レベル4 バドロスが仲間になったけど不安しかないです……
「アルス王子、喉は乾きませぬか?」
「いや、そんなに……」
「やや! アルス王子、お気をつけ下され。足元に小石が落ちておりますぞ」
「小石くらい、そこらじゅうに落ちてますけど……」
オレとメリルはバドロスに連れられて、北の岬に向かっていた。
他の騎士たちは、騎士団長バドロスの命令でアーメリカ本国へと帰還している。
今、この場にいるのは3人だけだ。
「おおっと、木の葉が舞い落ちておりますぞ! お気を付けを!」
そう言って、木の葉からオレを守るように立ちふさがっている。
この男は、オレをどれだけ貧弱な男だと思ってるんだろう。
「でりゃあああ、成敗!」
「ぬおおおっ!?」
バドロスが道に舞う木の葉を剣を振り回しながら叩き斬っていった。
「危ない危ない、木の葉っぱといえど、アルス王子の身体を傷つけないとも限りませぬからな。注意せねば」
危ない危ないを連呼しながら剣を振るうアーメリカ王国の騎士団長。
どう見ても、この男の方が危ない。いろんな意味で。
「あのさ、バドロス。注意深いのはいいんだけど、もっと普通に……」
「どおりゃあああっ!」
スパン、とオレの目の前に舞い落ちる葉っぱを剣で叩き斬る。
オレの全身は汗でびっしょりだ。
「何か申されましたか? アルス王子」
「あ、うん、別に……」
この男は、木の葉を斬ることで頭がいっぱいらしい。
とにかく、害がなければそれでいい。
そう思いながら旅を続けていると、突然バドロスは素っ頓狂な声を上げた。
「やや、やややや! あれは悪魔草!」
「悪魔草?」
見れば、オレたちの行く手を遮るかのように、とげとげの房が先端についた草があたり一面に生えていた。
要するにくっつき虫だった。
悪魔草とは名ばかりの、害のない雑草だ。ただ、これはこれでめんどくさい。触れただけで服にくっつくし、くっついたらくっついたでツンツンして痛いし。
とはいえ、他に道はなさそうだった。
バドロスはわなわなと震えながらつぶやく。
「この中に一歩踏み込めば最後、きゃつらの粘着力によって、身体中にとげとげの種がくっついてしまう……。くっ、無念。ここまで来て引き返さねばならぬとは」
「いやいや、大丈夫だよ、これくらい」
オレは気にせず、ずんずか進んだ。
こんなとこで引き返すなんざ、真っ平御免だ。
「アルスおうず!?」
「アルス王子!?」
メリルとバドロスが同時に叫ぶ。
「二人とも早く来いよ。オレが先を歩くから」
くっつき虫だらけの草原を歩くオレ。
その後ろを、二人がついて歩く。
やがて草原をすり抜けると、案の定オレの身体にはとげとげの種が全身にくっついていた。
「あははは、アルスおうず、まるでくっつき虫の鎧っす!」
メリルがオレの格好に腹を抱えて笑う。
「あーははは、ぶひーひひひ、く、くっつき虫の……鎧……ごふ、ごふん……!」
いや、それ笑いすぎだろ。
「ううう、アルス王子、我らのために自分の身を犠牲にして……」
バドロスが感動のあまり泣き崩れていた。
この人、体格に似合わず泣き虫なんだよなぁ。
「お待ちくだされ、今、その不埒な種を斬り払ってごらんにいれますから」
そう言って、すらりと剣を抜き放つ。
え、ちょっと……、何する気?
「チェストオオォォォッッ!!!!」
「ぬおおおぉぉぉっっ!!??」
縦に振り下ろしたバドロスの剣がオレの身体をかすめる。
あ、あっぶな……。
かわさなかったら、死んでたよオレ。
「アルス王子、なぜかわしまする!?」
「かわすよ! なんでくっつき虫を剣で取ろうとするんだよ!?」
「ご安心なされ。このバドロス、剣の腕前はアーメリカ地方剣技大会で103位の成績をおさめておりまする」
「なにそれ、すっごい中途半端っ!」
しかもなんでドヤ顔っ!?
