第45話 夏休み最後の日
夏休み最終日。
今日は予定もないしゆっくり過ごそうと思っていると、山岸さんからメッセージが届いた。
「今日暇?うちで遊ばない(∩´∀`)∩留守番してて暇なんだー?」
山岸さんの家か…やっぱり慣れないな。
想像するだけで心臓が跳ねる。
だが、余計なことを考えすぎるのも良くない。
軽い気持ちで行けばいいんだ、と自分に言い聞かせ、急いで返信し家を出る準備をした。
山岸さんの家に到着すると、彼女が玄関先で迎えてくれた。
「やほー☆どうぞ!」
「おじゃまします。」
部屋に通されると、清潔感があっていい匂いがした。
「悠真、飲み物どうする?」
「あ、なんでもいいよ。ありがとう。」
彼女がキッチンに行っている間、俺はそわそわと部屋を見回した。
相変わらず枕元にはわらびっとが置かれていて、俺は思わず微笑んでしまった。
「お待たせ!」
山岸さんが戻ってきて、床に座ると緊張感も少しずつ和らいできた。
「ゲームする?」
「ゲーム?」
「うん、ボードゲームとかカードゲームとか、うちに色々あるんだよ☆」
山岸さんが取り出したのは、パーティー用のカードゲームだった。
二人で笑いながらゲームを進めるうちに、時間はあっという間に過ぎていった。
「悠真、負けすぎじゃない?」
俺はぐうの音も出なかった…
「ふふ、悔しがってる顔かわいいw」
突然のその一言に俺は一瞬固まったが、彼女は特に気にした様子もなくカードを並べていた。
俺は何気なく、部屋を見渡すと窓際にあるものがかかっている…いや、正確には干してあるものを見つけてしまい動揺してしまい下を向いたまま動けなくなってしまった。
山岸さんはすぐに俺の不自然な挙動に気が付き声をかけてきた。
「どうかした?」
俺は言うか言わぬか悩んだが結局、遅かれ早かれ山岸さんは知ることになるんだと思い、勇気を出して言葉にした。
「あ、あの…窓のところに…いや、ごめん。見るつもりはなかったんだけど…」
山岸さんは見る前に察し、顔を真っ赤にしながら慌てて立ち上がろうとした――
その時、
「わっ!」
山岸さんがテーブルの端に足をぶつけてしまい、ジュースのグラスが倒れた。
「悠真ごめん!大丈夫!?」
「あ、大丈夫!それよりも、そっちを何とかした方が!」
「あ、うん///…ありがとう。」
こぼれたジュースを拭いている間に山岸さんは急いで干されているものをしまった。
その後、しばらくの間、少し気まずい空気が流れた。
「今日で夏休み終わりだね。」ふと山岸さんが呟いた。
「うん、あっという間だね。」
俺がそう返すと、山岸さんがこちらを見た。
「今年は悠真とたくさん遊べて、本当に楽しかったなー☆」
「俺もだよ。すごく楽しかった!」
自然とそう答えると、彼女は少し頬を赤く染めた。
「実は…悠真に伝えたいことがあるんだ…」
その言葉に、心臓が一気に跳ねる。
「実はね…」
彼女が口を開こうとしたその時、玄関の方から突然、彼女のおかあさんの声がした。
「ただいまー。」
「あ、ごめん!ちょっと行ってくるね!」
慌てて部屋を出ていく山岸さんを見送りながら、俺は先ほどの言葉が頭から離れなかった。
期待と不安を抱えながら、俺は静かに部屋で山岸さんが帰ってくるのを待った。
ふと視界の端に何かが入り、目を向けると先程しまったはずのあれがタンスから少しはみ出していた。
さすがにお互い、二度は耐えられないと思い、見ぬふりをした。
山岸さんが戻ってきた後も結局さっきの話にはならず、俺からあえて聞くこともしなかった。
この日は何事もなかったかのように終わったが、山岸さんの「伝えたいこと」がこの先、どんな影響を与えるのか――
夏の終わりの余韻が心に残り続けていた。