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前兆

シャドウ・コマンドの皆様、第17話をお届けします。

嵐の後に訪れた静寂――

新たな家族、エイラの誕生と、その名の由来。

一見、ヴァンクロフト家は平穏を取り戻したかのように見えますが……

外の世界では、すでに何かが動き始めています。

もし分かりにくい表現や不自然な日本語があれば、ぜひコメントで教えてください。海外から執筆しているため、翻訳に苦戦することがあります。皆様のアドバイスをいただけると、とても助かります。

いつも応援ありがとうございます。

物語を楽しんでいただければ幸いです。

嵐は去った。

だが、完全ではない。

空気は依然として湿り気を帯び、重かった。

雨が上がった後も、何かが漂い続けているかのような感覚。

それでも……。

屋敷の中は、すべてが日常へと戻っていた。

あるいは、少なくとも……彼らにとっての「日常」の形に。

「嫌だ」俺は腕を組み、言い放った。

「いいえ」アズミが即座に、一歩も引かずに応戦する。

「嫌だ」

「いいえ」

「嫌だ」

「アリス……」母さんが静かに割って入った。その声には、限界に近い忍耐が混じっている。

「嫌なものは嫌だ!」俺は母さんを見つめ、主張を曲げなかった。

壁に寄りかかっていた父さんが、低い笑い声を漏らした。

「名前を決めるのが、お前を鍛えるより難航するとはな」彼は楽しげに言った。

「俺を鍛える方が、よっぽど筋が通ってる」俺は呟いた。

アズミが舌打ちをする。

「あんたの意見も重要視されてるのよ、嫌でもね」彼女は腕を組み、付け加えた。「……だってお兄様おにいさまなんだから」

「その通りだ」俺は答えた。「だから兄として、嫌だと言っている」

シズカは傍らで、いつものように口を挟まず静かにその光景を眺めていた。

ベッドに座った母さんは、赤ん坊を慎重に抱いている。

周囲の小さな喧騒などどこ吹く風で、彼女は穏やかだった。

エリガクも、すでにそこにいた。

母さんの足元に丸まり、すべてを見透かしているようなあの瞳で、事の成り行きを観察している。

「私は『リリア』がいいと思うわ」アズミが食い下がる。

「エルフみたいな名前だ」俺は考えずに切り捨てた。

アズミが眉をひそめる。

「……それで?」

「エルフじゃないだろ」

「私も完全に人間ってわけじゃないわよ」アズミが視線を外さずに言った。

「それは何の助けにもならない」

「助けになるわ」

「ならない」

「なるわ」

「嫌だ」

「いいえ」

「アリス」母さんが、静かに、だが制するように呼んだ。

「……何?」

視線を上げる。

彼女の紫の瞳が、重要な何かが起きる前に見せるあの静謐さで、俺を捉えた。

「……なら、あなたが提案しなさい」彼女は優しく言った。

不意に、静寂が落ちた。

全員が俺を見た。シズカまでもが。

「……」

「待ってるわよ」アズミが薄く笑みを浮かべて急かす。

俺は腕の中の妹に視線を落とした。

彼女は起きていた。

あの小さなフクシア色の瞳は、特定の何かを追うでもなく動いている。

だが、それでも……。

その瞳には、何かがある。

あの感覚。消えることのない、あの微かな鼓動パルス

俺はゆっくりと息を吐き出した。

「……エイラ (Eira)」

言葉は、力まずにこぼれ落ちた。

まるで、ずっとそこにあったかのように。

誰かに呼ばれるのを待っていたかのように。

「エイラ……」母さんがその名を確かめるように、低い声で繰り返した。

父さんがわずかに首を傾ける。

「いい響きだ」彼は肯定するように言った。

アズミは数秒間沈黙し、それから答えた。

「……悪くないわね」

彼女からすれば、それは事実上の「イエス」だった。

シズカが一瞬、目を閉じた。

「ふさわしい名です」最後に彼女が付け加えた。

俺は母さんを見た。

