を秘めているかのように、静謐な輝きを放つ「紫」へと。
あるものは、虚無の中の小さな太陽のように、温かく支配的な力を宿した「黄金」へと。
そして多くは、そのまま「白」として留まった。
純粋に。
不変に。
かつて一様だった深淵は、今や生きたモザイク画となっていた。
一つのシステム。
一つの均衡。
そして、その中心で……。
「原初の光」が再び動き出した。
だが、今度は先ほどとは違う。
その舞いは、より緩やかで。
より……慎重だった。
まるで、何か別のものを創り出そうとしているかのように。
その核から、一筋の火花が放たれた。
たった、一つだけ。
小さく。
現存するどの光よりも、弱々しい。
ほとんど認識できないほどに。
それは「蒼」のような力も持たず。
「黄金」のような威圧感もなく。
「白」のような安定感もなかった。
それは……脆かった。
だが、その中にある何かが私の目を引いた。
それが「何であるか」ではなく。
それが「どのように見守られているか」によって。
原初の光のすべての注意が、その小さな火花に注がれていた。
まるで……特別なものであるかのように。
火花は降下していく。
中心から遠ざかり。
深淵の孤立した隅で静止した。
穏やかな場所。
争いもなく。
圧迫感もない場所。
原初の光が、その後を追った。
侵食するようにではなく。
ただ……守るように。
そして……。
再び、それは起きた。
もう一つの火花が生まれたのだ。
先ほどよりは、わずかに明るい。
だが、同じように脆い光。
今や、二つになった。
理解を超えた力の海に浮かぶ、二つのちっぽけな点。
それなのに……。
深淵全体が、それらを見守っているかのようだった。
まるで……重要なものであるかのように。
その存在が、何かを変えてしまうかのように。
二つの小さな光は動き始めた。
ゆっくりと。
好奇心を持って。
恐れることなく。
探索するように。
そして、辿り着いた。
「境界」へ。
限界の地。
光と闇が共存する場所。
即座に緊張が走るのを、私は感じた。
何かが起きようとしている。
闇が、反応した。
「特異点」が。
それは動いた。
速く。
真っ直ぐに。
それらを目掛けて、躍りかかった。
怒りゆえではなく……。
怒りゆえではない。明確な「意図」をもって。
それは、二つの光を包み込んだ。
そして、飲み込んだ。
光は消えた。
一瞬、すべてが終わったのだと思った。
だが、その時……。
閃光。
闇の内側から。
彼らは戻ってきた。
無傷のままで。
「特異点」は再び試みた。
何度も。
何度も。
何度も。
それらを喰らい。
破壊し。
絶対的な黒の中へと封じ込める。
だが、常に……。
彼らは必ず、帰還した。
その光は再び灯る。
変質することなく。
屈することなく。
その時、私は理解した。
彼らは「強い」のではない。
「強大」な力を持っているわけでもない。
ただ……「破壊できない」のだ。
そしてそれは、いかなる力よりも危険な性質だった。
すると、新たなことが起きた。
他のどの光もなさなかったこと。
彼らは増殖したのだ。
他とは違う。
外部からの創造によって現れるのではない。
自らを分かち。
複製し。
さらなる光を生み出していく。
等しく。
脆く。
だが、執拗に。
彼らがいた隅は、瞬く間に埋め尽くされていった。
一つのネットワーク。
生きたシステム。
増殖し続ける。
制御不能なまでに。
その瞬間……。
私は悟った。
あれは、我々だ。
「人類」だ。
闇の前では無力。
だが、決して消え去ることはない。
倒れても……再び立ち上がる。
死してもなお……何かを後に残していく。
しかし、闇は止まらなかった。
変化したのだ。
もはや力任せには襲わない。
動きが変わった。
より緩やかに。
より……狡猾に。
「特異点」は、その小さな光の一つを取り囲み始めた。
触れず。
喰らわず。
ただ、影響を与えていく。
困惑させていく。
その光が躊躇するのを、私は見た。
揺らぎ。
そして……。
道を外れた。
それは、同種の別の光へと近づいた。
そして――。
衝突。
暴力的。
直接的。
打ちつけられた光は……。
消えた。
帰還することなく。
抗うこともなく。
ただ、消失したのだ。
深淵が……反応した。
その時が来たのだ。
最初の一歩。
臨界点。
「最初の殺人」。
特異点は躊躇わなかった。
攻撃を加えた光へと襲いかかる。
弱体化したその光へ。
そして、今度は……。
帰還はなかった。
抵抗もなかった。
闇がそれを完全に喰らい尽くした。
それはそのまま留まった。
堕落し。
喪失し。
永遠に。
胸の内に、何かを感じた。
恐怖ではない。
それは……「理解」だった。
人類はただ闇に抗うだけではない。
自らが闇そのものに変貌することもあるのだと。
反応は即座だった。
原初の光が……応えた。
静寂ではない。
忍耐でもない。
深淵全体を震わせるほどの、エネルギーの爆発。
それは単なる力ではなかった。
「怒り」だ。
「喪失」だ。
そして……「審判」だった。
光たちが震える。
境界が張り詰める。
闇もまた、それに応じた。
特異点はうごめき、その影響力を拡大させていく。まるで、さらに巨大な「何か」に備えるかのように。
二度目の戦争が始まろうとしていた。
だが今度は……。
単なる生存競争ではない。
