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ー第4話バトル
圧巻だった。三上の抑制の効いた感情のボーカルに、香澄の即興コーラスが厚みを付け加えていた。
観客は呆然として拍手も忘れていた。
香澄は、ギターを取りに行った。戻って来て、ストロークでギターを鳴らした。
篠崎はマイクのフィーダーを上げた。
ナチュラルリバーブが掛かったモーリス独特のクセの無い音色が響く。
三上は遅れる事なく、ジャストで歌い出した。
How mamy roads must a man walk down
またしても香澄が、即興でコーラスを入れる。三上がヒートし、それに香澄がヒートし、観客もヒートする。まるで三つ巴のバトルだ。
拍手と歓声と笑い声が巻き起こった。
「おじさん最高ね?グラミー取らせてくれる?」
「グラミー?あんな八百長は金が有れば取れる。ビルボートの連続一位記録とラスベガスのヘッドライナーは約束する」
「それは凄いの?」
「金でもインチキでも無理だ」
「素敵ね」
「素敵さ」
篠崎は、自分がとんでもない事に立ち会っていると知った。