「……気に入った?」

エララは赤ん坊に視線を落とし、柔らかく微笑んだ。

「ええ……気に入ったわ」

彼女は慎重に産着を整える。

「エイラ」

赤ん坊が小さな声を漏らした。

あたかも、その名に応えるかのように。

「よし、決まりだな」父さんが宣言した。「エイラ・ヴァンクロフトだ」

「ようこそ、エイラ」アズミも、今度は皮肉抜きで言った。

俺は少し声を潜め、わずかに身を乗り出した。

「……さっさと大きく育ってくれよ」

「何のために?」アズミが横目で聞いてくる。

「俺が『格好の標的』じゃなくなるためだ」

「それは無理ね」彼女は断言した。

「……希望くらい持たせてくれ」

微かな鳴き声が、俺の注意を引いた。

横目で見ると、エリガクがさらに近くに寄っていた。

いつの間にか元の場所を離れ、じっと赤ん坊を見つめている。

「……変なことすんじゃねえぞ」俺は釘を刺した。

猫はゆっくりと瞬きをし、俺を完全に無視した。

そして当然のように、最初からそこが定位置だったかのように、居座った。

赤ん坊が小さな声を漏らした。

するとエリガクは……ただ、じっと彼女を見つめた。

静かに。

あたかも、その存在を受け入れたかのように。

俺は溜息をついた。

「……最高だな」

腕を組む。

「家族が一人増えた……。あいつも、その一員ってわけだ」

アズミが小さく笑った。

「あんたの影が薄くなっていくわね」

「最初から薄いよ」

父さんは楽しげに首を振った。

一瞬……すべてが軽く、平穏に感じられた。

まるで昨夜の嵐など、最初から存在しなかったかのように。

だが、それでも……。

エイラを見つめている間、あの感覚は消えなかった。

穏やかで、静かな。

そして完全に……「場違い」な、あの鼓動パルス

……。

その日の午後。

父さんとシズカは中庭に立ち、空を見上げていた。

空気は依然として奇妙だった。

雨は降っていない。だが、平穏でもない。

「……普通の嵐ではありませんでした」ようやくシズカが言った。

声は低かったが、確信に満ちている。

父さんはすぐには答えなかった。

中庭の端に立ち、腕を組み、地平線をじっと見つめている。

思索にふける表情だ。

「……あの嵐には、魔術の片鱗へんりんが混じっていた」ようやく彼は答えた。

シズカがわずかに目を細める。

「私の村が……数年前に起きたことと似ています」彼女は続けた。「魔物や悪魔に滅ぼされる前、同じような嵐が吹きました」

父さんは鼻から息を抜いた。

苛立ち、考え込んでいる。

「……ここ数年、この辺りで悪魔の活動などなかったはずだ」

「だからといって、二度と起きないという保証にはなりません」シズカは迷わず返した。

反論はなかった。

それが真実であることを、二人とも知っていたからだ。

「それに……」彼女は顔をわずかに向け、付け加えた。「……同じではありませんでした」

父さんが彼女を見た。

「どういう意味だ?」

「もっと……弱かったのです」

「弱い?」

「ええ。まるで、遠く離れた場所にあるかのような」

彼女は短い間を置いた。

「あるいは……完全に具現化していないかのような」

再び風が吹いた。より冷たく。

「……気に入らんな」父さんが呟いた。

「私もです」

その後の沈黙は短かったが、より張り詰めていた。

「……それと、もう一つある」父さんが付け加えた。

シズカは微かに眉をひそめる。

「何です?」

「アリスだ」

その名が、空中に漂う。

「……彼が、何か?」シズカが尋ねた。

父さんは空から視線を外さなかった。

「あいつも……気づいていたようだった」

シズカは彼を真っ直ぐに見た。

「……あの子が、それを感知できると言いたいのですか?」

父さんは躊躇ためらった。ほんの一瞬。

「……わからん、シズカ。俺にはわからんのだ」

彼はわずかに声を潜めた。

シズカは、アリスのいる屋敷の方へと視線を移した。