それって、上に100人以上いるってことだよね?
地方の剣技大会でだよね?
なんでそんなヤツが騎士団長やってるんだよ。
なんでそんなヤツがイタリアーナの剣術師範やってたんだよ。
「アルスおうず、この人、ちょっと、アレじゃないですか?」
メリルがつぶやくように言った。
彼女に言われるなんて、よっぽどだろう。
「チェストオオォ!!!!」
斬りかかろうとするバドロスを必死に押さえつけて、オレは言った。
「いいよいいよ、くっつき虫なんて、手でとれるから!」
そう言って、一個一個服にくっついた種子を手で取って行く。
ちょっとめんどくさいけど、剣で斬られるよりはマシだ。
オレが服にくっついたくっつき虫を手で取っていると、バドロスは不満げ剣を納めそれを眺めていた。
もう、なんだか面倒な人が仲間になったなあ。
オレはため息まじりにそうつぶやいた。
そうそう、なんでオレたちがこのバドロスとともに北の岬に向かっているか。それを説明せねばなるまい。
話は、村の宿屋までさかのぼる。
※
「アルス王子。我らバドロス騎士団、イタリアーナ王国へ援軍の要請に参った次第。是非ともロマ国王にお目通り願いたい」
そう言われたオレたちは、とりあえずここにいる理由を述べた。
すなわち、勇者隊派遣の件はイタリアーナにも伝わっているということ。
そのために派遣されたのはオレとメリルだけ、ということ。
それを伝えるためにアーメリカ王国へと向かっている、ということ。
いまだにこの村にいるのは、旅立ったその日から道に迷っていたからだということ。
その言葉に憤慨するかと思いきや、バドロスは涙を流しながら喜んでくれた。
「ううう、ありがたや、ありがたや。まさかアルス王子自ら勇者隊に志願して下さるとは」
うん、まあ、行きたくはなかったけど。
ミモザ姫が可愛かったから、なんて言ったら怒るかな。
「これはもう、魔王討伐は成功したも同じですな!」
ホッと胸をなで下ろしたバドロスは、部下に言った。
「皆の者、早急にアーメリカ本国へと帰還し、王に伝えよ。アルス王子が魔王を見事討ち果たしたとな」
………。
………。
………。
ちょっと待て!
なんつった、今。
「ああ、これで胸のつかえがとれました。アルス王子、あとでアーメリカ城内で祝賀会を致しますゆえ、ぜひご参加を」
「え、あ、いや、え?」
これ、どういう流れ?
もしかして、オレが魔王倒す前提で話進んでる?
オレ、ただの援軍だよ?
援軍ていうか、お手伝い感覚だよ?
普通、魔王討伐って桁違いに強い人たちがやるんじゃないの?
「あのさ、バドロス。ちょっと話が変な方向になってる気がするんだけど……。オレ、こう見えて貧弱だし、剣もあんまり持てないし……」
そんなオレの言葉を遮るかのように、バドロス配下の騎士たちが言った。
「では、お頭。我ら、急ぎアーメリカ本国へと帰還し、祝賀会の準備をしておきまする!」
「うむ、できれば三ツ星レストランのフルコース風にな」
三ツ星レストランのフルコース風ってなんだよ。
バドロス配下の騎士たちが頭を下げると、脱兎のごとく宿屋を出て行った。
ポカン、と見送るオレにただ一人残ったバドロスが言う。
「さ、アルス王子。我が王には部下たちがきちんと伝えておきますから、我らは我らで魔王をサクッと倒して参りましょうぞ」
「………」
開いた口がふさがらない、というのはこういうことか。
サクッと倒すどころか、サクッと殺されそうだ。
「北の岬には、別の大陸に通ずる泉があると言われております。アーメリカの情報機関の調査によりますれば、魔王はその大陸のさらに北、ゴリアテ島にいるそうです。これはもう、意外と早く討伐できそうですな」
何を根拠にそう語るのか。
不思議でしょうがなかった。




