01-4.求婚状が届き続ける
「なんてね。お姉様の立場を奪うわけじゃないわ」
フィオナは冗談だと笑う。
……本気だったのでしょうね。
アビゲイルはその冗談に対し、笑えなかった。
「公爵になれば誰もフィオナを利用しないと思ったの。それだけよ」
「利用価値を示すといったのはフィオナでしょう」
「そうよ。そうしなければ、前公爵の養子に居場所はないわ」
フィオナは立ち上がる。
……要領のいい子。
アビゲイルはフィオナの企みを聞かなかったことにした。
「フィオナの居場所は作ります」
アビゲイルはフィオナがなにを求めているのか、知らない。
公爵の地位を狙っていたのは事実だろう。
そうすれば、誰からも利用されないと思っていたのも事実だろう。
しかし、それは叶えられない。
「第二王子殿下と接触をしてくださいませ。そうすれば、フィオナは公爵家で一定の地位を築けることでしょう」
「嘘ね」
「本当です。わたくしは約束は守ります」
アビゲイルの言葉をフィオナは信じない。
しかし、菓子を掴み、フィオナは不敵に笑った。
「第二王子殿下とは接触済みよ」
フィオナは情報を提供する。それが条件だった。
「クリスを操っていたのは第二王子殿下だもの。フィオナ、第二王子殿下に一目惚れをしちゃったのよ。あの方はかっこいいわ」
フィオナの言葉を聞き、アビゲイルはため息を零す。
第二王子は美男子だ。皇帝陛下によく似ている。
……でも、軍国主義の帝国には平和主義者はいらないのよ。
フィオナの恋を応援するわけにはいかなかった。
むしろ、それを利用しなければならない。
「でも、お姉様。運が良かったわね」
「どういう意味でしょうか」
「第二王子殿下がクリスに言っていたのよ。馬車に工作をするようにってね」
フィオナの言葉にアビゲイルの動きが止まった。
馬車に工作をする。心当たりがった。
逆行前の死因だ。
……第二王子殿下が絡んでいましたか。
クリスやフィオナの独断ではないことはわかっていた。
……わたくしが馬車に乗る機会を探っていたのでしょう。
アビゲイルは屋敷を離れることはない。
公爵家の令嬢として過ごしていた頃は社交界も避けていたほどだ。公爵となった今では避けられるものではないものの、馬車に乗る機会は少ないだろう。
「クリスはお姉様を殺すつもりだったわ」
「フィオナもでしょう?」
「いいえ。フィオナはそんなことはできないわ」
フィオナは否定した。
……フィオナの言葉が正しいのならば。
その保証はどこにもない。
……逆行前、馬車に細工をしたのはクリスということになるわね。
クリスの行方は誰も知らない。
市民に落とされたあと、博打に溺れ、そのまま姿を消してしまったと報告があっただけだ。どこかで生きているのか、それとも、死んでしまったのか。それすらもわからない。
「お姉様」
フィオナは菓子を掴む。
そして、立ちながら菓子を食べた。
「お姉様はフィオナを利用するのでしょう?」
「そうね、利用価値があるもの」
「そうでしょうね。そうじゃなきゃ公爵なんてやっていけないわよ」
フィオナは笑う。
……まるで未来を知っているかのようね。
アビゲイルはフィオナの言葉に苦笑した。
「お姉様」
フィオナはゆっくりと立ち上がり、アビゲイルに背を向けた。
「フィオナは第二王子殿下のお嫁さんになるわ」
「……不可能よ」
「不可能だと思うことでも叶えてみせるの。そしたら、フィオナの価値が上がるでしょう?」
フィオナはそういうとアビゲイルの執務室を出て行った。
取り残されたアビゲイルはため息を零す。
……第二王子殿下ね。
王太子の意に反する存在だ。
軍国主義の国に平和主義者は必要ないのだ。
……フィオナは断罪される。
第二王子と王太子の仲は最悪だ。平和主義者と軍国主義者では会話にもならず、いつ斬り合いが起きてもおかしくはなかった。
……それを仕向けるのは、わたくしだわ。
フィオナが第二王子に近づくほどに断罪の時が迫ってくる。
それを知っていて、アビゲイルはフィオナを利用するのだ。
胸が痛んだ。
「……どうして、上手くできないのかしら」
アビゲイルは嘆いた。
悪女にならなくてはいけない。
そのためにフィオナを利用すると決めたのだ。それなのに、罪悪感で心が蝕まれそうになる。
「ローザ」
「はい。公爵閣下」
「これを郵便に出してきてちょうだい」
アビゲイルはフィオナが執務室を訪ねてくる前に書いた封筒をローザに渡す。
屋敷の中で一番信用できるのはメイドのローザだった。
「王室に手紙ですか」
ローザは驚いた表情を見せた。
バンフィールド公爵家は王室と密なかかわりを持っていない。常に中立だった。それが覆ろうとしている。
「そうよ」
アビゲイルはため息を吐いた。
……わたくしが望んでいたわけではないですが。
新しい婚約者を選ばなければいけない。
候補は山のようにいる。その中でも王室の手紙は一際目立っていた。
……断るわけにはいかないのでしょうね。
送られてきた手紙に視線を落とす。
手紙の差出人は王太子殿下からだった。実弟である第四王子と婚約を結んでもらいたいという内容の手紙だ。アビゲイルはそれを快く受け入れると回答した。
「わたくしは婿養子をもらわなければなりませんから」
「……王室と繋がりを持つのは先々代の頃より拒んできたことです」
「それも、わたくしの代で終わりよ。――王太子殿下の恨みを買いたくはありませんもの」
アビゲイルは笑った。
次の婚約者がまともだとは限らない。
しかし、受け入れる以外の道はなかった。




