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レベル7 馬車は続くよどこまでも

『ヘーイ、みんな!!

 元気でやってるー!?

 パパだよおー!!


 お前たちがいなくなって数日。もう毎日毎日さみしくてたまりません(泣)

 さみしすぎて、夜は涙で枕を濡らしております。←ほんとだぞー。


 あまりにさみしいから犬のチワワを飼いはじめました(笑)

 チワワめっちゃかわいいよ。マジで。

 マジでマジで!!

 あのつぶらな瞳がなんとも。


 早く魔王なんかぶっとばしてさ、帰ってきてよ。お願い。

 チワワと一緒に待ってるから。


 じゃ、身体には気を付けて。冒険がんばれよ。


 父より


 P.S できたらお土産は博多めんたいこがいいなあ』



────………



「ジェームズ、うしろうしろ!」

「でええい!」


 ジェームズのまわし蹴りが1匹のゴブリンを吹き飛ばす。


「ゴブー!!」


 それでも、ゴブリンはわらわらと群がってくる。

 なんなの、これ?

 なに、この状況。


「どうやら、このあたりはゴブリンのすみかだったようですな」


 だったようですなって、冷静に言われても。


「どういたしましょう。逃げ場がなくなってしまいましたぞ」


 そうなのだ。

 今、僕らは夜の森の真ん中でゴブリンの群れに囲まれているのだ。


「困りましたわね」


 姉さんがあまり困ってなさそうな顔をしながら頬に手を当てる。

 ゴブリンたちはよく切れそうなショートソードを持って目をギラギラと赤く光らせていた。


「まったく、姉さんが『ここでキャンプファイヤーしたい』なんて言い出すもんだから」


 森の中でキャンプファイヤーって、どんな部族だよ。


「ああ、なるほど。この方たちもキャンプファイヤーがしたくて集まってきたのですか」

「違うよ! なわばりに入ってきたから怒ってんだよ!」


 もうイヤ、このひと……。

 馬車で逃げようにも、あいにく馬車はゴブリンたちの向こう側だ。


「ど、どうしようか、ジェームズ」

「ううむ」


 じりじりと、ゴブリンたちが詰め寄ってくる。このままでは切り刻まれてあの世行きだ。

 まさに絶体絶命の大ピンチ!



 その時、姉さんが

「ピーン!!」

 とつぶやいた。



「よい方法をひらめきましたわ!」


 ピーンって!

 いまどきピーンって!


「木の上から枝づたいに飛び移っていけば逃げられるのではありませんか?」


 姉さんは僕らの背後にある木を指差しながら得意げにそんなことを言った。

 そんなことができるのは忍者くらいだ。


「さすがはアリスお嬢様、ナイスアイディーア! このジェームズ、感服いたしました」


 この人は姉さんに対してはイエスマンだな。


「いやいや、無理でしょ。忍者じゃあるまいし。できないよ、そんなこと」

「アルフレド、やる前から無理と決めつけてはいけないですわ。やってみなければわからない。“やられる前にやれ”よ」


 それ意味違うし。


「ていうかさ、姉さん木登りできるの?」

「え、木登り?」

「だって、木の上から飛び移るんでしょ? まずは木登りができないといけないじゃん」

「ま、まあ、いけなくもなくもない気がしますわ」


 どっちだよ。


「それに、姉さん高所恐怖症でしょ」

「ああ、そういえば」


 姉さんの高所恐怖症ははしごの1段目すら上がれないほど重症だ。

 木の上なんかに行ったら卒倒してしまう。


「うふふ、そういえばそうね。すっかり忘れていましたわ。うふふふ、思い出しました思い出しました」


 思い出してくれてなによりです。


「ならば、よい方法その2!」


 その2もあるんだ、ピーンとひらめいたやつ。


「ジェームズがおとりになるのです」

「お、おとりでございますか?」


 無茶ぶりもいいとこだなあ。


「そう、おとりです。まずはジェームズが無謀にも敵陣に突っ込んでいきます」


 無謀って言うな、無謀って。


「はあ」


 さすがのイエスマンもあまり気のない返事だ。


「そして敵がジェームズに気をとられている間にわたくしたちが逃げ出すのです」

「ジ、ジェームズは…?」

「ジェームズならひとりで切り抜けられますわ。ね、ジェームズ」


 その根拠はどこからくるんだろう。


「はあ、まあ、わかりませんが……」

「大丈夫ですジェームズ。考えてごらんなさい。マンガやゲームですと、一人残った登場人物はだいたい無事に生きて帰ってきてるじゃありませんか」


 それが理由!?