「……あの子は、もうすぐ七歳になります」

「わかっている」

「こんな事態に巻き込まれるべきではありません」

「巻き込んではいない」父さんが断固として答えた。

シズカは微かに首を振った。

「ですが、巻き込まれる『可能性』はあります」

沈黙がより重く、より居心地の悪いものに変わる。

父さんは一瞬、目を閉じた。そして、息を吐く。

「……まだあるんだ」彼は言った。

シズカが再び彼を見る。

「エララがお産に臨んでいる最中……アリスが俺に聞いたんだ。『今の鼓動パルスを感じなかったか』とな」

シズカの身体が、わずかに強張る。

「……鼓動、ですか?」

「ああ……」父さんが呟いた。「だが、どういう意味だと聞き返すと……あいつは何も言わなかった」

再び風が吹いた。

乾いた葉を地面に引きずりながら。

「……あの子の頭の中には、一体何があるのでしょうね」シズカが低い声で問いかけた。

父さんは数秒間、沈黙を守り、考え込んでいた。

「……わからん」ようやく彼は言った。「だが、それが何であれ……俺は不安でならない」

シズカは、答えなかった。

「シズカ」父さんが付け加えた。「……このことは誰にも口にするな」

彼女は彼を見つめた。

「……誰にも、ですか?」

「エララにもだ」

シズカは視線を外した。

「……彼女には、特にですね」

再び風が吹いた。

より穏やかに。だが、決して平穏ではない風。

「今は……静観だ」父さんが言った。

シズカは頷く。

「もし、また同じことが起きれば……」

父さんは言葉を最後まで口にしなかった。

その必要がなかったからだ。

二人は理解していた。その意味するところを。

もしあの感覚が現実のものだとしたら……。

昨夜の嵐など、問題ですらなかったのだ。

それは……。

ただの「警告」に過ぎなかったのだから。

……。

ここより遠く離れた場所。

森がより深く、道がもはや安全ではなくなる場所。

その村の住人たちは、自分たちに何が起きようとしているのか、まだ理解していなかった。

「門を閉じろ!」

土ぼこりの舞う通りに、叫び声が響き渡った。

「急げ!」

武装した男たちが前線へと飛び出す。

剣。槍。

そして数人は……。

微かな光に包まれた、震える手。

「何が起きているの?」一人の女性が、息子を抱き寄せながら尋ねた。

「わからん……だが、何かが来るぞ」

その時――。

森が、それに応えた。

咆哮。

深く、おぞましい、およそ自然界のものとは思えない響き。

木の葉が激しく揺れ、影がうごめく。

そして、奴らが現れた。

異形の群れ。数十体。

歪んだ肉体を引きずり、跳ね、不規則な動きで疾走してくる。

ぎらつく瞳。

剥き出しのあぎと

「今だ!」

先頭の男が突撃した。

剣を高く掲げて。

彼の武器が、わずかに輝きを帯びる。

魔力付与エンチャント」による強化。

衝撃。

刃が一体目の獣の首を断ち切った。

血。

どす黒く、粘り気のある飛沫が地面を叩く。

獣は倒れた。

だが、すでに別の個体がその上に躍りかかっていた。

「危ない!」

……遅すぎた。

一撃の爪が男の胸を切り裂く。

叫び声が、喉の奥でかき消された。

「止まるな!」別の男が叫ぶ。

足元に魔法陣が形成された。

小さく、不安定な紋様。

「放て(ファイア)!」

爆炎が前方へと吹き荒れた。

数体の獣を直撃し、焼き尽くし、後退させる。

「やったぞ!」

だが、歓喜は長くは続かなかった。

炎の中から、一体が飛び出してきたのだ。

身体を焼かれながらも……生きて。

跳躍。

男を押し倒す。

牙。爪。鮮血。

混沌カオスが爆発した。

ぶつかり合う剣。不発に終わる魔法。

悲鳴。崩れ落ちる肉体。

獣たちは、獣のようには戦わなかった。

奴らは……統制コーディネートされていた。

あたかも、何かに従っているかのように。

「包囲されているぞ!」

