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行き着いた先


魔族領内にある大蛇の森。ここは魔族領と帝国の狭間にある森である。

ここには魔物が数多く潜んでおり、迂闊に踏み入る人間はいない。


レグイット帝国は魔族領に隣接していることもあり、最西端に大きな壁を作り結界を展開。

門には門番を配置して、魔族や魔物の侵入を防いでいた。


近隣の住民いわく、この大蛇の森には巨大な恐ろしい蛇がいるだとか。豚と人間を合わせたような風貌をした凶悪なオークや、一ツ目の残忍な人型の魔物サイクロプスが出るなどと言われている。



「おやおやっ!これは人間かなー?こんなとこで見かけるなんて珍しいや!」


「迂闊に近づいてはいけませんよレム。人間なんて傲慢で愚かな種族なのですから」


「ごめんごめん!ルーク」



魔族の少女がもの珍し気に声を上げた。その隣には彼女によく似た少年の姿もある。



「大蛇の森で寝てる人間なんて初めて見たよ〜」



陽気な口調でそう言う少女は魔族のレム。二本の短い角を生やしており、背中には黒い双翼が目立つ。

肌と髪の色は薄い灰色に染まっており、人外なのは誰が見ても明らかだ。

端正な顔立ちをしており、表情も豊か。人間で云うところの美少女と呼べる容姿をしていた。



「寝ているのではなくて、気絶しているんですよ。魔族領に攻め入ってきたのか、迷い人か。あるいは...」



顎に手を当てて考える仕草をするのは、少年は魔族のルーク。彼とレムは双子であり、同じく二本の角と双翼を生やしている。

顔立ちは姉にそっくりであり、いわゆる美少年といった容姿。

ただ、知的とも言えるその発言や仕草は、陽気な姉のレムと真逆の印象を受ける。



「ねぇねぇ!面白そうだから、魔王様のところに連れて行こうよ!」


「面白そうって......。でも、そうですね。始末するにしても、一度魔王様の意見を仰ぐべきかも知れません。何やら不思議な力を感じますし」


「それって、このモヤモヤした黒い霧みたいな魔力のこと?」


「ええ、瘴気とも違うようですし...。幸い意識を失っていますので、容易に拘束できますから」



ルークが手から鞭のようなものを出して、彼の身体を拘束した。



「じゃ、決まりね!魔王様のところにレッツゴー!」


「はいはい。相変わらずレムは...」



幸か不幸か。風前の灯火だったクロードの命は、二人の魔族によって救われる事となる。



◯◯◯



俺は...どうなったんだ...?

何も見えない。


そうだ...俺は奴等に裏切られて、冤罪を着せられて...。


エルリック、ミリー、レイラ。帝国の奴等...許せない。


帝国の貴族連中も何もかも。絶対に許せない...!


復讐してやる...!復讐してやる!!



「復讐してやる!!!」


「きゃあっ!」



勢いよく上半身を起こすと、そこは見慣れない風景だった。近くには尻もちをついた女性の姿もある。



(俺は大蛇の森で死にそうになっていたはず...。ここはどこだ...?)



「ぐっ...!」



動こうとしたが身体に激痛が走り、負傷していた事を思い出す。



「まだ起き上がっては駄目です!貴方は怪我をしているんですよ?」


「あ、ああ...」



そう言ってベッドに寝かせてくれたのは、艶のある綺麗な黒い髪をした女性だった。

翠色をした大きな目元は少し垂れ下がっており、優しい印象を受ける。

そして彼女には──人間よりも長い耳がついていた。


(まさか、彼女は魔族の...)


彼女はエルフと呼ばれる種族だった。彼女は白衣を身に纏っており、頭には小さな白い帽子を被っている。



「君が......助けてくれたのか」


「看病していたのは私ですが、助けたのは違う方達ですよ」


「そうだったのか......。ありがとう」



命を救ってくれた恩人に礼を述べる。すると彼女は慌てた様子で声を上げた。



「いえ!お礼ならレムちゃんとルークくんに言ってあげてください」


「レム?ルーク?」


「貴方をここまで運んでくれた子達の事です」



どうやら、レムとルークという人達に助けられたらしい。


ここは人間の領地ではないよな?

