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異世界恋愛系(短編)

学園を追放された冴えない地味薬師は、騎士さまによる名誉回復を望まない。

「今頃、どちらにいらっしゃるのかしら」

「『薬草園の魔女』もこれでおしまいね」

「そもそも栄えある我が学園に、どこの馬の骨とも知らない平民などふさわしくありませんわ」

「着の身着のままで追い出されるなんて、本当にお可哀そうですこと」


 いやいや全然可哀想だなんて思ってないよね? 私はツッコミを入れたくなるのを必死にこらえながら占い用のカードを切った。


 ころころと、目の前で笑っているのは高位貴族の令嬢たち。身につけている制服は、この辺りでも有名な魔法学園のものだ。顔良し、頭良し、家柄良しでありながら、少しばかりお口と性格が悪いところもまた貴族令嬢らしいとも言える。


「あら、魔女がお嫌いなのであれば、わたくしもお嫌いかしら? わたくしも、ただの平民で、魔力持ちの卑しい女よ」


 聞き流しても良かったけれど、ウインクを飛ばしつつ声をかけてみれば、彼女たちが慌てて無理がありすぎるフォローを始めた。


「そんなことはありません! マダムは特別! 私たちの憧れですもの」

「あのような貧相な地味女と比べること自体が失礼です!」


 いやいや、ありがとうって返事もできないしなあ。さらに墓穴を掘っているわけだし。君たちがそんなに素直だとこれからの貴族社会でカモにされないか、おねーさんは本当に心配だよ。私はカードを並べながら、小さくため息をついた。さすがに親御さんの教育方針までは口を出せない。彼女たちが将来痛い目を見なければいいのだけれど。


 何を隠そう、先ほど話題に出た「薬草園の魔女」というのは私のことだ。もちろん今の私は、街で話題の腕利きの占い師。色気たっぷりの格好で、恋のアドバイスを施すマダムなのである。ちょっと化粧し身体中のお肉を寄せてあげて、口調を変えただけ。たったそれだけのことで、私だと判別できなくなるものだろうか。まあいい。小さく頭を振ると、令嬢たちが何やら急にかしましくなった。


「まあ、マダムったら憂い顔。よくない占いでも出ましたの?」

「そんな、私の恋に暗雲が?」

「聞かせてくださいませ! 恋の行方を!」


 おっといけない、また顔に出てしまった。だから、スパイとか情報収集とか私には向いてないって言ったのに。誰だよ、こんな仕事を私に持ってきたやつは。


「それでは、教えてあげるわ。あなたの進むべき道を」


 笑顔を張りつけながら、私は口八丁の恋占いの解説を始めた。



 ***



 職場だった学園の薬草園を追放されたのは、つい先日のこと。まさかの生徒会役員によって糾弾された結果である。なんで職員でもない生徒による自治組織に、職員の解雇が可能なんだよ。もうちょっと生徒会の権力に制限をつけておいてくれ。


『どうして、私が解雇なんですか?』

『雑草ばかり繁らせておいてよくそんなことが言えるな!』

『そりゃあ使わないひとから見れば雑草なのかもしれませんが、あそこに生えているのはどれも有用な薬草ばかりですよ。ただちょっと勢いよく生い茂ってしまうのが玉に瑕なだけで』

『薬草園からあふれた雑草が薔薇園に入り込んでいるだろうが。まったく、平民と同じで雑草はどこにでも入りたがって困る』

『薔薇の美しさは確かに素晴らしいですが、薬草も違った方向で素晴らしいものです』

『そういうのは、よそに広がらない隔離された場所だけでやってくれ。ああ、くれぐれも僕たちの目に入らないところでな。ああいう気分が悪くなるような見た目の植物を学園の薬草園で育てるなんて、本当にどうかしている。臭いも最悪だし、まったく平民の考えは理解できんよ』


 どうしよう、この子、とっても面倒くさい! 内容に納得のいかなかった私は直接の雇用主である学園長先生に直談判を試みようとしたものの、学園長先生はちょうど学会に出席するため出張中だった。まあそれを知っていての暴挙だったのだろう。


