ダンスバトル
「おはよ……」
それだけ言って、春人君は黙ってしまった。
やっぱり変だったかな?
秋人君は女の子を褒めるのが上手そうだから可愛いって言ってくれたけど、春人君はお世辞とか苦手っぽいもんね……。
一軍じゃない私が可愛くしようと頑張ったら、変なだけか……。
メイクを教えてくれたママにも、一緒に服を選んでくれた雪乃にも申し訳ない。
「変……だよね……」
分かっていたけど、やっぱり変だと認めざる負えなくて、涙が浮かんでくる。
そんな姿見られたくなくて、俯くと、
「すごくいい!」
思いもよらない春人君の言葉が、頭の上から降ってきた。
「すごくいい! 女の子の可愛いとか綺麗とか俺にはよくわからないけど、すごくいい」
「え?」
聞き間違いかと思って、顔を上げた。
「可愛い。今日はすごく可愛い。今日は!」
顔を覗き込まれた。
「春兄、その言い方じゃあ、いつもは可愛くないみたいじゃん! 凛華ちゃん気にしないで。春兄はそう言う意味で言ったんじゃないから。いつも可愛いよ」
慌てた様子の秋人君がフォローに入ってくれたけど、いつも可愛くなくて今日可愛いなら嬉しい。
だって今日はちゃんとメイクしてるんだもん。
頑張って1人でメイクしたんだもん。
顔や耳が熱くなっていく。
「いつもはみんなと同じ制服だけど、今日のその服装はよく似合ってる」
春人君はいろんな方向から見てくれる。
「だから春兄。そんなこと言ったら、いつもは可愛くないみたいに聞こえるの! ごめんね凛華ちゃん。春兄言葉知らなくて……」
私と春人君の間に秋人君が入り、春人君が何か発言するたびに、フォローしてくれた。
秋人君の気遣いも嬉しかったけど、春人君の言葉も嬉しかった。
いつもはどうとかとかは、どうでもいい。
今日はとにかく頑張った。
そのことに触れてくれたのが嬉しかった。
「あ……ありがとう……」
緊張でモゴモゴ言ってしまった。
そんな私に対して春人君は、
「いつも可愛いけど、今日は特別可愛いね」
極上の笑みと共に、何本目かの弓矢の矢を私の心臓にブッ刺した。




