常備菜
私が幽世に来て十日が経った。幽世での生活も少しずつではあるものの慣れてきた。
初めは得体の知れない生物が跋扈する世界での生活は緊張感があった。しかし、幸運なことに心優しい妖怪達に恵まれ、それなりにやってこれている。相変わらず不安なこともあるけれど、何とかなるだろう。
さて、先日、彩り市場でまた色々買ってきたから常備菜でもストックしていくか。ちょっとしたおかずになるし、なにより私がお腹がすいたときに食べられる。何作ろうかなあ。きんぴらごぼうとか良い。ゴボウと人参を細く切って炒めてみりん酒醤油で味付けすれば完成する。好みで鷹の爪とごまも和えて。白菜が大量にあるから浅漬けにするもの良い。塩と砂糖をジップロックに入れて揉み込めば放置で完成する。個人的には昆布茶の素や柚子こしょうを入れるのが好きである。
そうと決まれば早速作っていこう。とりあえずきんぴらごぼうを作っていく。まず人参とゴボウを切っていく。人参を短冊切りにして重ねて細く切っていく。ゴボウは斜めに薄い輪切りにしてこれも重ねて細く切る。ごま油を引いてそれらを炒めていく。しんなりしてきたらみりん、酒、醬油を加えて馴染ませていく。最後にごまを散らして完成。
時間があるから浅漬けも作る。白菜を一口大に切る。それをジップロックに入れて塩と砂糖を加える。空気を目いっぱい入れて口を閉じる。これをカクテルを作るように振って全体に馴染ませる。時折向きを変えていく。馴染んだら柚子こしょうを加えて同様に振る。後は二時間くらい冷やせば出来上がり。
サツマイモを輪切りにして水にさらし、あく抜きをして水で煮ていく。火が通ったら取り出して水を取り替える。そこに砂糖を加えて五分くらい煮てすだちの搾り汁を加えればサツマイモの甘煮となる。
一旦これくらいにしておこう。きんぴらごぼうとサツマイモの甘煮をタッパーに入れて保存する。
「嘉穂お、何作ってるの?」
五色鬼達がいつの間にか台所に集まっていた。私は彼らに目線が合うように膝を屈めてタッパーの中身を見せた。五色鬼達は目を輝かせて「おお!」と声を漏らした。
以前と比べて五色鬼とはかなり仲良くなった。彼らは家事を分担してさっと終わらせて遊ぶ。ここ最近私はその遊びに混ぜてもらっている。始めこそは嫌な顔をされたが、時間が経つにつれて仲間に入れてもらえるようになった。家事を手伝えばもっと遊ぶ時間が長くなると思い手伝おうとしたけれど、なぜかものすごく怒られてしまった。何もすることがないので、日中は彼らのその様子を眺めるか、こうして何かしら作ったりしている。
五色鬼が掃除を終えると、皆で和コマを回して遊んだ。始めはチームに分かれてコマをぶつけあったり、自分のコマをロープで叩いて回転をつけたりする――俗にいう喧嘩ゴマをやった。しかし私が下手すぎて途中から五色鬼によるコマ回しレッスンが行なわれた。そのかいがあってか、それなりに上達した。再び喧嘩ゴマを始める。
「よし! 行けえーー!! 頑張れええ!!!」
コマに声援を送ったところで回転が良くなるわけではないけれど、自分が回したコマは長く回ってほしいし、相手のコマを弾いて勝つと本当に気持ちが良い。ついついチーム五色鬼達と声と両拳を上げてはしゃいでしまう。冬なのに妙に体が熱い。掌には汗をかいていた。
「嘉穂ちゃ~ん!」
五色鬼と喧嘩ゴマでわっきゃわっきゃしていると禰々子さんに声を掛けられた。私はコマを投げようとした右手を下ろして禰々子さんの方を向く。
「禰々子さん、どうかしました?」
「ちょっと申し訳ないんだけどさ~、ブロッコリーを彩り市場に持っていくの手伝ってくれない? 必要なものがあれば買っていくしさ~」
「いいですよ。すぐ行きましょうか」
私は禰々子さんと川に歩いた。舟にはすでにブロッコリーが積んである。どれも茎が太く鮮やかな紫色であった。ブロッコリーが紫色に変色していると痛んでいるのでは? と思われるかもしれないが、これが良い。これはブロッコリーが寒さから身を守ろうとしてアントシアニンを生成した結果である。寒い環境で育ったブロッコリーは甘みが強い。つまり、紫色のブロッコリーは美味しいのだ。
禰々子さんが歌いながら舟を漕いでいく。何の歌かは分からないが静かな川のせせらぎにとても合うゆったりとした歌だった。
彩り市場には前回同様、黒姫さんがいた。持ち込んだブロッコリーを黒姫さんに渡して古くなったら野菜を受け取る。
「一つ買っていい?」
「おお。ありがと~」
古い野菜を舟に積んだ後、彩り市場で豚バラの薄切り肉と鶏挽き肉、昆布とかつお節を買った。
「ほんとにそんだけでいいの~?」
帰り道、禰々子さんは舟を漕ぎながら訪ねてきた。
「はい、大丈夫ですよ! お気遣い有難うございます」
「数日分くらいまとめて買えばいいのに。いいんだよ、遠慮しなくて~? 鬼神にお金請求するから」
「は、ははは……」
他人のお金で買うのも申し訳ないけれど、勝手に鬼神様のお金を使うのもそれはそれで気が引ける。とりあえず笑ってごまかしておいた。
「それより、今日は晩御飯一緒にどうですか?」
「え、いいの~? やった! じゃあ遠慮なく~」
禰々子さんは体を揺らして喜ぶ。舟が激しく揺れる。まずい、酔う、酔う。
陸に着くとゆっくり降りて遠くの空を眺めた。空はまだ青い。少し早い気がするけれど、夕飯の支度に取り掛かろう。
煮物作るからなあ……。
出汁を取る時間、味を入れる時間を考えれば今からやるのがちょうどいい、と思う。
「禰々子さん、少し早いですけれど、夕飯の準備をしましょうか」
「うん、いいよ~。やろう、やろう」
だいぶ気分も良くなった。早く家に帰って料理しよ。