『ははは、どうだ。どうしてもというなら、僕の家で雇ってやらんこともないが』

『はあ、まさかのクビかあ。しょうがない、王都なら野宿でも死にはしないでしょ。じゃあ、お世話になりました』

『待て、ひとの話を!』

『ああ、お金ないのにお昼ご飯どうしようかなあ』


 そこら辺の森や山で薬草を採取することができる田舎とは異なり、王都では勝手にひとさまの庭先で薬草を採ることはできない。薬草が準備できなければ、お得意の薬作りだってできないわけで、正直困ってしまった。とぼとぼと学園の門から外へ出ていく。


『せっかく王都に来たのだから、お金を稼いで美味しいものを食べようと思ったのに。やっぱり田舎でお金を貯めてから来るべきだった? でも、田舎と王都じゃ物価が違い過ぎていつまでも目標金額まで貯まらないし……』

『ならば、俺の下でその腕を活かして働いてみないか。薬草園の魔女よ』

『……そんな変なあだ名で呼ぶのはやめてくださいよ』

『「魔女」という言葉は、もともと蔑称ではないはずだが』

『それでも、です』


 学園を卒業した魔法使いとは別に、魔女と呼ばれる一族がいる。彼らは、只人とは異なる知識を持ち、異なる系統の魔法を使うのだ。同じ魔力持ちでありながら、謎に満ちた奇妙で不可思議な存在、それが魔女だった。


 学園のすぐ近くにある広場のベンチでしょぼくれていた私を拾ってくれたのが、現在の私の雇い主である騎士のタデウスさまだ。ときどき柵越しに挨拶を交わしたことがある。目元に大きな傷があるせいで強面に見えるが、実は端正な顔立ちなのだ。わりと深くえぐれているので、戦場で負った傷なのかもしれない。


「それで、何か進展は?」

「特にないですよ。だいたいぽっと出の占い師のところに、重要な情報がそう簡単に転がってくるわけないじゃないですか」

「そこで情報を集めるのが、『魔女』の腕の見せ所だろう」

「だから、そのあだ名はやめてくださいってば」


 タデウスさまから言い渡された任務は、民間に出回っているとある薬の出どころを探ること。何でも高貴な男性方がこぞって手を出しているらしく、王都の騎士さまも手を焼いているのだとか。男性に人気の高価な薬……効能はアレかな? いやだから、ただの地味薬師に依頼するなよ、そんなややこしい犯罪の解決を。


「まったく君ときたら。期限までに解決できなければどうなるか、わかっているのか」

「はい、はい。わかってますって」


 手がかりを見つけるどころか解決に導かなければ、私は職場どころか王都からも追い出されることになるらしい。それというのも、私をクビにした生徒会役員がなんだかとてつもないお偉いさんの御子息だったせいなのだ。私が泣いてすがらなかったのが気に障ったらしいと聞いてめまいがした。


 可愛げのない平民め。おとなしく僕の家に来いとか言って追いかけまわされるとは思わないじゃん? 気に喰わないなら放っておいてくれたらいいのに。学園からの追放が王都からの追放になるとか、ランクアップしすぎなのでは?


「もう面倒くさいですし、別にこのまま追放でもいいかなって思ってきちゃって。あなたのお手伝いをしている間に、美味しいご飯も食べられましたし」

「君は、もっと自分の名誉回復に務めないか! 美味しいものが食べられたらそれでいいって、いいわけがないだろう」

「回復するほどの名誉なんて最初から持ってないんで」


 いきなり職場を追放されたことは理不尽だとは思う。けれどだからと言って「名誉回復」とか「職場復帰」にこだわるつもりはないんだけどなあ。私はどこでだって暮らしていける。薬草の育つ土地でありさえすれば、国の名前にだってこだわりはない。薬草を育てて、魔法薬を作って、ときどき美味しいものを食べられたならそれで十分満足だ。


