番外:お受験でしょうか魔王様
ゴリアテ島──。
周囲を断崖絶壁に囲まれた絶海の孤島。
上空には常に嵐が吹き荒れており、侵入はおろか、近づくことさえ許されない。
「この島はかつて、憎き神が我ら悪魔を地獄に閉じ込めるために作った蓋だと言われております」
ここは魔王の居城にある勉強ルーム。
そこでは小柄な髭を生やした悪魔が教壇にたって歴史の授業をしていた。
目の前にはマントを羽織った金髪の青年が鼻ちょうちんを膨らませて座っている。
「ZZZZ……」
「魔王様、聞いておられますか?」
「ZZZZ……」
「魔王様?」
「うーん、むにゃむにゃ。もう食えない」
「ファイヤーーーーーー!!!!!!」
悪魔が口から火を噴くと魔王はたちまち火だるまになりながら椅子から転げ落ちた。
「ぎゃーーーーす!!」
「目が覚めましたか?」
「な、何をするかバカモノ!!」
「魔王様を起こすにはこれぐらいいたしませんと」
魔王は、プスプスと黒い煙をあげながら椅子に座り直す。
「まったく貴様というやつは。もっと、優しい起こし方をせんか」
「優しい起こし方? 我輩の口づけとか?」
一瞬で地獄に落ちそうである。
「おえ。想像するだけで吐きそうだ。そうじゃなくてだな、もっとこう、肩をゆするとか、ポンポンと肩を叩くとか……」
「肩をゆする? 肩を叩く?」
その時、悪魔は頭の中で
魔 王 を ブ ン ブ ン 振 り 回 し た り、
肩 を 鉄 球 で 叩 き 折 る 姿
を想像した。
「うほほほ! かしこまりました。次からはそうします、絶対そうします!」
よだれを垂らしながら敬礼をする悪魔。
その姿に魔王の背中に悪寒が走る。
「おまえ今、確実に違うこと想像しただろ!」
「いえいえ、とんでもございません! さあさあ魔王様。勉強を続けましょうか。あ、バックコーラスに子守唄でも流します?」
「寝かせる気満々だな!」
「まあまあ、魔王様。要は寝なければいいのでございますよ」
「ふん。そもそもだな、余に勉強など必要ないのだ。余は魔王なのだから」
「どぐされファイヤーーーー!!!!!」
「ぎゃーーーーーす!!」
「どぐされ魔王様。勉強をバカにしてはいけませんぞ」
「ど、どぐされってなんだよ……」
プスプスと煙を上げながら魔王がつぶやく。
「どぐされ魔王様のおバカ加減は全世界の人間が馬鹿にしております。もはやあなたは悪魔界の恥です」
「そ、そうなのか?」
思いもかけない言葉にガバッと起き上がる魔王。
「そうです、バカすぎます、あなたは」
「でもおバカな魔王というのも愛嬌があってよいではないか」
「限度というものがございます! 魔王様のは“おバカ”を通り越して“どアホ”でございます! 不愉快極まりない。さっさとこの世から消えてもらいたい!」
「……ていうか、さっきから余が魔王ってこと、忘れてない?」
「そこで我輩は考えました。魔王様超完璧計画、略してMTPなるものを!」
「な、なにそれ?」
「魔王様を才知あふれる青年に育て上げる計画です。幸い、魔王様は顔立ちはパーフェクトでございます。我輩でもうっとりするほどに♡」
「……そ、その顔で気持ち悪いこと言うな」
「あとは、その甘いマスクから放たれる虫唾が走るような言動をなんとかすればよいのです」
「今、ふと思ったんだけど、おまえ、余のこと嫌いだろ?」
悪魔はニヤリと笑って肯定も否定もしなかった。
「今日から魔王様には歌のレッスン、ダンスのレッスン、演技のレッスン、ピアノ、バイオリン、絵画や書道、スポーツまであらゆる分野を学んでもらいます」
「それ魔王に必要!?」
「そして、ゆくゆくは人間界にアイドルとしてデビューしてもらいます!」
「なに、滅ぼそうとしてる人間界で売り込もうとしてるの!? おまえこそバカだろ!!」
「さあ、魔王様。時間がもったいのうございます。勉強勉強」
「えーと、なにをすればよいのだ?」
「全世界共通の言葉。ハロー、マイネーム、イズ、マオー。これを常に言い続けてください。ネットで配信します」
「おお、全世界共通の言葉なら余も一つ知っておるぞ」
「ほお、なんですかな」
「ラ ブ & ピ ー ス !」
「…………」
「愛 と 平 和 !」
「反吐が出るわ!!」
「ええっっ!!??」
おわり