「撤退だ!」

だが、すでに手遅れだった。

槍が一体を貫けば、別の個体が槍使いの腕に食らいつく。

一人が膝をつき、もう一人が助けようとする。

そして、二人とも暗闇の中へと引きずり込まれていった。

地面が染まっていく。

赤く。

空気が鉄の匂いで満たされた。

そして――。

すべてが止まった。

唐突に。

異形たちがその動きを凍らせる。

恐怖からではない。

「命令」によるものだ。

森が……割れた。

一歩。また一歩。

一人の人影が姿を現す。

人間。

……に近い何か。

あまりにも静かで、あまりにも直立不動な。

生き残った者たちは後退した。

本能的に。

「……嫌だ……」

一人が剣を落とした。

「助けてくれ……」

人影は答えなかった。

その瞳が村を見渡す。

緩慢に。冷酷に。

値を踏むように。

あたかも、そこにあるすべてに価値などないかのように。

彼はわずかに手を上げた。

異形たちが強張る。

待ち構えているのだ。

「捜せ」

その命令は、宣告のように下された。

そして、地獄が再開される。

だが今度は……。

実質的な抵抗など、どこにもなかった。

異形たちが散らばっていく。

家々に押し入り、扉を砕き、見つけたものを引きずり出す。

悲鳴が戻ってきた。

より絶望的に。より、短く。

子供を抱いた一人の女性が逃げようとした。

長くはもたなかった。

影が彼女を覆い……。

そして、何も聞こえなくなった。

魔力を纏わせた剣を手に、一人の男が突撃した。

「死ねぇッ!」

彼は一体の異形を切り伏せた。

一体。二体。三体。

一瞬だけ……。

可能性チャンスがあるかのように見えた。

背後から「何か」が彼に届くまでは。

男の膝が折れ、二度と立ち上がることはなかった。

魔法の爆発が続く。

小さく、絶望的で、無意味な抵抗。

炎が家々を焼き尽くし、煙が空を覆う。

その只中を、人影は歩いていた。

急ぐ風でもなく。

観察し、記録するように。

一体の異形が戻ってきた。

地面を這い、彼の前で止まる。

その身体は返り血に濡れていた。

「……りませぬ」

人影は、わずかに首を傾けた。

「ここには居ないか」

驚きはなかった。

それは、ただの「結論」だった。

彼は顔をわずかに向けた。

遠く、地平線の先を見据える。

森の、さらに向こう側を。

「……だが、近いな」

風向きが変わった。

一瞬だけ。

炎がなびく。

あたかも、目に見えない何かが応えたかのように。

「……十分に、近い」

異形は頭を垂れ、待っている。

「移動するぞ」

簡潔に。真っ直ぐに。不可避な響きで。

人影は背を向けた。

異形たちが撤退を始める。

一体、また一体と。

後に残されたのは、静寂と。

燃え盛る炎だけだった。

破壊。

村は燃えていた。

ゆっくりと、灰へと還っていく。

目撃者もおらず。

記憶も残らず。

未来さえもついえて。

影たちが木々の間に消えていく中……。

人影は進んだ。

急ぐこともなく。

なぜなら、彼は知っていたからだ。

遅かれ早かれ……。

「捜し物」は見つかるのだと。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

ついに「エイラ」という名が決まりましたが、その祝福を塗りつぶすかのような惨劇。

村を襲った「あの人影」の正体は、一体何者なのでしょうか。その性別も、目的も、すべてが謎に包まれています。

「……だが、近いな」

その言葉が意味するターゲットとは……。

ここから先の3話、物語は一気に「極限状態」へと突入します。

アリスたちの運命を援護したい方は、ぜひ【☆☆☆☆☆】の評価とブックマークで、その決意を示してください!

作戦継続。次回の更新を待て!

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