「仕方がない。かくなるうえは」

「かくなるうえは?」

「あちら側の明確な商売敵になって、揺さぶりをかける」

「えー、本気ですか!」

「冗談でこんなことを言うヤツがあるか。とにかく、明日からはこちら側も『例の薬』に相当するものを販売するからそのつもりで」

「その『例の薬』とやらに相当するものを作るのは……」

「もちろん君だ」

「ですよねー」


 だから無茶ぶりは勘弁してくださいってば。厄介事の匂いしかしないこの指示に私は涙目で悲鳴を上げた。



 ***



 タデウスさまに指示を受けた翌日、私は常連の女生徒たちに「例の薬」と称して、とあるものを手渡していた。


「まあ、マダム。これがあの有名な『例の薬』ですの?」

「ええ、特別製よ」


 すみません。嘘です。それは薬草園を追い出されるときに根こそぎ収穫してきた薬草を煎じて作った魔法薬です。まあ今回は使用した薬草のひとつにかけて、とっておきの魔法をかけているけれどね? さあて、誰が引っかかってくれるかな。


「なんて素敵な色なの。どんな願い事も叶ってしまいそう」

「うふふ、そうでしょう」


 ちなみにガラス瓶に入った魔法薬の色合いは淡く翡翠色に輝いている。わかっていて彼女たちに渡すことを決めたのは私だけれど、本当にこの子たちが心配になってきた。こんなよくわからないものに手を出してはダメだよ。


「貴重な『例の薬』ですのに、秘密にする必要はないとおっしゃるのですか?」

「ええ、せっかくだからうちの店の宣伝をしてちょうだいな」


 うん、これだけは本音。むしろいろんなところでおしゃべりしてきてほしいんだよね。あちらさんが、私たちの存在に気がつくように。


 そもそも基本的に「魔法薬」というものは、国の定めたお墨付きの店舗でしか購入できない。魔力持ちは国に登録されているし、魔法薬を作ることができる薬師ともなれば、国家に所属することになる。魔法薬は決められた値段でしか販売することはできない。


 だからこそ正規の店舗以外で流通している「魔法薬」は、どんなものであれ基本的に違法なのだ。


「よかったな。『例の薬』とやらは大盛況じゃないか」

「いや、『例の薬』という名前も効能も中身も作り手もはっきりしないものが大盛況という事実に、私はドン引きですよ」


 私が作った「例の薬」は、売れた。めちゃくちゃ売れた。あまりにも売れすぎて、定期購入するお客さまが多発する始末だ。


「髪が伸びた。髭が伸びた。まつ毛が伸びた。背が伸びた。いろんな効果を耳にするが、一体どういう仕掛けだ?」

「材料に『野蒜(のびる)』を使いましたので。ちょっとしゃれっ気を加えて、『のびる』効果をつけてみました」

「……伸びるのはそれだけか?」

「ええ、まだ足りないんですか。ちょっと強欲すぎでは?」

「寿命が延びたという報告がないのは?」

「さすがに寿命を延ばすことは薬師の範疇を越えておりますから」


 それは本物の魔女が、たったひとりのために生涯一度だけ使うことのできる魔法だ。魔法薬で再現なんてできない。


「なんか普通にいい感じで評判になってますね」

「おかげさまで、あちらさんにも動きがあった。数日中に殴り込みにあうだろう。向こうがやってきたら、逆に取り押さえるのでそのつもりで」


 やり方がめちゃくちゃ雑なんですけど!


「ちょっと、それじゃあお客さまに被害が及ぶ可能性が……」

「だからしばらくは開店休業状態にする」

「よかった。その開店休業中に店をたたむ準備をしてもかまいませんか?」

「なぜだ? 非常に効果があるのであれば、今後も販売すれば良いのでは?」

「特殊効果が付与された魔法薬は、長期服用すると副作用が現れるんですよね」

「ちなみにこの魔法薬の副作用は?」

「突然訛り始めます」

「は?」

「いきなり、北部訛りや西部訛りなどを伴った状態で話し始めます。かなりきつめの訛りになるので、聞き取ってもらうことは難しいかもしれません。服用期間の三倍の時間が経てば治ります」

「どうしてそういう副作用が出るんだ」

「やっぱりこの副作用は嫌がられますよねえ。顔がいきなりラクダになるとかよりも、ずいぶん優しい副作用だとは思うのですけれど」

「この魔法薬、さっさと流通を禁止すべきだろう」

「髪を伸ばすとか、背を伸ばすといった見た目に直結するお薬は、副作用が強いんですよ。薬とは、そういうものです」

「……なるほど。とりあえず、この魔法薬からは早急に手を引こう」

「え、タデウスさま、飲んでいたんですか」

「……答えたくない」


 この仕事が終了したあと、「詐欺」として捕まったりしないか少しだけ心配になった。あと、タデウスさまは今さら背を伸ばす必要性なんてないと思いますけれど。何が目的なんでしょうかね。



