メイクレッスン
メイクの動画配信している人に言いたい。
簡単そうにしてますが、そんなに簡単にできませんが?
同じようにしてるのに、全然違うのはなぜですか?
自分の部屋でこっそりメイク動画を観ながら、大きなため息が出た。
元美容部員のママ厳選の化粧水などの基礎化粧品と日焼け止めで、素の肌はいい方だと思う。
でもその上にメイクをするとなると、全然ダメ。
ママに聞いたら一番早いと思うんだけど、そんなことをしたら絶対に理由を聞かれる。
春人君に会う時可愛くいたいからなんて、絶対に言えない。
言ったら絶対いろいろ聞かれて、メイクを教えてもらうどころではなくなってしまう。
彼氏ができたからメイクを教えてほしいっていうより、気になる人がいるからメイクを教えてほしいっていう方が、恥ずかしいのは私だけ?
こういう時に、メイクが上手なお姉ちゃんとかいてくれたらな〜。
何回も観ている動画をもう一回観ようとしていると、トントントンとドアをノックする音がした。
「凛華、今ちょっといい?」
ママだ。
「ダメ! よくない」
急いで机の上に出していたメイク用具を片付け、動画を消す。
もう一度机の上に証拠となるものが何もないかと確認してから、「いいよ〜」と声を掛ける。
「実はね、凛華に渡したいものがあって」
ママは後に隠していた可愛い袋に梱包された物を差し出した。
「ありがと〜」
何かプレゼントしてもらうようなことあったっけ?
思いながら受け取り、袋を開けてみると……。
「わぁ〜」
見た瞬間、声が出ていた。
袋の中からは、キラキラ光るケースに入ったアイカラーにリップ、マスカラ、アイライナーが入っていた。
しかもメーカーはどれもママが昔働いていた、有名ブランドメーカー。
どれも欲しかったけど、高校生が買うにはお値段がして買えなかったもの。
「最近メイクに興味があるんでしょ? だからこれはママからのプレゼント」
ママが話しているのに、目はもらったばかりのメイク用品から離せない。
「もし凛華が良ければ、メイクの仕方も教えるわよ」
「え!? 本当に!?」
高校生がメイクのプロから教えてもらえるなんて、こんな機会ない。
「ママありがと〜」
嬉しくて抱きつく。
「でも一つ約束があるの」
抱きついた私を、ママは優しく見下ろす。
「学校に行く時、薄い色付きリップぐらいならいいけどメイクはしない。これは守れる?」
素直に「うん」と言いたいけれど、そうすると春人君の前ではメイクできないってことで……。
「わからないぐらいでも……ダメ?」
ダメだろうな〜とわかりつつも、一応聞いてみた。
「ダメ」
キッパリと言われてしまった。
「そっか〜……」
言われると思っていたけど、じゃあメイクする意味ないじゃんとも思ってしまう。
「ウエディングドレス、綺麗だと思う?」
唐突に訊かれた。
「うん。とっても」
小さい時からドレスが大好き。その中でもウエディングドレスが一番好き。
白ベースなのに、どれも違うデザインで可愛くなったり綺麗になったりと、いろいろな顔を持っているから。
「じゃあ、綺麗だからって学校に着て行こうと思う?」
「ないない」
両手を左右に振りながら否定する。
綺麗で可愛いけど、それはない。
ウエディングドレスは結婚式に着るも。
着る場所が違う。
「メイクをして学校に行くのと同じことよ」
「ん?」
ウエディングドレスのことはわかった。でもメイクとどう違うの?
「綺麗だから可愛いからって、どこでもしていっていいんじゃない。時と場所を考えてするから素敵なの」
「……」
「それにね、一番の褒め言葉は『メイクしてる時も、ノーメイクの時も可愛い』って言われること。だからこれからはメイクも素の肌を育てるも頑張ろうね」
力強く言われ「うん!」と大きく頷き、ママのメイクレッスンが始まった。
「これが……私?」
ナチュラルメイクを教えてもらいないらし、完成した自分の顔を鏡で見て、うっとりしてしまった。
いつもより丁寧に基礎化粧をして、ファンデーションを塗って、まつげをカールさせアイカラーとアイライン、眉を整え、チークとリップをどれも少しずつ塗っただけなのに、別人のよう。
これが美容部員の技か。
プロの技術に脱帽。
「どう? 可愛くなったでしょ?」
「うん! 別人じゃん」
いろんな角度から、自分の顔を見たくなる。
学校にはしていかないってママと約束したからできなくて、春人君に見てもらえないのが本当に心残り……。
「ママもそう思う」
じゃあ一回ぐらい通学の時にさせてよ〜って、喉元まで出てきた。
自分で言うのもなんだけど、だってこんなに可愛いんだもん。
「だったらデートに誘わなきゃ」
「……はぃ〜!?」
ママの言葉を一度、頭の中で整理すると、変な声が出た。
「気になる子がいるんでしょ? じゃあデートに誘って、いつもと違う可愛いさがある凛華を見てもらわないと。新たな一歩よ、一歩」
ママは「頑張って」と言い残し、全て見透かされていい言い訳も思い浮かばない私を置いて、部屋を出ていった。




