ー第3話アフターコンサート
篠崎はミキサー卓の後ろの棚から、ワイルドターキーの瓶をつかんで、三上に言った。
「ツーフィンガー?」
「ロックで」
「これは嬉しい。チェイサーは?」
「無しで」
篠崎は三上と自分の分のオンザロックを作った。
「どちらから?」
「池袋の寝カフェに居まして」
「YouTubeで見た?」
「はい。久しぶりに電気が走りました」
「香澄さんの歌?よく有るアコギ女子では?」
「全然違いますね」
「どういった、所が?」
三上はターキーを一口飲んで遠い目をした。
「本物が纏っている空気ですかね」
「オーラ?」
「そう。ジョーンバエズと同じヤツです」
篠崎は大袈裟に笑って見せた。
「ジョーンバエズとお友達みたいだ」
「えぇ。ニューヨークでツルンデました」
とんだホラ吹き野郎だと篠崎は思った。
「そりゃ凄い。ミュージシャンなんですか?」
「いや。ただのチンピラです。ミュージシャンなんて上等な物じゃない。バンドマンです」
「当てましょう。ボーカルだった?」
三上は眉を触った。
「いえ。喚き散らす黄色い猿と呼ばれてました」
「一曲歌って下さい。朝日のあたる家なら、弾けます」
篠崎は断ると思った。
「良いですね。売春宿の歌だ。僕にふさわしい」
三上はステージに上がって行った。
篠崎はギターのネックをつかんだが遅かった。三上はマイクも使わず、アカペラで「朝日のあたる家」を歌い始めた。
呆気にとられていると、香澄がそっと寄り添ってコーラスを入れ始めた。