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言い訳じみる仕事。

ロボットはメンテナンスをされて、万全の状態になったようだ。が、相変わらず薄ぼんやりした佇まいは変わらない。装衣は正式なものを賜ったようだが、まだ私が与えた中古品を身に着けている。


ロボットなりに恩義を感じているのだろうか。サイズ感がいまいちでだらしなくも見えるから、着替えてもらってもいいのだが。


まあ、私が知っているロボットとは、何もかも違う。


だからこそ、私は受け入れることができたのだろうけど。


そこを理解することはできるが、それはそれで、私の拘りはそんな程度で崩れるのかと思うと、少々情けない気もする。


ともかく、ロボットは落ち着いたらしいが、私は空腹だった。周辺は管理局の他にもいくつかの公共機関があって、人が集まるから飲食する場には困らない。私は手近なファーストフード店に入った。


いままでは食事はひとりで済ませるものだった。連れて歩く自体も慣れないが、運ばれてきた飲食物を挟んでロボットがいるという状態は、向かいの席にちょっと荷物を置いておく、というのとも少し違うようだ。


「ロボットは、飲食はしないんだな」


『できないことはないですが、あまり効率が良くなく、摂取方法も人間とはだいぶ違うので、こういう場ではあまり』


「いや、いいんだ。変なこと言って済まない」


詫びが言い終わらないうちに、ホットドッグを押し込む。


『あたしからもひとつ、いいですか』


「ん」


『何故剣司様は、この御職業に』


いろいろすっ飛ばして、核心を突いてくる。頬張りすぎたホットドックにも苦労しながら、答を考える。


いや、まずはコーヒーで流し込んでしまおうか。


『不躾でしたね、申し訳ありません』


「いや、いいさ」


幼いうちに母を亡くした私は、父の再婚相手に馴染めなかった。


義母は気遣い、優しかったが、私は忌避した。父は何度か癇癪を起こしていたが、義母は庇ってくれた。それでも私は現実を受け入れなかった。


そんな自分も嫌だった。


母が作ってくれた人形をいつも抱えていた。


あるとき、その人形が喋り始めた。


母の声だった。幼くはあったが、さすがに人前では憚られる現象だと察していたから、誰もいないところで、こそこそと人形とお喋りをした。とはいえ、母と幼子の会話、というのでもなかったような気がしている。


思えば母の声は、ただ相槌を打っているだけだった。


でも、嬉しかった。


が、小さい子供の秘密が、いつまでも露見しないはずはなかった。


人形に神が発生していた。母の声は、神が作ったものだった。それを斬るためにロボットと剣司がやってきた。


成り行きとしては当然だった。私に抗う術はない。


人形は返してもらったが、もう母の声は聞こえなかった。怒りも悲しみもそれほどではなかったようだ。ただ、大事なものを失った感覚はあった。


コウと名付けたロボットが、どこまで察しているかはわからない。が、私がロボットや剣司に対していい感情を持っていないというのは把握されてしまっているようだ。


だから何故、となる。


「嫌なものになってしまえば、嫌なものに出くわす機会がなくなるだろう」


『合理的、ではありますね』


「そうかねえ」


いい加減に答えると、ロボットは存外にも真顔で、髪の毛の中に右手を潜らせている。


『でも、伴侶を得ようという決断をされたのは、良いことだと思いますよ。むしろ、よく今まで借り物でやってこれたものだと』


「ロボットの損耗が多めで、管理局の評判は良くなかった。でも人手が足りないからな。ロボットは替えがきくが剣司はそうもいかない」


自虐と意地悪を込めて、言ってしまった。


『それはもう大丈夫ですよ』


ロボットの表情は変わらない。


「お前さんだって、ひどい目に遭うかも知れないよ。それとも自信があるのかい」


『ロボットは、どうにかなるときにはどうにかなるように作られています。こないだ壊されたロボットも、あれで使命を全うしているんです。見方を変えれば、あたしたちは神様が示す運命から逃れられない』


「祓っているじゃないか、神の力を断つために」


『剣司様は神様と人間の間に立つ存在です。あたしたちのために祓うわけではありませんから』


「それは、そうだが」


だからロボットでなければならない。人間では務まらないのだ。


『何もかも現状維持かも知れませんが、それでも、大丈夫ですよ。剣司様は十分に働いておられる』


「慰めかい。ありがとう」


『たまには、慰められたいでしょ』


と、また猫のように笑う。


「お前さんは、神様よりたちが悪いかも知れないなあ」


伝票を引っ掴んで立つ。コーヒーがまだ残っていることに気付いて飲み干す。


冷めてしまっていたが、悪くはなかった。




私の住処はいわゆる官舎で、鉄筋コンクリートの三階建、人間的な温かみが感じられない造りである。結構な人数が寝起きしているのだけど。


住人はほぼ剣司とロボット。部屋に空きがあったときなどは、領の職員がしばらく暮らしていたりするらしい。


同じ仕事をしていると言うのに、住人同士はほぼ接点を持たない。挨拶すら稀である。そういう世間ずれした奴らばかりが放り込まれている、と言われれば、あながち間違いでもないけど、これは職業柄でもある。


私たちは、当人が意識しないうちに面倒な縁の中に入っていって、なにがしかの影響を受けつつ禊ぎ祓いを行う。うっかり交わした言葉が縁を結びあやを織りなし、面倒に面倒が重なってしまう場合もある。そもそも守秘守秘とうるさいし、いっそお互いいないもののように振る舞ったほうがましなのだ。


「ちとむさくるしいが、楽にしてくれ」


『お邪魔いたします。と、よろしいのですか』


「え、なにか不都合があるかい」


『剣司様はロボットが』


「ああ、うん、なんだかお前さんなら大丈夫な気がする。気持ちが折れたら管理局に入ってもらうかも知れない」


『わかりました。よろしくお願いいたします』


順番にシャワーを浴びて、また古着をつけようとするのをとどめ、あまり多くはない私の私服の中から寝やすそうなものを選んで渡す。


「そういう配慮が必要なのかどうかわからんが」


『恐れ入ります。ありがたいです』


「寝床をどうするかな」


『このソファでいいですか』


「いいのか」


『このあいだまで野宿でしたから、極楽です』


「そか」


まだ話したいような、頃合いのような。揺れる気分を振り切って寝室のベッドに潜り、読みかけの本を数頁捲ったところで別の世界に落ちたようだった。

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