レベル2 大天使ミカエルと下級天使オッペケペー
大広間には数百人の天使が整然と並んでおりました。天界の朝の日常の光景です。
そこへ、雲にのったゼウス様が現れ、マイクで朝礼を行いました。
「あーあー、こほん。みなさん、おはよう」
「おはようございます!!」
今日も元気いっぱいの天使たちです。
「では、諸君。今日も一日、がんばって人間界を見守ろうぞ」
「はい!!」
天使たちの輝かしい笑顔がまぶしく光ります。
「ああ、そうそう。見守るといえばの、この前、民家からお魚くわえたドラ猫が飛び出して行ったのを目撃しての、そのドラ猫を追いかけて裸足で駆け出していく主婦がおっての、ワシ、もう笑った笑った……」
「そのまま笑い死にさせましょうか?」
「あ、うん……いいです」
私は、手に持った魔法のステッキをしまいました。
「では解散。各自、持ち場についてください」
私の号令で、天使たちは各々の担当エリアへ飛んでいきました。
そうそう、少し天界について説明をしておきましょう。私たち天使は人間界を見守ることが仕事です。
人間界の各地区に担当エリアの天使がいて、天界より目を光らせて下界を見下ろすのです。
まあ、監視カメラのようなものです。
時には、天使メーターと呼ばれる、邪悪な存在を探知する機械も使います。
これによって、上からでは見れないあくどいことを知ることができます。
とはいえ、補助的なものなのでやはり肝心なのは天使たちの目です。直接見ることが大事なのです。
ただ、ここ最近、人間界に不穏な空気がうずまいているという報告があり、今日も一段と強く目を光らせてもらっております。
中でも、絶海の孤島ゴリアテ島が何やらおかしいというのです。
「オッペケペーさん、今日はどうですか?」
天使オッペケペーはゴリアテ島担当の下級天使。数日前から、この辺りの天使メーターが異様な数値を叩きだしているというのです。
「ビンビンですよ、ミカエル様。もうビンビン」
何がビンビンなのか、まるでわかりません。
「よからぬ現象が起きてそうですか?」
「ええ。やっぱ、この島、何かありますね。一年中、黒い雲に覆われていてまったく見えないっすけど」
ゴリアテ島、いったいここで何が起きているのでしょう……。
私は、暗雲垂れ込めるこの不気味な島によからぬ予感を感じていました。
私はとりあえずゼウス様に報告にあがりました。
「ゼウス様、人間界にて異常事態が発生しているようです」
「異常事態? それはまた、穏やかではないの」
ゼウス様は、天界総本山の社長席に座ってネットゲームをしておりました。
それを見て若干殺意を抱きましたが、なんとかこらえます。
「ゴリアテ島にて、天使メーターが異常な数値を叩きだしているそうです」
「ゴリアテ島……。ふむ」
ゼウス様はコントローラーを机に置いて、考え込みました。
「担当の下級天使オッペケペーが目を凝らしているのですが、詳細がつかめぬようで……」
ゼウス様は、白い髭を指でいじりながらふと思い出したように言いました。
「そういえば、魔界調査にいったルシファーはどうなったかの?」
「ルシファー……でございますか?」
ルシファーは私と同じ天界の大天使。スパイ映画が大好きなスパイオタクです。
自らを「だぶる・おー・せぶん」とわけのわからない名前で呼んでおります。バカでしょうか。
でもまあ、その趣味が功を奏したのか、数か月前から単独で魔界への潜入捜査に行っています。
魔界とは、天界でも実態のつかめない未知の領域。魑魅魍魎、破壊や混沌を好む魔物の巣窟といわれているのです。
ルシファーがやられるとは思っておりませんが、いまだに連絡がありません。
「まさか、彼が関係していると?」
「だって、ゴリアテ島ってルシファーが魔界に行くとき入り口を開けた場所だし」
「そ、そうなのですか? 初耳なんですが……」
人間界に魔界への扉を開く。なんてことをしてくれたのでしょう、このジジイ。
もしそれが本当なら、人間界に魔界の魔物が進行してきているかもしれません。
「それは非常事態ですよ、ゼウス様!!」
「そうじゃの」
「どうやって開けたのですか? 魔界へ通じる扉なら、早く閉じないと!!」
「いや、まあ、その、なんだ。地面に半径10キロほどの穴を開けてね…」
は、半径10キロ……?
「出入り口は広い方がいいかなーなんて…。究極魔法メテオ使って派手に開けちゃった。テヘ☆」
テヘじゃねーよ、くそジジイ。
「で、では、ゼウス様……。半径10キロほどもある魔界への入り口が、今もゴリアテ島で開きっぱなしということですか!?」
「うむ。その通りじゃ」
「オッペケペーの言っていた天使メーターの異常は、それが原因なのではないですか? ゼウス様、すぐに、魔法でふさいでください!!」
「あ、いや、まあ、地上でガイアの魔法を使えばふさがるとは思うんじゃが……。いかんせん、腰痛がひどくての」
肝心なところで役に立たないジジイですね、こいつは。
けれどもこれでハッキリしました。
ゴリアテ島の異常な数値はこれが原因でしょう。
一刻もはやくふさがなければ。
事態が重くなる前に。
つづく




