窮鼠、猫に恋をする。
今日は金曜日。
明日から待ちに待った3連休。
彩られた木々を横目に、
鼻歌を歌いながら
自転車を漕ぐ足を進めていた。
まだ16時だというのに日も傾き始め、
茜さす日が家々の隙間を縫い、
左の頬を突き刺す。
「あっ、、」
脳に衝撃が走った。
連休明け。
数学のテストが
あることを思い出したのだ。
「流石に戻らないとだよね、、」
斜陽に目が眩みながら、
背後に視線を向ける。
陰影がはっきりとした校舎が、
家々の合間から姿を覗かせている。
「戻るかぁ」
ハンドルを切り、帰路を逆再生する。
☆ ☆ ☆
校門に着く頃には、
空の大半は闇夜に近づき、
遥か彼方の山の端に、
少しの茜色を残すのみになった。
自転車を昇降口前に停め、
下駄箱から上履きを取り出し、
教室へと歩みを進める。
吹奏楽部の練習。
窓の外、照明に照らされるテニスコート。
ラケットの風を切る、
気持ちの良い音が微かに聞こえる。
教室には誰もいなかった。
教室は薄暗く、
普段からは想像もつかないくらい
寂しい空気が漂っている。
眠りについているようだった。
僕の席は窓側のいちばん後ろ、
のひとつ隣。
僕は椅子に座り、
机に突っ伏した。
腕の隙間から、
左隣の席を盗み見る。
なんだかテストで
カンニングをしているみたいだ。
となりの席には一匹の猫が体を丸め、
寝息をたてている。
毛色は、薄汚い校舎には似合わない、
月光を閉じ込めたかのような、
美しく、清らかな純白であった。
''ぱちっ''と眼を開け、
黄金色に光るそれがこちらを見ている。
寝ぼけ眼のまま口を開き、
猫が喋り出す。
『吾輩は猫である。名前はまだ無い』
脳内で、
猫に声を当ててみる。
なかなかに面白いな、これ。
『お前はでっかい猫じゃなあ〜』
「これでも小さい方ですよ」
これは僕の独り言だ。
『ここは静かで落ち着くにゃ』
「そうですにゃ〜」
うまく猫になりきれているだろうか。
「でも、昼間はなかなかに騒がしいにゃよ」
『それも悪くなさそうにゃ』
「うるさいところ、嫌いそうなのににゃ?」
『どっちも好きだにゃ』
「名前、つけてあげよっかにゃ?」
『変なのにしにゃいのなら構わん』
「優月はどうかにゃ?」
『なかなかいい名前にゃ』
「そりゃよかったにゃ、
好きですよ、優月にゃん」
『にゃー』
「にゃー」
『''にゃー''にしてるのかにゃー?』
「にゃんっ?!」
肩にのしかかる重さが、、
大きな猫、、?
視線の斜め上、
天井との合間。
黄金色、猫目の女の子が
こちらを見つめている。
「にゃにもしてないです、、けど。」
目をあさっての方向に逸らしながら、
なんとか言葉を紡ぎ出す。
一方彼女は、
獲物を捉えたかのように鋭い目付き。
猫と鼠みたいな状況になっていませんか。
まさか幼馴染の優月にこんな場面見られるとは、、
恥ずかしい。
ってか、、さっきの聞かれてないよね、、
『わたしの方の席見て、
にゃーにゃーしてたのに?』
そんな僕の心配はお構いなし。
圧倒的優越感を顔に滲ませ、
ニヤニヤしながらこちらを見つめる。
彼女はしゃがみ込み、
机を介して向かい合う形になる。
「そうそう、猫がいて、
かわいいなぁーって、ね?」
心臓はかつてないほどバクバクだ。
鼠の心拍は一分間で400回。
もう鼠じゃん。
「ほらそこに!」
指さした先、優月の机の上には、
何もいなかった。
『いないけど?』
きょとんとした顔でこちらを見る。
「優月みたいに、''優しい目をした
かわいい子''がいたのっ!」
もうどうにでもなれ!
僕の顔は、太陽みたいに真っ赤だろう。
彼女はきっと月のように落ち着いた表情で、、
ー窮鼠、猫を噛むー。
刹那。
ポッと頬を赤く染めた
彼女が目に飛び込んできた。
お読みいただきありがとうございます。
私の妄想を全面にしてお送りしました!
猫、好きなんですよね。
家にいてくれたらなぁ。
家族がアレルギーなので無理なんですけどね。




