デートに、誘う?
「やっぱり何かあるって思ったんだ。俺、力になるよ」
ぎゅっと両手を春人君に握られ、心配そうに覗き込まれた。
多分春人君は無意識で何の理由もないと思う。
でもこっちとしては、憧れの人に両手を握られ、美しいお顔が目の前にある。
頭がパニックからのフリーズ……。
次に私のフリーズした脳が動き出した時、目の前の三人は目を点にして、私を凝視していた。
「え……?」
この三人の様子。
絶対私、何かしでかしたのは間違いない。
間違いないのだが……一体、何をした……?
「凛華ちゃんって意外と積極的だったんだ」
と、秋人君。
「それ、すごくいいと思う! 私大賛成!」
喜ぶ雪乃。
「凛華ちゃんの気になってることってそれだったの?」
困り顔の春人君。
「……ん……?」
みんなの話を繋げても、元の話が何なのかわからず、首がゆっくり傾いていく。
「『ん?』じゃないわよ。さっき『春人君とデートしたい』って言ったじゃん」
雪乃が「おぼえてないの?」と言いながら、私の頬を突く。
「だ、だ、だ、誰がそんなこと言ったの!?」
声が裏返り顔が爆発しそうなほど熱い。
人が多い車内じゃなかったら、全速力でこの場から逃げて、そのまま家に帰ってベッドの中に潜り込み、もう二度とそこから出てこない。
絶対に!
誰が誰をデートに誘ってるの!?
一般人の私が王子をデートに誘っていいわけないじゃない!
「凛華が春人君をデートに……」
雪乃が大真面目に丁寧に話そうとしている。
「あ———!」
もう私の愚かさを言葉することをはばむべく、最後まで言われる前に雪乃の口を両手で塞いだ。
私が春人君に両手を握られ意識が朦朧とした中、バカみたいなことを口走った。
それが真実で過去に戻ることができるのなら、いっきり私自身の口に両手をあてて塞いでやる!
自分自身に苛立ちを募らせてると、
「う〜ん……」
顎を指でつまみ眉間に皺をよせながら、何やら春人君が考え始めた。
春人君の険しい表情にうわついた気持ちが一気に冷えていく。
知り合ったから、一緒に登校することになったからって調子に乗ってしまった。
なのにデートに誘うなんて、図々しいにもほどがある。
きっと春人君にとっては鬱陶しい存在。
ここで関係を切られても仕方ない。
ううん。いつかきっとこの夢見たいな日常は、いい思い出となっていくのはわかっていた。
でもこんなことで……終わりたくなかった……。
目が少し熱くなってくる。
涙が浮かんでくるのがわかる。
それを見られたくなくて俯いた時、
「凛華ちゃん……」
意を決したような春人君の声がした。
「来月の第一日曜、予定ある?」
「え……?」
浮かんできつつあった涙が目に溜まったまま、俯いていた顔をゆっくりとあげる。
「俺と秋、小さい時からロックダンスってジャンルのダンスしてて、来月の第一日曜、一対一で即興ダンスで競うバトル大会が近々あるんだ」
「バトル……大会?」
「誰でも観覧できるから、みんなで見にきてくれると俺は嬉しい」
「……」
「凛華ちゃんの言うデートとは違うかもしれないけど、みんなで出かけるのも楽しいなって」
さっきは眉に皺をよせて困った顔の春人君が、今は私の前で微笑んでくれている。
「本当に……いいの?」
本当にいいの?
平凡な私が身の程知らずにグイグイいってしまったのに……本当にいいの?
せっかく春人君や秋人君と知り合えたんだもん。
この幸運を逃したない。
大きなことは望まない。
ただ間違った選択をしたくないだけ。
「……」
正しい答えがわからなくて黙っていると、
「すごい! ねぇ凛華、こんな機会ないよ。行こうよ〜」
キャッキャってと隣の雪乃が無邪気に私の腕を握って振る。
「そうだよ。春兄のかっこいい姿、見にきてよ」
秋人君も誘ってくれた。
本当は行きたくて仕方ないけど、本当に私なんかが行ってもいいのかな?
「来てくれたら俺も嬉しい」
最後の春人君の言葉が決め手となった。
もし今の私の答えが間違ってもいい。
「行く、絶対に行く!」
このチャンスを逃したくなかった。




