第6話 靴紐とバスケットボール
体育の授業が始まった。
男子は体育館でバスケットボール、女子はグラウンドで陸上競技をしていた。
寝不足もあって、授業に集中できなかった。
試合中なのに、俺は授業そっちのけで女子が走るグラウンドをぼんやりと見つめていた。
その時だった。
「おい!黒瀬!危ねーぞ!」
長谷の大声が体育館に響きわたり、その直後にバスケットボールが俺の顔面目掛けて飛んできた。
ボールは顔面に直撃し、俺はその場でよろけ倒れてしまった。
「おい、黒瀬、大丈夫か?」
先生が駆け寄って、肩を貸してくれた。
「少し休んでた方がいいと思うが、念の為、保健室に行って保冷剤を借りなさい。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
俺は授業を抜けて、保健室に向かった。
ガラガラ…
「失礼しまーす。」
あれ、誰もいないのかな?まあ、いいか。
保冷剤は冷凍庫だよな…
俺が保冷剤を探していると、誰か保健室に入ってきた。
「失礼しまーす!あっ!悠真?」
聞き覚えのある声に俺はすぐ気が付いた。
「や、や…山岸さん!?」
やはり、入ってきたのは山岸さんだった。
「山岸さん、どうしたの?」
「いやー、走ってたら靴紐に足引っ掛けちゃってさーw」
「だ、大丈夫…?」
山岸さんは照れくさそうにしていたが元気そうだった。
「平気平気ー!ってか、美羽って呼んでって言ってるのにーーー!」
「あ、ご、ごめん…まだ、呼べそうにない。」
それにしても、山岸さんの体操着姿は目のやり場に困る。
普段は綺麗に染めた艶のある髪をしっかり巻いてて、いかにもギャルって感じなのに、体育の時はポニーテールって、このギャップは男子には耐えられない。
いや、単に俺に耐性がないだけなのかもしれない。
「まあ、いいけどね。あっ!私にも保冷剤ちょうだい!」
「あ、うん。」
その後、二人きりの保健室で休憩しながら少し話をした。
別にたいした話をしたわけではない。
というより山岸さんから一方的に質問攻めされてたような気もする。
好きな食べ物とか趣味とか休日の過ごし方とか色々…陰キャの俺だから何も面白い答えは出なかったし、逆に気を使わせてしまったかもしれない。
でも、その時間は俺にとって有意義で楽しいひと時だった。
「そろそろ戻ろっか!」
「あ、そうだね。」
俺たちは保冷剤を戻し、保健室を後にした。
「じゃ!私は外だからまたあとでね!」
「うん、また転ばないように気を付けてね。」
「心配してくれてんの?ありがと!」
そう言うと、山岸さんはニコッと笑って、手を振りながら外に走って行った。
俺も戻るか。
山岸さんが出ていくのを見届け、俺は体育館の方へと向かった。
授業に戻ると試合はもう終わっていて片付けに差し掛かっていた。
「おー黒瀬!大丈夫か?」
最初に駆け寄ってきてくれたのは長谷だった。
「うん、保冷剤で冷やしたからもう平気。」
実際、そんな大きな怪我じゃないし、そもそも、ぼんやりしてた俺が悪いし心配されるとなんだか心が痛む。
「ならいいんだけどよ!マジごめんな!」
「本当に大丈夫だから。俺こそ、、その、ごめん。」
長谷は義理堅いというか、口は悪いし見た目も俺とは真逆って感じだけど、優しいよな。
きっと、これも山岸がいなければ気が付けなかったんだろうな。
そんなことを考えながら、ボールを片付けていると少しだけ笑みが溢れていた。
授業終了のチャイムが鳴り、俺は教室へ戻った。
初投稿の作品になります。
社会人をやりながらの投稿なので不定期になりますが、最後まで書き上げられるように頑張ります。
いつかは書籍化やアニメ化なんて夢も見ていますが、素人なので温かいご意見だけでなく、厳しい意見もいただけると嬉しいです!
オリジナル作品ではありますが、その時に見ている漫画やアニメに影響されてしまうこともあると思います。すみません…
これから一生懸命書いていくので、読んでみて少しでも続きが気になったらブックマークや評価をお願いします!