 ***



 数日後。

 タデウスさまの予想通り、店は襲撃にあった。こんなに予想通りだと、相手の単細胞っぷりに心配になってしまう。


「だめですよ。あんな魔法薬もどきなんか作っちゃ。今なら一緒に謝ってあげますからやめましょうよ、ね」

「なんだこのアマ」


 やっぱり、全然謝る気がないよ、このひとたち! まあそりゃそうか。そもそも、怒られてやめるような真っ当な人間なら、効果のない魔法薬もどきの色水なんかを市中に蔓延らせることなんかしないわけで。その上で、ひとの足元を見てねずみ講を始めたことを考えると、見逃すわけにはいかないんだよなあ。


「偽物の『魔法薬』を売っていたのは、おまえの店のほうだろうが。勝手によそのシマを荒らしたらどうなるか、わかってんだろうな。こっちが滋養強壮とかまろやかな言い方しているってえのに、お前らときたらあんなふざけた商品を売り始めやがって」

「わかってないのは、あなた方のほうですよ!」

「こいつ、まだわからねえのか!」


 ごろつきが私に向かって大きく手を振りかぶる。とその時、ごろつきが大きく後ろに吹っ飛ばされた。


「動くな! 死にたくなければじっとしていろ」


 おおおお、タデウスさま、カッコいい。店の襲撃に遭った際、私は急いでタデウスさまを店の奥に押し込んでいたのだ。油断したならず者に気持ちよく話をしてもらうための策だったのだが、タデウスさま、非常に怒っていらっしゃる。とても騎士っぽいなあと他人事のように眺めていたのだが。


「なんだ、お前。この女とどういう関係だ」

「俺は彼女の騎士だ。彼女には指一本触れさせない」

「はん、上等じゃねえか」


 タデウスさま、ちょっと待ってください。突然激甘な台詞を吐かれても困ります。待って、ちょっと待って。


 ちなみにごろつきの捕縛は、私が混乱してあたふたしている間に一瞬で終了してしまった。むしろ、私とタデウスさまの事情聴取の時間の方が死ぬほど長かったことは正直納得できない。実はあまりにも面倒くさかったので、こっそり逃げ出そうとしたところ見たことがない表情でタデウスさまに叱られた。タデウスさま、本当に怖い。


 夜もとっぷりと更けてようやく解放された後、タデウスさまはご自身の屋敷に私を招いてくれた。住居兼店舗となっていた例の占い師の店が、ぐちゃぐちゃになっていたかららしい。


 屋敷に着くなり、タデウスさまが私にひざまずいた。


「これで、君の名誉は回復される」

「だから、そういうのはいいんですってば!」

「いいや、全然良くないよ。不毛の土地で飢えた俺たちを救ってくれた君が、いつまでも『禁忌の食物を騙して与えた憎むべき魔女』と呼ばれるのはおかしいだろう?」

「あなたは、あの時あの場にいたのですね」

「君を守れなかった。君は俺たちを守ってくれたのに」


 やたらこだわると思っていたら、タデウスさまは私の名誉を……もうずいぶん昔に傷つけられた私の名誉を回復させたかったらしい。


 魔女は一般の薬師よりも多くの知識を持っている。そして、ただの薬師にはできない植物の処理にも長けている。だから、普段は食べることができないと言われている植物を食用にすることだってできるのだ。それを食べた人々が、納得できるかどうかは別にして。


 あの時、私が気まぐれに出向いた村には食べられるものがほとんど残っていなかった。魔女と言えども、万能ではない。不老長寿であることを除けば、薬師よりも植物の扱いに長けただけの女でしかないのだ。だから、村の掟を破った。墓地を囲むように生えていた彼岸花を水でさらしパンの代わりにした。墓地に繁っていたイラクサを摘んで火を通し、スープにした。


