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私、浮かれてます

 私の足は、きっと地面から1センチぐらい浮いていると思う。

 体がふわふわして、頭もふわふわして、気持ちもふわふわする。


 要するに、私全部がふわふわする。

 浮いてるの。

 もしかしたらヘリウムガス入ってて、飛んでってしまうかもしれない。


「そのままだと、本当に飛んでくよ」

 フフフと笑いながら私が飛んで行かないように、雪乃がずっと手を繋いでくれている。


 横断歩道で手を引いてくれたり、歩道を走る自転車や人を避けるように引っ張ってくれている。

 重たいはずの教科書やプリントが入っているリュックも、今日は無重力にいるように軽い。

 この体の軽さなら、体育で苦手な跳び箱が出てきても、クラスで一番高く飛べそうな気がする。


「これ、春人君のダンスバトル当日まで、凛華の頭は持つのかな?」

 私を繋ぎ止めていてくれている雪乃が、ぼやいた。



 さて、雪乃の心配は的中したのか?

 それはもちろん的中しました。


 春人君にお誘いをいただいた日、英語の小テストがあった。

 0点だった。

 なぜかって?

 解答欄を一つずつずらして書いてしまったから。

 ケアレスミスもケアレスミス。

 英語の先生にも心配された。


 移動教室で廊下を歩いている時、階段を踏み外した。

 幸い最後の二段だったから、足がカクっとなっただけだったけど、もっと上だったら病院行き。


 骨折でもして春人君のダンスバトルにいけなかったら、悔やんでも悔やみきれないから気をつけないとと思ってたら、教室のドアの角に頭をぶつけた。


 どうやら曲がるタイミングが早かったみたい。

 雪乃以外の友達にも「大丈夫?」と心配されたけど、私はいたって大丈夫。


 周りの友達も「大丈夫?」と心配して声をかけてくれる。

 雪乃がみんなに「今朝、例の寝癖君が参加するダンスバトルに誘われたんだよ〜」と言うと、周りのみんなは「あ〜なるほど〜」と妙に納得してた。


 100%、春人君に誘われて浮かれてる。

 こんなに通学が楽しいなんて、毎日が楽しいなんて、生まれてはじめてなのかもしれない。


 大好きなお弁当の時間も上の空、青春してるんだろうサッカー男子を見ていても上の空、教室の真ん中んでマウントをとるように大きな声で彼氏の話をしている一軍の女子達の姿も、温かい目で見守ってしまう。

 今、運を使い切ってしまっていると分かっていても、こんな幸せを噛み締めることができるのなら、それでもいいと思ってしまう。


「凛華、よかったね」

 雪乃の言葉に大きく頷く。

「今度の休みに、春人君のダンスバトルの時に着る服買いに行こうよ」

 誘ってくれた。


 そうだ! 可愛くしていかないと!

 ママにメイクをもっと教えてもらって、美容院も行きたい。

 雪乃はおしゃれだから、服も一緒に選んで欲しい。

 やることがたくさんあったんだ。

 浮かれてばかりじゃいられない!


「行く!」

 力強く答えると、

「私の力を信じなさい」

 えへんっと雪乃が体を反らせた。



 次の日から、春人君の好みを探るミッションが発令された。


 春人君に直接聞けないから、秋人君に聞いてみてみた。

「凛華ちゃんも女の子だね」

 言われて、

「どう言うことよ」

 鼻息荒くしていると、秋人君に頬をツンツンされた。


「ほっぺ、フグみたいに膨れてるよ」

 両手で頬を挟まれた。

 フグって!


「もっと可愛いものに例えてよ。それに私、ほっぺなんて膨らませてませんから」

 そんな可愛い子だけがしていいような仕草、身の程を知っている私はしません。


「してるよ〜。ね〜雪乃ちゃん」

 秋人君が雪乃に振ると、

「フグじゃないけど、膨れてる」

 と、雪乃にも両手で頬を挟まれた。


「え? なになに? 今そうするのが流行ってるの?」

 秋人君と雪乃に釣られてか、春人君まで私の頬を両手で挟む。

 急激に顔に血が集まり、頭がふらっとした。


「も〜やだ。春人君はそうやって、またすぐ凛華をいじめる」

 ふらつく私を雪乃が支えてくれる。

「なんでだよ。秋だって雪乃ちゃんだってしてたじゃん。なんで俺だけダメなんだよ」

 春人君の唇が尖った。


 拗ねると春人君は無意識に唇を尖らせるんだ〜。

 新たな春人君情報を脳裏に焼き付けていると、

「ほら凛華もさせてもらいなよ」

 雪乃が私を春人君の方に押し出す。


「え? 何を?」

 近くで見るのはまだまだ慣れない。

 春人君の美しい顔を近くで見るなんて行為、きっと慣れないんだろうな〜。


 考えていると、

「挟むの、春兄のほっぺ。凛華ちゃん挟まれたんだから、挟み返してやったらいいんだよ」

 秋人君に両手をもたれ、そのまま春人君の頬を挟まされた。

「え!?」

 驚きと、春人君に触れてしまったという行為でパニック!

 驚き過ぎて春人君の寝癖みたいに、きっと私の髪も逆だったように感じる。


「ご、ごめん!」

 とりあえず謝ろう。


 身の程をわきまえず、春人君に触れてしまったことを謝ろう!

 急いで春人君のほっぺに触れてしまっている手を離し、後に下がる。なのに、

「俺こそ、ごめん」

 謝られた。

「頬を挟まれるのって、結構恥ずかしいって知らなくて……」

 春人君が申し訳なさそうに、モゴモゴ言った。


 ちょっとほっぺが赤いのは気のせいかな?

 そんなことを考えていると、

「もうしないから、安心して」

 言っている春人君の言葉に

「していいよ」

 上から目線の言葉を被せてしまった。

 しまった! なにか言わないと!


「春人君なら全然嫌じゃないし、むしろ嬉しいというか、してほしいと言うか……」

 言い訳しようとすればするほど、墓穴を掘る。


「あはは、凛華ちゃん素直すぎ〜」

 隣で秋人君がお腹を抱えて笑ってる。

 人の気も知らないで!


 ギロリと睨むと、「こわっ!」とわざとらしく春人君の背後に隠れた。

「秋人君、逃げてもダメだからね」

 隠れた秋人君をもう一度睨もうとした時、

「ではお言葉に甘えて……」

 春人君の腕が伸びてきたかと思った時には、頬を両手で挟まれていた。


「凛華ちゃんのほっぺは、ぷにぷにしてるね」

 挟んだり緩められたりしながら、頬を揉まれている。

 雪乃、私の願いはただ一つ。

 集めた灰は、海に帰してください……。

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