表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/35

リンゴのシチュー 一

「すみません、鬼神様。一つ謝らないといけないことがありまして……」

 地主達のお見送りをした後、私は身を縮めて鬼神様に申告。「何だ、言ってみろ」と言われたので、言葉を続ける。

「はい、今晩は洋食を作ろうと思っていたんですよ。しかし、昨日のブリ大根がまだ余っているんですよね」

「それがどうした?」

「晩御飯がブリ大根と洋食なので合わないかなあと思いまして」

「合わないとはなんだ?」

「え、ああ……ええと。大丈夫な感じですか?」

「俺にそう言われても困る」

「ああ、はあ……では、とりあえず、作りますね」

 食材と調理器具を揃えたところで料理開始。まずは食材を切る所から。玉ねぎを頭とお尻を切り落として、縦半分に切る。断面を下にして繊維に沿って薄く切る。紅玉も縦半分に切り、断面を下にする。縦にもう半分切って芯を取り、横に切り分ける。これをボウルに入れて、水と塩を少々加える。じゃが芋はピーラーで皮を剥き、一口大に。これも別のボウルに入れて水を入れる。人参も皮を剥いて乱切りにする。

「リンゴは何故塩水に浸けるんだ?」

「リンゴは切ったままにしておくと変色してしまうんです。まあ、味には影響がないんですけど。見栄えよくするにはやっておいた方がいいですね。因みにじゃが芋も変色を防ぐために入れます。後灰汁抜きですね」

「そうなのか」

「因みにこれは紅玉という品種らしくて、甘くないんですよ。そのおかげで料理に使いやすいんです」

 私はリンゴを先程と同じように切って鬼神様と五色鬼に手渡した。五色鬼達は不思議そうな表情で酸味を表現していた。鬼神様は「確かに酸味がすごいな。これはこれで美味い」と冷静に感想を述べた。

 次に鶏もも肉を切っていく。が、その前に下処理をする。清潔なタオルで鶏肉の水分を取り、皮や身に付いた余分な脂を切り落としていく。

「急に彫刻家みたいなことをするな」

「誰が彫刻家ですか? 余分な脂を取っているんです。こういう黄色い脂や筋が残っていると臭みが残るんですよね」

 鶏肉の下処理が終わると、一口大に切っていく。塩とコショウを軽く振って五分置く。

 食材を全て切り終えると、フライパンを火にかけ、甕からバターをスプーンで掬ってフライパンに落とす。全体に馴染んだら、鶏肉を皮を下にして、さっと炒めて、人参を投入。その後に玉ねぎを加える。玉ねぎがしんなりしてきたところでじゃが芋を入れる。ある程度火を通してリンゴを投入。マッシュルームを加えて簡単に炒めて、水を加えて弱火でじっくり煮込んでいく。

「二十分くらい煮込みます。食材の旨味をスープに溶かしていきます」

 煮込み終えるとスープはほんのり黄色く色づいている。ポトフのようである。これに牛乳、生クリームを加えて全体に馴染ませる。そして小麦粉を数回に分けてとろみをつけていく。

「何だか粘りみたいなものが出てきたな」

「小麦粉によるものですね。小麦粉や片栗粉を加えるととろみがつくんです」

 とろみがつくにつれて、ルーが少なくなっていき、具材が頭を出し始めた頃、お玉でじゃが芋を掬って竹串で刺すと、すっと通るようになったので、牛乳を加える。

「牛乳、飲んだことあります?」

「いや、ないな」

「ええ、じゃあ飲んでください」

 私は湯呑に牛乳を注いで鬼神様に渡す。鬼神様は暫くそれを凝視して、少し手前に傾けたり、軽く回したりしていたけれど、意を決したように飲んだ。

「舌にはっきりと残るな。まるで牛乳が張り付いているみたいだ。だが、爽やかな味わいだ。後味がすっきりしてる。独特な良い香りとコクが滋味深い」

「現世の子どもはよく飲んでいますよ。背が伸びますから」

「それは冗談だろ」

「何故そんなことを言うんですか?」

「お前の背丈が証明してんじゃねえか」

「……鬼神様は晩ご飯抜きです」 

 私、女子高生の中では割と背は高い方だと思うけど!?

「あとはとろみがつくまで煮込むんですけど、その間にチーズを入れていきます」

「チーズ?」

「ええと、蘇です」

「ああ、まあ、聞いたことくらいはある」

「私もその程度の知識です」

 まさか蘇で通じるとは……。

 私は銀紙に包まれたチーズを取り出した。大きさとしては六ピースで一セットの市販されている円形のあれと同じである。これを五分の四くらい使おうかな。残りは鬼神様に。このチーズをピザ用チーズほどの大きさに切っていく。その間に鬼神様にはシチューを混ぜてもらう。何か言っていたような気がするけれど、「ご飯を抜きにします」というとやってくれた。五色鬼達も食器を拭いたり、片づけたりして鬼神様の手伝いをしていた。チーズを切り終えると、全体に散らすように投入。そしてコショウをパラパラと。そして、混ぜながらチーズを溶かす。

「加熱をし過ぎると分離してしまうので弱火でコトコトしていきます」

お玉で底から掬い上げてチーズが残ってないか確認。塊が見当たらなくなったので、盃に掬って味見をする。本当はコンソメやブイヨン、骨付きの鶏肉を入れたかったけれど、ないものは仕方がない。でも、中々良い味である。塩味がきいた濃厚な味わい。チーズのおかげでルーがまろやかになっている。そして、思いの外コクがある。玉ねぎとじゃが芋、紅玉が良い仕事をしている。それにしても、やはり塩は入れなくて正解だった。チーズという塩っ気のある物を入れているので、どうしても塩分濃度が高くなるのだ。

 私は火を止めてお皿を持って来るようにお願いをする。持ってきたお皿にシチューを注いでいく。

「どうです? こういう汁物は初めてでしょう?」

「ああ、そうだな。何と言えばいいんだ。この匂いといい、とろみといい。口では上手く説明がしづらい」

「でしたら早速食べましょう! 食べて感想を聞かせてください」

 私は笑顔でそう伝えた。あ、ブリ大根も持ってこないと。

 ……それにしても、これら二つが食卓に並んでいる光景、ほんとに異様だなあ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