02.家族団らんの場ですべてを告発する
チャーリーはオルコット帝国の騎士団長だ。軍部とも連携している騎士団を率いており、その実力は歴代最強と呼ばれている。チャーリーがもっとも嫌うものは泣き落としをしようとする弱弱しい女性である。
フィオナはチャーリーの地雷を無意識に踏んでいた。
「そうでなければ、派手なドレスなんて着ませんもの! クリス様の好みとも違いますし!」
フィオナは泣きながら主張する。
それが逆効果になっているとは気づいていない。
……母上の形見をバカにするとは。
チャーリーの眉間にしわが寄った。
アビゲイルが着ているドレスが前妻の形見であると気づいていたのだろう。
「黙らないか」
チャーリーは低い声で言った。
苛立ちを隠しきれていない。
「お父様……?」
「その呼び方も許可をした覚えはない」
「でも、お母様と結婚したのだから、フィオナのお父様でしょう!?」
フィオナは雰囲気が読めなかった。
焦っていたのかもしれない。いつもならば、しない失敗を繰り返していた。
「養子にはしたが、娼婦の娘にお父様と呼ばれたくはない」
チャーリーは淡々と告げる。
「勘違いをするな」
チャーリーの言葉はフィオナにだけ向けられているわけではない。フィオナを信じ切っていた使用人たちにも向けられている。
「バンフィールド公爵家の後継者としているのは、アビゲイルだけだ」
チャーリーは明言した。
その言葉は影響力が大きい。今後、使用人たちはアビゲイルを見下すことはできなくなるだろう。
「後継者が解雇と告げた者がなぜここにいる?」
チャーリーの言葉にダリアの顔色が青ざめた。
今までしてきた行為を思い出したのだろう。他家への紹介状を書いてもらうことなどできないと悟るしかなかった。
「それは……」
フィオナは言い訳をしようとするが、言葉が浮かばない。
泣き落としを諦め、涙を拭う。
「今すぐ屋敷から摘まみだせ」
「かしこまりました」
チャーリーの指示に対し、メイド長が答える。
すぐにダリアの腕を掴み、大広間から出て行った。ダリアは抵抗をしなかった。
「ひどいですわ」
フィオナは諦めていなかった。
標的をチャーリーではなく、アビゲイルに移す。
「お姉様がお父様にフィオナの悪口を吹き込んだのね!」
フィオナは癇癪を起したように去剣んだ。
そのような事実はなかった。
しかし、フィオナに寄り添うように義母はアビゲイルを睨んだ。義母は実の娘であるフィオナの味方だ。
「あなた。フィオナが悲しんでいますわ」
「それがどうした」
「あなたの娘だと言い直してくださいませ」
義母はチャーリーに要求をする。
フィオナがかわいくてしかたがないのだろう。
「まだ12歳の子どもですのよ。義姉に悪口を言われて傷つく年頃です」
「悪口を言っているのはフィオナですよ、義母上」
「まあ! なんてひどい嘘を吐くのでしょう! あなた、育て方を間違えたのではないですか!?」
義母はヒステリックに叫んだ。
それに対し、チャーリーは困ったような顔をした。
……義母には弱いですね。
愛しているのだろうか。
亡き母とは系統があまりにも違う。亡き母とチャーリーの仲は良かったが、恋仲ではなく、戦友という形で結ばれた強い絆を持っていた。
それは愛とは違うのだろう。
「マリア。アビゲイルは嘘を吐いていない」
チャーリーは淡々と告げた。
義母、マリアはそれに驚いたようだ。
「では、フィオナが嘘を吐いているとも言うつもりですか?」
マリアは信じられないと言わんばかりの顔をする。
そして、視線をフィオナに向けた。
フィオナの表情は青ざめていた。12歳の悪知恵では限界があるのだろう。アビゲイルが逆行をする前よりひどく幼く感じた。
「嘘を吐いているのはフィオナだけではありません」
アビゲイルは覚悟を決めた。
ドレスの袖をめくる。そこには複数の殴られた痕があった。
「クリスも嘘を吐いています。わたくしは何度もクリスに殴られてきました」
「なぜ、すぐに言わなかった」
「婚約破棄をすると脅されていたのです」
アビゲイルの言葉にチャーリーは目を見開いた。
婚約破棄をして困るのはクリスの方だ。それなのにもかかわらず、アビゲイルを脅迫し続けていたのだ。
「婚約はすぐには破棄しません。クリスには疑わしいことがいくつもありますから、すべてを暴いた上で婚約を破棄します」
アビゲイルの宣言にフィオナは顔を真っ青にした。
……既に付き合っていたのですね。
フィオナの顔色の変化から推測をする。
「責任はとれるのだな?」
「はい。婚約破棄をした後は修道院にでも――」
「修道院? なにを言っているのだ」
チャーリーは首を傾げた。
おかしなことを聞いたとでも言うかのようだった。
「言っているだろう。バンフィールド公爵家の後継者はアビゲイルだと」
チャーリーは公爵だ。
バンフィールド公爵家の後継者とは次の公爵を意味している。
「公爵を継ぐ覚悟はできたのかと、聞いたのだ」
チャーリーの質問に対し、アビゲイルは驚いた。
……わたくしが公爵になるのですね。
当然の権利だ。
バンフィールド公爵家の後継者はアビゲイルしかいないのだ。
……戦場に出なければなりません。
戦場ではアーサーを相手にした時のような不意打ちは使えない。大規模な魔法を使い、部下に指示を出さなければならない。それでも、死と向き合うことになるだろう。
帝国は軍国主義だ。戦争は避けては通れない。
「もちろんですわ。女公爵として役目を果たすつもりです」
「それならばいいんだ」
チャーリーは納得をしたようだった。
再び食事に手を付ける。