カスス④ 一悶着
「村長さん、少しいいですか」
カススは村長と共に三人から離れた。
「彼らのことはどう思ってます?」
村長に背を向けて問う。
「私ですか? どうも思ってませんね。というか働かせて給料を払ってやってるだけ感謝してほしいものです。他ではどうかわかりませんが、ここでは家も服も与えているんですよ? あんな奴らにですよ?」
「まるで好待遇のようにいいますね」
「当然でしょう。わが村で暮らす以上最低限は与えないと」
「仕事中に聞きました。一ヶ月の給料は大銅貨7枚、家賃は大銅貨10枚。住んでいるのは五人。田舎とはいえ、大銅貨10枚は破格ですが、雨が降れば確定で雨漏りをし、風が吹けば隙間風で会話が出来ず、嵐がくれば寝ずに家を支える。むしろ高く思いますけどね」
「修理しないのは奴らの勝手でしょう。板なら銅貨1枚、釘は千本入って銅貨5枚です。五人もいるんです、買えない額ではないでしょう」
「……そう、ですね」
振り返りながら眼帯を外した。
「なんだ、その眼……」
「俺、生まれつき右眼が無いんですよ。後天的に失くしたなら治癒魔法でどうにかなったそうなんですが、生まれつきはどうにもならないそうです。それでまあ、義眼を買ったんですよ。きれーな虹色なのが気に入って購入したら、それがいわゆる呪われた(カースド)物品でしてね。つまり視力を得る代わりに呪いを振りまく化物になったわけです。まあ、その呪いも布一枚隔てただけで相手に届かないんで程度がしれますけどね」
カススが右眼をつついて見せるとカツンと無機物らしい音がした。
「呪いを振りまく、って」
村長の不安そうな顔とは逆にカススはにこやかに笑った。
「はい、あなたは呪われました。種類はランダムで俺にもわかりません」
「解呪しろ! 早く!」
村長はカススの胸ぐらを掴んだ。
「ええ? いいんですか? もしかしたら不老や不死かもしれませんよ? それだったらあなたが永遠にこの村の村長なのに」
村長の顔にためらいが浮かぶ。
「まあ、俺は呪わせることは出来ても解呪はできないんで、しろと言われても困るんですけど」
そう言いながら収納魔法から一冊の本を取り出す。
それを見た村長の目が見開かれ、返せと怒号が飛ぶ。
「そういえばこの村ってヴラークの数の割に栄えてますよね」
村長は取り返そうと飛びついてくるのを、くるくると舞うようにカススは避けた。
「栄えてる割にヴラークの人数が他に比べて圧倒的に少ないなあって」
ヴラークは世間から奴隷同然で扱われている。だから人口の半分がヴラークなんてことがザラだし普通だ。特にこれだけ大きい農村なら夕暮れのこの時間は十数人は畑にいないとおかしいのだ。
「あと初めてお宅に伺ったときに見つけた床下の素敵な帳簿。これはなんでしょうね」
村長の剣幕とは裏腹にカススは落ち着いている。というか煽っているようにすらみえる。
「返さないと殺す」
「俺を殺せばギルドが戻ってこない俺の捜索をするでしょう。優秀ですよぉ? ギルドの捜索隊は」
村長がこれほどまでに怒っているのは、カススが持っている冊子が俗にいう裏帳簿だからだ。つまりここが栄えているのは脱税しているから。
村人が認知してるのかは知らないが、どんな理由であれ脱税は許されない。
「ま、この帳簿はお返ししてもいいですよ。いいですが、一つ勝負しませんか?」
「勝負?」
「そちらが勝てばこのことは言いません。俺が勝ったらこの村のヴラークは全て貰っていきますが、追加報酬はお返しします」
「こちらが勝っても負けても損はない、ということか」
「ええ。勝負の内容は決めてもらっていいですよ。魔法も使いません」
村長側にかなり分のある勝負を村長が降りるわけはなく
「その勝負、のった」
村長はすぐに内容を決めたのか家に戻っていった。
眼帯を戻したのを見計らったようにウィークスが話しかけてきた。
「大丈夫ですか? 何かもめてるみたいでしたけど……」
「大丈夫ですよ。村長ともう少しあるんで、まだ待っていてもらえますか? 時間かかってすみません」
カススは申し訳ないと笑った。
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