レベル5 スマホのやりすぎご用心
僕らが旅に出てからすでに数日がたっていた。
初めて知ったんだけど、馬車って乗っている間はモンスターに出くわさないんだね。
超便利。
姉さんは荷台の上で寝っころがりながらスマホを取り出してずっとゲームをしていた。
「おっ、よっ、とっ」
大げさにくねくねと身体を動かしながらスマホを操作している。
まるでイモ虫だ。
「姉さん、何のゲームやってるの?」
「な・い・しょ☆」
かわいく言ったつもりなのだろうが、まったくかわいくない。
そのうち、
「あ、あ、あ、待って、ダメ! やめてー!」
と叫びだした。
やめてーじゃないよ。
まわりに人がいたら勘違いされる言葉出さないでよ。
やがて、くねくねしていたイモ虫の気持ち悪い動きが止まった。
「ああ、死んでしまいましたわ」
どうやら、終わったようだ。
姉さんは「はあ」とため息をついてつぶやいた。
「まったくもう、アルフレドが話しかけるから」
「ぼ、僕のせい!?」
最悪だ、この人。ゲームで負けたの人のせいにしてるよ。ありえねー。
「ていうか、ものすごい動きしてたけど、何のゲームやってたのさ?」
「うふふ、知らないかもしれませんわね。『ときめきメモ○アル』という、恋愛シュミレーションゲームですわ」
「『と○メモ』!? 姉さん、『とき○モ』やってたの!?」
「あら、そんな呼び名があるんですの? 詳しいですわね」
「『とき○モ』ならやったことあるよ。っていうか、そのゲームそんなに身体動かしたっけ!? そもそも死ぬシーンあったっけ!?」
「まあ、やったことあるんですの? やだ、キモ」
キモってなんだよ。
「わたくし、このゲームに登場する多くの姫君の誘惑に耐えるのに必死で必死で……」
誘惑に耐えてたんだ……。
「ぷぷぷ……ああ、思い出すだけで笑いが止まりませんわ」
「なんで!?」
なに、この人。こわい。
「『ときめきメモ○アル』って、ギャグゲーなんですのね」
「ギャルゲーです」
そしてどこが笑えたのか教えてくれ。
それよりも、さっきから気になることがひとつ。
「ジェームズがさっきから必死になって何かを回し続けてるんだけど……」
「ああ、あれ? わたくしがお願いしましたの」
「なにを?」
「手回し充電機」
持ってきてたんだ、そんなの。
「スマホ様は、ゲームをやっているとすぐに電池がなくなってしまいますから、わたくしがやってる間、手回し充電をお願いしておりましたの」
鬼だ、この人。
「ジェームズ、ありがとう。終わりましたので充電はもういいですわ」
姉さんが御者台に座っているジェームズに声をかけた。
「ぜえ、ぜえ、そ、そうですか……」
ジェームズはフルマラソンを完走した後のような、別人の顔に変貌していた。
「まあ! あなた、誰ですの!?」
「ジェームズです……。おえ」
「大丈夫かい、ジェームズ?」
僕が声をかけると、ジェームズは軽く親指をあげて「大丈夫です」と答えた。
「よかった。姉さん、水を……」
「はい」
水筒を渡すと、ジェームズはおいしそうに全部飲み干した。
「いったいどうしたっていうんだい? ジェームズ」
「ぜえ、ぜえ、じ、実は……。その手回し充電器。1分間に500回以上回さないと発電されないそうで……」
「もしかして、ずっと全力で回し続けてくれてたのかい!?」
「アリスお嬢様のささやかな楽しみを奪ってしまうのは、執事としてあってはならないことですから」
あんた、すごいな! 執事の鏡だよ!
「姉さん、聞いた!? ジェームズは姉さんがスマホをやってる間、全力で充電し続けてくれてたんだよ!?」
「本当にありがとう、ジェームズ。わたくしのためにそこまでしてくれていたなんて。反省いたしますわ」
これで姉さんもジェームズを大切にしてくれるといいんだけど……。
「ところで、あなた、誰ですの?」
「ジェームズだよ!!」
つづく
補足:元はゲーム機でしたが、時代を反映させてスマホにしました。