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逆行した悪女公爵は復讐を誓う  作者: 佐倉海斗
第二話 逆行後に手に入れた浮気の証拠

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16/20

08-2,新たな公爵を祝うパーティを開催される

「クリス様は公爵の配偶者としてふさわしくはございません」


 ローザはアビゲイルの髪を整えながら告げた。


 ……公爵の配偶者ね。


 婚約を破棄すれば、貴族の子息たちがアビゲイルに擦り寄ってくることだろう。その中からバンフィールド公爵の配偶者にふさわしい人物を探さなければいけない。


 ……わたくしは皇帝陛下以外の指示を受けてはならないわ。


 自分自身に言い聞かせる。


 帝国を守護する必要悪としてのバンフィールド公爵は、皇帝陛下の忠犬だ。代々、皇帝陛下の言葉だけに従ってきた。


「お嬢様の判断は常に正しいものなのです」


「……そうとも限らないわ」


「いいえ。そうでなければなりません。バンフィールド公爵として常に人々を先導し、常に勝者でいなければいけないのです」


 ローザの言葉は正しい。


 それが酷く重かった。


「15歳の子どもが背負うものではないわね」


 アビゲイルは苦笑した。


 チャーリーはなにを思い、公爵位を譲ったのだろうか。


 逆行前の姿を知っているのならば、公爵位を譲れないと判断するのが正しい。しかし、チャーリーは変わろうとしているアビゲイルの姿を見て、公爵位を譲るという決断をした。


 ……父上はわたくしの死後を知っているのでしょうか。


 すぐに逆行魔法を使ったとは限らない。


 アビゲイルが生きていなければならない問題が起きたのだろう。


 ……父上の後継者はわたくしだけですもの。


 後妻であるマリアとの間の子はいない。


 チャーリーはマリアを溺愛しているものの、子宝には恵まれなかった。


 ……なにかが起きたのには違いありませんわ。


 バンフィールド公爵家の遠縁の子を養子にするのではいけなかったのだろうか。逆行魔法は代々バンフィールド公爵に伝えられるものではあるものの、一度、使用すれば二度と発動しない。それを知っていてチャーリーは発動させたのだ。


 それほどのことが起きたのだろう。


「わたくしは陛下の絶対的な支持者でなければならないわ」


 アビゲイルは断言した。


 それは自分自身に言い聞かせているかのようでもあった。


 ゆっくりと立ち上がり、振り返る。


「ローザ」


「なんでしょうか」


「わたくしは公爵として正しい判断をするわ。それでいいのよね」


 アビゲイルは優しい。


 クリスに対し、情はない。しかし、婚約を破棄することによりクリスの立場が危ぶまれることに気づいていたからこそ、戸惑いがあった。


 クリスは伯爵家の名を汚したとして勘当されるはずだ。


 それに気づいているからこそ、アビゲイルは迷いを捨てられなかった。


「はい。お嬢様。お嬢様のすることはすべて帝国のためでございます」


 ローザは答えた。


 それに対し、アビゲイルは頷いた。


 ……これは正しいことですわ。


 自分自身に言い聞かせる。


 侯爵に対して暴力と暴言で支配しようとする婚約者は不要だ。必要ない者は容赦なく切り捨てるのは、公爵として真っ先にするべきことだった。



* * *



 パーティが始まった。


 様々な貴族たちの挨拶を受け終わり、アビゲイルは視線をクリスに向けた。参加はしているものの、貴族たちの輪には入らず、その視線はフィオナに向けられていた。


 クリスはフィオナに好意を寄せていた。


 単純なところがあるように見えるフィオナが扱いやすい女だと思っているのだろう。単純な女を演じているとも知らず、クリスは当然のようにフィオナにダンスを申し込んでいた。


「やめてくださいませ!」


 フィオナが悲鳴を上げた。


 それはアビゲイルに対する合図だ。


 アビゲイルはすぐにクリスとフィオナの元に向かう。


 実情を知らない貴族たちの注目の的になっている二人は揉めていた。クリスは当然のようにフィオナの腕を掴み、フィオナは突然それを拒絶した。


「クリス様はお姉様の婚約者ですわ!」


 フィオナは周囲に聞かせるように叫んだ。


 わざとらしく、アビゲイルが来るまでの時間稼ぎをする。


「どうしたいんだい、フィオナ。いつも踊っているだろう!?」


「お姉様のために踊っていただけですわ!」


「フィオナ!」


 クリスはフィオナの顔を殴った。


 それに対し、フィオナは涙を流した。


「フィオナ」


 アビゲイルはフィオナの名を呼ぶ。


 それに反応したようにフィオナはクリスの腕を振り払い、アビゲイルの元に駆け寄った、まるで仲の良い義姉妹のようだった。


「お姉様! クリス様に顔を殴られました!」


「かわいそうに。顔は女の武器だというのに、なんてことをするのでしょう」


「暴力癖のある方はお姉様の婚約者に向きませんわ!」


 フィオナは泣きながら訴える。


 その言葉に周囲の貴族も同意をしていた。


 哀れな少女を演じるフィオナは同情を集めるのが得意だ。


「ええ、そうね」


 アビゲイルは覚悟を決めたかのように返事をした。


 そして、視線をクリスに向ける。


 クリスは状況が悪いことに気づいていなかった。


「クリス。婚約を白紙に戻しましょう」


「どうして、そんなことを言うんだ! 自分の立場がわかっているのか!?」


「ええ、理解をしております」


 アビゲイルは冷静だった。


 クリスにかける情はない。


 当然のようにアビゲイルに掴みかかろうとした腕は、アビゲイルが連れていた護衛騎士によって取り押さえられる。地面に叩きつけられたクリスは状況を理解していない。


「婚約の破棄を宣言いたします」


 アビゲイルは淡々と告げた。


 それは逆行前に告げられた言葉と似ていた。


 ……やり返しただけのことですわ。


 清々しい気持ちになったのはなぜだろうか。


 クリスは信じられないと言わんばかりの顔をしている。


「バカか! 弱気令嬢の言葉なんて誰が信じるものか!」


 クリスはアビゲイルに罵声を浴びさせる。


 大きな声で怒鳴れば、アビゲイルが委縮すると知っているのだ。


「弱気令嬢?」


 アビゲイルは笑った。


 ここにいるのは弱気令嬢ではない。バンフィールド公爵だ。


「わたくしはバンフィールド公爵でしてよ。クリス。あなたは必要ないの」


 アビゲイルの言葉に対し、クリスは怒りで顔を真っ赤にした。


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