カスス⑦ ちょっとしたトラブルといつもの流れ
「カスス、戻ってきて早々悪いが俺の部屋に来てくれ」
声をかけてきたのはカルゴ・エンプサレオ、このギルド長だ。
「はーい。ニーニャさん、この人たちお願い」
ニーニャは五人を別室に連れて行った。
「失礼しまーす」
ノックもせずに扉を開ける。他はどうか知らないがカルゴはこれで怒る人間でない。証拠にカススが入って来ても何も言わない。
「呼び出して済まんな」
「何の用すか? やらかしたことは特にないと思いますが」
促される前にソファーに座る。
「まあ、お前の場合は何か理由があってのことだからなあ」
カルゴは一通の手紙を差し出した。
「抗議書が届いている。差出人はゴウェルノ。お前が今帰って来たクエストの発注元だ」
「えー、だるう。なになに?」
《そちらの冒険者は仕事未達成にも関わらず、報酬として用意してあった金銭を強奪した。証人は追加報酬と称して奪ったヴラークが知っている。つきましては受注者本人が我が村に謝罪に赴き、返金を含めた賠償金銀貨100枚の支払いを要求する》
「ふはっ、すごっ、よくもまあこれだけの嘘をつけるもんだな」
「やっぱり嘘か。証明できる物はあるんだろ?」
「もちろん。受注書にサイン貰いましたし」
カルゴの前に受注書を置く。
「あと、これとこれ」
受注書の横に冊子と小袋を置く。
「なんだこれ」
「床下にあった裏帳簿と、たぶん賄賂」
へたり込んだ村長から帳簿を取るのは床下から盗ることよりも簡単だったので、ちゃっかり持ってきている。
「あー、なるほど。それでか。わかった。お前は無罪だ」
「あざっす」
「下でクエスト完了処理してこい。追加報酬のこともな」
「あ、そうだギルマス、今日連れて来るとき馬車作ったんっすけど、どうしたいいっすか」
「サイズは?」
「さあ? でも普通の乗り合い馬車と同じか小さいくらいかと。幌付き、隠蔽魔法の陣有り、陣は魔石入りインク、魔力切れ、木製」
「なら素材買い取りに預けろ。鑑定するように言っておく」
「了解でーす」
部屋を出るとまず受付に達成報告に行った。サインが書かれた受注書を出すだけなのですぐに終わった。
次に馬車を素材買い取りに出した。度々こうして変なものを出すので買い取り担当者は驚きつつも受けとってくれた。
ニーニャと五人は応接室にいた。空気が重い。
「お待たせしました」
「お疲れ様です。どうでした?」
「どうも何も、無罪ですよ。あ、いつも通り両替お願い。銅貨換算で5028枚」
「わかりました。持ってきます」
再び六人の時間になった。
「そーだ。報酬をお返しますね」
カススは村長に戻された三人の報酬を返した。そんなことをしているとちょうどニーニャが戻って来た。
「5000枚は全部銀貨にした方が良いと思いまして。端数の内20枚は大銅貨2枚にしたので8枚はお返しします。両替手数料は大銅貨・銅貨5枚ずつですね」
「いつもありがとう。あ、あと彼らの冒険者登録……」
「持ってきてますよ。手伝います」
「さすが。慣れてらっしゃる」
手分けして五人分の書類を記入する。
「うん、不備ないですね」
「ありがとう。これクエスト前に買ったお菓子、そんなに量ないけど」
そういってニーニャに小袋を渡す。それをニーニャは呆れた顔で受け取った。
カウンターに戻り、中を確認すると菓子は飴玉二つだけで他は銀貨だった。
銀貨はちょうど五人分の登録料だ。
「相変わらずのお人好しなんですから」
「何? またカスス?」
「そうです」
本来、冒険者登録には料金がいる。しかし、今引き取って来たばかりのウィークス達にはそんなお金はない。あったとしても料金だけで全てなくなってしまう。
それにそのお金もだいたいの場合カススが渡したものだ。
「なにそれ?」
ニーニャは何やら表のようなものに数字を書き込んでいる。
「あー、これはカススさんが今まで連れてきた人をカウントしているんです。いつか何かの役に立つかと思って。何の役に立つかわからないですし、多分ならないですけど」
表には日付と人数、名前が書かれている。
「そろそろ500いきそうです」
ニーニャはどこか嬉しそうに言った。
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