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ほんとの謎を解く仕事。

「お前さんは、管理局で文書を読んだときからわかっていたんだな。最初から階段しか気にしていなかった。あれは、階段に注意を払ったんじゃなくて、階段では筋が通らないとわかっていたからだ」


管理局の職員に禊が済んだことを告げ、RS500に向かう。


ロボット、コウは帽子をいったん取り、髪の毛を掻き回し、帽子を戻しつつ言う。


『運転、させて頂いていいですか、この素敵なお車』


「ポンコツで悪いわね」


私は私の通りの言葉を使うことにした。イグニッションキィを放り投げると、ロボットは両手でしっかりと受け止める。


ロボットとの会話は、職務である。それなりの言葉使いであるべきだと考えていた。が、なんだかそれも面倒になってきた。


私は悪くない。そういうふうにさせているコウが悪い。気持ちまで放り出しにして、さっさと助手席に座ってしまう。


「ほお」


『何か、ございますか』


「いや、こっち乗るの、初めてだからさ」


この車の助手席からの景色は新鮮ではあった。


ロボットは小柄なので、座席をずいぶん前にする。それでも見えているのかいないのか、そもそも眼で見る必要はないのだろうし。


ためらうことなくイグニッションを捻り、二、三度とレーシング。


『おお、剣司様が執着されるだけはありますね。獣の咆哮のような、大音量の楽器のような』


重く強靭なクラッチを苦も無く合わせ、クロスレシオの神経質なギアを滑らかに繋ぎ、最強の名を欲しいままにしたRS500を手懐けてしまう。


私たちにとって機械は身体の延長だが、ロボットにとっては身体そのものとなる。自在に扱えて当たり前だ。


『で、なんでしたっけ。そうそう階段』


「なんか、一生分階段って言った気がするわ」


『事故に遭われた剣司様とロボットが、絵画と寝室の繋がりに気付いたのか。あたしはそこに引っ掛かったんです。気付いていたのなら何故事故が起きたのか。剣司様はどう思われます』


「あ、私か。剣司剣司とややこしい。私のことは三乃と呼んで頂戴」


『わかりました』


謎解きに継ぐ謎解き。私の頭は休まる暇が無い。


「気付かなかったのならなんで階段に近付いたのか。気付かなかったからか。でも、何も用心しないまま、神楽をうろついたりするかな。言われてみるとわからんなあ」


『似てると思いませんか、当主と侍女、剣司とロボット』


「え、ああ、まあ」


実感はないが、主従と言えば言えなくもない。私はロボットに対して主であるように振る舞っているが、機械や道具を相手に主従なんて成立するだろうか。


『三乃様にはわかりにくいかも知れませんね。あの事故は、ロボットが自衛のために起こしたんですよ』


「え」


『件の剣司様とロボットは、ご当主と侍女様が憑依したかのように寝室へと誘われた。深く愛し合った往時の自分たちと、重なるものがあったのかも知れません』


「え、なに、ちとわからんが」


『でしょうねえ。ともあれ続けてしまいますが、階段の中程でロボットの防衛機能が働いて、剣司様を正気に戻すために行動したところ、事故、と報告せざるを得ない状況に陥った』


「ん、んん」


『禊は、極めて閉ざされた環境で行われるもので、時には内緒にしたいことも出てくるでしょう。ご当人たちが黙っているならあたしも黙るし、そもそも当てずっぽうですからね、この部分は』


「私に謎解きをさせた理由は」


『見当がついてるんじゃないですか。肖像画と寝室、両方に発生した神様を同時に祓う必要があったんですよ。どちらが残っても、ものすごい恨みが向けられそうじゃないですか』


「だから、私を巻き込んで、私の剣の力を増幅して、あんな真似ができるようにした」


『お見事でございましたよ。でも、心身にご負担をおかけしたかも知れません』


コウの言葉は柔らかで、コスワースの血統書付きは滑るように路面を流れる。運転して楽しい車だが、こんなに快適と感じたことはなかった。


迷子ロボはまだ何か喋っていたが、私の頭には言語としては伝わらず、ただぼんやりとしたリズムとして響く。


目覚めた時には、管理局の駐車場に着いていた。




「早かったな」


局長は、報告に出向いた私たちを見て、意外そうに言った。


「手こずると思いましたか」


『失敗すると思いましたか』


私とロボットは口々に言う。


苦々しげに口元を歪めた局長は、


「私は領の職員上がりだから、君たちの仕事ぶりについてはよくわからん。迅速な対処には感謝する」


と続け、帰宅するために重心を移動しようとした直前に続ける。


「それから、こちらから用件がふたつある。前任者の提出した報告書の中に、不自然な箇所が見られる。私も上に報告しなければならない立場だから、わかることがあったら教えて欲しい」


私とロボットは顔を見合わせる。情報の交換と確認をしているわけだ。


コウが言っていたとおり、私たちには答えなければならない義務はない。局長はわかっているから、教えて欲しいと言いながら諦めている節がある。ただ、現場ではそれで通るが、納得できないひとはいるだろう。組織はそうなる。納得できないひとが悪いとも限らない。


が、やったことのないひと、興味がないひとに説明を求められることが多いのは、不思議ではあるような、そういうもののような。


「局長、そこは個人の人格とロボットとの関係性に関わるところなのでひとことでは言えませんが」


「だろうな」


「ふたことで言うなら、前任者はロボットと愛し合ってしまっているのが原因、とでも言いましょうか」


『あっあっあっ』


私の相方は、私の腕を揺さぶりながら言葉にならない異議を唱える。局長は更に急角度で口を捻じ曲げる。


「どうせ報告できんじゃないか。愛か。信頼関係と言い換えても良いな。信頼しなければ一緒に行動はできんだろう。要するに、聞いた私が悪いのだ」


「局長に聞くほうが悪いんですよ。で、もうひとつの用件とは」


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