「殲滅」だ。
光はもはや抗うことを求めていない。
根絶を求めていた。
均衡が崩壊していく。
両陣営が衝突の構えをとる。
そして――。
深淵が引き裂かれた。
爆発ではない。
衝撃でもない。
それは……「傷跡」だった。
現実そのものを貫く巨大な亀裂。まるで外部の何かが、介入を決めたかのように。
その亀裂から……。
それは現れた。
「実体」。
定まった形はない。
光も持たない。
だが、闇でもなかった。
その存在は、形容しがたいものだった。
色彩ではなく。
影でもない。
それらすべてを超越した、別の何か。
私の精神では……処理しきれない代物。
だが、本能がそれを理解した。
それは争いの一部ではない。
さらに高次の存在。
以前から存在し。
以後も存在し続けるもの。
その存在だけで、すべてが静止した。
原初の光が……止まる。
特異点も……同様に。
深淵全体が、沈黙に包まれた。
いかなるものよりも深い、静寂。
実体は何かが伸ばした。
腕か。
触手か。
私にはわからない。
だが、それは小さな光たちが墜ちた場所を、真っ直ぐに指し示した。
それは攻撃ではなかった。
保護でもない。
ただ、観察していた。
評価していた。
そして、私はそれを感じた。
その視線を。
私への、注目を。
そこには、意識を持つ者は他に誰もいなかった。
私だけが……唯一の目撃者だった。
何が起きているのかを理解できる、唯一の存在。
「パチン」と、音がした。
乾いた。
絶対的な、断絶の音。
音は空気を伝わったのではない。
存在そのものに、響いたのだ。
そして、すべてが崩壊した。
光も。
闇も。
秩序も。
すべてが混ざり合い、歪んでいく。
あり得ないほどの巨大な渦へと変貌した。
あらゆる構造を飲み込む、エネルギーの旋風。
そして――。
白。
すべてが白に染まった。
先ほどとは違う、別の虚無。
盲目にするほどに。
純粋な、白。
その瞬間……。
私は再び、動き出した。
身体が応える。
手も。
足も。
すべてが戻ってきた。
だが、地面はない。
方向さえない。
ただ、果てしない白があるだけだ。
一歩、踏み出す。
そして、それを感じた。
恐怖ではない。
もっと重く。
もっと深いもの。
「審判」だ。
ゆっくりと、振り返る。
実体がそこにいた。
目の前に。
形もなく。
顔もない。
だが、それが私を見つめていることは分かった。
私の身体を見ているのではない。
傷跡でも。
軍服でもない。
その先を見ていた。
あらゆる決断を。
あらゆる死を。
あらゆる犠牲を。
私が何者であったか、すべてを。
私がなしたこと、そのすべてを。
まるで、私の魂を読み取っているかのようだった。
何かを探し。
評価している。
やがて、それは語りかけた。
だが、音ではない。
声でもない。
それは「概念」だった。
「思考」そのもの。
私の脳に直接、流し込まれた概念。
理解することのできない言語。
だが、どういうわけか……。
それが重要であることだけは、分かった。
理解しようと試みる。
だが、できなかった。
それは、あまりにも。
あまりにも古の。
あまりにも……絶対的なものだった。
背後で、再び混沌が渦巻き始める。
旋風。
光と闇が再構築されていく。
戦争を継続するための準備。
だが、そんなことはどうでもよかった。
実体は、すでに何かを決断していたのだから。
それは動いた。
あるいは、動くことに相当する何かを。
「手」のようなものを伸ばし。
そして、私の額に触れた。
その瞬間――。
光。
以前のようなものではない。
外部からではなく。
内側からの、光。
私の中の何かが、打ち砕かれるのを感じた。
そして同時に……。
再構築されていく。
あらゆる記憶。
あらゆる経験。
私を構成するすべてが……。
分解され。
再編され。
書き換えられていく。
痛みはなかった。
だが、耐え難い感覚。
私という存在であることをやめ……。
別の「何か」へと変貌していくような感覚。
私の肉体。
本当の肉体。
ヘリコプターの中に残してきたはずの……。
それは遠く、疎遠なものに感じられた。
無価値な、脱ぎ捨てられた殻のように。
そして……。
空間が変容した。
光が伸びていく。
それはトンネルとなり。
導管となり。
「道」となった。
抗うことのできない、強大な力を感じる。
私は引きずられていく。
すべてから遠ざけられていく。
実体からも。
戦争からも。
深淵からも。
そして――。
暗闇。
静寂。
それから……。
光。
私は目を開けた。
すべてが霞んでいる。
重く。
緩慢。
だが、違っていた。
深淵はない。
実体もいない。
そこには……一つの「世界」があった。
現実の。
確かな。
最初に視界に入ったのは、天井だった。
木材。
太い梁。
どっしりと、暗い色。
コンクリートとも、金属とも、戦場とも無縁なもの。
樹脂の匂いがした。
煙の。
何か……「生きたもの」の匂い。
瞬きをする。
息を吸う。
そして、一つの問いだけが脳裏をよぎった。
「……ここは、どこだ?」
読んでいただき、ありがとうございます!
ついに新しい世界での第一歩(?)が始まりました。
続きが気になる、あるいは応援してくださる方は、ぜひ評価やブックマークをいただけると励みになります。
次回、エドゥアルドに何が起きるのか……お楽しみに!