 いや、それ、逆になにも考えてないでしょ!?


「なるほど、そうですな。かしこまりました、アリスお嬢様。私がおとりとなって敵をひきつけましょう」


 かわいそうなことにジェームズがやる気をだしたようだ。

 ほんとにもう、この人は……。


「でも、大丈夫? 死んじゃうかもしれないんだよ?」

「大丈夫でございます、アルフレド様。わたくし、こう見えても昔は“虎の威をかるキツネ野郎”と呼ばれていたのです」


 それ、すごいの!?

 なんかバカにされてない!?


「そうよ、アルフレド。ここは化けの皮をかぶったジェームズに任せましょう」


 かぶってない、かぶってない。


「ゴブー!!」


 その時、1匹のゴブリンがすきを見てジェームズの腕を斬りつけてきた。


「痛っ!!」


 うっすらと袖が赤く染まる。


「ジェームズ!」


 すかさずジェームズがゴブリンを殴り倒す。

 殴り倒されたゴブリンは地面につっぷしたままピクリとも動かなくなった。

 ジェームズは袖をおさえながら言った。


「アリスお嬢様。申し訳ございません、このジェームズ、怪我をしてしまいました。おとりはできそうもございません」


 虎の威をかるキツネ野郎は健在のようだ。


「そうですか、残念です」


 姉さんは表情を変えずに残念がった。


「でも、どうしましょう。このままでは全員、やられてしまいますわ」

「仕方がありませんな。ちょっと危険ですが、これに賭けますか」


 そう言ってジェームズが取り出したのは変な液体が入った瓶だった。


「な、なに、それ。ちょっと怖いんですけど。毒かなにか?」

「クロロフォルムでございます」


 怪しいの持ってんな、おい!!


