レベル9 エルフの森の温泉郷(アキレウス視点)
アーメリカ王国から旅立って何日経ったことか。
すでに我が斧で何十体ものモンスターを屠っている。
それでいてこの斧は傷ひとつついていない。まったく、良い買い物をしたものだ。
気になるのは、戦闘のたびに我が友アレルが、遠くから声援を送るだけになっていることだ。
せっかくゴムの剣を買ってやったというのに、使わぬのか。もったいない。
まあ、戦闘に関しては我に任せてくれればよいがな。
「あ、そうだ。アキレウス」
ちょうど小さな森に差し掛かった時、アレルが神妙な顔をして耳元でささやいた。
「ミーズリの町でちょっと小耳に挟んだんだけど、この近くに露天風呂があるんだって」
「ほお、露店風呂か」
露店風呂は大好きだぞ。
外の空気に触れながら裸になった時の解放感。
景色を見ながら湯につかった時の気持ちよさ。
なんともいえぬ気分を味わえる。
「でね、すごいことにその露天風呂、エルフ族専用なんだって」
エルフ族? なんだそれは。魔物か?
「ちょっと覗きに行ってみない?」
「断る。誰が好き好んで魔物の露天風呂など覗きにいかねばならんのだ」
「魔物じゃないよ。エルフ族だって。人間にそっくりな種族なんだから」
「人間にそっくりであっても、行かんものは行かん。入れない露店風呂など、興味ない」
「ああ、そう。エルフ族っていったら、すっごいきれいな人たちで有名なんだけどなあ」
…………
…………
…………
「嘘を申すな」
「本当だよ。雑誌のモデルの大半はエルフ族なんだから」
「本当か?」
「本当だよ。金髪でスタイル抜群なんだよ」
「よーし、そこまで言うなら嘘か本当か確かめてみようではないか!!!!」
「こ、声がでかいよ……」
……そ、そうか?
「でも、行く気になってくれたんだね。さすがアキレウス」
「アレルの言葉が嘘か本当か確かめに行くだけだ」
「じゃあ、オレについてきて」
こうして我々は森の脇道へと足を踏み入れた。
────……
しばらくすすむと、温泉の独特の香りが漂ってきた。
「近づいてきたね」
「う、うむ、そうだな!!!!」
「しーっ、声がでかいよ」
「すまん……」
やがて、アレルは足をしのばせ、そろりそろりと歩きだした。
よし、我もつづくか。
そ ろ り、そ ろ り
「だから、音が大きいって!」
「ど、どうすればよいのだ。静かに歩くなどできんぞ?」
「地面に体を押し付けてほふく前進で行ったら?」
無茶を言う。
「あ、これならどうだ? カニ歩き」
「音が出ないならいいよ」
よし、これで行こう。ついでに両手をハサミにして行くか。
ちょき、ちょき、ちょき……。
「………」
「なんだ、アレル。目が白いぞ」
「いや、別に……」
アレルはそのまま前を向いて歩きだした。
なんだったのだ、あの目は。
それにしても、この先にくだんの種族がいるわけか。
金髪の。
美女が。
全裸で。
露店風呂につかって。
……………
「うぼうっふ!!!!!!」
「どうしたの、アキレウス!?」
「いや、はなぢが……」
「興奮しすぎだよ、まったく」
興奮などしておらぬ。温泉の蒸気にやられたのだ。
「はい、ティッシュ」
「すまぬ」
とりあえず無だ。無になるのだ。
鼻にティッシュを詰め込み、我は呪文をとなえた。
「なーむーみょーほーれーげーきょー」
「怖いよアキレウス! ちょっと、やめてよ!」
ちーん、ぽくぽく。
「もういい、オレ先行くよ」
「待て、抜け駆けするな」
さらにすすむと、いくつもの看板が乱立している場所についた。
「看板がいっぱいあるね」
「なんて書いてあるのだ?」
「『エルフ専用露天風呂』『人間おことわり』『覗きは絶対許さない』」
「つまり、この先か」
看板の先には大量の茂みが覆われている。
ふん、愚かな。
こんな茂みで我らの崇高な使命を止められると思っておるのか。
「行くぞ、我が友よ」
「うん、行こう、アキレウス」
顔を見合わせて、「エイヤ!」と茂みに飛び込む。
この茂みの向こうに……
金髪の!!
美女が!!
「うおっ!? なんだおのれら!?」
………いなかった。
「貴様ら、人間か!?」
「何しに来やがった!?」
「まさか覗きか!?」
いたのは、数人のマッチョな中年男たち。
金髪で耳が尖っているが、どう見ても美女ではない。
「覗きよ、覗き、ちかん!!」
「きゃあきゃあ!! おムコに行けなくなっちゃう~!!」
マッチョな男たちは、湯船のお湯をかけまくっている。
これのどこが金髪の美女なのだ。
「アレル、これがエルフ族なのか?」
「…………」
「アレル?」
「…………」
いかん、アレルが白くなっている!
「アレル、目を覚ませ!」
「…………」
なんとかせねば。
「アレル! あそこにエルフ族の美女がいるぞ!」
「え、どこどこ?」
立ち直りの早いやつめ。
相変わらず、湯船の男たちは「きゃあきゃあ」叫びながら立ち上がったり座ったりを繰り返している。
見せたいのか、見せたくないのか、どっちなのだ。
「アレル、この場は逃げるぞ」
「うん、逃げよう」
茂みを抜け、我らは来た道をダッシュで戻っていった。
男たちの金切り声が聞こえなくなるまで我らは駆けつづけた。
走りながらアレルは言う。
「忘れよう、アキレウス! あの映像は、記憶の片隅に永久に封印しよう!」
「う、うむ、そうだな。記憶の片隅に、誰にも解けない封印を施して、呼び起こさないようにしておこう」
我の記憶に黒歴史がまた1ページ追加されてしまったな。
早く魔王を倒してこの黒歴史を上書きしなければ。
走りながら我はそう思った。
アレル・アキレウス編 おわり




