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逆行した悪女公爵は復讐を誓う  作者: 佐倉海斗
第二話 逆行後に手に入れた浮気の証拠

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06-1.フィオナの選んだ道

* * *



「――それで、お茶会はどうだったの。フィオナ」


 お茶会が終わり、執務室に戻ったアビゲイルはフィオナに問いかける。


 客人用のソファーに座り、淹れたての紅茶と作りたてたのお菓子を目の前に置かれたフィオナは迷うことなく、お菓子に手を伸ばしているところだった。


 ここに招かることに疑問を抱かない。


 当然のようにフィオナは振る舞う。


「良い機会でした」


 フィオナはアビゲイルを認めた。


 性別の差を超えて勝利を治めたことに素直に感服した。


「フィオナは決めました」


 フィオナは菓子を頬張った。


 一つも逃して帰らないという勢いだ。


「お姉様と休戦協定を結びます」


「あくまでも休戦なのね」


「はい。お姉様に価値がなくなれば、フィオナは価値のある人の味方をします」


 フィオナは一つ目の菓子を食べ終わったあとに答えた。


 ……わたくしの価値。


 アビゲイルの価値はバンフィールド公爵としてふさわしい存在で居続けることだ。誇り高く、誰にも見下されない立場に立ち、下々の人々に慈悲を与える存在でなければならない。


 貴族らしく、他人の隙をつき、他人を欺き、他人を信用しない。


 それがアビゲイルに求められ高貴さだ。


 ……今のわたくしには価値がありませんわね。


 少なくとも、公爵としての仕事を認められたわけではない。


 私営騎士団の騎士団長として実力があるわけではない。


 しかし、必要悪である公爵家を継ぐのには必要な高貴さがある。


「フィオナが味方をする価値のある存在で居続けてください」


 フィオナは12歳とは思えない言葉を口にする。


 育ってきた環境によるものだろう。


 大人びていなければいけなかった。


 ……フィオナを味方にし続けるつもりはないわ。


 利用するだけ利用して、捨てるつもりだ。


 ……でも、仲良くなる選択肢もあったかもしれないわね。


 逆行前の記憶がなければ、アビゲイルはフィオナを味方として受け入れていただろう。


 逆行前の記憶が邪魔をする。


 馬車を壊れるように指示をしたのはフィオナなのか、それとも、クリスなのか。二人の共謀の可能性は高い。


 その可能性がある限り、アビゲイルはフィオナを信用できなかった。


 いつ裏切られてもしかたがないと思っている、


「わかりましたわ」


 アビゲイルは執務室の椅子に座る。


 そして、書類に目を通す。


「わたくしは公爵として、父上の養子であるフィオナを援助いたしましょう」


「本当に? 社交界デビューもできるの?」


「あなたがわたくしの利益であり続けるというのならば、社交界にデビューさせます。そこでふさわしい相手を探してもらいましょう。必ず、相手の家に入ることが条件です。嫡男だけを狙いなさい」


 アビゲイルはバンフィールド公爵として言葉を発する。


 ……この際、養子でもかまわないわ。


 血の繋がりがなくとも、バンフィールド公爵家と関りを持ちたい家はいくつも存在する。


 ……バンフィールド公爵家の拡大のために利用しましょう。


 バンフィールド公爵家の威厳のためだった。


 公爵家と繋がりを持ちたい家とフィオナをくっ付ける。そうすることでバンフィールド公爵家の権力はさらに増すことだろう。


 それがフィオナの使い道だ。


「フィオナが貴族になれるの?」


「あなたが利用価値を示し続けるのならば、バンフィールド公爵家として援助は惜しまないつもりです」


「それ、最高ね。貴族の愛人でもいいと思っていたのに、正妻の座を狙えるなんて!」


 フィオナは興奮したように語る。


 ……愛人目的だったのね。


 クリスに手を出したのは公爵家を追い出されないために、クリスの愛人になろうとしたのだろう。


 貧困街出身のフィオナは公爵家の血が流れていない養子だ。


 公爵家の縁所がなければ、誰もがフィオナを見下すだろう。だからこそ、フィオナは自分の価値を示し続けなければならない。


 ……かわいそうな人。


 同情してしまった。


 最初から貴族の正妻にはなれないと諦めている12歳の少女に対し、同情をするしかしなかった。貴族としてふさわしくない発言だった。


「お姉様」


 フィオナは菓子に手をつけながら、アビゲイルを呼ぶ。


 礼儀作法がなっていない。


「フィオナは役に立てるわ」


 フィオナは自分を売るのが得意だった。


 貧困街でもそうやって日々の生活費を稼ぎ、母であるマリアを養ってきたのだ。


「最初はなにからすればいいの? 色仕掛けなら得意よ」


「礼儀作法を学びなさい。貴族の令嬢としての常識を学ぶための家庭教師をつけます」


「お父様ですらもそこまでしてくれなかったわ! いいの? フィオナ、勉強をする機会が手に入るなんて感激だわ! お姉様の味方を選んでよかったわ!」


 フィオナはお世辞ではなく、本気で言っていた。


 貧困街ではその日暮らしの生活で手一杯だ。勉強を学ぶ時間もなければ、勉強を教えてくれる人もいない。フィオナはマリアを教師として、最低限の文字は習ってきたものの、それ以外は知らない。


 貴族としてふさわしい振る舞い方を知らない。


 知っているのは男に媚びを売るやり方だけだ。


「今回のご褒美は前払いとしましょう」


 アビゲイルはフィオナのためにしたことではないという態度を示す。


 これはバンフィールド公爵家が見下されないための手段の一つだ。しかし、フィオナには正直に伝えるよりもご褒美と称した方が喜ばれるだろう。


「少しでも多くクリスの情報が欲しいのですが、なにか、ありませんか」


 アビゲイルはフィオナに問いかけた。


 既に情報ギルドを使い、クリスの近辺調査に乗り出している。その上でフィオナの証言をもらうつもりだった。


「お姉様をお飾りにして、実質的な公爵は自分だって言っていたわ」


 フィオナは素直に答えた。


 ……そのために支配下に置こうとしていたのですね。


 暴力と暴言は簡単に他人を支配下に置くことができる手段の一つだ。


 恐怖で支配しようとしていたのだろう。


 クリスの卑劣さが見えてきた。


「結婚したら、お姉様から公爵位を譲り受けるつもりでいたみたいよ」


 フィオナの言葉に違和感を抱く。


 ……では、なぜ、婚約破棄を?


 逆行前は三年後の世界だ。考えが変わった可能性も高い。


 ……誰かに婚約破棄を促されたのでしょうか?


 可能性として浮上した第三者の存在は恐怖でしかなかった。



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