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レベル3 山賊街道まっしぐら

「忘れ物はないか? ハンカチは持ったか?」

「はい、父さん」


 寝ようとしている姉さんを無理やりたたき起こして、僕らは旅支度を整えた。


「必要な物は現地で買えばいい」というめんどくさがりな父さんの言葉で、旅支度は慌ただしく終わり、眠そうな姉さんと一緒に僕らは屋敷の入り口に立っていた。


 じきにジェームズが馬車を用意してくれるはずだ。


「本当なら、鎧くらいは用意してやりたかったんだがな。いかんせん、うちは商家だしな」

「いや、別に鎧は重いから着たくないし……」


 姉さんは、上下とも赤のジャージ。

 僕はレザーのジャケットにジーパン、ニット帽をかぶっている。

 とても旅に出るような恰好ではない。


 背中には、父さんからもらった剣を背負っている。


「まあ、その剣があれば強敵が出ても大丈夫だ。昔、偉大な神様が作ったと言われる伝説の聖剣だから」

「ええ!? そんなにすごい剣なの、これ!」


 慌てて背負った剣を下ろして両手で抱きかかえる。


 やっべえ、持ってるだけで緊張してきた。


「ウソではないぞ、アルフレド。本物中の本物だ。我が家の宝さ」

「そんなものがどうして家に……」

「この前な、テレビの通販で紹介されてたんだ。“神様の造った聖剣”。送料込みで3,000ゴールド!」


 ……一気にうさんくさくなった。


「愛用者のコメントも説得力あってな。『この剣を使ってからは、モンスターがバッタバッタと斬り倒せるようになりました』とか『倒せなかった強敵モンスターを倒せるようになりました』とか…」


 ああ、そうですか。


 僕は両手で抱えていた聖剣を背中に背負い直し、馬車を待った。

 やがて、ジェームズが手綱を握った幌馬車がやってきた。


「では、頼んだぞ、ジェームズ」

「お任せください、旦那様」

「行ってまいります、父さん」

「……いってきます、お父様」

「うむ。気を付けてな」


 こうして、僕らの旅が始まった。





 すでに陽は昇り、正午近くになっている。

 ポカポカした陽気に、姉さんは荷台に横になってぐっすりと眠っていた。

 僕はとりあえずジェームズの座る御者台に避難する。


 この先、何があろうとも無理に起こそうとは思わない。

 このまま自然に目が覚めるのを待つだけだ。


────………



 長い街道をひたすら走り続け、とある山岳地帯に差し掛かった時。


「おい、待ちな!!」


 突然、僕らは数人の武装集団に取り囲まれた。


「なんですかな、あなた方は」


 彼らは、手にナイフや棍棒を持っている。このあたりに住む山賊らしい。

 意地汚い顔をしている。


「運がなかったな。今のご時世、何も敵はモンスターだけじゃねえってこった」

「へっへっへっ、見たところ、たいそうな金持ちのようだ。金目のものをたんまりいただけそうだぜ」

「はあ、やれやれ。出発早々、こんなことになるとは…。前途多難ですな」



「ど、どうするの、ジェームズ?」


 はっきり言って、僕らに勝ち目はなさそうだ。


「ご安心を、アルフレド様。このような輩にやられるようなわたくしではありません」


 ほんとかよ。


「それよりも問題は…」


 ジェームズは、ちらりと後ろを振り返った。


「忠告いたします。後ろで寝ているお方を無理に起こさぬ方が身のためですぞ」


 あ。そうだ、後ろでは姉さんが寝てるんだっけ。


「けっ。何言ってやがる。おい、後ろの荷台を調べろ」


 2人の山賊がナイフをちらつかせながら幌馬車の荷台に上がり込んでいった。


「忠告はいたしましたぞ」


 次の瞬間、


「うっぎゃああぁぁっっ!!!!」


 悲鳴とともに、荷台に上がり込んだ山賊の一人が幌を突き破って数十メートル吹っ飛んで行った。


「ど、どうした!?」

「わ、わからねえ! お、女がいきなり起き出して……うぎゃあああーーーーー……」


 もう一人の山賊も、反対側の幌を突き破って吹っ飛んで行った。


 なんまいだーなんまいだー。


「や、野郎ども! 荷台のほうに集まれ! な、何かいるぞ」


 馬車を取り囲んでいた山賊がバタバタと荷台の後ろに集まっていく。


「アルフレド様、ここは避難を」

「うん、そうだね」


 僕とジェームズは、そのすきに御者台からおりて茂みに隠れた。

 茂みの影から様子をうかがうと、身構える山賊たちの前にものすごい形相の姉さんが立っていた。

 手には、血の付いた棍棒を握っている。


 こ、怖すぎる……。


「ま、まさか、こいつがやったのか?」

「どう見ても15、6のガキじゃねえか」


 姉さんは、鬼のような顔で山賊に近づいて行った。


「わたくしの眠りを妨げたのは、あなたがたですか」

「な、何を言ってやがる、この小娘!」

「お、お仕置きしてやろうか、こら!」


 こいつら、セリフからしてもう雑魚キャラだ。


「わたくしの眠りを妨げる者は、誰であっても許しません」

「こ、この! お仕置きしてやる!」


 山賊の一人がナイフを突き出して突進してきた。

 姉さんはそれを回転しながらひらりとかわし、棍棒を野球のバットのように大きく振りまわした。



 カキーーーン。



 ナイフで突進してきた山賊は軽快な金属音を響かせながら場外まで飛んで行った。


「あーれー……」

「ヤスー! いまどき『あーれー』はねえだろ!」

「てめえ、よくもヤスを!」


 山賊たちは、殺気を放ちながら姉さんを取り囲む。


「ああ、やめておけばいいものを……。アリスお嬢様、どうか手加減を」

「無理だね」


 あの状態の姉さんに手加減とか遠慮とかという文字はない。


「野郎ども、やっちまえ!!」


 お決まりのセリフを放ちながらいっせいに飛び掛かる山賊たち。

 姉さんは、四方八方から襲い掛かってくるナイフの攻撃をすべて紙一重でかわし、すきを見つけては棍棒を打ちつけていた。


「うげ!」

「いぎ!」

「げぼ!」


 次々と倒れていく山賊。


「こ、こいつ、ハンパねえ!!」

「お、親分、どうしやす!?」

「しゃらくせえ! 奴にジェットス○リームアタックをかけるぜ!」


 残った3人の山賊が一直線に並んだ瞬間、姉さんは先頭の男に渾身の突きをお見舞いした。


「ジェットストリーム………うぎゃあああああーーーー……」


 3人は仲よく同時に空へと飛んで行った。


 棍棒で突きって……。


「覚えておくがいいですわ。仏の顔も、三度まで」

「いや、仏の顔見せてないし……。しかも意味わからないし……」


 しばらくすると、姉さんがハッと意識を取り戻した。


「あれ? ここは……。どうしましたの、わたくし?」


 ある意味、奇跡だよね、この体質。


「アリスお嬢様、お目覚めでございますか?」


 茂みからさっそうと姿を見せるジェームズ。


「この倒れている方々はどなたですの?」

「ちょっと道端で眠りたいそうでございます。ささ、アリスお嬢様はお気になさらずに」


 ジェームズに促され、破れた幌馬車に乗る姉さん。

 ついでに僕も後ろに乗り込む。

 もうしばらくは眠らないだろう。


「まあ、ずいぶん風通しがよくなりましたわ」

「そうでございますな。気持ちいいかと存じます。ささ、行きましょう行きましょう」


 僕らの旅はまだ始まったばかりである。



つづく



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