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カスス⑤ 勝負

村長は机と箱二つを持ってきた。

「この箱の中に入れる。どっちに入ってるかを当てられたらお前の勝ちだ」

「シンプルでいいですね」

「お前ら! 教えるんじゃねえぞ!教えたら二度と金は払わんからな!」

村長は三人を怒鳴りつけた。

「俺もお三方に教えてもらうなんてズルしませんよ。さっそく始めましょう」

カススは箱に背を向けた。

背後で箱が開けられた音がする。冊子が底に当たる音、閉じられる音、箱が移動する音が何度か聞こえる。

「いいぞ」

「では」

カススは振り向いて箱を注視する。

「(箱が開けられたのは計三回、底に当たったのは一回、移動は五回。右の方が揺れてない。蓋もズレてる)」

村長は何故か既に勝ったような顔をしている。

答えは決まった。右か、左か。カススが指したのは――――村長だった。

「……は? ちゃんと箱を選べよ。中に入れると言ったろ」

「何を、とは言ってませんし、よくある話です。どっちにすると訊いておきながらどっちでもない。勝負は成立させなければ勝つことも負けることもありませんからね」

右の箱を開けると入っているのは手のひらサイズの石だった。当然左の箱には何も入っていない。

「くそがあああ!」

村長はビブロスを取り出すと火の球を放ってきた。顔ほどの大きさを三つ。少しは出来るようだ。

「なるほど、フスティーヤの属性持ちでありながら田舎の村長止まり。そりゃ脱税もしたくなりますよね」

カススは防除魔法も展開せず真正面から攻撃を受けた。手はポケットの中だ。

「俺は誰よりも優秀だ! なのにスイーシクの上層部の奴らが! 俺は今頃スイーシクのトップにいたのに!」

火球が頬を掠り、脇腹が焦げてもなお受け続けた。それで気付いた。

さっきから火球しか放ってきていない。火属性魔法は他にも『放射』や『爆発』などがある。なぜ使わないのか。

「もしかして使えないとか?」

動揺して陣が乱れたのか火球が消える。

「使えないんじゃない! 使わないんだ! 他を使って畑や家に引火したらどうするんだ!」

「俺が処理するんで是非使ってください。ほら、どうぞ?」

カススは両手を広げた。村長は今にも憤死しそうだ。

「後悔するなよクソガキィ!」

村長は陣を組み始めた。しかし、それは間違いなく『爆発』の陣なのだが……

「(こりゃあ、暴発するなあ。よくて片腕、悪けりゃ命がなくなるな)」

村長が組んでいる陣は、あまりにも拙く、初めて魔法を使う子供の様だ。いや、これは子供の方がまだマシに見える。

「(助ける義理はねえが、煽ったの俺だしな)」

ビブロスを取り出し、既に1mまでに膨れた火の玉に水球をかぶせる。

「これでなんとかならないか?」

水球の中ではドゴンッドゴンッと魔法が爆ぜている。

「拙くても込めた魔力の量だけは、さすがに有属性持ちだな」

そんなことを呟いていると、一部が水球を飛び出した。こぼれた炎は幸い地面に落ちたので被害は無いが、これでは時間の問題だろう。

「めんどくさ……」

意識を火の玉の中心に向ける。きっと中心では小さな、しかし、威力のある爆発が無数に起きていることだろう。

「『黒球(くろたま)』」

数瞬して火の玉は中心に向かって一気に収縮し水球ごと消えた。

「ふいー、どうにかなったなあ」

カススは収納魔法からマナポーションを取り出した。

闇属性魔法の一つ『黒球』は望んだ場所になんでも取り込む点を召喚する。魔力の消費が三連続契約魔法よりも激しいのであまり使いたくないのが正直なとこだ。

「俺の……渾身の、爆発魔法が……」

魔法が消されたのがよほどショックなのか村長はその場にへたり込んでしまっている。が、あれで渾身(全力)なら始めて一週間の子供のほうが強い。スイーシク上層部の判断は正しかったのだろう。

「さあて、全部終わったので帰りましょうか」

カススは三人に笑いかける。

「自分たちも、ですか?」

「あ、他にヴラークの方がいたら連れてきてください。一緒に行きましょう」

三人は顔を見合わせると頷き、住んでいる家とも呼べない建物から二人連れてきた。

「これで全員です」

「じゃ、行きましょうか」

お読みいただきありがとうございます

次回もよろしくお願いします

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