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寝癖君

 その日は数学の先生が急遽休みになり、数学の時間は自習。予定されていた小テストも延期となった。


 延期ということは、結局後で小テストを後日受けないといけない。

 けれど、なくなった日はちょっと得した気分。

 やっぱり寝癖君にあった日はいいことある。

 


 そんな密かな楽しみがある日々が過ぎていたのに、一週間ほどまえからいつもの時間のいつもの車両に乗っていなくなった。


 寝癖君の友達君はいつもの車両に乗っているから、乗る車両を変えた訳ではなさそう。

「体調悪くなっちゃのかな?」

 こんなに長い間姿を見ないのはのは、さすがに心配になる。

 友達君に声をかけて訊いてみたいけど、友達君からしたら『誰だこいつ?』ってなると思う。


「私たちに運を分けてくれていたから、なにか不運なことがあったり……」

 眉頭を寄せ、雪乃は本当に心配そうに、寝癖君の定位置である入り口付近を見た。

「そうだったら、なんだか申し訳ない……。それに私の朝の至福の時が〜」

 寝癖君にを見かけた時、あれだけ幸運が続いた。


 雪乃の考えも、わりと本当のことかもしれない。

 しかも寝癖君を見かけると『今日も頑張ろう』って頑張れる。

 つられて私も寝癖君の定位置に目を向けると、友達君と目があった。


「「わぁ」」

 はじめて目が合い驚いたけど、それと同時に友達君のイケメンっぷりにも驚いた。


 今まで寝癖君に気がとられ過ぎていたので、友達君にまで目がいっていなかった。

 それでもチラリと見える横顔が綺麗だってことはなんとなくわかっていた。

 けど、ここまで爽やかイケメンだとは思わなかった。


 イチョウや楓が色付き始めた頃なのに、友達君の肌はまだまだ夏の名残を残しこんがり焼けている。

「わぁ〜イケメンだね〜」

 見惚れているとバッチリ目が合い、ニコリと微笑まれた。


「凛華……今、友達君と目が合ってるよね……」

「うん、合ってる……」

 乗客が少なくなり移動しやすくなったからか、寝癖君の爽やかイケメン友達君が私たちの方に歩いてくる。


「こっちに向かってきてるよね……」

「うん、来てる……」

「凛華、どうしよう……逃げる?」

「逃げる? どうする? 逃げる?」

 イケメンが私達に向かって歩いてくる。


 今までそんなことなかったから、どうしたらいいか迷っている間に、目の前で友達君が止まった。

「おはようございます」

 ペカ〜っと音が背後から鳴ってそうなほど眩い笑顔を向けられて、目が眩む。


「おはよう……ござい、ます……」

 友達君の眩い笑顔に圧倒されつつ、挨拶を返す。

「兄は今、修学旅行中で明後日帰ってきます」

 また後光が差し掛かったような笑顔が向けられた。


「……へ?」

 色々ツッコミどころ満載の情報が与えられ、頭の処理機能が優先順位をつけるのを諦める。

 頭が『……』となる状況に初めてなったのが、新鮮だな〜と感じる変な余裕はあった。


「今、『兄は修学旅行に行っている』と言いましたよね」

 フリーズしている私の隣で雪乃が、多すぎる情報をまとめ始めた。 


「はい」

「ということは、あなたは寝癖君の弟?」

「プ……ハハハハ! 兄は『寝癖君』と呼ばれていたんですか?」

 吹き出してしまって、周りの目を集めてしまったからか、寝癖君の友達ではなく弟君は込み上げてきた笑いを堪えている。


「それにしても、寝癖君って、そのまんますぎて面白すぎんだけど……アハハハハ!」

 弟君からは笑い涙が出てきている。

 小麦色の肌から白い歯が見えて、爽やかさがさらにアップ。


「修学旅行ってことは……」

 訊にかけた時、弟君が降りる駅に着いた。

「あ、ここで降りるんで。もし何かあれば寝癖君に聞いてみてやってください」

 じゃあっと爽やかに私と雪乃に手を振り、降りていく。


 降りる寸前、弟君は笑いを堪えながら「寝癖君って……」と私達がつけた別名を噛み締め、笑いを堪えていたように見えた。

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