ー第5話ブレイク
翌日。香澄は、朝に昨夜のライブをYouTubeに上げた。いつものように、大学を出て、午後の高崎駅に降りた。
香澄の隣を歩いているカップルのひそひそ話が漏れてくる。
ーカスミじゃね?ー
ーうんカスミカスミー
向こうから歩いてくる男が、いきなりスマホをかざし、シャッター音がする。
気付くとスマホに囲まれている。
香澄はスマホを出して、Xを開いた。
自分の画像が延々とスクロールして出てくる。
香澄は走った。西口に出ると、手をつかまれた。
「ヒャア」悲鳴が出た。
が。三上だった。歩道にエンジンを掛けたバイクが停車されており、ヘルメットを被せられる。
「乗れっ!」
手間取っている間に、二人の周りに人の円が出来る。みるみる円が巨大化する。
三上がギアを入れると同時に、円が崩れる。
三上はクラクションを鳴らしたまま、発進した。人混みが割れて行く。
香澄の体とギターを人々の手が叩いて行く。
人混みを抜けて、道路に出た。
三上は延々と走って行く。
香澄は恐怖で失禁していた。やがて、繁華街のビルの前でバイクは止まった。
三上は降りて、香澄を見た。
「もう大丈夫だ。無理に降りるな。運んでやるから」
香澄は恐怖で涙と鼻水と涎でメイクが崩れ、モダンアートみたいな顔になってるのを、バックミラーで見た。ヘルメットを有りがたく思う。
ビルから中年の女性が出て来てた。
「怖かったね。漏らしちゃったね。大丈夫。着替えが有るから。ダリル!脇の下に手を入れて。私は脚持つ」
ビルの4階で、スナックのようだった。
中年女性は、トイレで香澄の服を脱がし、濡れタオルで綺麗に拭いてくれた。メイクも落としてくれて、ジャージを着せられた。
店内のソファーに座ると、三上が覗き込んで来た。
「落ち着いた?」
「ちょっとだけ」
「間に合って良かった。チャンネル登録数が凄い事になってたから。これはヤバイと思った」
「どうなったんです?」
「100万人超えても止まってない。見るのも怖いよ」
「ここは。どこ?」
「横浜。16ビートのコノヨル師匠の店だ」
「お笑いの?やめなさいの人?」
「そう。師匠は来てないけど、マネージャーのポールさんと弟子の人が守ってくれる」
「ありがとうございます。家に電話しないと。あっこれ」
床にぐちゃぐちゃになったソフトケースを香澄は見つけた。
「ギターは買い換えのチャンスだ。フェンダーがアコギ出して、ほら、近藤真由が動画出してた。女の子向けのカラーが揃ってる。買いに行こう」
マネージャーのポールさんが、脱いだ服の中からスマホと財布と定期券を持って来た。
「お父さんのギター壊れちゃった」
「守ってくれたんだ。ギターに感謝しなきゃな」
「うん。ギターごめんなさい」
外では。三上のバイクが見つけられたせいで。
横浜福富町のビルは。報道陣とテレビカメラとYouTuberに包囲されていた。