 姉さんは、クロロフォルムと聞いて手をパン! と鳴らした。


「なるほどですわ! それを使ってこの方たちを眠らせるのですね! グッドアイデアです、ジェームズ!」


 ジェームズは不敵な笑みを浮かべながらハンカチにクロロフォルムを染みこませていった。


「うふふふ、こんないいものがあるなら、早いとこ使えばよかったのに。ほんとにジェームズったら………ZZZ」


 ……手際がいいな。


 ジェームズは、なんの躊躇もなく姉さんにクロロフォルムをかがせてしまった。


「さあ、これで準備は整いました」


 ジェームズ、あんた怖いよ、マジで。


「あぶーらかたぶーら。目覚めよ、悪の化身アリスよ!!」


 ジェームズが怪しい言葉を発すると同時に、姉さんの頭をパコンッと叩く。

 意外と原始的だ……。


「ZZZ……」

「お、起きないんですけど?」

「えい、起きろ! えい、えい! 起きんか、くそガキ!」


 本音を漏らすな、本音を。


「ふむぅ、クロロフォルムが強すぎましたかな」


 状況が悪化してますがな。


「万事休すですな」

「おかげさまでね」


 僕は必死にゴブリンの生態を思い返した。

 そういえばこの種族って残忍で凶悪だけど、闇の中でしか生きられないほど臆病なんだよね。

 ということは強烈な光に弱いはず。


 強烈な光といえば。


「ジェームズ、カメラ持ってる?」

「カメラでしたら、アリスお嬢様に壊されましたが」

「もう1台持ってるでしょ。ジェームズほどのカメラ好きが、この旅で1台しか持ってかないなんてないと思うけど」

「さすがですな。実は、隠し撮り用にもう1台」


 僕はジェームズの懐から出てきたカメラを奪うとすかさずゴブリンに向けてシャッターを切った。

 フラッシュのまばゆい光が一瞬、辺りを包む。


「ゴブ!!」


 その光にゴブリンたちが一斉にひるんだ。


「おお! 効いてますぞ!」

「やっぱり闇に生きるゴブリンにとって光は嫌いなんだ!」

「フラッシュの強烈な光なら、なおさらですな」

「よし、これならいけそうだ。ジェームズ、姉さんをおぶってついてきてよ。僕がフラッシュたいて行くから」

「かしこまりました」


 ジェームズが姉さんを担いだのを見計らって、僕が先頭に立ってシャッターを切りまくる。


「ギャッ!!」


 強烈な光の連射を受けてゴブリンたちは目をふさいで逃げ回りはじめる。


「よし、いまだ!!」


 ゴブリンでふさがれていた目の前の道がかすかに開かれ、その間を通ってその場からダッシュで逃げ出した。

 シャッターをきりながらジェームズとともに馬車に滑り込むと、すかさずジェームズが馬に鞭を入れた。


 瞬間、馬のいななきとともに馬車が猛スピードで発進する。


「うわお!!」


 ガタン! と大きく揺れながら馬車は発進した。

 すでにゴブリンたちは暗闇の中だ。


「うまく逃げ出せましたな!」

「ふう、間一髪だったね」

「いやはや、アルフレド様の機転がききましたな。たいしたものです」

「いやあ、こんなにうまくいくとは思わなかったけどね」


 それにしてもほんと危なかった。

 マジで死んだと思ったよ。

 それもこれも、もとはといえば姉さんが……。



「げ」



 慌てて飛び乗ったせいか、クロロフォルムで気を失っている姉さんがうつぶせになっていた。


「やばいやばい!」


 慌てて仰向けにひっくりかえす。

 安全な場所に着くまで静かに眠っててくれないと。


 その時、コロンと熟睡する姉さんの懐からスマホが転がりだしてきた。


 その拍子に待ち受け画面が表示される。

 表示されたのはマッチョな男の水着姿の画像だった。


 ………姉さんの趣味はわからないなあ。



 スマホを拾い姉さんの懐にしまおうとした瞬間、けたたましい音楽をが流れてきた。


「う、うわっ!!!!」

「どういたしました、アルフレド様!」


 御者台の上からジェームズが顔を出す。

 どうやらメールがきたらしい。慌てて音を止める。


「父さんからだ。いつもメールしてるのかな?」


 何気なく開いてみた。



『へーい、みんな! 元気でやってるー? パパはだよおー!』



 ……なんなんだ、このお気楽メールは。



『お前たちがいなくなって数日。もう毎日毎日さみしくてたまりません(泣)』



 知るか。



『あまりにさみしいから犬のチワワを飼いはじめました(笑)』



 チワワって、あんた……。



「アルフレド様」


 ジェームズの声でハッと我に返る。


「アルフレド様……」


 ジェームズが青ざめた顔で僕を見つめていた。


「な、なんだよ、ジェームズ」

「下、下…」


 下?


「…………」


 おそるおそる下を見下ろすと、真っ赤な目をした姉さんがあおむけの状態で僕を見上げていた。


「………」


 走馬灯が頭の中を駆け巡る……。


「ふしゅうぅぅぅ……」

「お、おはよう、姉さん…」


 あれか? メールの音で目が覚めたのか?

 ジェームズが叩いても目覚めなかったのにか?



 姉さん……、いや、この動物は白い息を口から吐き出しながら僕を睨み付けていた。


「せい!!」


 すかさずジェームズが荷台に乗り込み、姉さんを担ぎ上げると外に放り投げた。

 姉さんは空中で3回転半すると、4つんばいになりながら地面に降り立った。


 なんなの? この動物。


「逃げますぞ、アルフレド様!」

「う、うん、全速力でね」


 馬車がいまだかつてないスピードで走り出すと、姉さんが4つんばいのまま追いかけてきた。


「SHAAAAAAAAAッ!!!!」


 その走り方、もう人間じゃないよね。


「アルフレド様、多少揺れますのでどこかにおつかまりください」


 馬車は多少どころじゃない揺れ方をしながら猛スピードで突き進んでいった。


「ちょ、ま、も!」


 驚くべきなのは、そのスピードについてきている姉さんの脚力。

 いったい、どこまでついてこれるんだろう。

 馬車はどこまでも突き進んでいく。



 僕は思った。



 このまま魔王城まで行ってくれないかなーと。



アルフレド編 おわり


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