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逆行した悪女公爵は復讐を誓う  作者: 佐倉海斗
第二話 逆行後に手に入れた浮気の証拠

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15/20

08-1,新たな公爵を祝うパーティを開催される

 クリスの浮気の証拠を押さえてから二週間が経過した。


 公爵邸は大忙しだった。アビゲイルの公爵就任パーティの準備で使用人たちは忙しく走り回っていた。


 ローザもその一人だ。


 足腰を痛めやすい年齢のローザが走り回ることはないものの、その代わりにアビゲイルの身の回りの世話を一人でこなしていく。


「お嬢様」


 ローザはアビゲイルを呼ぶ。


 アビゲイルは目を閉じていた。ローザの手で化粧をされていたためだ。


「目を開けてごらんください」


「……ずいぶんと変わるのね」


「そうでもありませんよ。お嬢様の元の素材が良いものですから、薄くしか化粧はしておりません」


 ローザの言葉が信じられなかった。


 ……強気な顔立ちだわ。


 今までの気弱令嬢はいない。


 それは気持ちの問題だったのだろう。


 元々、気の強そうな顔立ちをしている。母親譲りの冷たく見えるが綺麗な顔立ちはアビゲイルの生まれつきの顔だ。化粧で化けているわけではない。


 それが信じられなかった。


 ……公爵らしく見えるかしら。


 公爵として皆の前に立たなければならない。


 バンフィールド公爵家の代表になるのだ。チャーリーの後ろに隠れているわけにはいかない。


「自信をお持ちください、お嬢様」


 ローザの言葉にアビゲイルは頷いた。


 特注の真っ赤なドレスに身を包み、アクセサリーは亡き母の遺品だ。常に前向きだった亡き母の力を借りたいと思い、身に付けることにしたのだ。


「わかっているわ」


 アビゲイルは当然のように返事をした。


 弱音は吐かない。


 愚痴も口にしない。


 これから行く道はアビゲイルが先頭を進んでいかなければならない。そこにローザは文句の一つも言うことなく、ついてきてくれることだろう。


 それがわかっているからこそ、アビゲイルは泣き場所を失った。


「わたくしはバンフィールド公爵ですもの。堂々と振る舞うのは当然のことですわ」


 アビゲイルは僅か15歳の少女だ。


 軍国主義の帝国では若い爵位継承者は珍しくはない。しかし、先代が生きているうちに爵位を継承されるのは珍しいことだった。


 逆行前の光景をアビゲイルは忘れることはできない。


 不義の子だと信じた貴族たちの噂話は亡き母を貶めるものだった。それを否定する勇気をもてなかった自分を恥じる。


 しかし、今は違う。


 公爵位を継げるのは第一子だけだ。


 つまり、アビゲイルは不義の子ではなく、正真正銘、公爵家の血を受け継いだ子ということになる。それを証明できている。


 誰もアビゲイルを不義の子だと言わない。


 逆行前との違いに気がおかしくなりそうだった。


 逆行前はアビゲイルを見下していた人々は、アビゲイルに気に入られようと媚びを売るだろう。その姿は滑稽なものであり、貴族らしいものだった。


「お嬢様」


 ローザだけは心配そうな声をあげた。


「まだ15歳の少女であるのにもかかわらず、帝国を背負うことになってしまったこと、ばあやは心配であります」


 ローザは幼い子どもに話しかけるように、ゆっくりとした口調で語りかけた。


 ……ばあやの心配はわかるわ。


 今まではばあやと呼んでいた。


 それを公爵位を継承してから、名で呼ぶようにした。


「そうね、ローザの心配はわかるわ。もしも、帝国が戦争を起こせば、公爵として出向くことになるでしょう」


 アビゲイルは否定しなかった。


 それは可能性にすぎない。


 しかし、軍国主義の帝国がいつ戦争を引き起こすか、わからない。


「そのために騎士団を鍛え直しているところよ」


「お嬢様はそれでいいのですか」


「もちろんよ。帝国のために尽くすことが公爵としての役割だわ」


 アビゲイルは言い切った。


 ……戦争をしたいわけではないわ。


 戦争をせずにすむのならば。それが一番だ。しかし、軍国主義を掲げている帝国は周囲の国々を仮想敵国と考え、軍事力を強化している。若く、士官学校にも通っていないアビゲイルではあるが、魔法が使えるため、重宝されることだろう。


「……お嬢様、変わられましたね」


「ええ。変わったわ。それがどうしたというの?」


「公爵邸で働く者として誇らしく思います。しかし、ばあやとしては心配であります」


 ローザは複雑だった。


 人は簡単には変わることができない。


 特に逆行をしたことを知らないローザから見たアビゲイルの変化は、あまりにも大きすぎた。


 それが不安だった。


 ……わかっているわ。


 アビゲイルは怖がりだった。


 今でも公爵として正しい道を歩めるのか、不安がある。まだ父親の背中についていきたい気持ちがある。それを捨て、公爵として前に進まなければならない。


「泣きたい時もあるでしょう」


 ローザはアビゲイルに語りかける。


「ですが、公爵として隙をみせるわけにはいきません」


「わかっているわ。わたくしは泣かないもの」


「無理をなさらないでくださいね。お嬢様」


 ローザはアビゲイルを案じていた。


 心配で仕方がなかった。


「……ローザ」


 アビゲイルはため息を零した。


 ……これが正しいとは思っていないわ。


 クリスの浮気の証拠は手に入れた。


 ……公爵として判断を下しただけの話よ。


 婚約者としてふさわしくなかった、


 クリスは第二王子派と繋がりがある可能性もある。平和主義者の筆頭である第二王子派は軍国主義の帝国では異質の存在だ。


「クリスと婚約を破棄するのは正しいことなのかしら」


 アビゲイルは過去を変えてしまうことになると知っていた。


 婚約を破棄するのはクリスからだったはずだ。それは三年後の話である。15歳のアビゲイルはクリスに怯えていなければいけなかった。


 それが変わってしまった。


 そのことをきっかけとして大きく未来は変わっていくことだろう。


「浮気を認めるくらいの心の広さがあれば、わたくしは、クリスを許せたのかしら」


 アビゲイルはクリスを許せなかった。


 だからこそ、今宵、婚約破棄を告げるのだ。


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