ある憂鬱な日常
憂鬱な日常です
かなり短いと思うのでさくっと読んでみてください
初めて物語を書くという行為をしてみました。暖かい目で見ていただけたら幸いです
僕の瞳に映る景色はいつも胡乱な色をしている
こんな歪んだ世界を生きる自分をいつも恨めしく思う
なぜ自分はこの世界に生まれてしまったのか
そんな問いを繰り返すことでしか自我を保つことができない
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ー僕の名前は、悟
物心がついた頃にはそう呼ばれていたから自分のことを「悟」と呼ぶのだと気づいた。
窓から朝日が差し込み、眼を覚ます。
肺に大きく酸素を取り込むと僕は近くに置いてあった皿に目をやる。
家族が食事を置いておいてくれたらしい。起こしてくれてもいいのにとは思いつつ、山盛りに盛られたご飯をかき込んで胃を満たす。
胃を満たしたら、また眠りについた...。
僕はこのつまらない日常を繰り返している。いわゆる”引きこもり”ということになるだろうか。
どうしてこんなことになってしまったのかは自分にもわからない。ただ、気がついたらこうなってしまっていたのだ。
けれど、そんな毎日に安心している自分もいた。家族は引きこもって外にも出ない自分に何も言ってこないし、食事を黙って出してくれる。それは、心理的にも肉体的にも安全が確保された状態であることを示している。しかし、これほどまでに単調な毎日を送っていると、なんのために生きているのかわからなくもなる。そこで、眼を閉じて眠りにつくまでのまどろみの中、ある思索に耽っていた。それは「なぜ自分はこの世界に生まれてしまったのか」だ...。
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自分に残っている原初の記憶は家族から「悟」と呼ばれていたことだろうか。
視界に映る全てがぼやけていてよく見えない。ただ、目の前に像を結んでいたそれが家族であることはいまならわかる。
われながらあまり似ていないなと思う。遺伝子がどうのという話をテレビで見た覚えはあるがよくわからなかった。ただ、僕のことを育ててくれた2人は忙しなく毎日を過ごしているというのに、自分は毎日堕落した日々を過ごしている。このことが自分と彼らを大きく隔てる壁であるかのように感じていた。
なぜ彼らは自分にこれほどまでに”与えて”くれるのだろうか。それに対して、なぜ自分は何も返すことができないのだろうか。これが自分の中に芽生えた疑問の種だった。
何かお返しをできないか。それによって自分が生まれてきてしまった意義を見出せないかと考え、2人の行動をよく観察することにした。どうやら彼らは、様々なものを特定の位置に置いておくことに安心感を覚えるようだ。例えば、箱に入った薄い紙切れのようなものを移動させた後には必ず元の位置戻していることがわかった。そこで自分はそれを真似ることで彼らの助けになるのではないかと考えた。
ちょうどその日は家族が出掛けていて、自分はひとりきりになった。ふと箱状の物を見てみると普段と位置が違う。どうやら戻し忘れたようだ。軽やかな足取りで箱の元へ向かうと、朧げな手足でそれを持ち上げようた試みた。何度か失敗して中身をばら撒いてしまうも、無事正しい位置に戻すことができた。これで2人は喜ぶだろうかと期待した。しかし、実際の反応は想像していたものとは大きく異なるものだった。彼らは僕のことを叱りつけ、さらには夕食を与えてくれなかった。
自分の存在意義とは一体何なんだろう。
なんのために自分は生まれて、ここにいるのだろうかとわからなくなってしまった。
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ふと眼を覚ますと、外は暗闇に包まれていた。隣にはいつものように山盛りのご飯が積まれていた。
しかし、1つだけいつもと違うところがあった。それは”窓”だ。普段は窓は必ず閉じられていたが、その日に限っては開いていたのだ。そっと足音を忍ばせて外に出てみる。外気にさらされた毛が小刻みに震え寒さを感じる。
そこは魅力的な世界だった。くらやみの中に優美な光が散らばり、世界はどこまでも広がっていた。
徐々に暗闇に目が慣れ、世界の全容が明らかになっていく。自分の背丈の何十倍もの構造物が世界にはたくさん並んでいることに驚く。広大な世界に足を踏み出そうとした瞬間、頭上でなにかが明滅していることに一抹の不安を覚えた。しかし、すぐに明滅が止み、光が点灯したので安心して歩みを進める。
キキィーーーー。ドン。
次の瞬間僕を襲ったのは、強い衝撃と浮遊感だった。地面に叩きつけられたのち、自分が巨大な何かに弾き飛ばされたのだと理解した。
「やっべーやっちまったか?なんだ猫か...」
巨大な構造物から降りてきたものはそういうと、走り去っていった。
今日は憂鬱な日だな。そう思いながら悟は長い長い眠りについた。
憂鬱な日常を書きました