「俺は、君に食事を振る舞ってもらったことがある。君は覚えてはいないだろうが」

「そんなこともありましたね」

「君は俺たちのために必死で食材をかき集めてきてくれた。指先は荒れて血がしたたり落ちていた。それなのに、最終的に俺たちは君に石をぶつけて追い出したんだ」

「でもあなたは、私に石をぶつけなかった。むしろ、私を庇うために顔に傷まで作ったでしょう」


 私はタデウスさまの顔の傷に手をあてる。以前、私はタデウスさまに聞いたことがある。この傷を薄くするための魔法薬は必要かと。けれどタデウスさまはいらないと断ってきた。この傷は、残しておくべきものだからと。


『このひとは、悪いひとなんかじゃない! みんなだって、この人が作ってくれた食事を美味しいって食べたじゃないか! 食べなかったら、飢え死にしていたことも忘れたのか!』

『ありがとう。その言葉だけで十分です』


 私はひとの顔を覚えるのが苦手だ。長く生きていると、周囲の時の移り変わりの早さにめまいがしてしまうから。それでも何人か、ぼんやりと覚えている顔がある。似ていると思っていたが、なるほど本人だったのか。


 小さい身体で必死に私を庇おうとしてくれた少年は、いつの間にかすっかり背が伸び、たくましく育った大人の男性に変わっていた。


『次に会ったら、ちゃんと俺がおねーちゃんを守るから』


 泣きながら村を出ていく私に抱き着いてきた彼は、ちゃんと約束を果たしてくれたのだ。


「君に相応しいように、騎士にもなった。武勲もあげた。爵位も得た。あなたのやりたいことを邪魔しないと誓うから、どうか俺が死ぬまでの間だけでいい。そばにいさせてくれないか?」


 魔女は人間とは異なる時間の流れで生きている。だから、どんな風に扱われてもまったく気にならなかった。それなのにどうしてだろう、私の隣にいることを願う彼の姿は不思議なほど心地よかった。 



 ***



 とりあえず王都での滞在が許可された私は、騎士団に付設されている治療院で働いている。そして、今日も大した用事もないくせに顔を出すタデウスさまの相手をしているのだ。


「それで、いつになったら嫁に来てくれるんだ。いっそ俺が嫁になるべきなのか?」

「だから、私はあなたよりもうんと年上なんです。ババアですよ、ババア。結婚しても後悔するでしょうから、やめたほうがいいですよ」

「俺は後悔しない、絶対に。それに、俺と結婚しないとあの魔法学園のボンボンが君を追いかけてくるぞ」

「ああ、あの少年も本当に暇人ですよね。一体、何が楽しくて私に毎日嫌味を言いにやってくるのか」


 私を薬草園から追い出した例の生徒会役員くんは、悪人ではなかったらしい。くだんのごろつきたちは、学園の薬草園に忍び込み、薬草を調達していたそうなのだ。それらの管理不行き届きを学園は問われることになったが、万が一後ろ盾のない私がそこにいたら、すべての責任をとらされることになっていた可能性が高いのだとか。学園を追放することで、冤罪の危険性から遠ざけてくれていたらしい。


「やっぱり、嫌味たらたら少年とはいえ、お礼を言いに行くべきですかねえ。なんだか、やたら屋敷に遊びに来いとうるさいんですよ」

「だ、駄目だ。お礼に行くと言うのなら、俺が付いていく。だいたい君は、俺といい、ボンボンといい、年下をほいほい引っ掛けすぎなんだ」

「ええええ、何ですかそれ。あ、あの少年って、髪が猫っ毛なんですよね。たぶん家系的に薄くなりそうだし、少年のお父さま用に例の薬を持っていけばお礼になるかしら」

「やめてくれ、別の意味で王都に混乱が起きる! あの薬はなかったことにしてほしい」

「タデウスさまって、意外と面白いですね」

「全然嬉しくない……」


 魔女は同じ時を生きるために、寿命の半分を相手に贈ることができるといつ教えてあげようか。タデウスさまと一緒ならこれからも結構楽しく暮らせそうだ。

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「ノベルアンソロジー◆悪女編 なりきり悪女は溺愛までがお約束です」(一迅社 2024年5月2日発売)に、『冤罪で獄死したはずが死に戻りました。大切な恩人を幸せにするため、壁の花はやめて悪役令嬢を演じさせていただきます。お覚悟はよろしくて?』が収録されております。よろしくお願いいたします。 バナークリックで詳細が書かれている活動報告に繋がります。
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