01-2.求婚状が届き続ける
魔法は貴族の特権だ。
ごくまれに魔法の才能に恵まれた平民が現れるものの、その場合はどこかの貴族の養子として迎え入れられる。
フィオナは違った。
魔法の才能もなければ、魔力もない。
……そうね、フィオナの言う通り、ありえないわね。
逆行魔法の対象者はバンフィールド公爵家の血を継いでいる本家の人間だけだ。フィオナは対象外である。
「そうね」
アビゲイルは肯定をした。
……それにしては直観力が優れていると思うのですが。
野生の勘だろうか。
貧困街で身に付けてきた生きるための術なのかもしれない。
「わたくしの勘違いかもしれませんが、一度、魔力測定を行いましょう」
「どうして? フィオナは貧民だから魔力はないわよ」
「数百人に一人の割合で平民にも魔力を持っている方がいらっしゃるのですよ」
アビゲイルの言葉にフィオナは目を見開いた。
それから、興奮のまま、立ち上がった。
「それって、フィオナも魔法が使えるかもしれないってこと!?」
フィオナは興奮していた。
魔法は憧れだ。平民出身のフィオナには無縁のものだと思っていた。
「ええ。だって、フィオナのお母様は取り潰しになったとはいえ男爵家の出身ですもの。あなたの血の半分は高貴な貴族の血でしてよ」
アビゲイルは当然のように言った。
マリアの出生について調査は進んでいた。マリアが自称していた男爵家の娘だったというのは事実であった。既に取り潰しになった男爵家の出身とはいえ、貴族には変わりはない。
……お義母様は公爵家にはふさわしくはありません。
一度、貧困街にまで落ちた人間は公爵夫人を名乗るべきではない。
それをずっと思っていた。
だからこそ、マリアの出生の調査をしたのだ。
「そうなの?」
フィオナは知らなかったようだ。
目が輝いている。魔力があるかもしれないと知って、希望を抱いたのだろう。
単純な性格をしているとアビゲイルは思っていた。
……出生を黙っていたのかしら。
男爵家とはいえ、破産をするほどに貧乏な家系だ。誇りに思えなかったのかもしれない。
「フィオナ、貴族だったかもしれないってこと?」
「ええ。そうね。あなたの実のお父様のことを知りたければ調べさせるわ」
「必要ないわ。だって、ママを捨てたろくでなしだもの」
フィオナは言い切った。
……ろくでなしね。
アビゲイルはフィオナの出生を探るために調査をしていた。その際、フィオナの父親が平民の男であると判明していた。
フィオナには半分しか貴族の血は流れていない。
それにしては直観力が優れていた。
「教会には連絡をしておくわ。早ければ明日、魔力測定の儀式を受けられるようにしてあげますわ」
「本当に!? お姉様! すごいわ!」
「バンフィールド公爵家は寄付金を出しているもの。優先されて当然のことですわ」
アビゲイルは笑った。
教会に多額の寄付金を出していたチャーリーに感謝をする。
教会宛の手紙を書くとそれをローザに渡した。
「手紙を出してきてちょうだい」
「かしこまりました」
ローザは頭を下げて執務室から出ていく。
手紙を出すために向かったのだろう。
「お姉様って字を書くのが早いのね」
フィオナは感心したように言った。
字を習い始めたばかりのフィオナは長い文章を書くことができない。短文ですら時間がかかってしまう。
「フィオナにもできるようになるわ」
アビゲイルは微笑んだ。
それから立ち上がり、フィオナの前の椅子に座り直す。
「フィオナは優秀ね。家庭教師から報告を受けているわ」
「先生が良いのよ。わかりやすくて簡単な問題ばかりを出してくれるわ」
「なにも知識のない子どもと同じ問題を出すように指示をしてあるわ。急に難しい問題を出されても、勉強が嫌いになってしまうでしょう?」
アビゲイルの配慮だった。
しかし、礼儀作法の家庭教師からは筋が良いと褒められていたのは事実だ。
……まるで物語の主人公のようですわね。
礼儀作法の家庭教師として依頼した祖母はフィオナを絶賛していた。男爵家の娘が産んだとは思えないほどだと言っていたのを思い出す。
貴族主義の祖母に認められるほどだ。
よほど出来がいいのだろう。
……誰からも好かれる不思議な人ですもの。
甘え上手な性格と年相応ではない賢さを兼ね備えている。
フィオナはまさに物語の主人公のようだった。
「お姉様は優しいわね」
「そうかしら」
「優しすぎて心配になるわ。ちゃんとフィオナを上手に使ってよね」
フィオナは公爵家の利益になることをする。
それが危険を伴うと知っていているのにもかかわらず、自ら、率先して行う。それに見合うような利益を得ていないというのに満足そうに笑うのだ。
それが不気味でしかたがなかった。
……フィオナを上手く使えるかしら。
不安だった。
第二王子派に接触をさせなければならない。そして、それは公爵家が命令したものではなく、フィオナが勝手に行っていたことになるのだ。
「あなたは利用されるとわかっていて、どうして、笑えるの?」
アビゲイルは問いかける。
不思議でしかたがなかった。
「おもしろいからよ」
フィオナは不敵に笑った。
「お姉様の計画に乗るのが最高におもしろいのよ。こんなにおもしろいことを考えてくれるのならば、最初からお姉様の味方をすればよかったわ」
フィオナは刺激を求めている。
その好奇心によって命を奪われることになっても後悔はしないだろう。
「フィオナは第二王子殿下と結婚するわ」
「……無理よ」
「そうでもしないと確信が得られないでしょ? お姉様だってわかっているはずよ」
フィオナはアビゲイルの数歩先を歩いているかのようだった。
アビゲイルは悪女としてフィオナを利用し、切り捨てなければならない。それが公爵としての役割を果たすということだ。
視線をフィオナに向ける。
フィオナは自信満々な笑みを浮かべていた。