目の前にいる女性はエルフみたいだし...。という事は、助けてくれたのもエルフの人なのか。



「そういえば名乗ってなかったな。俺はクロード、改めて看病してくれてありがとう」


「いいえ。私はセリアといいます」



お辞儀をしながらセリアが名乗った。現状を把握するためにも、彼女に尋ねてみる事にした。



「セリアさん、ここはどこなんだ?」


「セリアでいいですよ。ここは魔王様の居城の一室です」


「ま...魔王だって!?」



驚いた。まさか魔王に命を救われるとは...。

いや、正確には魔王の部下に命を救われたわけだが。


どうして、魔王が元勇者である俺を助けたんだろうか?


再び彼女に尋ねようとしたところで、部屋の扉が勢いよく開いた。



「やっほー!人間さん、起きたー?」


「きゃあ!レムちゃん!急に入って来ないで下さい!」


「あはは〜!ごめんごめん、セリアちゃん」


「もうっ...」



急な来訪者に彼女が胸を押さえている。

かくいう俺もかなり驚いた。傷口が開きかけたぞ。


レムという事は、おそらくこの魔族の少女が俺を助けてくれたのだろう。



「およよっ!起きてるじゃん!人間さん、おはよう!」


「ああ、君は?」


「あたしはレムだよー」


「レム...ということは、君が助けてくれたのか。俺はクロード、助けてくれてありがとう」


「あははっ、いいっていいってー!ここに運んだのはルークとザスティン君だからさ」


「なっ...!?ザスティンだって!?」



その名前を聞いて思わず驚愕する。勇者として旅をしていた人間として、反応を示さずにはいられなかった。


魔王四天王の一人、ザスティン。鬼のような角を生やした鬼人族だ。

彼と直接戦った事はないが、その配下である鬼人族達とは何度も戦ってきた。

あの気性の荒く好戦的な鬼人族を纏め上げる程だ。言うまでもなく実力者だろう。


そんなやつが俺を助けてくれるとは...。

もしかしたら。俺はこのまま魔王達に利用されるか、人体実験にでも使われるんだろうか?



「うーん...浮かない顔してるね?なんか色々考えてるみたいだけども、悪いようにはならないと思うよ?」


「そうだといいんだがな...。俺はもう、何も信じたくないんだ」


「ふーん。森で見つけた時はびっくりしたけども、何かあったんだね?」


「......」


「まぁ、話したくないならいいんだけども」



話せるはずがない。

まさか助けた相手が帝国から追放された元勇者なんて...言える訳がない。


魔族と人間は敵対関係にある。

その人間側の主力とも云える勇者など、魔族側からしたら厄介でしかない。



「そ、それでレムちゃんは何か用事だったんですか?」



場の重い空気に耐えかねたのか、セリアが彼女に話を振る。



「あっ!そうそう、魔王様が呼んでるよー!」


「...そうか」



意識が戻ったばかりだが、これから魔王と会う事になるようだ。

一応、勇者のスキルは...使えそうだ。

セリアの看病のおかげか、スキルを使えるくらいには体力も回復している。


ただ...何だ。この違和感は...。

勇者のスキルの他に、何か別のものを感じる気がするが...。



「セリア、世話になったな。この恩は忘れない」


「いいえ!......クロードさん、何があったのかは分かりませんが、元気出して下さいね!」


「あぁ......。ありがとう」



この女性は本当に優しいんだな。こういった優しさに触れたのはいつぶりだろうか?とても暖かくて...。



「じゃあ、レッツゴー!て、あれれ...。クロードくん、泣いてるの?」


「クロードさん...」


「えっ...?」



頬から一筋の涙が伝っていた。無意識の内に感情が溢れ出てしまっていたようだ。

おかしいな。涙は大蛇の森で流しきったと思っていたのに。


流れる涙を手で拭っていると、レムが近づいてきて頭に手を乗せた。



「よしよし!クロードくんは頑張ったねー!えらいえらい」



子供をあやすように頭を撫で続ける彼女。恥ずかしさが込み上げてくるが、その手を振り払う事が出来なかった。



「ばっ...子供扱いするなっ」


「ふふふっ」



俺は久しぶりの優しさを噛み締めていた。


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